【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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61 暗黒書庫での独り言

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「おれって、いつまで幹部候補生候補・・なんだろうね?」

 暗黒書庫の本に向かって話しかけても、答えが返ってこないのはわかっている。それでも書棚の本を一人で整理をしていると、独り言は自然と増えるものだった。
 ラーギ先輩を〈地下〉へ見送ってから、もう一か月以上が経つ。
 初めの頃は不安で寝つけなかったり、なんとか眠れてもラーギ先輩が酷い目に遭っている夢を見て飛び起きたりしていたおれだけど、〈ある人〉の助けのおかげでそれもなくなって、今は一応メンタル的に安定した日々を送れていた。
 その〈ある人〉っていうのは、シディア様のことなんだけど。

「……シディア様の家で寝起きするようになって、もう一か月になるんだなぁ」

 そう。おれは今自宅ではなく、シディア様の家で生活していた。
 理由はさっきも言ったとおり、ラーギ先輩のことを心配しすぎて、おれが体調を崩しちゃったせいなんだけど、体調が戻った今もシディア様との同居生活は続いている。

「同居っていっても、家に帰ったあとは入浴して寝るだけなんだけどさ……ただ、寝るのが同じベッドっていうのは……うん」

 これが普通の状況じゃないのは、おれもちゃんと理解していた。
 しかも相手はただの上司じゃなくて、『好き』と告白した相手だ。でも、不安でいっぱいのときは恋愛感情を意識している余裕もなかった。
 身近な人が死んでしまうかもしれないことが怖くて、シディア様にはたくさん慰めてもらった。
 特に、ぎゅっと抱きしめてもらうのにはすごく効果があって、自分から抱きついてしまったこともある。
 そのくらい、シディア様の傍はどこよりも安心できる場所だった。
 シディア様の家で生活するようになった理由はそれだけじゃない。
 最近は自宅に戻っても自分以外に誰もいない時間のほうが長くて、そういう心細くてどうしようもなくなる時間を少しでもなくしたかったっていう気持ちもあった。

「最近……父さんも母さんも忙しそうだもんな」

 父さんの場合、帰りが遅かったり、本部に泊まり込む日があったりするのはそんなに珍しいことじゃなかったけど、最近は母さんもそういう日が多くなっていた。
 うちは三人家族だから、二人ともが帰ってこないとなると、家にはおれ一人になる。
 何もないときなら一人の解放感を楽しめたのかもしれないけど、今はそういうふうに考えられなかった。
 ラーギ先輩のこともそうだけど、それ以外にも不安を感じることが増えているせいだ。今は少しでも安心できる環境に自分を置いておきたかった。

「それが、シディア様の傍っていうのは……我ながらどうかと思うよ。思うけどさ……実際に安心できるんだから仕方ないじゃん」

 本に向かって、何言い訳みたいなことを言っているんだろう。
 でも静かだと余計なことばっかり考えちゃって、それならこうやって独り言を言っているほうがまだマシだったりする。

「でも、忙しそうなのは父さんたちだけじゃないんだよな。シディア様も最近執務室をいないことが増えてるし……あの噂って、やっぱり本当なのかな」

 最近、幹部候補生のあいだで、ある噂が囁かれていた。
 おれは食堂で偶然耳にしたんだけど、なんでもダーヴァロードの上層部がきな臭いことになり始めているらしいっていう、かなり物騒な噂だった。
 その噂話はレクセも一緒に聞いていて、レクセは『根も葉もないただの噂だ』って一蹴していたけど、おれはあながちそうでもないんじゃないかって思っている。
 前に聞いた、シディア様の言葉がずっと引っかかっていたからだ。
 ラーギ先輩がマッド・ビィの元に行くとわかったとき、『こちらの敵に回ってもらっては困る』と言っていた。だからこそ、呪印を刻ませてもらうと。
 同じ幹部のはずなのにどうして――そうあのときも疑問に思ったけど、詳しい話は今も聞けていないままだった。
 安易に触れちゃいけない話題のような気がしたからだ。

「幹部にも派閥があったりするのかな……父さんたちとシディア様、敵対してる派閥だったりしないよね?」

 シディア様を家に招いたとき、険悪な雰囲気は特になかったと思うけど。
 そういえばあれ以来、父さんとも母さんともシディア様の話はあまりしていない。話題を避けられているわけじゃないよね? 大丈夫だよね?

「はー……やばい。いつも以上に作業が進んでないかも」

 考え事をしていると手が止まってしまうのは、おれの悪い癖の一つだ。
 さっきからずっと、同じ本を左右入れ替えているだけになってしまっていたことにようやく気づく。

「ちょっと休憩しようかな」

 別にサボろうってわけじゃない。
 この書庫にある本は普通の本じゃないから、書棚を整理するだけでも魔力を消耗してしまう。だから適度に休憩を挟むよう、シディア様から指示を受けていた。
 おれは、近くにあった踏み台兼スツールに腰をかける。うん、と背伸びをしたときだった。

「……っ?」

 書棚の向こうから、ズシンッと何かが落ちるような重たい音が聞こえた。
 床から振動も伝わってきた気がする。

 ――誰もいないはずだよね……?

 音が聞こえてきたのは書庫の奥、誰もいないはずの場所からだった。
 シディア様が転移で戻ってきたのかもしれない――その可能性もゼロではなかったけど、なんとなく、そうじゃない気がする。

 ――この書庫に入れるのは、おれとシディア様だけだって聞いてたのに……どうやって入ってきたの? おれ、どうしたら。

 幸いにも、書庫の入り口は侵入者がいる位置とは反対側にある。
 だから、逃げられないということはない。
 でも、逃げていいんだろうか。
 おれはシディア様にここの留守番を任されているのに、無責任に逃げ出していいとは思えなかった。

 ――せめて様子くらいは確認したほうがいいよね……? そうだ。念のために触腕を出しておこう。

 この一か月の厳しい訓練のおかげで、触腕を武器として多少は扱えるようになっていた。っていっても、まだまだ幹部候補生相手にも勝てる確率はかなり低かったけど。
 それでも丸腰よりはいい。
 おれは触腕を生やすと根元に手を添え、さっき音の聞こえたほうに意識を向けた。
 気配を読むのはそこまで得意じゃないけど、それでももしそこに誰かがいるなら、その気配くらいは読み取れるはず。
 そんなことを考えながらも、きちんと周りには警戒していたつもりだった。

「――動くな。絶対に暴れんなよ」
「……ッ!!」

 後ろから何者かに羽交い締めにされる。
 おれを脅す低く掠れた声に、聞き覚えは全くなかった。
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