【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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83 絶対に帰るんだ

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 自分の手がどこにあるかもわからないくらいの暗闇の中を、今にも消えてしまいそうな極細の光の糸だけを頼りに進む。
 この部屋の中には機械や実験道具があちこちに置いてあったはずなのに、どこに障害物があるか全く見えない状態でも、この光の糸が示すとおりに歩けばそれらにぶつかる心配はなかった。

 ――この糸って、シディア様の目だから見えてるんだよね?

 ホニベラ様は何か知っているみたいだったけど聞けなかったし、今はとにかくこの光の糸を信じて進むしかない。
 少し時間はかかったけど、無事に研究室を出られた。
 エネルギー供給が止まったおかげで、扉は開きっぱなしになっていた。

 ――廊下も、真っ暗だ。

 しばらくすれば目が慣れてくるかと思ったけど、どれだけ経っても周りは全く見えないままだった。この〈地下〉には、わずかな光も差し込んでいないから余計だろう。
 暗すぎるのは不安だけど、そのおかげでおれ以外にこの暗闇を動き回っている人がいないのは助かった。
 ここで見つかったらすぐに連れ戻されてしまう。
 連れ戻されたら、おれはおれではないものにされてしまう。

 ――おれはおれのまま、皆のところに帰るんだ。

 恐怖で足が止まりそうになるたび、自分を叱咤する。
 まず思い出したのは、父さんの言葉だった。

『自分を想ってくれる人のおかげで強くなれんだよ。もし、やばい状況に陥っても「絶対に帰ろう」と思えるしな』

 本当にそのとおりだった。
 おれを心配している人、帰りを待ってくれている人がいるってわかっているから、おれは『絶対に帰ろう』と思える。
 この暗闇を前に進む勇気と力をもらえる。

 ――シディア様にも、早く会いたい。

 会うだけじゃ足りない。
 全身くまなく触れ合って、自分の存在を確かめたい。名前をたくさん呼んでもらって、『お前は俺のものだ』って言ってほしかった。

 ――結構、進んできた気がするけど……今は〈地下〉のどのあたりなんだろう。

 光の糸はまだ先へと続いている。
 この糸が見える限り、足を止める気はないけど、自分が今〈地下〉のどのあたりにいるのかは気になった。

 ――そもそも〈地下〉ってどのくらいの広さなんだろう。もし本部みたいに、いくつも階層があるんだとしたら……おれはちゃんとここから出られるのかな。

 この糸が導く先にあるのは出口なんだろうか。
 糸がどこに繋がっているのか気になって、下ばかり見ていた視線を遥か先へと向ける。
 そのとき、パンッと何かが弾けるような高い音がして、暗闇の世界に光が戻ってきた。

「……っ!」

 エネルギーの供給が再開したのだ。
 ホニベラ様も『この暗闇は長く続かない』と言っていたけど、まさかこんなに早く復旧するとは思わなかった。

 ――近くに人の気配はないみたいだけど。

 おれが立っていたのは細い廊下だった。
 ちょうど角を曲がったところだったので、背後からの人の視線はない。進んでいた方向にも今は誰もいないみたいだった。
 だけど、どこにも身を隠すところのない細い廊下だ。もし前から誰かが来たら、すぐに見つかってしまうことになる。

 ――それにおれ、裸のままだった。

 すぐに外皮を纏おうと思ったけど、まだ魔力はほとんど回復していなくて無理だった。
 おれは全裸のまま、廊下を進む。
 明るくなったせいで光の糸は見えなくなってしまっていたけど、どっち向かって続いていたかは覚えている。
 今はその道筋どおりに進むしかない。

「――ッ!!」

 突然、高いサイレンの音が響き渡った。
 続いて無機質な声の放送が流れる。

『緊急通告。被験体が実験区画より脱走しました。全員、至急捜索態勢に移行してください。発見した場合は直ちに拘束。繰り返します――』

 おれのことを言っているのは間違いなかった。

 ――早く逃げないと。

 慌てて駆け出す。
 細い廊下をしばらくまっすぐ進んだ。
 廊下の突き当たりは左右どちらにも道が続いているけど、光の糸が右に折れていたのは覚えていたおれは、走る速度を緩めずに廊下を右に曲がる――ドンッ、と何かにぶつかって止まった。

「おっと」
「!!」

 衝突したのは人だった。
 しかも、その人の腕に捕まってしまっている。
 どうして曲がる前に、ちゃんと確認しなかったんだろう。なんとかして相手の腕を解こうとしたけど、力が強すぎるせいで身動きが取れなかった。

「離せ――ッ!!」
「おいおい、暴れんなって……お前、バンだろ?」
「え…………その声」

 おれは、ぴたっと動きを止めた。
 頭の上から聞こえてきた声に、聞き覚えがあったからだ。
 そろそろと顔を上げる。
 おれをじっと見下ろしていたのは、三十代後半から四十歳くらいの男の人だった。
 見上げるほど背が高くて、がっしりと鎧のような厚い筋肉に覆われた身体は、まさに戦う人のそれだ。浅黒い肌にはたくさんの古傷があって、左頬にも目立つ大きな傷跡が残っていた。
 普通なら近寄りがたい雰囲気の人だけど、全くそう感じないのは、その人の表情のおかげだ。歯を見せて、にかっと笑う顔には誰もが心を許してしまう無邪気さがある。

 ――初めて見る顔だ……だけど。

 この人に会うのは初めてじゃない。
 ぽんっと頭に触れた手の大きさとぬくもりを、おれはちゃんと覚えていた。

「……アカゾメ、さん?」
「おう、赤染あかぞめだ。そうなるような気はしてたが、まじでここで再会するとはな」

 アカゾメさんはそう言うと、くしゃくしゃと髪をかき混ぜるみたいにおれの頭を撫でた。
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