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37 それは公開処刑ならぬ……?
しおりを挟む「母さん、聞きたいことがあるんだけど」
夕食後、リビングでくつろいでいた母さんに声をかけた。
振り返った母さんはリビングの入り口に立つおれの顔を見て、ふっと目元を緩めると「美味しい焼き菓子をもらったの。一緒に食べよっか」と手招きする。
おれはペタペタと近づくと、ソファーに腰かける母さんの隣に座った。
「なーに? そんな緊張した顔して」
母さんは明るい口調でそう言いながら、おれの頭をぽんぽんと叩く。
そんなにわかりやすく緊張しちゃってたかな。
「ほらほら、これでも食べて」
おれは母さんに勧められた焼き菓子を一つつまんで口に運ぶ。
本当にすごく美味しいその焼き菓子をうっかり夢中で食べ進めてしまいそうだったけど、ハッと我に返って話を切り出した。
「あのさ……入団式の日、何があったのか聞きたくって」
「入団式の日?」
母さんは目をぱちりと瞬かせる。
その話を振られるとは、全く思っていなかったみたいだ。
「てっきり上司の愚痴とか、そういう話かと思ったわ」
「愚痴とかないし。っていうか、あっても同じ幹部の母さんに話せるわけないじゃん」
「えー。聞きたいなぁ、バンの愚痴。面白そうじゃない」
「……絶対に告げ口する気でしょ、それ」
もし、何か不満があっても母さんにだけは話さないほうがよさそうだ。
まあシディア様に不満なんて、これっぽっちもないんだけど。
「それで、入団式のことだったわね。もう他の誰かから聞いてるものだと思っていたわ。あれだけ騒ぎにもなったし」
「え……騒ぎ?」
今度はおれが目を瞬かせる番だった。
――その騒ぎって、おれが気を失ったあとに起こったことだよね? 今の話の流れからして、その騒ぎの原因って…………おれ?
そういえば入団式のあと、レクセとラーギ先輩が口を揃えて、おれのこと『目立ってた』って言っていたけど、それってその騒ぎのせいだったりする?
二人がそんなふうに言うから怖くて今まで聞けていなかったんだけど……やっぱりこれ、聞かないほうがいいんじゃないかな。
「で、どうするの? 聞く? 聞かない?」
おれが尻込みしたのに気づいた母さんが、きらきらと目を輝かせながら尋ねてくる。
――母さんって、こういうところあるから嫌なんだよなぁ。
おれのことを可愛がって構ってくれているのはわかるけど、やり方が悪の幹部っていうか。
相手が嫌な顔をすると、嬉々とした表情になる。
シディア様もそうだけど、おれの周りにはおれを揶揄って楽しむ人が多すぎる気がするんだけど。
「…………聞く」
聞くのは怖いけど、知らないままでいるのも怖い。
おれは意を決して頷いた。
だって聞かなくても、おれが何かやらかしたのは確定なわけだし……だったら知っておいたほうがいい気がする。
それにしても、目立ったうえに騒ぎになるようなことって――いったいなんなんだろう。
おれにはまったく想像がつかなかった。
「バンはあの日のこと、どこまで覚えているの?」
「……首領様の目の前で、魔力を漏らしたとこまで、だけど」
言葉は尻すぼみになって消えていく。
だってあれは、おれにとって忘れてしまいたい出来事の一つだし……正直、口にだって出したくない。
「あら。本当にすぐに気を失っていたのね」
おれの答えを聞いた母さんは、どこか意外そうだった。
しかも、何やら考え込んでいる。
この沈黙と間が、今のおれには耐えられなかった。
「……何? なんか変なこと言った?」
「変っていうか、あれが無意識下の行動だと思っていなかっただけよ。私には、しっかり意識があるように見えたから」
「どういうこと……? おれ、すぐに倒れたんじゃないの?」
「いいえ、違うわ。確かに一度は倒れたけれど、あなたはすぐに起き上がったからね」
「え……? 起き上がった?」
どうやらおれの記憶と母さんの見たものは、ずいぶんと違うみたいだった。
だって、魔力を放出したあとに立ち上がった記憶なんて、おれにはない。そもそも首領様の魔力圧で身体が起こせる状態じゃなかったし……それにそのとき首領様の姿をはっきりと見ていたなら、おれが忘れたりするわけがない。
だってあの日、一番目に焼きつけたかったものだ。
「――ねえ、バン。あなた、闇都で一番人気の求婚って言ったら何が浮かぶ?」
「え、何……急に」
いきなり振られた全く関係のない質問に、おれは呆気に取られて聞き返す。
そんなことよりも、あの場で起こったことを教えてほしいのに、母さんは「いいから、答えて」と回答を急かした。
「……一番人気の求婚って言ったらあれでしょ。自分の魔力を相手に差し出すやつ。貴方の色に染めてください――だっけ? 相手がそれに魔力を絡めてくれたら、求婚成立なんだよね?」
闇都では最もメジャーな求婚方法だ。
父さんも、このやり方で母さんに求婚したって話していた。ちなみに三度目でやっとOKをもらえたらしい。
「それが、どうかしたの?」
「あなたね、あそこでやったのよ」
「やったって何を? ……って、もしかして……まさか?」
母さんは、すぐに答えなかった。
少しのあいだ目を伏せてから、ふうっと息を吐き出して、それからゆっくりと口を開く。
「――首領様に求婚したのよ。あの大勢の前で」
「うぇええええええ~~!?」
おれはリビングの壁が共鳴してびりびり震えるくらい、バカでかい声を上げていた。
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