【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

文字の大きさ
40 / 111

40 『待て』は苦手なんです

しおりを挟む

 幹部候補生の訓練は本気でやばかった。
 下っ端戦闘員の訓練だって毎日結構きついなって思っていたけど、そんなのは比じゃない。
 空気感もまるで違うし、周りの真剣さも違いすぎる。
 訓練っていうか、あれは完全に拷問だった。
 魔力を空っぽまで使わせてから、もう一発ってさ……普通に考えて無理じゃん。魔力ってゼロ以下まで使えるもんだったっけ?
 目の前のものはぐにゃぐにゃに見え始めるし、自分が地面に立っているのか転がっているのかもわからない状態になる。
 そんな最悪のコンディションなのに、魔力が尽きたら次は体力訓練をやるって――まじ、死ぬかと思った。

「…………生きてたぁ」

 訓練終了後、訓練場の床に横向きに寝転がったまま、ぽつりと吐き出す。
 さっきの今なのに、身体は筋肉痛で動かせそうになかった。

「すごいね、バンくん。話せるんだ?」

 パチパチと拍手をしながら、床に転がるおれを覗き込んできたのはツィーガだ。同じ訓練を受けたあとのはずなのに、ツィーガが普通に立って話している。
 超人かよ……いや、怪人だけど。

「え……それだけで、褒められるの?」

 指先を動かすのすら億劫なくらい、へとへとなんだけど大丈夫?
 ちなみに、おれのように床で倒れ込んでいる人は他にいなかった。壁際で座り込んでいる人は数人いるけど。
 
「初日は気絶者が続出だったからね」
「え…………ツィーガも?」
「僕はぎりぎりで耐えたよ。レクセもね」

 二人はそうなんじゃないかと思っていた。
 今だって誰よりも平気そうに振る舞っているし、〈選別〉にも残っていた二人だ。
 同じ幹部候補生の中でも能力は別格なんだろう。

「バンくん、水飲む?」
「今飲んだら、吐くかもだけど……飲みたい」

 疲労からくる吐き気に襲われていたけど、喉はカラカラに渇いている。
 おれはなんとか力を振り絞って身体を起こすと、ツィーガが差し出すボトルに向かって手を伸ばした。
 でも、腕は思った以上に持ち上がってくれない。

「ボトル、僕が支えててあげるよ」

 ツィーガが口もとに運んできてくれたボトルから、水を少しだけ口に含む。
 すぐには全部飲み込まず、少しずつ喉へ流し込んだ。
 そうしているうちに、乱れていた呼吸も落ち着いてくる。

「ありがと、ツィーガ」
「いーえ、どういたしまして」

 ツィーガは笑顔でそう返すと、まだ立ち上がれそうにないおれの隣に腰を下ろした。

「今日の訓練って、これで終わり?」
「終わりだよ。幹部候補生の訓練は半日だけって決まってるからね。昼からはそれぞれの仕事もあるし」
「そっか……このあと、普通に働くんだよね……」

 当たり前のことなのに、すっかり頭から抜け落ちていた。
 こんなにみっちりしごかれてから、普通の業務もちゃんとこなすって……幹部候補生って皆すごすぎる。

「バン。昼食はどうするんだ?」

 レクセも、おれたちのところへやってきた。
 おれがこんなにへばってるのを見ても、心配する様子をいっさい見せないところがレクセらしい。

「さすがに食事は無理なんじゃない? 水を飲むのもやっとみたいだったし」
「え、食べるけど」
「ええ!? 食べられるの?」

 ツィーガに驚かれてしまった。
 確かにさっきまでは水を飲むのもやっとだったけど、魔力が少しは回復してきたのか、気持ち悪さは治ってきていた。

「お前ならそう言うと思ったよ。それなら早く食堂に向かうぞ」
「わ……っ」

 レクセがおれの腕を掴んで、ぐいっと引き上げるように立たせる。
 そのまま身体を支えて連れていってくれるのかと思ったのに、「甘えるな。自分で歩け」と頭を軽く叩かれてしまった。



   ◆◆◆



 ダーヴァロード戦闘員用の食堂は本部の別棟にある。
 下っ端戦闘員だった頃は早く行かないと席がなくなるからって先輩たちと一緒によく席取りダッシュしたけど、幹部候補生は専用のラウンジがあるから、そんなことをする必要はないらしい。
 階級ってすごい。

「ん、でも……おれって幹部候補生候補だけど、幹部候補生のラウンジ使って大丈夫?」
「確認してあるから問題ない」
「え! 確認してくれたんだ。さすがはレクセ!」
「あっはは。二人は本当に仲がいいね」

 おれとレクセの掛け合いを見て、向かいに座るツィーガがにこにこと笑っている。
 でも、今のやり取りの中に仲良し要素あった?

 ――ま、いいか。今はとにかくご飯!

 今日の日替わり定食のメインおかずは、肉がごろごろ入ったシチューだ。こんないい匂いを嗅ぎながら、これ以上『待て』なんてできるわけがない。
 スプーンを持つ手にも、ぎゅっと力が入る。

「いっただっきまーす!」

 しっかり煮込まれた肉で口の中をいっぱいにする幸福感に、おれは「んー!!」と思わず唸った。

「バンくん、本当に食べられるんだね」
「……え? そんなに変? 訓練したらお腹って減るものでしょ?」
「適度な訓練ならね。あそこまで激しいと普通は食欲なくなるよ。初めてなら特にね……すごいなぁ、バンくんは」

 なぜか感心されてしまった。

「こいつは昔から、体調が悪くても食欲だけは落ちないんだよ」
「うん! 食べるの大好き!」

 レクセの言葉を全力で肯定してから、シチューとパンを交互にぱくぱくと食べ進める。
 どちらも八割ほどを食べ終えたときだった。

「ん……?」

 さっきまで賑やかだった食堂が、急に静まり返ったのに気づく。
 それと同時に、よく知る気配を後ろから感じた気がして、おれは勢いよく振り返った。

「シディア様だ!」

 食堂の入り口にシディア様が立っているのを見つけて、思わず声を上げていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました

すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。 第二話「兄と呼べない理由」 セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。 第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。 躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。 そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。 第四話「誘惑」 セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。 愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。 第五話「月夜の口づけ」 セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

処理中です...