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42 暗黒書庫の七不思議
しおりを挟む「え、待ってよ。上級幹部の上って、四人しかいないっていう特級幹部だけだよね?」
「ああ。だが、特級幹部の名前とは一致しないから、おそらく上級幹部なんだとは思うが……」
そう言いながらも、レクセはどこか腑に落ちない様子だった。
「あの強さを、目の当たりにしちゃったらね……」
ツィーガが話に割り込んでくる。
休んで少しはましになったのか、顔に血色が戻ってきていた。
「お前がそうなるくらいだしな」
「あれはなんか……明らかな殺意をぶつけられた気もするけど」
「え? 殺意?」
「まあ、それは僕の勘違いだろうけどね……もしかしたら、幹部候補生として試されたのかなぁ」
「試された、か……あるかもしれないな」
ツィーガの言葉に、レクセが同意する。
おれだけ、二人の話から置いていかれている気分だった。
「でもさ、上級幹部なら別に珍しくないんじゃないの?」
「普通の上級幹部ならな」
「? どういうこと?」
レクセが何を言いたいのかわからない。
ツィーガに助けを求めたけど、こちらもわからないのか、首を横に振られてしまった。
「……違和感があるってだけの話だ」
「違和感?」
「ああ。戦闘員にはあまり知られていないが、同じ階級の幹部同士であっても上下関係は厳しいものだ。親父は上級幹部の中でも上位だっていうのに、それを呼び捨てにしたのは、やはり違和感でしかない」
レクセはまだ、そこに引っかかっている様子だった。
ちょっと、気にしすぎじゃないかと思うくらいだ。
シディア様に、尊敬する父親を呼び捨てにされたのが気に入らないだけなんじゃないかとすら思えてくる。
「それだけどさ、おれの父さんは一般幹部なのにイェスコル様のこと呼び捨てにしてるよね?」
「オクトス様と親父はかなり親しい仲だからな。それにオクトス様は上級幹部になれる実力があるのに、昇進を蹴ったんじゃなかったか?」
「あー……うん。そう言ってたね」
父さんは状況が特殊すぎて、全く参考にならなかった。
「アラネア様もだったよな。後進育成のために一般幹部に留まっていると聞いたことがある」
「そうだね。でも母さんはそのうち昇進の話を受けるんじゃないかな。『次に必要なのは上の改革ね』って言ってたし」
「アラネア様ならやりかねないな……と、話が逸れたな」
「あ、うん……でもさ、呼び捨てにしてたからって『何者だ』って言い方はさすがにまずいんじゃないかな?」
「そうだな。その言い方はよくなかった。でも――」
レクセが何か言いかけた瞬間、カランと鐘が一つなった。
時刻を知らせる鐘だ。
「そろそろ持ち場に戻ったほうがよさそうだな」
「そうだね。あ、ツィーガ動ける?」
「なんとかね」
二人と別れて、シディア様の執務室に向かう。
レクセが何かを言いかけていたことなんて、廊下を駆け出したらすぐに忘れていた。
◆◆◆
暗黒書庫(おれ命名)は普通の書庫じゃない。
天井も壁も床も書棚も本も、全部が真っ黒な時点で普通って感じは全くないんだけど、それを抜きにしても普通とは思えないところがいくつもあった。
まず、書棚の位置が気まぐれに変わる。
おれが最初に驚いたのはそこだった。
だって、本の位置じゃなくて書棚の位置だよ?
分厚い本がみっちり詰まった、見上げるほど背の高い書棚の位置が気づいたら変わっているって、驚かないほうがおかしい。
でも、ここの書棚はそれが当たり前らしい。
その次に驚いたのは、本が生きていることだ。
これは比喩でもなんでもなく、本当に本に命が宿っている。
っていっても動いたり喋ったりするわけじゃなくて、本を手に持ったときに本の鼓動を感じるっていえばいいのかな。
どの本も、そんな不思議な感覚がする。
その二つ以外にも、血を捧げないと読めない本が置いてあったり、本に誘われたものしか辿り着けない秘密の部屋が存在したり、読み手の意識を乗っ取ろうとするような物騒な本ばかりが収められている書棚があったり――もはや七不思議なのでは? って思うような怖い話ばっかりだ。
「あとは……ときどき迷い込んでくる影の住人みたいな話もあったなぁ」
こういう話は全部、シディア様が教えてくれる。
シディア様から借りている目の力があれば、この書庫で起こる危険に巻き込まれることは、ほぼないらしいんだけど。
「たぶん、怖がるおれを面白がって話してるよなぁ」
怖い話はあんまり得意じゃない。
聞いてるときよりも、一人になったときに思い出して怖くなっちゃう感じが苦手だった。
シディア様にもちゃんとそう説明したのに、『俺の刻んだ刺青がお前を守るから問題ない』とか言って、怖い話を始めるんだもん。やっぱり悪の幹部だ。
「バン、手が止まっているぞ」
「……あっ、申し訳ありません!」
今は書棚の本を整頓しているところだった。
ちゃんと綺麗にしておかないと、本が不機嫌になってしまうから、これは結構重要な仕事だ。
不機嫌になった本は中身を読ませてくれなくなるんだって。
そういうのは、ちょっと可愛い気がする。
「何か考えごとか?」
「シディア様に聞いた怖い話を思い出してました……」
「思い出すと怖くなるんじゃなかったか?」
「怖いですよ! でも、思い出したくなくても、勝手に思い出しちゃうし……シディア様のせいです」
「ほう。俺のせいか」
シディア様がすぐ隣までやってきた。
どこか楽しそうに見下ろしてくるシディア様の顔を、じっと見上げる。
――やっぱり、レクセの言ってたような魔力圧は感じないよなぁ。
シディア様が強い怪人だっていうのは雰囲気だけでわかるけど、レクセとツィーガが体調を崩す原因になりそうな魔力圧は気配すら感じなかった。
「また別の考えごとか?」
「あの……シディア様は、おれの前で魔力を抑えてくれてたりします?」
「二人に何か言われたのか?」
まだ何も詳しく話していないのに、あの二人が関係しているとすぐにバレてしまった。
「二人がシディア様の魔力圧で体調を崩していたので……どうして、二人よりも耐性が低いはずのおれは平気なのかなって。これが関係してるのかなって考えたりもしたんですけど」
おれは自分の臍の横にある刺青に指を滑らせた。
「半分正解と言ったところだな」
「……半分?」
「詳しく説明してやりたいところだが、そろそろ帰る時間じゃないか?」
「え……もうそんな時間?」
おれの疑問に答えるように、時刻を知らせる鐘が鳴った。
書棚の整頓に夢中になっているうちに、時間はかなり過ぎていたようだ。
「今日は訓練で疲れているのだろう? 早く帰れ」
「少しくらいなら残っても――」
「お前に無理をさせる気はない」
「じゃ、じゃあ! 今日の夕食、うちで一緒にいかがですか!?」
シディア様とまだ一緒にいたい気持ちから飛び出した言葉だったけど、この発言に一番驚いたのはおれ自身だった。
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