【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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56 わかってなかったのかもしれない

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「……入団式の日に、そんなことがあったのか」

 あの日、医務室でマッド・ビィにされたことをレクセに説明した。
 助けてくれたのが首領様だったことだけは伏せておいたけど、マッド・ビィにおかしな薬を飲まされたこととか、そのせいで命の危険に晒されたこととか、そのあたりをできるだけ重くならないように話したつもりだ。
 といっても、内容が重すぎるのはどうにもならないんだけど。

「よく生きてたな、お前」
「それは……うん。おれもそう思う」
「昔から運だけはいいもんな。六歳のときだって、普通だったら死んでただろ」
「? 六歳のとき……?」
「覚えてないのか? うちの家族と一緒に旅行したときに、丸二日間行方不明になったこと」
「あー……あったね、そんなこと」

 それは六歳のときに起きた事件だった。
 おれたちがまだ小さかった頃、うちとレクセの家族は年に一回くらい一緒に旅行することがあった。
 おれはその旅行をいつも楽しみにしていたんだけど、六歳のときに訪れた旅行先で丸二日間、行方不明になったのだ。
 あれは確か、高山にあるイェスコル様の別荘に泊まりに行ったときのことだったはず。そのあたりの記憶が曖昧なのは、事件のあった日前後のことをちゃんと思い出せないせいだった。
 特に行方不明になっていた二日間に何があったのかは、今も全く思い出せないままだ。

「あれは死んだと思ったからな」
「勝手に殺さないでよ」
「死んで当然の状況だったろ。あのときは突然の〈蝕雨しょくう〉で、親父たちも捜索に出られないくらいだったからな。外にいたお前がどうやって〈蝕雨〉から身を守ったのか、その方法は今もわかってないんだろ?」
「あの日のことは、全く覚えてないからね」

 レクセの言った〈蝕雨〉っていうのは、正体不明の物質で汚染された黒く濁った雨が大量に長時間、広範囲に降り注ぐ自然災害のことだ。
 それも、ただの雨じゃない。
 名前のとおり〈蝕雨〉の雨に長時間打たれると、どんなに強い力を持つ怪人であっても身体を蝕まれ、激しく衰弱し、最悪は死に至ることもあるという――とても恐ろしい現象だった。

「あれ以来、〈蝕雨〉が降ったって聞かないよね」
「かなり珍しい現象だからな。一生に一度、遭遇するかしないかって話だ」
「うえー……それに遭遇するとか、おれってめちゃくちゃ不運じゃん」

 マッド・ビィに狙われたのもそうだけど、おれって実ははちゃめちゃに巡り合わせが悪かったりする?
 でもそのおかげで首領様と直接話せたし、全部が悪かったってわけでもないんだけど。

「あー……おれの運がいいって、そういうこと」

 普通ならやばい状態に陥って当然のところを、運に助けられてきたって――レクセはそう言いたいんだろう。
 でも本当に運がいいなら、こういう事件に巻き込まれないほうが絶対にいいと思うんだけど。

「はーあ……おれは萌えを摂取しながら、平和に過ごしたいだけなのに」
「また意味のわからないことを」
「わかんなくないし!」

 レクセには昔からおれの性癖と萌えについて語りまくっているのに、理解してくれないどころか、最近はこんなふうに冷たくあしらうだけで話も聞いてくれない。
 ぷうっ、と頬を膨らませていたら、目的地である中央昇降機エレベータ前に到着した。

「――運といえば、あれもそうだな」

 昇降機の扉を開くボタンを押すおれの後ろで、レクセが思い出したように口を開く。

「あれって?」
「下級戦闘員のことだ。聞いてないのか? 最近、大規模な戦闘があって負傷者が大勢出たらしい。その中に、お前が所属していた隊の戦闘員もいたはずだ」
「え…………負傷者が、出たの?」
「ああ。被害の詳しい内容までは聞いてないが――って、おい!」

 話を最後まで聞いている余裕なんてない。
 レクセの制止する声を振り切って、おれはその場から駆け出していた。



   ◆◆◆



 下っ端戦闘員だった期間はそんなに長くない。
 だけど、入団したてのおれに優しくしてくれた先輩や、一緒に頑張ってきた同期のことを大切に思う気持ちは強かった。
 戦闘員として組織に所属している以上、常に危険と隣り合わせだってことはわかっている。
 でもわかっていても、自分のよく知る人が怪我したかもしれないと聞かされて、平気でいられるわけがなかった。

「失礼します!」

 おれが息を切らしながら駆け込んだのは、下っ端戦闘員のために用意されている訓練場だった。
 休憩明けのこの時間なら、訓練場に集まっている人が多いはず。そう思ってここまで一目散に走ってきたのに、訓練場の中に人は少なかった。
 少しだけ嫌な予感がしたけど、それはいったん頭の片隅に追いやって、おれは知っている人がいないか探す。

 ――ラーギ先輩か、同期の誰かがいてくれたら話が聞きやすいんだけど。

 みんなマスクを被っているから、すぐには見分けがつかない。
 それでも諦めずに訓練場の中をきょろきょろと見回す。

「あれ、バンじゃねーか。何してんだよ、こんなとこで」
「っ、ラーギ先輩!」

 後ろからラーギ先輩の声がした。
 名前を呼びながら振り返ったおれは、三歩ほど離れたところに立つラーギ先輩の姿に目を見開く。
 ラーギ先輩はそんなおれを見て、眉を下げて笑った。

「情けねえ顔してんじゃねーよ」
「だ、だ、だって、ラーギ先輩……その腕」

 ラーギ先輩の左腕がなかった。
 二の腕の途中から、鋭い刃物で斬られたみたいになくなってしまっている。
 驚きと怖さで震えが一気に来て、おれは何も話せなくなった。
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