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81 脳裏をおかす侵入者
しおりを挟むこめかみにつけられた機械から、頭の中に何かが入り込んできているみたいだった。ざわざわと蠢く冷たい何かがおれの脳をかき混ぜている。
本当にそうされているわけじゃないけど、おれはそんなふうに感じていた。
「あ……ん、ぁッ」
それが痛みじゃなくて快感に似た感覚なのが、すごく屈辱的だった。
こんな声はシディア様以外に聞かせたくないのに、どれだけ必死に堪えようとしても漏れてしまう。自分の声を意識するたび口を閉じるけど、それに気づいたツィーガに機械の出力を上げられ、余計に鳴かされてしまった。
「い、ぁ……っ、ぁあッ」
「随分と可愛い声で鳴くんだね。記憶を無理やり覗かれるのが、そんなに気持ちいい?」
「も……やめ……っ、見ないで」
「抵抗しないほうがいいよ。逆に精神が壊れてしまうからね。壊れたあとも使い道はあるから僕は構わないけど、君は嫌だろう?」
「や、ぁあ……っ、ん、ん」
記憶を覗かれている。
見られたくないし、知られたくない。
だけど、抵抗したら精神を壊されてしまう。
壊されるのが嫌で抵抗を緩めると、機械に頭の中を弄られ、抱きしめるように大切にしてきた記憶をずるずると引きずり出された。
「もう……嫌だ……んんっ」
「どうして? 気持ちよさそうじゃないか。でももうすぐ終わりかな。知りたかったことの答えがわかってきたしね」
「な…………ッ」
「ラーギが飲まされていた液体は、君が生み出したものだったのか。あれのおかげで怪人因子を持たない彼の怪人化に成功した――君の上司がそれをどこに隠し持っているのか探ろうとしたのだけど……そうか、君が生み出せるのか」
シディア様が隠そうとしてくれていた、おれの能力の秘密がツィーガにバレてしまった。
このことが〈地下〉に知られるのはまずいって、あれだけ言われていたのに、こんなに簡単に秘密を暴かれてしまうなんて。
「君のおかげで怪人因子を持たない者でも、思いのままに怪人へと変貌させられそうだ。それに既存の怪人たちの強化にも応用できるだろう――これでマッド・ビィ様に捧げる〈無敵の兵団〉が、いよいよ現実のものになる」
「……っ、無敵の、兵団?」
「ああ。言っただろう? ダーヴァロードをかつての姿に戻すと――そのための武力だよ」
「それって……」
「偽りの首領ガラディアークには死んでもらう。そして、やつに従う幹部どもも一人残らず捕らえて、血の一滴まで実験材料に変えてやろう――ああ……楽しみだよ。君の存在が、そのきっかけになる」
「――――っ!!」
――おれのせいで、ラーギ先輩だけじゃなくて……組織の皆が危険な目に?
想像したら全身の震えが止まらなくなった。
だって、その中にはシディア様や父さんと母さんも含まれている。今だってラーギ先輩の死を受け入れられていないのに、そこに他の大切な人たちが加わるかもしれないなんて考えたくもなかった。
――そんなの、嫌だ。そんな未来、認めたくない。
心臓が痛い。気持ち悪さに吐きそうだ。
なんとかして拘束を解きたかったけど、どれだけ暴れても繋がれた機械はびくともしない。
「じゃあ、その液体をいただくとしようか――バン、出すんだ」
嫌なのに、身体が勝手に命令に従ってしまう。
機械に新たに繋がれた太い管に薄く透ける黒色の液体が吸われていくのを、おれは呆然と見つめることしかできなかった。
◆◆◆
「――結構取れたね。一人分にどのくらい必要になるかはわからないけど、何十人分にはなるかな?」
おれの身体から無理やり吸い出された液体は、ツィーガのすぐ隣にある円柱形のタンクへと貯められていた。
かなりの量があるそれを、ツィーガは宝物を眺めるように見つめている。
「急に出が悪くなったのは魔力切れかな? 魔力を吸って、それを糧に生み出しているみたいだったもんね」
おれの記憶をどこまで見たのだろう。
ツィーガは自分の仮説に頷きながら、機械に拘束されたおれのほうへやってくる。おれの脇腹へ指先を滑らせた。
「ん……っ」
「誰の魔力でもいいってものでもないのかな? 僕の魔力を食べる気はないみたいだし……それとも方法が間違っているのかな?」
「触る、な…………」
「まだそんな強がりが言えるんだ? 洗脳も進んでるはずなのに」
「そんなこと……ない……っ」
洗脳なんてされていない。
魔力切れで頭はぼーっとするけど、おれはちゃんとおれのまま、自分の頭で考えられているはずだ。
「そうかなぁ? そう思い込んでるだけじゃない?」
「違う……っ、思い込みなんかじゃ」
「ふーん……」
ツィーガはどうあっても、おれが洗脳されていると言いたいらしい。
おれがどれだけ否定しても認めようとしない。
「自分じゃわからないものだからね。でも、君もすぐに理解できるようになるよ」
「それって……どういう」
「――随分と楽しそうなことをしているじゃないか、ツィーガ」
その声が聞こえた瞬間、ぞぞぞっと全身の神経が目を覚ましたみたいだった。
鼓動が早鐘を打って、呼吸と体温が上がる。
声がしたほうに視線を向けたおれはそこに立っている人を見て、びくっと身体を跳ねさせた。
「……っ、あ……マッド・ビィ様」
口から勝手に出た言葉に、自分でも驚く。
でもそれを聞いたマッド・ビィが満足げに笑った顔を見た瞬間、じわっと胸の奥に悦びが広がった。
――違う……違う! おれが忠誠を誓ったのは、この人じゃない。
ちゃんと頭ではわかっているのに、あふれ出す歓喜が止められない。頭と心のちぐはぐさに、自分というものがわからなくなりそうだった。
「嬉しそうだね、バン」
「あ……あ」
「バン・クラードゥ――キミとはまた会える気がしてたよ」
近づいてきたマッド・ビィが、ほんのりと青く染まった指でおれの頬をなぞる。
「いひひっ」と笑う声には嫌悪感しかないのに、マッド・ビィの瞳に映り込むおれは、蕩けるような笑顔を浮かべていた。
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