【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

文字の大きさ
90 / 111

90 毒を操る戦闘員

しおりを挟む

 訓練場から連れ出されたおれとアオナさんは、シロガネ先生の診察室にいた。
 おれと向かい合って丸椅子に座るアオナさんの背後には、呼ばれていないはずのクレノさんが立っている。クレノさんはまるでアオナさんを護衛するみたいに、おれのことを無言でじっと睨みつけていた。

「検査って時間かかるんでしょうか」

 シロガネ先生は診察室に着くなり、『まずは検査させてほしい』と言って、おれとアオナさんから採血すると、それを持って診察室の奥にある検査室へと入っていってしまった。
 検査結果が出るまで待っているよう言われたけど、どのくらい時間がかかるのかは聞かされていない。

「どうだろう。長くなるかもしれないし、待っているあいだ、また話でもしようか――後ろに余計なのがいて悪いけど」
「余計ってなんだよ! 心配して来てやったんだろ!」
紅乃くれの、声が大きいよ。それにバンくんのことを睨みすぎだ。これ以上、バンくんに失礼な振る舞いをするようなら、問答無用で追い出すよ」
「っ…………」

 アオナさんに冷たく一喝され、クレノさんはしょぼくれた顔で俯いた。身体はアカゾメさんと変わらないくらい大きくて強そうなのに、その表情のせいでやっぱり小さな子供のようにしか見えない。
 アオナさんはそんなクレノさんを無視して、「さて、何を話そうか」とおれのほうを向き直った。

「あの! アオナさんを襲ったっていう戦闘員について聞かせてもらうことってできますか? なんかちょっと引っかかる感じがして」
「ああ、構わないよ。どこから話すのがいいかな」

 アオナさんはそう言いながら、さっきまで毒に侵されていた右太腿を手のひらで撫でた。
 ゆっくりと落ち着いた口調で話し始める。

「――俺がここに毒を受けたのは二か月前のことだけど、戦闘員が毒攻撃を仕掛けてくるようになったのは約半年前からだ。それまで毒を使って攻撃を仕掛けてくるのは怪人だけだったのに、いきなり毒を操る戦闘員が現れたんだよ。戦い方以外もいろいろと違和感を覚える存在だったから、よく覚えている」
「違和感を覚える存在、ですか?」
「ああ。これまでの戦闘員と違って、彼らの動きからは意思が全く感じられなくてね。まるで自我を失ってしまったかのようだった」
「…………ッ」

 また何か思い出しそうだった。
 頭の奥がつきりと痛んで、またあの〈地下〉の光景が頭をよぎる。
 でも、前と同じようにすぐ消えてしまった。

「自我を失った戦闘員による毒攻撃……」

 なんだろう。やっぱり引っかかる気がする。
 おれが黙って考え込んでいたら、今度はアオナさんではなく、クレノさんが口を開いた。

「様子がおかしいのは戦闘員だけじゃねえ。最近は怪人連中も妙なやつばっかりだ」
「紅乃」
「普通に話すだけなら、別にいいだろ」

 クレノさんはそう言って唇を尖らせる。
 おれを睨むなってアオナさんに注意されたからか、おれとは目を合わせてくれなかった。

「怪人も様子がおかしいんですか?」
「そうだね、紅乃の言うとおりだよ。最近の怪人は凶暴性が増している。理由もなく殺戮を楽しむ怪人まで出てきている始末だ――この数十年、怪人との戦闘は減っていたのに、この数か月はずっと増加傾向にある」
「怪人は皆殺しにしろっつう声が、うちの組織内でも上がり始めてるくらいだしな。赤染サンがてめえを連れてきたときも『そんな怪人、見殺しにしちまえ』って言うやつがいたっけ」
「ちょっと、紅乃」
「いいんです、アオナさん。おれ、それには気づいてたので――むしろ、人間は怪人をよく思ってないのが当然だと思ってたから、助けてもらえたことのほうが純粋に驚きだったんですよ」
「バンくん……」

 あえて気づかないふりをしていたけど、訓練場に集まっていた人たちの中にも、おれに殺意を向けてくる人は何人もいた。
 それでも誰も何もしてこなかったのは、あそこにアカゾメさんがいたからだろう。

「もしかして……あの模擬戦にも、何か意味があったんですか?」
「そうだよ。もう隠しても仕方ないから話すけど、あの模擬戦はバンくんを試すものでもあったんだ。君が人間にとって害のある怪人かどうか、それを見極めるためにね――結果として、君を殺そうと思う人間は減ったんじゃないかな」
「え!? どうしてですか?」
「怪人の力を解放したあとも、あんな楽しそうな顔でアカゾメさんに挑んでいく姿を見せられたらね」
「……おれ、そんなに楽しそうな顔してました?」
「してたよ。アカゾメさんもすごく嬉しそうで、見ていた俺たちも微笑ましい気持ちにさせてもらったからね」

 そんなふうに見られていたのは、ちょっと恥ずかしい。
 模擬戦を始める前は周りの視線を気にできていたけど、始まってからはアカゾメさん以外に意識を向けてある余裕なんてなかった。
 そうしないと、アカゾメさんにすぐにやらてしまうからだ。

「でも……そんなことだけで、怪人を許せるものなんですか?」
「怪人を許すというよりは、君という怪人を認めるということだね。相手を知ろうともせず、ただ『殺せ』というのは違うだろう? 怪人だからといって、無差別に殺していい理由にはならない。うちの組織にはそう考えている人間も多いんだ。伝説と呼ばれる赤染さんの影響が大きいんだと思うよ」
「アカゾメさんは、そういう考え方なんですね」
「ああ。それは俺も同じだよ。相手を知るという行為をとても重要だと思っている。バンくんと話したいと言ったのも、そういう気持ちがあったからなんだ。そして、今こうしてバンくんが人間を知ろうとしてくれていることも、いずれは大きな意味を持つんじゃないかと思っているんだけど――――と、話が逸れてしまったね」

 アオナさんはそう言って小さく咳払いすると、さっきまで話していた戦闘員のことに話題を戻した。

「それで毒を操る戦闘員だけど、彼らは体液そのものが毒だとわかった。だから彼らも少しずつ毒に侵されていてね。こちらが攻撃を仕掛ける前に、自らの毒で死に至った戦闘員もいたくらいなんだ」
「え……なんですか、それ」
「やっぱり変だと思うよね? そんな彼らを見たしろがね先生は『彼らは無理やり改造を施された戦闘員ではないか』と仮説を立てていたよ」
「――僕は今も、その説が有力だと思っていますよ」

 シロガネ先生が検査室から出てきた。
 手に持ったタブレット端末を操作しながら、おれたちのところまでやってくる。端末の画面がおれたちにも見やすいように、診察デスクのモニターに映し出した。

「バンくんの言ったとおりでした。貴方には毒を無効化する能力があるようです。その能力のおかげで、青那あおなくんの体内から毒は検出されなくなりましたよ」
「ッ、本当か!?」

 誰よりも早く反応したのはクレノさんだった。
 大きな声に驚いて振り返ると、手の甲で目元をごしごしと擦っているクレノさんをうっかり目撃してしまう。
 おれは気づかれる前に、くるっと前を向き直した。

「――やっぱり、おれには毒を無効化する能力があったんですね」
「でもそうだとしたら、おかしくないかな? ここに運ばれてきたとき、バンくんは毒に侵されて瀕死状態だったんだろう?」
「あ……そういえば」

 確かにおかしかった。
 毒を無効化する能力があるなら、そんなことにはならないはずなのに。

「何もおかしなことはありませんよ。バンくんの能力は魔力によって発動するものでした。魔力枯渇の状態では能力そのものが機能しない。あのときバンくんの魔力残量はほぼゼロに近い状態でしたから、毒を無効化できなかったのでしょう」
「……そうだったんですね」
「ええ。それにしても、自分だけでなく他者の毒も消し去ることができるとは――非常に興味深い能力です」

 眼鏡越しのシロガネ先生の目が輝いている。
 これはまだ、しばらく離してもらえる気がしなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました

すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。 第二話「兄と呼べない理由」 セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。 第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。 躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。 そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。 第四話「誘惑」 セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。 愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。 第五話「月夜の口づけ」 セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

処理中です...