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94 本音には本音で
しおりを挟む「記憶は戻ったばっかりだし、あんまり役には立てないかもしれませんけど……それでもシディア様の部下として、傍にいたいです」
自分が弱い自覚はある。今回だって、そのせいでこんなことになってしまったんだし。
それでも、おれはダーヴァロードの一員だ。
それにシディア様に仕える唯一の部下なんだから、『一緒に戦わない』なんて選択肢があっていいはずがなかった。
「――おれも、一緒に戦わせてください」
オーロラを宿した瞳をまっすぐ見ながら、自分の気持ちを伝える。
シディア様は表情を少しも変えることなく、じっとおれを見つめ返してきた。おれがこう言うことを予想していたのかもしれない。
しばらくそうしたあと、こつんと額同士をくっつける。
「…………複雑だな」
ぽつり、と呟いた。
「……シディア様?」
「俺はお前を危険に晒したくない――が、隣にいてほしいと思っている」
初めて聞くような、かすかに揺れた声だった。
シディア様の迷いが伝わってくる。でも、本音を隠さずに聞かせてくれたことが、おれは嬉しくてたまらなかった。
「隣にいたいです。いさせてください! 大好きです!!」
最後の一言は、胸がいっぱいになりすぎて勝手に出てきた言葉だった。
さすがにやっちゃったかなって思ったけど、シディア様が本音を聞かせてくれたんだから、おれだって本音で応えたい。
「……っはは、お前と言うやつは」
シディア様が笑い声を漏らす。
無防備な笑顔を見られるだけでもレアなのに、身体を揺らして笑うシディア様なんて超激レアだった。
それを、こんな至近距離で拝めるなんて。
「わかった。こちらへ戻ってこい。ただし、お前をこちらに戻すにしても準備がいる。明日の夜に迎えをやるから、それまで大人しく待っていろ」
「明日の夜ですね? わかりました!!」
今すぐ戻れないのは残念だったけど、明日の夜には本物のシディア様に会える――それがわかっているので、暗い気持ちにはならない。
シディア様はおれを災厄防衛中央局の屋上へ降ろすと、額に口づけを落として、すっと影に溶け込むように姿を消した。
◆◆◆
「今日の夜には帰ってしまうのか。寂しくなるね」
次の日の昼過ぎ、おれは再びアオナさんの部屋を訪れていた。
記憶を取り戻せたのはアオナさんのおかげだったのに、昨日の夜はちゃんとした説明もできないまま部屋を飛び出してしまったし、そのあとはあの騒ぎだ。
本当はもっと早い時間に部屋に訪ねるつもりだったんだけど――昨日シディア様が帰ったあと、アカゾメさんにあれこれ説明していたせいで寝るのが遅くなり、起きたら昼だったのだ。
「おれも寂しいです。せっかく、アオナさんと仲良くなれたのに」
怪人やヒーローについても、もっと語り合いたかった。
あまり語ったら前世の記憶があるってバレちゃいそうなのが怖いけど……そういえば、この世界って前世おれが暮らしてた世界と似ているようで違うんだよな。
そもそも、現実にヒーローや怪人が存在している時点で結構違うし。
――そういう違いもいろいろ聞いてみたかったけど、さすがにそんな時間はないしなぁ。
夜まであと数時間しかない。
おれにはアオナさんと話す以外にやっておかなきゃいけないことが、他にいくつかあった。
「このあとはシロガネ先生のとこ?」
「はい。昨日治した人たちの様子と渡してあった液体について、戻る前に話を聞いておいたほうがいいかなって」
「一緒に行ってもいい? 記憶の戻ったバンくんと、まだ話したいんだ」
「もちろん! おれももっと話したいです!」
シロガネ先生の診察室に向かいながらアオナさんと話したのは、昨日見せてもらった映像についてだ。
「あの二人が、バンくんのご両親だったなんてね。言われてみれば髪の色はお父さんそっくりだね。顔はお母さんに似たのかな?」
「んー……全然似てないって言われますけどね。怪人の力もそこまで受け継いでませんし」
「そう? 戦い方はお父さんそっくりだし、戦っているときの表情はお母さんによく似ていると思ったけどな。だから、あの映像をバンくんに見せたいと思ったんだしね」
そんなふうに言われたのは初めてだった。
父さんと母さんは、おれにとっての憧れだ。そんな二人に似ているって言われて、嬉しくないはずがない。にやけそうになる口元を手で隠す。
そんな話をしているうちに、シロガネ先生の診察室へ辿り着いた。
シロガネ先生曰く、昨日治した人たちに問題は起きていないということだった。
おれが生み出した液体についてはまだ正体不明ということなので、おれが戻るまでには答えが出ないかもしれない。『引き続き、調べさせてほしい』と言われたので、あとはシロガネ先生に任せることにした。
――本当はこういうのよくないのかもしれないけど……前世が人間だったからか、人間が敵とかあんまり思えないんだよなぁ。
特にここの人たちはおれを敵の怪人ではなく、おれ個人として扱ってくれる。だから余計にそう思ってしまうのかもしれない。
シロガネ先生と話したあとは、アカゾメさんに会いにいく。アカゾメさんは今日も訓練希望者を鍛えるべく、訓練場にいた。
「よう、バン。帰る準備はできたのか?」
「準備っていっても、おれの持ち物はシディア様のコートくらいだからね。いつ迎えがきても大丈夫だよ」
「迎えが来るのは夜なんだろ? っつうか、また昨日みたいな騒ぎにはならんだろうな? さすがに二晩続けては勘弁願いたいぜ」
「う……昨日は本当にお騒がせしました」
アカゾメさんには多大な迷惑をかけてしまった自覚があるので、おれは昨日に引き続き、何度目かの謝罪をする。
「悪いのはお前じゃなくてディアだろ。いくら本体じゃないっつっても、あれだけ魔力を放出させりゃどうなるかくらい、あいつならわかってただろうに」
そういえば警報が鳴ったとき、シディア様は全く驚いていなかった。
わかっていてやったってこと?
「そういえば、アカゾメさんはシディア様のこと『ディア』って呼んでるんですね」
本人の前でも、そう言っていたのを覚えていた。
毒で意識が朦朧としていても『羨ましい』と思ったし……いや、おれにそう呼べる気はしないけど。
「ああ。あいつの名前長すぎて、オレにはちゃんと呼べなくてな。そしたら好きに呼べっつうからさ」
――長い? シディア様の名前って短いほうじゃ……?
そう思ったけど、怪人が人間の名前を上手く発音できないみたいに、人間も怪人の名前が呼びにくいのかもしれない。
おれの名前を呼びにくそうにしている人には、まだ会ったことがないけど。これ以上省略しようのない名前だし。
「まあとにかく、夜になったらいつ迎えがきてもいいように中庭で待機だな。オレも行くからよ」
アカゾメさんはそう言うと、また訓練という名のしごきに戻っていった。
◆◆◆
すっかり日が暮れて夜になった。
中庭には迎えを待つおれ以外にアカゾメさんとアオナさん、それにクレノさんの姿もあった。クレノさんはおれの見送りというより、今日もアオナさんの護衛っぽいけど。
「緊張してるの?」
アオナさんが、そっと話しかけてきた。
たぶん、おれがシディア様のコートをぎゅっと抱きしめてしまっていたせいだ。
「……してます。住んでたところに帰るだけなのに、変ですよね」
「向こうは大変なことになっているみたいだし、緊張するのは仕方ないんじゃないかな。バンくんも気をつけるんだよ?」
「はい。ありがとうございます」
次に会うときは、戦うことになるかもしれない。
アオナさんもそれはわかっているはずなのに、最後までおれに優しく声をかけてくれた。
「――来るぞ」
アカゾメさんが空中を見つめながら言った。
おれには全くわからなかったけど、少し遅れてアオナさんとクレノさんにも緊張が走る。おれが異変に気づけたのは、空中に黒いもやもやが漂い始めてからだった。
「このもやもやが……向こうと繋がってるの?」
「ああ。戦闘員を送り込んでくるときも、これが出てくるしな」
アカゾメさんは笑っていたけど、あとの二人はもやもやの向こうを警戒している――そのときだった。
もやもやの中から真っ黒な腕が生えた。
続けて身体が現れたかと思えば、ひょいっと顔を覗かせた人がおれを見つけて、にやりと笑う。
「なんだ。全然元気そうじゃねーか」
「……え……ラーギ先輩?」
迎えとしてやってきたのは、見慣れない怪人スーツに身を包んだラーギ先輩だった。
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