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40 『待て』は苦手なんです
しおりを挟む幹部候補生の訓練は本気でやばかった。
下っ端戦闘員の訓練だって毎日結構きついなって思っていたけど、そんなのは比じゃない。
空気感もまるで違うし、周りの真剣さも違いすぎる。
訓練っていうか、あれは完全に拷問だった。
魔力を空っぽまで使わせてから、もう一発ってさ……普通に考えて無理じゃん。魔力ってゼロ以下まで使えるもんだったっけ?
目の前のものはぐにゃぐにゃに見え始めるし、自分が地面に立っているのか転がっているのかもわからない状態になる。
そんな最悪のコンディションなのに、魔力が尽きたら次は体力訓練をやるって――まじ、死ぬかと思った。
「…………生きてたぁ」
訓練終了後、訓練場の床に横向きに寝転がったまま、ぽつりと吐き出す。
さっきの今なのに、身体は筋肉痛で動かせそうになかった。
「すごいね、バンくん。話せるんだ?」
パチパチと拍手をしながら、床に転がるおれを覗き込んできたのはツィーガだ。同じ訓練を受けたあとのはずなのに、ツィーガが普通に立って話している。
超人かよ……いや、怪人だけど。
「え……それだけで、褒められるの?」
指先を動かすのすら億劫なくらい、へとへとなんだけど大丈夫?
ちなみに、おれのように床で倒れ込んでいる人は他にいなかった。壁際で座り込んでいる人は数人いるけど。
「初日は気絶者が続出だったからね」
「え…………ツィーガも?」
「僕はぎりぎりで耐えたよ。レクセもね」
二人はそうなんじゃないかと思っていた。
今だって誰よりも平気そうに振る舞っているし、〈選別〉にも残っていた二人だ。
同じ幹部候補生の中でも能力は別格なんだろう。
「バンくん、水飲む?」
「今飲んだら、吐くかもだけど……飲みたい」
疲労からくる吐き気に襲われていたけど、喉はカラカラに渇いている。
おれはなんとか力を振り絞って身体を起こすと、ツィーガが差し出すボトルに向かって手を伸ばした。
でも、腕は思った以上に持ち上がってくれない。
「ボトル、僕が支えててあげるよ」
ツィーガが口もとに運んできてくれたボトルから、水を少しだけ口に含む。
すぐには全部飲み込まず、少しずつ喉へ流し込んだ。
そうしているうちに、乱れていた呼吸も落ち着いてくる。
「ありがと、ツィーガ」
「いーえ、どういたしまして」
ツィーガは笑顔でそう返すと、まだ立ち上がれそうにないおれの隣に腰を下ろした。
「今日の訓練って、これで終わり?」
「終わりだよ。幹部候補生の訓練は半日だけって決まってるからね。昼からはそれぞれの仕事もあるし」
「そっか……このあと、普通に働くんだよね……」
当たり前のことなのに、すっかり頭から抜け落ちていた。
こんなにみっちりしごかれてから、普通の業務もちゃんとこなすって……幹部候補生って皆すごすぎる。
「バン。昼食はどうするんだ?」
レクセも、おれたちのところへやってきた。
おれがこんなにへばってるのを見ても、心配する様子をいっさい見せないところがレクセらしい。
「さすがに食事は無理なんじゃない? 水を飲むのもやっとみたいだったし」
「え、食べるけど」
「ええ!? 食べられるの?」
ツィーガに驚かれてしまった。
確かにさっきまでは水を飲むのもやっとだったけど、魔力が少しは回復してきたのか、気持ち悪さは治ってきていた。
「お前ならそう言うと思ったよ。それなら早く食堂に向かうぞ」
「わ……っ」
レクセがおれの腕を掴んで、ぐいっと引き上げるように立たせる。
そのまま身体を支えて連れていってくれるのかと思ったのに、「甘えるな。自分で歩け」と頭を軽く叩かれてしまった。
◆◆◆
ダーヴァロード戦闘員用の食堂は本部の別棟にある。
下っ端戦闘員だった頃は早く行かないと席がなくなるからって先輩たちと一緒によく席取りダッシュしたけど、幹部候補生は専用のラウンジがあるから、そんなことをする必要はないらしい。
階級ってすごい。
「ん、でも……おれって幹部候補生候補だけど、幹部候補生のラウンジ使って大丈夫?」
「確認してあるから問題ない」
「え! 確認してくれたんだ。さすがはレクセ!」
「あっはは。二人は本当に仲がいいね」
おれとレクセの掛け合いを見て、向かいに座るツィーガがにこにこと笑っている。
でも、今のやり取りの中に仲良し要素あった?
――ま、いいか。今はとにかくご飯!
今日の日替わり定食のメインおかずは、肉がごろごろ入ったシチューだ。こんないい匂いを嗅ぎながら、これ以上『待て』なんてできるわけがない。
スプーンを持つ手にも、ぎゅっと力が入る。
「いっただっきまーす!」
しっかり煮込まれた肉で口の中をいっぱいにする幸福感に、おれは「んー!!」と思わず唸った。
「バンくん、本当に食べられるんだね」
「……え? そんなに変? 訓練したらお腹って減るものでしょ?」
「適度な訓練ならね。あそこまで激しいと普通は食欲なくなるよ。初めてなら特にね……すごいなぁ、バンくんは」
なぜか感心されてしまった。
「こいつは昔から、体調が悪くても食欲だけは落ちないんだよ」
「うん! 食べるの大好き!」
レクセの言葉を全力で肯定してから、シチューとパンを交互にぱくぱくと食べ進める。
どちらも八割ほどを食べ終えたときだった。
「ん……?」
さっきまで賑やかだった食堂が、急に静まり返ったのに気づく。
それと同時に、よく知る気配を後ろから感じた気がして、おれは勢いよく振り返った。
「シディア様だ!」
食堂の入り口にシディア様が立っているのを見つけて、思わず声を上げていた。
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