【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

文字の大きさ
78 / 111

78 黒の円卓にて

しおりを挟む

 シディアは怒りと苛立ちを堪えるのに必死だった。
 その矛先が向いているのは、他者ではなく己だ。だからこそ余計に焦燥感が募る。

 ――ビィはまだ動かぬものと思っていたが……読みが甘かったか。

 特級幹部ビィ・ロフォラヴリの行動は元より常軌を逸していた。まともな読みでは対等に張り合うのが難しい相手だとわかっていたのに、わずかな油断がこの結果を招いてしまった。
 ビィは先代の頃より特級幹部を務め、ダーヴァロードに尽くしてきた怪人だ。次期首領であってもおかしくないほどの実力の持ち主だったが、今も変わらず特級幹部の座に居座っている。
 先代がビィに首領の座を明け渡さなかったからだ。

 ――ずっと、狙っていたのは知っていた。

 先代より首領の座を継いだシディアに対し、ビィが明確な敵意を向けているのには気づいていた。
 だが、それはビィに限ったことではない。
 ダーヴァロードは実力主義だ。
 己が認められない者が上に立てば、反発は起こって当然のこと。それらを制御しきれず、謀反によって首領の座を奪われた者も少なからず存在する。
 己がそうならぬよう、ビィの領域である〈地下〉の動きには目を光らせていたつもりだったが、どうやら足りなかったようだ。

「――失礼いたします。ガラディアーク様」

 シディアは今ガラディアークとしての外殻を纏い、首領の執務室にいた。
 部屋に入ってきたのは、上級幹部のイェスコルだ。
 その後ろには幹部のオクトスとアラネア、幹部候補生のレクセの姿もある。シディアがイェスコルに連れてくるよう命じた三人だった。

「入れ。全員畏まる必要はない、楽にしろ」
「それは――」
もそうする」

 シディアはガラディアークの外殻を解いた。
 この四人のうち、シディアとガラディアークが同一人物であることを知らないのは、イェスコルの息子レクセだけだ。
 案の定、レクセは扉の前で動けなくなっている。目を限界まで見開き、言葉を失っていた。
 そんなレクセを放置し、シディアは他の三人に部屋の中央にある円卓へと着席を勧める。
 自身もそちらへ移動した。

「――全員の報告書には目を通したが、目新しい情報はなかったな」
「バン様が連れ去られた方法と主犯格、バン様を縛られている黒印契約に関しては、すでに判明していますからね」

 バンが己の領域外に連れ出された直後、シディアはバンの魔力が途絶えた場所を即座に調査していた。
 魔力の残滓から記憶を読み取り、誰の手によって何をされ、どこに連れていかれたかはすぐに把握していたが、まだ救出には至っていなかった。

「オクトス、アラネア。バンをすぐに救出してやれず、すまない」
「謝罪なさらないでください、シディア様。今が難しい状況なのは私たちも理解しております。ね、オクトス」
「ああ。これくらいでへこたれるような育て方はしてませんよ」

 一人息子であるバンを害意ある者に連れ去られ、冷静でいるのも難しいだろうに、オクトスもアラネアも気丈に振る舞う。
 だが、実際はぎりぎりの状態なのだろう。
 机の下でお互いの手を握り、なんとか保っている様子だった。

「シディア様はよく堪えましたね。貴方ならバン様を奪取すべく、そのまま〈地下〉を襲撃されるかと思いましたが」
「お、おい。イェスコル、そんな口の聞き方をしていいのか?」

 遠慮なく切り込んできたイェスコルの発言に、驚いて声を上げたのはオクトスだ。

「構わん。畏まる必要はないと言ったのは俺だ――ところで、お前の息子はいつまで固まっているんだ?」
「レクセ、お前もそろそろこちらへ来なさい」
「っ……はい」

 イェスコルに促され、レクセはようやく扉の前から動く。戸惑った様子のまま、イェスコルの隣に着席した。
 その表情はまだ強張っているが、顔を下げずにいるだけの度胸はあるようだ。

「〈地下〉への襲撃はもちろん考えた――だが、首領の判断としては悪手だろう」
「ええ、そのとおりです。今ここでビィと全面戦争になれば、組織は壊滅は免れないでしょう。あちらが〈地下〉に何を隠し持っているのか、まだすべての手札を把握しきれていませんからね。バン様を救えたとしても、失うものがあまりに大きすぎる――ですが『それでもいい』と貴方なら考えるのではないかと心配しておりました」
「俺のことがよくわかっているな」
「おいおい、まじかよ」
「……そんなにも、バンのことを想ってくださっていたなんて」

 イェスコルは、シディアの思考を完全に読んでいた。
 それを聞いたレクセは感心して頷き、オクトスは驚いた表情を浮かべ、アラネアは頬を染めている。

 ――あの声を聞いて……我ながら、よく踏みとどまったものだ。

 魔力の残滓から読み取った記憶の中で、バンが自分に助けを求める悲痛な声を聞き、〈地下〉を吹き飛ばしてでも今すぐにバンを救出しようと考えた。
 それを踏み止まった理由は、バンが大切にしていたものがここにあるからだ。
 自分が無事に助かったとしても、他に多くを失ってしまえばバンが悲しむだろうことに気づいたからだった。

「……それで、これからどう動くのですか? バンを助けにいくんですよね?」

 身を乗り出し、悲痛な声で言ったのはレクセだ。
 ぎゅっと眉根を寄せ、真剣な表情でシディアの顔を見つめる。握った拳をわなわなと震わせていた。

「無論だ。すでに動き出している者もいる」
「幹部ホニベラとティッハですね。〈地下〉へ潜入中と聞きましたが」
「ああ。こちらはその報告を待って動くことになる。バンには今しばらく耐えてもらうことになるが――」

 今このときも、〈地下〉でどんな目に遭わされているかわからない。
 咬傷と刺青、分け与えた目と外殻の力をすべて使って守りたい気持ちはあったが、ビィの展開する領域の壁は強固で厚く、外からの干渉はなかなか困難だった。

「大丈夫ですよ、シディア様。あの子は強い子です」

 そう明るい声で言ったのはアラネアだった。
 自分にも言い聞かせているようでもだったが、その隣ではオクトスも頷いていた。

「そうだな――イェスコル、オクトス、アラネア。お前たちは報告次第で動いてもらうことになる。いつでも出られるようにしておけ」
「「はっ」」
「かしこまりました、シディア様」
「っ、シディア様、俺は……俺にも何か命令を」

 割り込んできたのはレクセだ。
 その必死な声色から、親友であるバンのために何かしたいという気持ちが伝わってくる。

「お前はまだ一人で動くには未熟だからな……一時的に俺の下につくか?」

 人手はあるに越したことはない。
 そう思っての発言だったが、レクセの反応は意外なものだった。

「っ、それは…………お断りしてもよろしいでしょうか」

 まさか断られるとは思っていなかった。
 シディアが睨みつけるように見ると、レクセは「違うんです」と青い顔で首をぶんぶんと横に振る。

「……バンが、『おれはシディア様のたった一人の部下なんだ』って嬉しそうに話していたんです。だから一時的とはいえ、その立場を奪いたくありません」

 理由を聞いて納得した。
 レクセなりに、親友を思っての答えだったのだ。

「……わかった。では――」
「私の下につけていただけませんか? シディア様」

 手を挙げたのは、イェスコルだ。

「血縁者を同じ所属にすることはあまり推奨されませんが、一時的であれば構わないでしょう?」
「そうだな。存分に鍛えてやれ」
「――御意に。では、この場はいったん解散ということでよろしいですか?」
「ああ」

 四人が執務室をあとにする。
 部屋に一人残されたシディアは窓際へ向かうと、そこから階下に視線を向けた。
 その瞳からは魔力が漏れ出し、焔のように揺らめいている。

「我が至宝に手を出し、ただで済むとは思うなよ――ビィ・ロフォラヴリ」

 その声は、空間を歪ませるほど重く冷たい支配者の威圧を含んでいた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

人気俳優に拾われてペットにされた件

米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。 そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。 「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。 「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。 これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

処理中です...