71 / 111
71 所有の証じゃなかったの?
しおりを挟む「ここまで言ってもわからないのか?」
「っ、違うんです! 言われてることはわかるんです。わかるんですけど……おれ、自分に都合よく受け取ってるんじゃないかって思っちゃって」
呆れている口調のシディア様に、おれは慌てて弁解した。
でも、あまりに自分に都合のよすぎる展開についていけない。今だって、まだ言われた言葉のすべてを理解しきれていなかった。
言われたことや言葉の意味はわかるけど、それを正しく認識するのに時間がかかる。自分の感情と繋げるところまで、なかなか辿り着けなかった。
――……おれのことしか抱くつもりはないって、そういう意味でいいんだよね?
頭の中でシディア様の言葉を反芻しながら考える。
ごくりと唾を呑み込んでから、おれはおそるおそる口を開いた。
「……それが、告白の返事ってことですか?」
「告白の返事?」
表情を窺うように視線を上げたおれは、シディア様の眉間に皺が寄る瞬間を目撃してしまった。
――え? 違ってた!? いや……でも、そういう意味にしか聞こえなかったんだけど。
シディア様はしばらく考えるような仕草を見せたあと、おれの目をじっと覗き込んでくる。
「お前は何か思い違いをしているようだな」
「……思い違い?」
「これがどういう意味を持つものか、正確には理解できていないということか」
「ひゃ……っ」
不意打ちに、そういう触り方をするのはやめてほしい。
シディア様が『これ』と言いながら撫でたのは、おれの臍の横に刻まれた刺青だった。
「……おれが、シディア様のものっていう証ですよね?」
「それは理解しているのか」
その回答は間違っていなかったらしい。
でも、シディア様の表情は険しいままだ。怒っているというよりは、悩んでいるみたいだけど。
「あの……すみません。おれ、何を間違ってたんでしょう?」
「間違っていたというより、認識の違いだろうな。それにしても――俺なりにお前を可愛がってきたつもりだったが、それも伝わっていなかったとはな」
「え……可愛がって、って」
ぱちり、と目を瞬かせる。
「全く意識もしていなかったのか?」
「い、いえ……ただ、シディア様はとても優しい方なので、自分が特別だと思わないように気をつけてて」
どれだけ優しくされても、自分だけが特別だと自惚れないように注意していた。
だって、告白の返事もまだもらっていなかったし。
「そういうことか」
また溜め息をつかれてしまった。
でも、おれの刺青に触れる指の動きは止めない。くすぐるようになぞったり、撫でたり――こんなの反応しないなんて無理だと思う。
「気をつけている割に、すぐ発情するな」
「……っ」
気持ちよくなっているのがバレてしまった。
そこでやめるのかと思ったのに、シディア様はおれの刺青を淫靡な手つきで撫で続ける。
快感に困惑するおれの耳元に、そっと唇を寄せた。
「――この刺青はその昔、婚姻の証として用いられていたものだ。解除のできぬ強い束縛契約だったからか、今では廃れてしまったがな」
「こんいん……そくばく…………?」
「アラネアあたりに聞いたかと思っていたが、本当に知らなかったのだな」
今度こそ、全く理解の追いつかないおれの顔を覗き込んで、ふっと口元を緩める。
その表情のまま、吐息のかかる距離まで顔を寄せると、おれの額や目元や頬にいくつも口づけを落とした。
「あっ、あの……今おれ、考えてて」
いろいろ考えている最中にこんなことされたら、頭がとろとろに溶けて、使い物にならなくなってしまう。
やめてほしいと訴えても、シディア様はやめてくれなかった。
「お前は考えるよりも感じたほうが早い」
「感じる、って」
「身体だけでなく、おまえのすべてに証を刻み込んでやろう――嫌というほどな」
シディア様は赤い舌先でぺろりと唇を舐めたあと、ゆっくりと微笑む。細められた瞳に、支配と欲望と悪戯が混ざり合って滲んでいるような気がした。
◆◆◆
「これが婚姻の証だなんて、気づくわけないじゃん!」
シディア様と身体を重ねた翌日。
おれはいつもどおり、暗黒書庫の本たちに話しかけていた。要するに、今のは大きな独り言ってことだ。
シディア様は今日も組織の幹部会議に出掛けている。
戻るのは遅くなるけど、何かあればいつでも呼んでいいと言われていた。たぶん、昨日酷使した身体のことを心配してくれたんだろう。
「……まさか、あのあと二回戦が始まるとは」
さすがに一回戦目ほど多くも長くもなかったけど、しっかり最後まで抱かれてしまった。
そのおかげで、おれの身体のあちこちにはシディア様の痕跡が残っている。それでも痛くて動けないとかそんなことは全くなかった。
むしろ、魔力が身体の内側からあふれてくる感じがして、そちらはいつもより調子がいいくらいだ。
「あれも、魔力の塊っぽい感じだったもんなぁ」
思い出しながら、お腹をさする。
行為の直後はぽっこりしていたお腹も、今はいつもどおり、ぺたんこになっていた。
「ここからも、魔力を食べられるってことかな……おれ」
自分の能力が未知すぎて、ちょっとだけ怖くなってくる。
だって、お尻を濡らした液体っていうのも、おれが能力で生み出したものだって言われたし……ぬるぬるしているうえに浄化能力まであるって、ああいう行為にも適した液体ってこと?
「それも驚いたけど……やっぱり一番の驚きはこれだよなぁ」
おれの身体に刻まれた婚姻の証に視線を向ける。
所有の刺青だとしか説明されていなかったそれが、そんなとんでもないものだったなんて疑いもしていなかった。
相手の同意がなければ刻めず、一度刻んだら一生消すことは叶わない束縛契約――確かにそう言われれば、そんな気がしなくもないけど。
「父さんと母さんが驚くわけだよな……っていうかあれ、顔合わせみたいになってたんだ……両家の両親が揃ったわけじゃないけど」
知らなかったとはいえ、思い返すと結構なやらかしだった。
それだけじゃない。
「食事中に『あーん』されたり、家に泊めてもらったり、ベッドでえっちなことしたり……シディア様はおれのことを可愛がってくれてたんだよな」
それも、愛情表現って意味で。
どうして気づかなかったんだろう。
「やばい……顔が熱くなってきた」
シディア様のこれまでの言葉とか仕草とか表情とか、いろんなことを一気に思い出してしまったせいで、恥ずかしさが怒涛のように押し寄せてきた。
おれは顔を両手で押さえて、その場にうずくまる。
恥ずかしいだけじゃなくて、嬉しい気持ちももちろんあるけど、恋愛初心者のおれの許容範囲ゲージは完全に振り切っていた。
270
あなたにおすすめの小説
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました
すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。
第二話「兄と呼べない理由」
セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。
第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。
躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。
そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。
第四話「誘惑」
セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。
愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。
第五話「月夜の口づけ」
セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる