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48 食べて、食べられて
しおりを挟む「や……っ、ぁあッ……んぁっ」
おれの意思とは関係なく勝手に声が出てしまう。
気持ちよさも度を超えたら、苦痛とあまり差がなかった。
下腹部に触れたシディア様の手から、流れ込んでくる魔力の量はずっと変わらない。
身体の中でおれの魔力とシディア様の魔力が混ざり合って、熱を生み――それが快感へと変化して、おれの身体と心をじわじわと苛む。
「も……無理、止めて……っ」
「おかしなことを言う。俺の魔力を食らっているのは、お前のほうだぞ。バン」
「…………え?」
「信じられないか? ならば証明してやろう」
シディア様の手が離れた。
魔力の流れがなくなっても、気持ちよさはしばらく残る。熱でぼんやりとした頭では、シディア様に言われたことを半分も理解できていなかった。
「シディア様……?」
「どうした」
おれが名前を呼ぶと、シディア様は寝転んだおれからでも顔が見える位置まで移動してきてくれる。
横から覗き込むオーロラ色の瞳を、おれは呆然と見つめ返していた。
「バン、今どんな感覚だ?」
「え……と」
まだよく考えられなかった。
でも、シディア様に聞かれたことにはちゃんと答えたい。なんとか答えを絞り出そうとするけど、どうやっても考えがうまく纏まらない。
「考える必要はない。感じるままを答えろ」
「感じる、まま…………んっ」
魔力はもう流れ込んできていないのに、なぜか腹筋がひくんと震えた。
さっきまで感じていた余韻とも違う感覚だ。
「ぁ……あ……」
その感覚は少しずつ強くなる。
心臓の鼓動とは別に、ずくずくと腹の奥に感じる脈動の存在を感じていた。
「自分の欲を理解できてきたか?」
いつの間にか至近距離まで顔を寄せていたシディア様が、おれの耳元で低く囁く。
「おれの、欲……?」
「ああ、そうだ。内なる声に耳を傾けろ――もっと欲しがれ、バン」
「……っ!!」
名前を呼ばれた瞬間、腰が浮くくらいの衝撃が背筋を駆け抜けた。
軽く達したような感覚に、また震えが止まらなくなる。
「触腕のほうが素直なようだ」
生やそうとしたわけじゃないのに、触腕がまた勝手に生えていた。
触腕はまるで何かを探すように、ゆらゆらと揺れている。
「まだわからないのか?」
吐息がかかる位置にシディア様の顔があった。
――魔力って、息の中にも混ざってるのかな?
目には見えないけど、おれとシディア様の顔のあいだに魔力が漂っている気がして、おれは空気を舐めるように舌を動かす。
「そんな微量で足りるのか?」
おれが首を横に振ると、シディア様の唇の端が上がった。
「ほら、身体を起こせ。お前が欲しがるだけくれてやる」
シディア様の言葉に操られるように、おれは寝転がっていた身体を起こした。
膝立ちでシディア様に近づいて、おそるおそる手を伸ばす。
「あ……」
触れる直前、リビングで父さんがシディア様に掴みかかろうとしたときのことが頭をよぎった。
弾かれたときの激しい音と焦げたような臭い、それに真っ黒になっていた父さんの手を思い出して、ぞくっと背筋に冷たいものが走る。
「オクトスのようになると思ったか?」
「……っ」
「怯えずとも、俺は自分のものは大事にする主義だ――触れろ、バン」
お前は特別だって言われた気がして、臍の両側に刻まれた所有の刺青が、じわりと熱を持ったのがわかった。
そろそろとシディア様の首の後ろに手を回すと、触腕もシディア様の腰のあたりに巻きつく。
「……ん、ぅ」
触腕から魔力が流れ込んでくる。
さっきよりは激しくないけど、やっぱりすごく気持ちいい。
――これが、魔力を食べてる感覚?
そう自覚したからか、魔力の流れるスピードを自分で調節できているような気がした。気持ちいいと感じられる量と速さで、シディア様の魔力を自分の体内に取り込んでいく。
ふわふわとした快感と多幸感に、もっと何も考えられなくなってきた。
「口からは食べなくていいのか?」
「……食べて、いいんですか?」
魅力的すぎる誘いを断る理由はなかった。
ぎゅっと抱きついたら、シディア様の整った顔がすぐ目の前にくる。唇を重ねるために顔を近づけると、まるで迎えてくれるみたいにシディア様が薄く唇を開いた。
おれも少し口を開きながら、唇同士を触れ合わせる。
咥内に滑り込んできたシディア様の舌に、ちゅっと音を立てて軽く吸いついた。
「ふ、ぁ……っ」
唾液に混ざる魔力を味わう。一滴もこぼさないように、夢中でシディア様の舌に自分の舌を絡める。
美味しい。
すごく気持ちいい。
幸せな気持ちが止まらない。
「……ん、ぁ……シディアさま、もっと」
離れた唇を追いかけて、舌を伸ばす。
その舌に軽く歯を立てられたときだった。
ピキン、と硬くて高い音が左側から聞こえた。何の音かわからないけど、どこかで聞いたことのある音のような気がする。
「ンっ、ぁああ――ッ」
音が聞こえた場所から、ぞぞっと肌の上に何かが広がる感覚がした。気持ち悪いんだけど、気持ちいい――ものすごく変な感覚に全身の鳥肌が止まらない。
ピキッ、ピキッ、と聞こえる音もだんだん大きくなってくる。
「そろそろ限界か」
シディア様の声がした。
その姿が半分、黒くてどろっとした物体に覆われていることに気づく。
――何、これ。
おれが腕を持ち上げると、黒い物体も一緒に動いた。
下半身を動かそうとすると、ぐちゅっと粘り気のある湿った音が、自分の脚があるはずの場所から聞こえる。
――この黒くてどろっとしたもの……もしかして、おれ?
自分の身に何が起きているのか、理解できなかった。
混乱に叫びそうになったおれの唇を、シディア様が無言で塞ぐ。魔力を吸われている――そう思った次の瞬間、おれは意識を失っていた。
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