【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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72 〈地下〉に響く不穏の音

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 カツンと響く硬質な足音で、ラーギは目を覚ました。
 脈動に合わせて頭がずきずきと酷く痛んだが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
 今はまだ少し離れた場所から聞こえる足音に耳を澄ませる。しかし、低く唸る機械音と断続的に鳴る高い電子音、あちこちから響く誰かの悲鳴が邪魔をして、よく聞き取れなかった。
 それらに気を取られているうちに、足音は聞こえなくなる。

 ――こっちに向かってきてるわけじゃなかったか……あー、くそ。あちこち、ごちゃごちゃ触りやがって、気持ちわりー。

 口に咥えさせられた器具のせいで声が出せないので、心の中で悪態をつく。
 ラーギは壁に磔にされた状態で、冷たい装置に繋がれていた。手首と肘、足首と膝はそれぞれ金属製の枷で拘束されている。
 身体のあちこちには管が刺さっていて、その中には何色とも表現しがたい不気味な色の液体が流れている。管が刺さったところが冷たく感じるのは、その液体を体内に流し込まれているからだろう。

 ――なんの薬だ、これ。まだ身体に目立った変化はないみたいだが……なんにしても、ろくな薬ではねーだろうな。

 これまで仲間のふりをするために、この〈地下〉で行われている人体実験のいくつかに助手として参加してきたラーギだったが、被験者に投与される薬の効果を把握しているわけではなかった。
 ただ〈地下〉で開発された薬がどれも、やばい代物だということはわかっている。

 ――オレのことは、怪人化の成功例として大事にするんじゃなかったのかよ……まー、今回のはツィーガの暴走っぽかったけど。かなり薬キメてたもんなぁ、あいつ。

 ラーギを再び実験装置に繋いだのは、上司であるツィーガだった。
 おそらくは独断での行動だ。
 ツィーガが、結果の出せない日々に苛立っているのは知っていた。自らも薬を多用していることや、そのせいで発言がおかしくなってきていることにも気づいていたが、まさかこんな手に出るとは思わなかった。

 ――オレを機械に繋いでどうするつもりだ? っつうか、マッド・ビィに洗脳されたやつの末路はろくでもねーとは聞いてたが、そのとおりだったな。

 ラーギにその話をしたのは、この〈地下〉で数十年ものあいだ、被験体として囚われているゾメという名の人間だ。
 いつから目をつけられていたのか、ゾメを実験場から彼専用の特別牢へ移送したとき、二人きりになったところを狙って話しかけられた。

『ラーギだったよな。お前、マッド・ビィに洗脳されてないだろ』

 確信している口ぶりだった。
 しかし、被験体が怪人に話しかけるなんて普通はあり得ないことだ。
 この〈地下〉に連れてこられる人間の八割以上は、すでに壊れてしまっている。残り二割弱も最初の実験でほとんどが精神を破壊されるので、会話が成り立つ人間と出会うことがそもそもない。
 だから、ゾメに話しかけられたとき、ラーギは柄にもなく動揺してしまった。

『っていきなり聞かれても、肯定するわけにはいかないか』
『…………』
『そんな睨むなって。この〈地下〉で洗脳されてないやつが珍しくて、つい話しかけちまっただけなんだからよ』

 そう言って気さくに笑いかけるゾメから、確かに敵意は感じられなかった。
 とはいえ、最初は警戒して一言も話さなかった。
 そんなラーギにもゾメは会うたび話しかけ、ラーギも知らない〈地下〉の情報をくれる。そんなゾメにラーギは少しずつ警戒を解いていった。
 それでも自分の事情を語ることはしなかったが、ある日、ゾメとの距離が一気に縮まる出来事が起こる。
 初めてラーギの手に直接触れたゾメが『……バン?』と口にしたのだ。

『お前、あいつの知り合いだったのか』

 そう言ったゾメは、バンと出会った日のことをラーギに語った。
 ゾメが困っていたとき、相手が人間だとわかっていながらバンが救いの手を差し伸べたという話だ。
 その話を聞いて、バンに『ちゃんと警戒しろ』と叱ってやりたくなったが、それと同時にあまりのバンらしさに笑ってしまった。

『なあ、ラーギ――お前に頼みがある』

 ゾメから深刻な口調でそう切り出されたのは、その話をしてから二日後のことだった。
 ゾメの頼みは簡単に聞き入れられるものではなかったが、断ることもできなかった。その理由は、その頼みがバンに関係することだったからだ。

 ――あのときはめちゃくちゃ悩んだが……ゾメの頼み、聞いといてよかったっつーことか。

 ゾメとのこれまでのやり取りを思い出していたラーギだったが、意識を現実へ戻す。
 扉の開く音が聞こえたからだった。

「――おや、目が覚めていたんだね」

 おどけたように言いながら部屋に入ってきたのは、ラーギを拘束した張本人――ツィーガだった。
 部下は誰も連れず、一人で来たらしい。

「薬を使って、君の記憶を覗かせてもらったよ」
「――っ」

 いきなりとんでもないことを聞かされ、ラーギは息を呑む。口に異物を詰め込まれていなければ、罵倒してしまっていたかもしれない。

「もっと早くにこうするべきだったよ。自分が怪人化に成功した理由がわかっていたのに、それを黙っているなんて――ラーギ、君にはがっかりしたよ」

 口ではそう言っているが、その顔に浮かんでいる表情は落胆というより苛立ちだった。
 ツィーガは血走った眼でラーギを睨みつけながら、跡がつきそうなほど強く唇を噛み締めている。

「ただ、君の記憶は不完全だったから、ちゃんとした答えが出たわけではないけどね。関わった人物はわかったから、あとはそちらから話を聞くとするよ」
「……ッ」
「ああ、そうだ! 君にはそのための餌になってもらうことにしたんだ。彼は君のことが大切だったみたいだからね。足を引っ張られた分、そのくらい役には立ってもらわないと。ほら、こんなふうに――」
「――!!」

 ツィーガが何やら手元のボタンを押した。
 その瞬間、ラーギの全身を激しい痛みが襲う。ツィーガが新たな薬液をラーギに投与したのは間違いなかった。
 血管に鋭い針を大量に流し込まれたかのようだった。
 激痛のせいで、痙攣するように身体がびくびくと強く跳ねる。金属製の枷が擦れた部分の皮膚が裂けて血がこぼれたが、その痛みにも気づけないほど、内側から襲う痛みは強烈だった。
 そうやってラーギが苦しむ姿を、ツィーガはうっとりと目を細め、嬉しそうに見つめている。

「君の苦しんでいる姿を見れば、彼は飛んできてくれると思うんだ。自分の危険も顧みず、ね。っく、あはははは!!」

 ツィーガはそう言って耳障りな高笑いを響かせたあと、苦しみ続けるラーギを残して部屋を出ていった。

 ――くそ……助けになんかくるんじゃねーぞ、バン。

 意識が遠のいていく。
 息もできないような激痛の中、ラーギはお人好しすぎる後輩――バンにこの声が届くことを祈った。
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