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55 幼馴染みは誤魔化せない
しおりを挟むシディア様に新たな刺青を刻まれてから数日が経ったけど、おれは特に変わり映えのしない日常を送っていた。
大きな変化があってもおかしくないような出来事がいろいろあったのに、ここまで何も変わらないっていうのは肩透かしというか……ちょっとだけ、もやっとした気持ちになるのは仕方がないと思う。
告白の返事も結局もらえていないままだった。
――きっぱり振られなかっただけ、よかったと思うべきなのかなぁ。
特大の溜め息がこぼれる。
こんな溜め息が多ければ日に十回ほど……って、ちゃんと数えたわけじゃないけど。
シディア様の見ている前ではつかないように気をつけているけど、いない場所だとつい気が緩んでしまう。
「どうしたの、バンくん。悩みごと?」
隣から心配そうに覗き込んできたのはツィーガだ。
今日も幹部候補生に混じっての訓練終わりに、いつもの三人で食堂にやってきていた。
頼んだ定食が運ばれてくるまでのあいだ、いつもならお互いの近況を語り合ったりするんだけど、今日のおれは二人の話をほとんど聞いていなかった。
「僕でよかったら話聞くよ?」
「放っておけ、ツィーガ。どうせまたくだらない悩みだ」
「ちょっ、レクセ! 少しくらいは心配してくれたっていいじゃん」
「嫌だよ、面倒くさい」
「あっはは。溜め息ついてるバンくんのこと、心配そうに見てたくせに。レクセも素直じゃないんだから」
「うるさいぞ、ツィーガ。黙れ」
レクセに睨まれたツィーガが「おー、怖いなぁ」と笑いながら返す。
この二人も結構仲がいいんだよなぁ。
そんなやり取りをしているうちに、三人分の日替わり定食が運ばれてくる。今日のメニューは三種の魚フライだ。
「わあ、美味しそう!」
「ほらな。この程度で忘れるような悩みだったろ」
「忘れてないし! 悩みとご飯は別、ってだけだから!」
「はいはい」
レクセは真面目に取り合ってくれない。
まあ、そのくらいのほうが楽なんだけどさ。何に悩んでいるのか聞かれても、簡単に話せることじゃないし。
――そういえば、レクセと恋愛話とかしたことないなぁ。付き合ってる人とかいたりするのかな?
いても全然おかしくないけど、レクセからそういう浮いた話は聞いたことがなかった。
これまでに、そういう人がいたって話も含めてだ。
――シディア様ほどではないけど整った顔だし、モテそうなんだけどなぁ。
そんなことを考えながらレクセの顔をちらちら見ていたら、気持ち悪いものを見るような目で見られてしまった。
こっちを見るなとでも言いたいのか、手でシッシッと追い払われる。
「あれ? ツィーガ、全然食べてなくない?」
ふと視線を隣に移したおれは、ツィーガが食事にほとんど手をつけていないことに気がついた。
ツィーガはおれの問いに、こくんと頷く。
「ここのところ、あんまり食欲がなくてね。バンくん、どれか食べる? 好きなの取っていいよ」
「くれるっていうなら食べるけど……大丈夫? 医務室には行った?」
「病気じゃないから平気だよ。これは薬の副作用だからね」
ツィーガは、あっけらかんとした様子で答える。
「薬って、やっぱりどこか悪いんじゃ」
「ううん。僕が飲んでるのは病気を治す薬じゃなくて、怪人の力を強化する薬なんだよ。まだ研究段階なんだけど、今その実験に協力してるんだ」
そう言ってにっこり笑ったツィーガの表情はいつもと変わらなかったのに、どうしてなのか、全身にぞわりと鳥肌が立つ。
おれはそれをツィーガに気づかれないように、「そうなんだ」と返すだけで精いっぱいだった。
◆◆◆
「……あのさ、レクセ。ちょっといい?」
食堂を出たところで、〈地下〉に向かうというツィーガと別れる。
偶然向かう方向が同じだったレクセの隣をしばらく黙って歩いていたおれは、意を決してレクセに尋ねた。
立ち止まったレクセが、おもむろに振り返る。
「ツィーガのことか?」
「……っ、なんでわかったの?」
「お前、途中から様子がおかしかったからな。昔からわかりやすすぎるんだよ」
レクセはそう言うと、おれの肩に軽く拳をぶつけた。「歩きながらでいいか?」と聞かれたので頷くと、再び歩き始める。歩調はいつもよりゆっくりだ。
「実験のことが気になってるんだろ?」
「うん……レクセは知ってたの?」
「薬を使ってるっていうのは俺も初耳だった。ただ、あいつは元々〈地下〉に興味があって、ダーヴァロードに入団を決めたらしいからな。実験に協力的なのは、別におかしな話じゃない」
「……〈地下〉って、本部の研究施設のことだよね?」
「ああ。それに実験施設でもある。そのすべてを取り仕切っているのは、特級幹部ビィ・ロフォラヴリだ」
「――ッ」
幹部ビィ・ロフォラヴリ――マッド・ビィの名前だ。
おれもシディア様に教えてもらうまで、あの人が特級幹部だなんて知らなかった。
――シディア様から『マッド・ビィには近づくな』って言われたんだよな。それと〈地下〉には絶対入るなって……言われなくても、近づきたくないけど。
おれの能力は、それほど注意しなくてはいけないくらい、マッド・ビィには魅力的に映るらしい。
その詳しい理由までは教えてもらえなかったけど、マッド・ビィの研究対象にされるなんて絶対に御免だった。
――ツィーガ、〈地下〉の実験に協力してるって……それってマッド・ビィ絡みだよね? しかも怪人の力を強化する薬って。
たぶん、あのときの薬だ。
おれが医務室でマッド・ビィに飲まされた薬。
少し舐めただけでもあんなことになったのに――ツィーガは本当に大丈夫なんだろうか。
「お前……幹部ビィ・ロフォラヴリと何かあったのか?」
「そ、そんなことないけど……どうして?」
「それで誤魔化したつもりか? ……ったく、言っただろ。お前は昔からわかりやすいって」
眉間に皺を寄せて呆れたように溜め息をついたレクセに、今度は頭を叩かれた。
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