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82 暗闇に浮かぶ光の糸
しおりを挟む実験の様子を見にきたというマッド・ビィに、ツィーガが経過を説明している。
二人の話は聞こえていたけど、その内容がほとんど入ってこないくらい、おれは自分の状態に混乱していた。
マッド・ビィに対する嫌悪と歓喜で、今も頭の中はぐちゃぐちゃだ。これ以上おかしくなってしまわないように、目の前に立つマッド・ビィから視線を外す。
それでも視界の端に、マッド・ビィの白黒まだら色の長い髪が揺れているのが見えて、それを無意識に目で追ってしまう自分がいた。
――本当に洗脳されちゃったの? おれ……嫌だよ。おれが忠誠を誓ったのは、シディア様なのに。
それはちゃんと覚えているのに……なのに、どうしてマッド・ビィにこんな反応をしてしまうんだろう。
マッド・ビィのことを意識するたび、元の自分が少しずつ削りとられていっている気がする。
「――どうやって魔力を食わせるか、ね」
報告を書き終えたマッド・ビィはそう呟くと、おれのことをじっと観察するように見た。
見られている――視線を向けられただけなのに、ぞくぞくと身体の奥が疼く。嫌だ。
「直接触れて魔力を流し込んでもだめだったと」
「はい。魔力回復薬も試しましたが、効果はありませんでした」
「そう――性交は?」
「今から試そうと思っていたところです」
「……っ、それはッ」
信じられない言葉が聞こえて、思わず二人の会話に割り込んでいた。
マッド・ビィと目が合う。
ひゅっ、喉を鳴らしたおれを見たマッド・ビィは、にたぁと歯を見せて微笑んだ。
「なら、ボクが抱こう」
「えっ……マッド・ビィ様が直々に、ですか? いやしかし、貴方様の手を煩わせるわけには」
「ボクがやるといってるんだ。口出しするな」
「はっ……申し訳ございません」
「準備させろ」
――マッド・ビィが、おれを……抱く?
感情も理解も、何も追いついていなかった。
そんなおれのことは置き去りに、入室してきた戦闘員たちによって準備が着々と進められていく。
機械と管の拘束から解放されたおれは、強制的に外皮を消され、全裸で硬い診察台の上に載せられた。
四つん這いにされ、手首と肘、足首と膝を台の金具に拘束される。腹部にはぐるりとベルトが巻かれ、背中側についた金具を天井から吊り下がる鎖へと繋がれた。
「いひっ、いい眺めだ」
「あ……やだ…………外して」
まだマッド・ビィへの拒絶を口にできたことに、少しだけほっとしていた。
でも、身体の反応は違う。
じわじわと体温が上がっていっているのがわかる。
「マッド・ビィ様。やはり、別の者に任せては――」
「黙って見てられないなら部屋を出ていろ、ツィーガ。お前がやるべきことは他にいくらでもあるだろう」
「はっ……申し訳ございません。失礼いたします」
マッド・ビィに叱責され、ツィーガは慌てた様子で部屋を出ていった。
まだ戦闘員たちもいるのでマッド・ビィと二人きりではないけど、このあり得ない状況にだんだん気分が悪くなってくる。
それなのに、身体はさらにおれを裏切った反応を示す。
「ボクに抱かれるのは嫌なんだろ? バン・クラードゥ。嫌なのに、身体は期待して――ここは、無様にひくついてる」
「……ふ、ぁっ」
マッド・ビィの指が、おれの後孔に触れた。
縁を撫でられただけなのに、ぞわっと背筋に甘い痺れが駆け抜ける。
「いひっ、いい反応をするねー。でも、ボクはあんあん喘ぐ声より泣き叫ぶ声のほうが好きなんだ。だから、優しくはしてあげないよ」
「ひ……っ」
「それでもキミは悦ぶことになる。ここにボクを受け入れた瞬間、キミは完全にボクの下僕となるのだから――今が、キミでいられる最後だよ」
マッド・ビィの手が、今度は腰に触れた。
おれは必死に首を横に振る。
シディア様以外は受け入れたくない。こんなやつに触られて、悦ぶ自分になりたくなんかない。
――助けて……シディア様っ!!
結局、シディア様に助けを求めていた。
もう自分だけじゃどうすることもできない。
全身で拒絶するように、ぎゅっと身体を縮こまらせた――そのときだった。
バツン、と何か太いものがちぎれるような音とともに部屋の明かりが消える。真っ白だった部屋が、一瞬にして真っ暗になった。
「何事だッ!」
マッド・ビィが声を張り上げる。
答えたのは近くに控えていた戦闘員だった。
「エネルギーの供給が停止したようです――申し訳ございません、マッド・ビィ様。一度、制御室で状況を確認いただきたいのですが」
「…………仕方ないな」
マッド・ビィが、おれから離れた。
手持ちの明かりを持ってやってきた戦闘員に先導され、マッド・ビィはそのまま部屋を出ていく。逃げるなら今しかなかったけど、身体を拘束されたままのおれにはどうすることもできなかった。
それでもどうにかして外れないかと手脚を動かしていると、誰かがおれの傍へとやってくる気配がする。
たぶん、部屋に残っていた戦闘員の一人だ。
「――やあ、バン・クラードゥ。時間がないから手短に説明するよ」
「え……」
耳元で囁かれた声は、おれの知っている声だった。
困惑しているうちに説明が始まる。
「今からきみの拘束を解く。この暗闇は長く続かないけど、できるだけこの部屋から離れた場所へ逃げるんだ」
その言葉どおり、すべての拘束が解かれた。
診察台から下りたおれを支えてくれたその人は、おれよりも小柄だ。声でなんとなくそうじゃないかとは思っていたけど、その体格と触れた感触から、おれはその人の正体を確信した。
「……ホニベラ、さま?」
「うん、そうだよ。ガラディアーク様から『何があっても手は出すな』って言われてたけど、さすがにこの状況を傍観してるわけにはいかないかなって――ほら、早く逃げな」
おれを助けてくれたのは、幹部のホニベラ様だった。
最初はまさかと思ったけど、本当にホニベラ様が戦闘員に扮していたなんて。
――首領様の命令で、〈地下〉に潜入してたってこと?
いろいろ聞きたかったけど、今がそんな状況じゃないのはわかっていた。
「でも……逃げるって、どこに」
「それはきみの目が知ってるんじゃない?」
「おれの、目?」
そう言われて自分の目を意識したおれは、暗闇の中に極細の光の糸があることに気づいた。
その糸はおれの腹部から出ていて、どこかへ向かって伸びている。
「この糸は……?」
「見えた? それを辿っていくといいよ。ほら早く」
「っ、はい」
魔力を限界まで失ったせいで足元がおぼつかないけど、それでも今ここから逃げ出さないとすべてが終わる。
この光が途中で消えてしまわないように祈りながら、おれは糸の示した道を辿った。
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