42 / 111
42 暗黒書庫の七不思議
しおりを挟む「え、待ってよ。上級幹部の上って、四人しかいないっていう特級幹部だけだよね?」
「ああ。だが、特級幹部の名前とは一致しないから、おそらく上級幹部なんだとは思うが……」
そう言いながらも、レクセはどこか腑に落ちない様子だった。
「あの強さを、目の当たりにしちゃったらね……」
ツィーガが話に割り込んでくる。
休んで少しはましになったのか、顔に血色が戻ってきていた。
「お前がそうなるくらいだしな」
「あれはなんか……明らかな殺意をぶつけられた気もするけど」
「え? 殺意?」
「まあ、それは僕の勘違いだろうけどね……もしかしたら、幹部候補生として試されたのかなぁ」
「試された、か……あるかもしれないな」
ツィーガの言葉に、レクセが同意する。
おれだけ、二人の話から置いていかれている気分だった。
「でもさ、上級幹部なら別に珍しくないんじゃないの?」
「普通の上級幹部ならな」
「? どういうこと?」
レクセが何を言いたいのかわからない。
ツィーガに助けを求めたけど、こちらもわからないのか、首を横に振られてしまった。
「……違和感があるってだけの話だ」
「違和感?」
「ああ。戦闘員にはあまり知られていないが、同じ階級の幹部同士であっても上下関係は厳しいものだ。親父は上級幹部の中でも上位だっていうのに、それを呼び捨てにしたのは、やはり違和感でしかない」
レクセはまだ、そこに引っかかっている様子だった。
ちょっと、気にしすぎじゃないかと思うくらいだ。
シディア様に、尊敬する父親を呼び捨てにされたのが気に入らないだけなんじゃないかとすら思えてくる。
「それだけどさ、おれの父さんは一般幹部なのにイェスコル様のこと呼び捨てにしてるよね?」
「オクトス様と親父はかなり親しい仲だからな。それにオクトス様は上級幹部になれる実力があるのに、昇進を蹴ったんじゃなかったか?」
「あー……うん。そう言ってたね」
父さんは状況が特殊すぎて、全く参考にならなかった。
「アラネア様もだったよな。後進育成のために一般幹部に留まっていると聞いたことがある」
「そうだね。でも母さんはそのうち昇進の話を受けるんじゃないかな。『次に必要なのは上の改革ね』って言ってたし」
「アラネア様ならやりかねないな……と、話が逸れたな」
「あ、うん……でもさ、呼び捨てにしてたからって『何者だ』って言い方はさすがにまずいんじゃないかな?」
「そうだな。その言い方はよくなかった。でも――」
レクセが何か言いかけた瞬間、カランと鐘が一つなった。
時刻を知らせる鐘だ。
「そろそろ持ち場に戻ったほうがよさそうだな」
「そうだね。あ、ツィーガ動ける?」
「なんとかね」
二人と別れて、シディア様の執務室に向かう。
レクセが何かを言いかけていたことなんて、廊下を駆け出したらすぐに忘れていた。
◆◆◆
暗黒書庫(おれ命名)は普通の書庫じゃない。
天井も壁も床も書棚も本も、全部が真っ黒な時点で普通って感じは全くないんだけど、それを抜きにしても普通とは思えないところがいくつもあった。
まず、書棚の位置が気まぐれに変わる。
おれが最初に驚いたのはそこだった。
だって、本の位置じゃなくて書棚の位置だよ?
分厚い本がみっちり詰まった、見上げるほど背の高い書棚の位置が気づいたら変わっているって、驚かないほうがおかしい。
でも、ここの書棚はそれが当たり前らしい。
その次に驚いたのは、本が生きていることだ。
これは比喩でもなんでもなく、本当に本に命が宿っている。
っていっても動いたり喋ったりするわけじゃなくて、本を手に持ったときに本の鼓動を感じるっていえばいいのかな。
どの本も、そんな不思議な感覚がする。
その二つ以外にも、血を捧げないと読めない本が置いてあったり、本に誘われたものしか辿り着けない秘密の部屋が存在したり、読み手の意識を乗っ取ろうとするような物騒な本ばかりが収められている書棚があったり――もはや七不思議なのでは? って思うような怖い話ばっかりだ。
「あとは……ときどき迷い込んでくる影の住人みたいな話もあったなぁ」
こういう話は全部、シディア様が教えてくれる。
シディア様から借りている目の力があれば、この書庫で起こる危険に巻き込まれることは、ほぼないらしいんだけど。
「たぶん、怖がるおれを面白がって話してるよなぁ」
怖い話はあんまり得意じゃない。
聞いてるときよりも、一人になったときに思い出して怖くなっちゃう感じが苦手だった。
シディア様にもちゃんとそう説明したのに、『俺の刻んだ刺青がお前を守るから問題ない』とか言って、怖い話を始めるんだもん。やっぱり悪の幹部だ。
「バン、手が止まっているぞ」
「……あっ、申し訳ありません!」
今は書棚の本を整頓しているところだった。
ちゃんと綺麗にしておかないと、本が不機嫌になってしまうから、これは結構重要な仕事だ。
不機嫌になった本は中身を読ませてくれなくなるんだって。
そういうのは、ちょっと可愛い気がする。
「何か考えごとか?」
「シディア様に聞いた怖い話を思い出してました……」
「思い出すと怖くなるんじゃなかったか?」
「怖いですよ! でも、思い出したくなくても、勝手に思い出しちゃうし……シディア様のせいです」
「ほう。俺のせいか」
シディア様がすぐ隣までやってきた。
どこか楽しそうに見下ろしてくるシディア様の顔を、じっと見上げる。
――やっぱり、レクセの言ってたような魔力圧は感じないよなぁ。
シディア様が強い怪人だっていうのは雰囲気だけでわかるけど、レクセとツィーガが体調を崩す原因になりそうな魔力圧は気配すら感じなかった。
「また別の考えごとか?」
「あの……シディア様は、おれの前で魔力を抑えてくれてたりします?」
「二人に何か言われたのか?」
まだ何も詳しく話していないのに、あの二人が関係しているとすぐにバレてしまった。
「二人がシディア様の魔力圧で体調を崩していたので……どうして、二人よりも耐性が低いはずのおれは平気なのかなって。これが関係してるのかなって考えたりもしたんですけど」
おれは自分の臍の横にある刺青に指を滑らせた。
「半分正解と言ったところだな」
「……半分?」
「詳しく説明してやりたいところだが、そろそろ帰る時間じゃないか?」
「え……もうそんな時間?」
おれの疑問に答えるように、時刻を知らせる鐘が鳴った。
書棚の整頓に夢中になっているうちに、時間はかなり過ぎていたようだ。
「今日は訓練で疲れているのだろう? 早く帰れ」
「少しくらいなら残っても――」
「お前に無理をさせる気はない」
「じゃ、じゃあ! 今日の夕食、うちで一緒にいかがですか!?」
シディア様とまだ一緒にいたい気持ちから飛び出した言葉だったけど、この発言に一番驚いたのはおれ自身だった。
246
あなたにおすすめの小説
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました
すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。
第二話「兄と呼べない理由」
セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。
第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。
躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。
そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。
第四話「誘惑」
セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。
愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。
第五話「月夜の口づけ」
セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる