36 / 111
36 刺青は2種類あるらしい
しおりを挟む「小さいが、しっかり刻まれたようだな」
自分の身体に現れた刺青を、おれは信じられない気持ちで見つめる。
だって刺青は幹部クラスの怪人にしかないものだし、自分の肌には絶対に刻まれないものだと思っていたからだ。
「……シディア様の刺青と似てる」
そんな言い方は失礼かと思ったけど、見れば見るほど、おれの肌に現れた刺青はシディア様のものとそっくりだった。
「俺が刻んだ刺青だからな。正真正銘、俺の刺青だ」
「え……どういうことですか? シディア様の刺青がどうして、おれの身体に?」
普通、刺青というものは過剰な魔力が肌に模様として刻まれたものだ。
他人の肌に刺青を刻むなんて、今まで聞いたことがない。
「刺青は二種類ある。己が魔力で刻むものと、所有者が魔力で刻むものだ」
「所有者……?」
「お前は俺のものだろう? これはその証だ」
「ん……っ」
シディア様の指が、おれの刺青に触れる。制服越しだったけど、ピリッと静電気のような刺激に思わず声が出てしまった。
腹筋が勝手にひくひく震えて、気持ちよくなってしまいそうなのをなんとか堪える。
そんなおれの反応を愉しむように目を細めてこちらを見るシディア様の視線に、おれの身体の熱はじわじわと高められ続けていた。
「誰もがこれを見れば、お前が俺の所有物だとすぐにわかるな。嬉しいか? バン」
「っ……はい、シディア様」
「所有の刺青は、相手の同意と自覚があってこそ刻めるものだ。一方的には刻めん――そして、もう消すことは叶わん」
「え……あ」
この刺青がそんなにも、とんでもないものだったなんて。
呆然と自分の刺青を見下ろすおれの耳元に、シディア様が顔を近づけてくる。
「簡単に受け入れたこと、後悔するか?」
おれはすぐさま、首を横に振った。
「しません!! ただ……こんなにもすごいものを刻んでいただけると思ってなかったから、驚いただけで!」
思わず大きな声になってしまった。
だって、後悔しているなんて勘違いされるのは絶対に嫌だし。
「でも、こんなものがあるなんて知りませんでした。両親にも聞いたことがなかったし……」
「危険を伴う行為だからな。普通は簡単にしない」
「えっ」
「まあ、お前は体質的に問題ないと思ったがな。お前は元々、魔力への感受性が高いのだろう。特に相性のいい魔力には引きずられる傾向にある」
「それ……どういうことですか?」
どうやらおれのことを言っているみたいだけど、どれもおれ自身も知らないことだった。
――魔力への感受性ってなんのことだろう。魔力に引きずられる傾向って?
考えてみたけど、特に心当たりはない。
「自覚がないのか?」
「……ないです」
「そうか。お前はあの場で気を失っていたんだったな」
――あの場……?
シディア様がいつのことを言っているのか気になるけど、でも……これって聞いて大丈夫なことかな。
これまでの人生で気を失った回数なんて、そんなに多くない――っていうか、ほとんどが組織を入団したあとに起きたことばかりだ。
――おれってダーヴァロードに入ってから気を失ってばっかりじゃない? それだけ身体に負担があることばっかりされてるせいなんだけど……その中で、魔力が関係してたことって……あっ。
一つ思い当たることがあった。
でも、これは聞くのが怖くて、何が起こったのか詳細を確認できていないことだ。
もし、シディア様がその日のことを言ってるのだとしたら。
「それって、もしかして……」
「入団式のことだな」
◆◆◆
入団式の日に起こった出来事を、シディア様から詳しく聞くことはできなかった。
急な呼び出しが入ったからだ。
仕事ならおれも手伝うと申し出たけど、今日は帰るよう言われてしまった。ついでに『入団式のことは両親に聞けばいい』とも。
「そんな気軽に聞けるなら、もっと早く聞いてるって……」
おれの自宅は、ダーヴァロード本部から徒歩で迎える範囲にある。
幹部は組織の所有する闇都一等地の敷地が与えられ、ほとんどがそこに邸宅を構えているからだ。
おれの住む家は父さんが幹部昇進と同時に母さん(そのときはまだ恋人だったらしい)のために建てた、二人の愛の巣だった。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい、バン」
おれより先に母さんが帰っていた。
いつも遅くまで帰ってこない父さんと違って、母さんの帰りが遅くなることはほとんどない。
同じ組織に入ってわかったけど、それはめちゃくちゃすごいことだった。
幹部の仕事量は、おれみたいな下っ端とは比べものにならない。父さんほどではないにしろ、残って仕事をしているイメージだ。
――母さんって本当に仕事が速いんだろうなぁ。
おれも見習いたいと思うけど、悲しいかなおれは父さんに似てしまった気がする。
「どうしたの? 疲れた顔して」
「あー……うん。今日はいろいろあったからさ」
本当にいろいろありすぎた。
制服を作りにホニベラ様の工房に行ったのが、もう遠い昔のことのように思える。
あれも今日のことだったんだな。
「幹部候補生は忙しいものね」
「おれは幹部候補生候補だけど……うん。やることはたくさんあるかな。覚えることもいっぱいあるし」
「今日は何をしたの?」
「朝からホニベラ様の工房で制服を作ってもらって、終わってからはシディア様のところに戻って……」
工房で首領様に会ったのは、なんとなく言わないでおいた。別に口止めはされていないけど。
あと、シディア様に刻まれた刺青のことも話すかどうか迷う。
――聞きたい気もするけど。
入団式のこと以外にも、おれの悩みは尽きなかった。
231
あなたにおすすめの小説
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
人気俳優に拾われてペットにされた件
米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。
そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。
「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。
「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。
これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる