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88 伝説のレッド VS 現役ヒーロー
しおりを挟む次の日、おれはアオナさんに誘われて、災厄防衛中央局の別棟にある訓練場へ向かっていた。
怪人のおれがそんな場所に行くのはまずいと思うってちゃんと断ったんだけど、アオナさんが『絶対に大丈夫!』って全然折れてくれなくて……半ば無理やり連れ出されたような感じだった。
――絶対にだめだと思うんだけど。
アオナさんのそういう自信は、いったいどこから来るんだろう。
こっちは廊下を歩くだけでも、誰かから何か言われるんじゃないって、ひやひやしているのに。
でも、職員らしき人間と何人すれ違っても何も言われないどころか、嫌な視線を向けてくる人もいなかった。
――もしかして……おれが怪人だってこと、あんまり知られてない?
本部の建物を出て五分ほど歩くと、目的地である訓練場が見えてくる。
入り口の前には、ちょっとした人だかりができていた。
「やはり、今日は大勢が集まっているようだな。模擬戦とはいえ、〈伝説のレッド〉が戦っているところを見られるのだから当然か」
「伝説の、レッド……?」
「赤染さんのことさ。あの方は、怪人たちとの戦いが最も熾烈を極めていた時期に、この災厄防衛中央局のリーダーとして活躍されていた方だからね」
「えっと……その、レッドっていうのは?」
「そうか、そこから説明が必要だったか。うちの組織のトップは、五人で構成される特務戦闘チームでね。そのメンバーたちは色を冠するコードネームで呼ばれているんだよ。代々受け継がれる形でね」
アオナさんは何も知らないおれにもわかるように説明してくれた。
ちなみにコードネームの種類はレッド以外に、ブルー、グリーン、イエロー、ピンク、ブラック、ホワイト、シルバー、ゴールドがあるらしい。
「あれ? 色の数とチームの人数が合わない……?」
何度か指を折って数えたけど、明らかにコードネームのほうが多かった。
「それはね、コードネームは各自の能力によって変身端末が割り振るものだからだよ。どの代にも必ず同じ色が揃うわけではないんだ」
「それって、レッドが不在になることもあるってことですか?」
理由はわからないけど、おれにはそれが不自然なことに思えた。
戦闘チームの真ん中にはレッドが必ずいるような、不思議なイメージが頭に浮かんだからだ。
――これも、記憶じゃなくて感覚が覚えてる何かなのかな。
うーんと首を傾げて考えてみるけど、記憶と繋がる感じはない。
「そうだよ。実際に赤染さんが怪人側の捕虜になってしばらくは、次のレッドが選ばれなかったからね。赤染さんの影響が強かったんだろうなぁ」
「…………アカゾメさんが、怪人側の捕虜」
アオナさんが口にしたその言葉に、おれはどう反応していいのかわからなかった。
今ここにアカゾメさんが無事でいるってことは、もう怪人の捕虜ではなくなったということなんだろうけど……だとしても、〈伝説のレッド〉と呼ばれるような人を捕虜にしていた怪人側のおれが、この場にいるのはよくない気がしてくる。
「あの……おれ、やっぱり部屋に戻ったほうが――」
「何を言ってるのさ。君をここに連れてこいと言ったのは赤染さんだよ。ほら、中へ入ろう!」
アオナさんはそう言うと、後ずさりしかけたおれの腕を掴んで引っ張った。
入り口前にできていた人だかりを掻き分けて、訓練場へ足を踏み入れる。中では、かなり本格的な模擬戦が行われてる最中だった。
「…………すごい」
おれはさっき『部屋に戻る』と言ったことも忘れて、アカゾメさんたちの模擬戦に見入っていた。
アカゾメさん一人に対して、相手は四人。
その四人はそれぞれが別の四色の戦闘スーツを身を包んでいた。
顔はマスクで覆われているので、顔の判別はつかない。ただ、彼らの纏う色は赤、黄、緑、白――おれは彼らが何者かすぐにわかった。
「アカゾメさんと戦ってるの、特務戦闘チームですよね?」
「そのとおり。俺の仲間だよ」
「えっ……アオナさんも特務戦闘チームの人なんですか?」
「そうだよ。俺のコードネームはブルーだ」
アオナさんが怪人と戦っている人だとは聞いていたけど、まさか特務戦闘チームの一人とは思っていなかった。
「しっかし……戦闘スーツを着た現役四人と戦って、互角かそれ以上とはね。赤染さんの強さはやはりすごいな」
「アカゾメさんは生身ですよね?」
「そうだね。ただ、怪人の研究施設で何やら身体を弄られたと言っていたから、普通の人間とは少し違うのかもしれないけど」
「怪人の研究施設で身体を? ……痛、っ」
突然、頭の奥に鋭い痛みが走った。
その瞬間、おれの知らない光景が頭に浮かんだ気がしたけど、あっという間に消えてしまう。
じんわりと痛みの残ったこめかみを押さえていると、心配そうな表情をしたアオナさんがおれの顔を覗き込んできた。
「もしかして、何か思い出しそうだった?」
「そうかもしれません……ただ、すぐに消えちゃいましたけど」
一瞬しか見えなかったけど、あれはおれの失くした記憶の一部に間違いない気がした。
目覚めてすぐの診察で、おれは〈地下〉と呼ばれる場所で酷い目に遭わされたと聞いたし、それが記憶喪失の原因じゃないかとも言われていた。
――〈地下〉っていうのが、怪人の研究施設の名前なのかな。さっき見えた変な形の機械と気持ち悪い色の液体が流れる管は、そこでおれが見たもの?
記憶が戻ったわけじゃないけど、さっき見た光景を思い出すと嫌な感じがするのは、きっとそういうことなんだと思う。
「――そろそろ、決着がつく感じだね」
アオナさんの言ったとおり、そのあとすぐに模擬戦の決着がついた。アカゾメさん対特務戦闘チームの戦いは、アカゾメさんの勝利で終わった。
「くそッ!! 四人でやって勝てないのかよ!」
「全員いい動きだったぜ」
「でも、勝てなきゃ意味ねえじゃん!!」
現役のレッドさんが地団駄を踏んでいる。
身体は大きいのに、まるで子供みたいな悔しがり方だ。
「あんまりリーダーっぽくないですね。今のレッドさんって」
「しーっ。あいつに聞こえたら面倒だよ。まあ、俺もそう思うことが多いけど――ただ、やるときはやるやつだからね」
アオナさんは、レッドさんをちゃんとリーダーとして認めているみたいだった。
「お! バン、来てたのか!!」
「っ!!」
いきなり大声で名前を呼ばれて驚いた。
訓練場全体に聞こえる声でおれを呼んだのはアカゾメさんだ。
模擬戦を見学していた人たちの注目が一気に、アカゾメさんの視線の先にいるおれのほうへ注がれる。慌てて隠れようとしたけど、隣にいたアオナさんがそれを許してくれなかった。
「ちょっと……アオナさん」
「今さら隠れても遅いって。ほらほら」
「バン、こっち来い。身体はよくなったんだろ? お前も手合わせしようぜ!」
「いや、おれは――」
「行ってきなよ、バンくん。これも記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないよ」
断ろうとしたおれに、アオナさんがこそっと耳打ちした。
確かに、何がきっかけになるかはわからないけど。
「身体を動かすのは嫌い?」
「いえ……たぶん好きだと思います」
アカゾメさんたちが戦っている姿を見て、わくわくした気持ちになったのは確かだ。
戦っている姿を見るのが好きなのか、自分も戦いたいと思ったのかはまだわからないけど――少なくとも身体を動かすのは嫌いじゃない。
「それならなおさら、以前の君のことを知るチャンスなんじゃないかな?」
「でもおれ……あんまり目立ちたくないんですけど」
「今さらじゃない? 赤染さんのせいで、もう結構目立っちゃってるし」
「うう…………」
それはアオナさんの言うとおりだった。
「……わかりました。おれ、やります」
おれは特務戦闘チームの四人と入れ替わるように、アカゾメさんが待っている闘技エリアに向かう。
すれ違う瞬間にレッドさんに睨まれた気がするけど、今はあまり気にしないことにした。
――なんだろう……なんか懐かしい感じがする。
アカゾメさんと向かい合った瞬間、どこか懐かしい感じがした。
おれは戦いの緊張感を知っている。
正面でにやりと笑うアカゾメさんの放つ闘気に、全身が粟立つのがわかった。
けど、同時に高揚感を覚える。
――お腹のあたりがざわざわする。あと……戦うときの格好はこれじゃない気がする。
今おれは借り物の患者衣を着ていた。
これでも別に戦えないことはないけど、戦闘に最適な格好はこれじゃないと感覚でわかる。
おれは本能が告げるまま、全身に魔力を行き渡らせた。
次の瞬間、おれの着ているものが変化する。
「っはは! めちゃくちゃやる気じゃねえか、バン」
怪人の戦闘スーツに身を包んだおれを見て、アカゾメさんが声を上げて笑った。
次の瞬間、こちらに向かって駆け出してくる。
大きな身体なのに、驚くほど俊敏だ。
――でも! 動きは読める!
おれは魔力を腹部に集中させる。
そこから生えた真っ黒な触腕で、アカゾメさんに攻撃を繰り出した。
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