74 / 111
74 二人の息子でよかった
しおりを挟む「〈地下〉で、何が起こってるんだろう……」
書庫に戻って、今日も本に話しかける。
レクセと話をした結果、気になることが増えただけだった。
突如起こったエネルギー問題。
ダーヴァロードの〈地下〉で何が行われようとしているのか、それが組織にどういう影響を及ぼすものなのか――どちらもおれが考えてわかることじゃないんだろうけど、考えずにはいられない。
「アカゾメさん、無事だといいな……それに、ラーギ先輩とツィーガも」
実は、ラーギ先輩を〈地下〉に見送った次の日から、ツィーガも訓練に姿を現さなくなっていた。
安否がわからなくなって、もう二か月以上になる。
ツィーガは最後に会ったとき、〈地下〉で薬の実験に協力していると話していた。それだけに何かあったんじゃないかって心配になるけど、おれに確かめる方法はない。
「シディア様に聞いてみる? ううん……でも、シディア様も最近すごく大変みたいだし、おれまで面倒な話題を振るのはなぁ……」
シディア様はなんでも頼れと言ってくれそうだけど、連日の幹部会議で疲弊しているシディア様に、こんなことを相談するのはさすがに気が引けた。
家ではできるだけ仕事のことから離れてほしいし、おれはシディア様を癒す相手でありたい。ただでさえ手伝えることが少ないのだから、それくらいは頑張りたかった。
――まあ……それを仕事だとは思ってないけど。おれもシディア様に触れられて嬉しいし、抱かれるのはすごく幸せな気持ちになれるし。
思い出すと、胸がきゅーっとなる。
下半身に淫らな熱が集まりそうな気配を感じて、おれは慌てて首を横に振った。
ここで発情するのはまずすぎる。
「あ……仕事といえば、この本を母さんのところに届けるように言われてたんだった」
今日は珍しく、いつもとは違う仕事をシディア様から頼まれていた。書庫の本を三冊、おれの母さんに届けてほしいというものだ。
「母さんに直接会うの、久しぶりだな」
シディア様の家で寝泊まりし始めてから、自宅には一度も帰っていなかった。
それもあって両親とはしばらく会っていない。同じ組織で働いているのに、本部内で二人を見かけたこともなかった。
通話はたまにしているけど、それだけだ。
「今から向かおっかな」
おれは早速頼まれた本を三冊抱えて書庫を出ると、母さんの執務室がある階層を目指した。
◆◆◆
「バン、いらっしゃい」
出迎えてくれた秘書さんに本を預けていると、執務室の奥から母さんがひょっこり顔を出した。
きちんと敬礼しようとしたのに、その前にぎゅっと抱きしめられる。
「……母さん、ちょっと痩せた? ちゃんと食べてる?」
「あらやだ。心配するのは親の仕事だと思っていたのに、息子からそんなふうに言われるなんて」
笑いながらそう返した母さんだけど、その顔には疲労が浮かんでいた。目の下にはクマもできてしまっているし、声にもあまり覇気がない。
ここまで疲れた様子の母さんを見るのは初めてだ。
「大丈夫?」
「うーん……そうね。大変だけれど、そうは言っていられない状況だから――でも平気よ。オクトスも気にかけてくれているから」
「でも、父さんも同じくらい忙しいんじゃ……」
「忙しいけどよ。それを理由に、愛する妻を疎かにはしねえよ」
「えっ!? 父さん?」
いきなり割り込んできた声にびっくりして振り返る。
父さんはしたり顔で笑いながら大股でこちらに近づいてくると、おれの髪をがしがしと乱暴に撫で回した。
「どうして、ここにいるの?」
「私が呼んだのよ」
「バンが来てるっつうからよ。顔を見ておきたくてな」
「言ってくれたら、おれのほうから会いにいったのに……仕事は大丈夫なの?」
「アラネアの顔も見ておきたかったんだ」
父さんはそう言うと、労わるような手つきで母さんの頬に手を添える。母さんもそんな父さんの手に、そっと自分の手を重ねた。
――相変わらず仲がいいなぁ……父さんたちを見てると、シディア様に会いたくなってきちゃう。
久しぶりに両親に会えた嬉しさはもちろんあるけど、仲睦まじい二人を見ていると羨ましさも込み上げてくる。
おれも、あんなふうにシディア様に触れたい。
「お前は変わりないか? バン」
「おれは元気だよ。シディア様にお世話になってるおかげでね」
「ずいぶんと可愛がられてるみてえだな」
「……っ」
父さんの言葉に深い意味はないと思うけど、『可愛がる』という言葉に過剰反応してしまった。
シディア様がおれに触れるときに『可愛がってやる』と、よく口にするせいだ。
そのせいで、えっちな言葉にしか聞こえない。
――そういう意味で言ったんじゃないよね?
父さんに揶揄っている様子はないので、たぶん違うと思う。
おれは小さく咳払いをして、気持ちを切り替える。
「――父さんも、ちょっと痩せた?」
父さんも会わないあいだに痩せた気がした。
母さんみたいにクマはないみたいだけど、やっぱりかなり忙しいんだろうか。
「いやいや、オレは痩せたんじゃなくて絞ったんだよ。いざってときに、ちゃんと動けねえと困るからな」
「それって……近々、戦闘があるってこと?」
そういう不安は心の中で留めておくつもりだったのに、気づいたときには遅く、考えていたことは口から出てしまっていた。
声の震えに気づいた父さんが、おれの背中に手を置いて、ぽんぽんと優しく叩く。
母さんもおれの手をぎゅっと握った。
「不安にさせたか?」
「……ごめん。それが仕事だってわかってるのに、変な反応して」
幹部は多くの戦闘員を束ねる長だ。
組織のために戦うことが仕事なのはわかっているのに、それを不安がるような発言はよくなかった。
「謝んなよ、バン。家族なんだから、心配して当然だろ」
「……でも」
「そうよ。私たちだって、バンのことを心配しているのよ。立派な戦闘員になったあなたを誇りに思ってはいるけれど、それとは別の感情なの」
「それにな、こうやって自分を想ってくれる人のおかげで強くなれんだよ。もし、やばい状況に陥っても『絶対に帰ろう』と思えるしな。だから、無理にそういう気持ちを隠したり、なくしたりする必要はねえよ――ちゃんと伝えることこそ、オレは大事だと思う」
二人の言葉は心強かった。
親として、上司として、本当に尊敬できる二人だ。この二人の息子に生まれてよかったと心からそう思う。
「…………うん。そのとおりだね」
「おう」
父さんは、頷いたおれと母さんを纏めて抱きしめた。
力が強すぎて苦しかったけど、そのおかげであふれそうになっていた涙が引っ込んでいった。
240
あなたにおすすめの小説
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる