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60 身体が空気を読んでくれない
しおりを挟む――ラーギ先輩は苦しんでるのに。
気持ちよくなっちゃだめだ。
そう思うのに、身体の内側に快感がじわっと広がるたび、ひくひくと腰が揺れてしまう。
流れ込んでくるシディア様の魔力が快すぎて、反応してしまう身体を抑えるのはどうやっても無理だった。
「呪印は刻めた――ラーギ、忠誠の言葉を」
気持ちよさにぼんやりとしていたおれは、そのシディア様の言葉にハッとする。
正面に視線を向けると、脂汗を滲ませているラーギ先輩と目が合った。
その表情は苦痛による疲労感を全く隠せていない。
それでもシディア様に従って、すっとその場に跪くと、当たり前のようにおれの足の甲へ額を押し当てた。
「――私、ラーギ・グウスはバン・クラードゥ様に忠誠を誓います」
「……ッ!!」
うなじから頭の頂点にかけて、びりっと鋭い何かが駆け抜けた。
一瞬のことだったし、そこまで痛かったわけじゃないけど、初めての感覚に驚いて、自分のうなじへ手を当てる。
「呪印の発動を感じたか?」
「今のが……そうなんですか?」
「これで、ラーギは呪印に縛られた。お前の命令には決して逆らえない」
ラーギ先輩とそんな関係になってしまうなんて。
これは、おれがシディア様に立てた忠誠の誓いよりも遥かに重く、破ることの許されない誓いだ。
黒印よりも強い強制力があるってことはたぶん、おれの命令一つでラーギ先輩の命を奪うことだってできる。
「これ……黒印の命令と反する命令をおれがした場合、どうなるんですか?」
「〈地下〉へ行くなと命じるつもりか? その場合は黒印が発動し、ラーギは死ぬだろうな」
「……やっぱり、だめですか」
そんな簡単に解決するものじゃない気はしていたけど。
じゃあ、呪印を刻んで忠誠を誓わせた意味はなんだったんだろう。ただ、ラーギ先輩をおれたちと敵対させないためだけ?
「バン様とお呼びしたほうがよろしいですか?」
「ちょ……っ! ラーギ先輩、そういうのはいいですから」
ラーギ先輩は本気で言ったのかもしれないけど、冗談でもそんなことを言うのはやめてほしかった。
この関係を変えたいなんて、少しも思っていない。
「って、こういうのも命令になるんですか?」
「呪印に魔力を込めなければ問題ない」
「よかったぁ…………んッ」
ほっとしたら、忘れていた刺青の疼きを思い出した。
シディア様の魔力によって高められた熱は治まったわけじゃなくて、一時的に意識がそこから逸れていただけだったらしい。
――これ……ちょっと、やばいかも。
今はそんな場合じゃないのに、身体の熱を鎮める方法がわからない。
「ラーギ、すぐに〈地下〉へ向かうのだろう?」
「はい。そういう命令ですので」
「……もう、行っちゃうんですか?」
「そんな顔すんなって」
ラーギ先輩が、おれの頭に向かって手を伸ばす。
でも、その手は髪に触れる直前でピタッと止まった。下っ端戦闘員時代のようにくしゃくしゃと撫でられると思っていたおれは、ラーギ先輩を見て首を傾げる。
「?」
「……お前がやったんじゃないのか」
「どういうことですか?」
「いや……なんでもねーよ」
ラーギ先輩はそう言うと、手を引っ込めてしまった。
「じゃあ、行ってくる」
「っ……絶対、無事に帰ってきてください」
おれはラーギ先輩の右手を掴んでいた。
ラーギ先輩は目を見開いたあと、少し置いてから噴き出すように笑う。
「――お前らしい命令だな」
◆◆◆
「……あの、シディア様?」
ラーギ先輩を見送ったおれは、シディア様の執務室である暗黒書庫にいた。
中央昇降機を使う通常ルートを使わずに、転移でいきなり説明もなく連れてこられたせいで、状況がまだよく理解できていない。
おれは、隣でおれの手を握っているシディア様の顔を見上げた。
「どうして、転移なんか……」
転移は魔力をかなり消費するもののはず。
シディア様にそんな心配は必要ないのかもしれないけど、そこまで離れた場所でもないのに転移した理由がわからない。
「そんな発情した身体で満足に歩けたのか?」
「……っ、んぁ」
不意に腰を撫でられ、膝から力が抜けるくらいに感じてしまった。
恥ずかしい声まで出てしまう。
床に座り込む前にシディア様が身体を支えてくれたけど、その手の感触にすら気持ちよさを覚えてしまった。
「シディア様……気づいてたんですか?」
「気づかないと思ったか? 呪印を刻むあいだ、誘うように腰を擦りつけておいて」
「おれ、そんなこと……」
「今だって、物欲しそうな顔をしている」
無意識に、そんなことをしてしまっていたんだろうか。
あのときは快楽の熱に浮かされてぼーっとしていただけに、絶対にやっていないとは言い切れない。
――それに……物欲しそうな顔って、どんな顔?
自分が今どんな顔をシディア様に晒してしまっているのかも、よくわからなかった。
「何が欲しいか言ってみろ」
「え……」
「欲しいものがあるのだろう? 先ほどからずっと目で追っていて、わからないとは言わせんぞ」
指摘されて、初めて気づく。
おれの視線はシディア様の口元に釘づけだった。
話すときに、ちらりと覗く舌を見ていると、喉が渇いたような感覚になる。何度唾を呑み込んでも、その渇きが癒えることはなかった。
「シディア様の舌が……舐めたいです」
思ったことが、そのまま声になって出ていた。
おれの望みを聞いて、シディア様は値踏みするような視線でこちらを見る。
目尻だけを緩めて、薄く笑った。
「いやらしい言い方をする」
「……っ」
「だが、そうか。普通の口づけでは満足できないと、そう言いたいのだな」
「はい……」
「素直なのはいいことだ――口を開けろ、バン」
命令どおり、口を開く。
顔を少し上に向けて、刻まれた刺青を見せつけるように舌を出した。
シディア様の顔がゆっくりと近づいてくる。
深青色の長い睫毛とオーロラのように色の変わる虹彩がくっきりと鮮明に見えたあと、今度は滲んだようにぼやけた。
それだけ近くにシディア様の顔がある。
「……ん……っ」
戯れるように舌に息を吹きかけられた。
それだけでも、びくっとなってしまうくらい気持ちがいい。顎が勝手に上がって、シディア様に少しでも唇を近づけようとしてしまう。
背伸びをしようとしたら、両肩を押さえつけられてしまった。
「舌だけ、こちらに伸ばせ」
言われたとおりに舌を突き出す。
つん、と尖らせた舌先にシディア様の唇がかすかに触れた。
あっ、と思った瞬間、ぱくんと食べるみたいに口づけられる。
背筋が少し反るくらい身体をめいっぱい伸ばしていたおれは、刺青にシディア様の舌が触れた瞬間に起こった電流のような衝撃を、うまく逃がすことができなかった。
「ん、ん……っ、ン!」
頭がおかしくなりそうな気持ちよさに絶え間なく襲われ、全身の痙攣が止まらない。
シディア様に舌を甘噛みされるたび、頭が真っ白になって、出さずに何度もイッているみたいだった。
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