94 / 111
94 本音には本音で
しおりを挟む「記憶は戻ったばっかりだし、あんまり役には立てないかもしれませんけど……それでもシディア様の部下として、傍にいたいです」
自分が弱い自覚はある。今回だって、そのせいでこんなことになってしまったんだし。
それでも、おれはダーヴァロードの一員だ。
それにシディア様に仕える唯一の部下なんだから、『一緒に戦わない』なんて選択肢があっていいはずがなかった。
「――おれも、一緒に戦わせてください」
オーロラを宿した瞳をまっすぐ見ながら、自分の気持ちを伝える。
シディア様は表情を少しも変えることなく、じっとおれを見つめ返してきた。おれがこう言うことを予想していたのかもしれない。
しばらくそうしたあと、こつんと額同士をくっつける。
「…………複雑だな」
ぽつり、と呟いた。
「……シディア様?」
「俺はお前を危険に晒したくない――が、隣にいてほしいと思っている」
初めて聞くような、かすかに揺れた声だった。
シディア様の迷いが伝わってくる。でも、本音を隠さずに聞かせてくれたことが、おれは嬉しくてたまらなかった。
「隣にいたいです。いさせてください! 大好きです!!」
最後の一言は、胸がいっぱいになりすぎて勝手に出てきた言葉だった。
さすがにやっちゃったかなって思ったけど、シディア様が本音を聞かせてくれたんだから、おれだって本音で応えたい。
「……っはは、お前と言うやつは」
シディア様が笑い声を漏らす。
無防備な笑顔を見られるだけでもレアなのに、身体を揺らして笑うシディア様なんて超激レアだった。
それを、こんな至近距離で拝めるなんて。
「わかった。こちらへ戻ってこい。ただし、お前をこちらに戻すにしても準備がいる。明日の夜に迎えをやるから、それまで大人しく待っていろ」
「明日の夜ですね? わかりました!!」
今すぐ戻れないのは残念だったけど、明日の夜には本物のシディア様に会える――それがわかっているので、暗い気持ちにはならない。
シディア様はおれを災厄防衛中央局の屋上へ降ろすと、額に口づけを落として、すっと影に溶け込むように姿を消した。
◆◆◆
「今日の夜には帰ってしまうのか。寂しくなるね」
次の日の昼過ぎ、おれは再びアオナさんの部屋を訪れていた。
記憶を取り戻せたのはアオナさんのおかげだったのに、昨日の夜はちゃんとした説明もできないまま部屋を飛び出してしまったし、そのあとはあの騒ぎだ。
本当はもっと早い時間に部屋に訪ねるつもりだったんだけど――昨日シディア様が帰ったあと、アカゾメさんにあれこれ説明していたせいで寝るのが遅くなり、起きたら昼だったのだ。
「おれも寂しいです。せっかく、アオナさんと仲良くなれたのに」
怪人やヒーローについても、もっと語り合いたかった。
あまり語ったら前世の記憶があるってバレちゃいそうなのが怖いけど……そういえば、この世界って前世おれが暮らしてた世界と似ているようで違うんだよな。
そもそも、現実にヒーローや怪人が存在している時点で結構違うし。
――そういう違いもいろいろ聞いてみたかったけど、さすがにそんな時間はないしなぁ。
夜まであと数時間しかない。
おれにはアオナさんと話す以外にやっておかなきゃいけないことが、他にいくつかあった。
「このあとはシロガネ先生のとこ?」
「はい。昨日治した人たちの様子と渡してあった液体について、戻る前に話を聞いておいたほうがいいかなって」
「一緒に行ってもいい? 記憶の戻ったバンくんと、まだ話したいんだ」
「もちろん! おれももっと話したいです!」
シロガネ先生の診察室に向かいながらアオナさんと話したのは、昨日見せてもらった映像についてだ。
「あの二人が、バンくんのご両親だったなんてね。言われてみれば髪の色はお父さんそっくりだね。顔はお母さんに似たのかな?」
「んー……全然似てないって言われますけどね。怪人の力もそこまで受け継いでませんし」
「そう? 戦い方はお父さんそっくりだし、戦っているときの表情はお母さんによく似ていると思ったけどな。だから、あの映像をバンくんに見せたいと思ったんだしね」
そんなふうに言われたのは初めてだった。
父さんと母さんは、おれにとっての憧れだ。そんな二人に似ているって言われて、嬉しくないはずがない。にやけそうになる口元を手で隠す。
そんな話をしているうちに、シロガネ先生の診察室へ辿り着いた。
シロガネ先生曰く、昨日治した人たちに問題は起きていないということだった。
おれが生み出した液体についてはまだ正体不明ということなので、おれが戻るまでには答えが出ないかもしれない。『引き続き、調べさせてほしい』と言われたので、あとはシロガネ先生に任せることにした。
――本当はこういうのよくないのかもしれないけど……前世が人間だったからか、人間が敵とかあんまり思えないんだよなぁ。
特にここの人たちはおれを敵の怪人ではなく、おれ個人として扱ってくれる。だから余計にそう思ってしまうのかもしれない。
シロガネ先生と話したあとは、アカゾメさんに会いにいく。アカゾメさんは今日も訓練希望者を鍛えるべく、訓練場にいた。
「よう、バン。帰る準備はできたのか?」
「準備っていっても、おれの持ち物はシディア様のコートくらいだからね。いつ迎えがきても大丈夫だよ」
「迎えが来るのは夜なんだろ? っつうか、また昨日みたいな騒ぎにはならんだろうな? さすがに二晩続けては勘弁願いたいぜ」
「う……昨日は本当にお騒がせしました」
アカゾメさんには多大な迷惑をかけてしまった自覚があるので、おれは昨日に引き続き、何度目かの謝罪をする。
「悪いのはお前じゃなくてディアだろ。いくら本体じゃないっつっても、あれだけ魔力を放出させりゃどうなるかくらい、あいつならわかってただろうに」
そういえば警報が鳴ったとき、シディア様は全く驚いていなかった。
わかっていてやったってこと?
「そういえば、アカゾメさんはシディア様のこと『ディア』って呼んでるんですね」
本人の前でも、そう言っていたのを覚えていた。
毒で意識が朦朧としていても『羨ましい』と思ったし……いや、おれにそう呼べる気はしないけど。
「ああ。あいつの名前長すぎて、オレにはちゃんと呼べなくてな。そしたら好きに呼べっつうからさ」
――長い? シディア様の名前って短いほうじゃ……?
そう思ったけど、怪人が人間の名前を上手く発音できないみたいに、人間も怪人の名前が呼びにくいのかもしれない。
おれの名前を呼びにくそうにしている人には、まだ会ったことがないけど。これ以上省略しようのない名前だし。
「まあとにかく、夜になったらいつ迎えがきてもいいように中庭で待機だな。オレも行くからよ」
アカゾメさんはそう言うと、また訓練という名のしごきに戻っていった。
◆◆◆
すっかり日が暮れて夜になった。
中庭には迎えを待つおれ以外にアカゾメさんとアオナさん、それにクレノさんの姿もあった。クレノさんはおれの見送りというより、今日もアオナさんの護衛っぽいけど。
「緊張してるの?」
アオナさんが、そっと話しかけてきた。
たぶん、おれがシディア様のコートをぎゅっと抱きしめてしまっていたせいだ。
「……してます。住んでたところに帰るだけなのに、変ですよね」
「向こうは大変なことになっているみたいだし、緊張するのは仕方ないんじゃないかな。バンくんも気をつけるんだよ?」
「はい。ありがとうございます」
次に会うときは、戦うことになるかもしれない。
アオナさんもそれはわかっているはずなのに、最後までおれに優しく声をかけてくれた。
「――来るぞ」
アカゾメさんが空中を見つめながら言った。
おれには全くわからなかったけど、少し遅れてアオナさんとクレノさんにも緊張が走る。おれが異変に気づけたのは、空中に黒いもやもやが漂い始めてからだった。
「このもやもやが……向こうと繋がってるの?」
「ああ。戦闘員を送り込んでくるときも、これが出てくるしな」
アカゾメさんは笑っていたけど、あとの二人はもやもやの向こうを警戒している――そのときだった。
もやもやの中から真っ黒な腕が生えた。
続けて身体が現れたかと思えば、ひょいっと顔を覗かせた人がおれを見つけて、にやりと笑う。
「なんだ。全然元気そうじゃねーか」
「……え……ラーギ先輩?」
迎えとしてやってきたのは、見慣れない怪人スーツに身を包んだラーギ先輩だった。
180
あなたにおすすめの小説
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました
すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。
第二話「兄と呼べない理由」
セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。
第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。
躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。
そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。
第四話「誘惑」
セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。
愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。
第五話「月夜の口づけ」
セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる