【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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95 さすがにちょっと可哀想かなって

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「…………本物?」

 ぽかんと口を開いたまま、呆然と固まる。
 おれはまばたきをするのも忘れて、ラーギ先輩の顔をじっと見つめていた。
 偽物には見えないけど、まだ全然信じられない。
 ラーギ先輩は空中に浮かぶ黒いもやもやの中から、「ほっ」という軽い掛け声とともに飛び降りる。
 すたすたと、おれのすぐ目の前までやってきた。

「そんなに目ぇ見開いてたら、目玉落っこちまうぞ」
「ラーギ先輩……なんで、生きて……あのとき、殺されたんじゃ」
「オレも死んだと思ったけどよ。このとおり、ちゃんと生きてるぜ」

 ラーギ先輩は眉を下げて笑いながら、夢じゃないとでもいうように、おれの肩をぽんぽんと叩いた。
 触れたのが左手・・であることに気づいて、おれはハッとラーギ先輩の左腕に視線を移す。

「その腕……」
「おう。怪人化したおかげで生えたやつな。かっけーだろ」

 怪人化したラーギ先輩の左腕は、ほとんど白に近い青色へ変色していた。
 前腕から手の甲にかけて、半透明の鱗に覆われている。鱗の下にはほんのりと発光する血管が透けて見えていて、見惚れてしまいそうなくらい綺麗だった。

「でも……あそこからどうやって助かったんですか? ツィーガも、ラーギ先輩のことは『死んだ』って言ってたのに」
「潜入してたホニベラ様とティッハ様が動いてくれたおかげだな。あのとき、クソでかい注射器を持って入ってきた戦闘員のこと覚えてっか? あれがホニベラ様たちだったんだよ」
「えぇ? あの二人が!?」

 忘れたくて、頭から追いやろうとしていた〈地下〉での記憶を思い起こす。

 ――確かに、すごい身長差があった気がするけど。

 でもまさか、あの戦闘員二人がホニベラ様とティッハさんだったなんて思いもしなかった。だけどそれなら、ツィーガの目を欺いてラーギ先輩を救出できたというのも納得できる。

「その感動の再会、オレも混ぜてくれよ」

 そう言って話に割り込んできたのは、アカゾメさんだった。

「ゾメ! お前も生きてたんだな!」
「お前が手を回してくれたおかげでな。感謝してるぜ」

 ――そういえば、二人は〈地下〉で協力関係になってたんだっけ。

 二人とも、お互いの無事が確認できて嬉しそうだった。
 アカゾメさんは豪快に笑いながら、ラーギ先輩の背中を太い腕でバシバシと叩いている。
 ラーギ先輩も「痛ぇーよ」と文句を言いつつ笑っていた。

 ――ラーギ先輩……生きててくれて、本当によかった。

 やっと実感が湧いてくる。
 目の端にじわっと滲んだ涙を指で拭っていたら、急に後ろから伸びてきた腕にぐいっと身体を引っ張られた。

「わ……っ、何?」
「――バンくん、下がって」

 緊張した声で囁いたのは、アオナさんだ。
 隣ではクレノさんが、噛みつく寸前の獣みたいに眉間に皺を寄せながら上を睨みつけていた。

「なんか厄介そうなのが来るな」

 アカゾメさんも笑いを引っ込めていた。
 真剣な表情で、クレノさんと同じところを見上げている。

「厄介そうなのって……?」
「ビィの軍勢か?」

 おれの呟きに、ラーギ先輩が物騒な答えを返した。
 次の瞬間、ラーギ先輩が出てきた黒いもやもやの隣に、赤いもやもやが出現する。

「――来るぞ!」

 叫んだのはクレノさんだ。
 その声に身構えたおれたちの前に、赤いもやもやから勢いよく誰かが飛び出してくる――というより、吹っ飛ばされたように転がり出てきた。

「…………え?」

 そのまま地面に全身を打ちつけたその人は、ぴくりとも動かない。そんな正体不明の人物に、最初に近づいていったのはラーギ先輩だった。

「…………こいつ、ツィーガか?」
「え?」

 言われてみれば、倒れている人が纏う怪人スーツには見覚えがあった。
 それに髪の色もツィーガと同じだ。

「それ……ツィーガなの?」

 おれも近づいてみる。
 おそるおそる顔を覗き込んでみたけど、地面に倒れたまま動かない人がツィーガである確信は持てなかった。
 その人の顔が、ぼこぼこに腫れ上がっていたせいだ。

「おい! もう一人来るぞ!!」

 クレノさんが再び叫ぶ。
 今度こそ、赤いもやもやから勢いよく誰かが飛び出してきた。
 その人はおれたちには見向きもせずにツィーガへ馬乗りになると、すでに酷い状態のツィーガの顔に向かって何度も拳を振り下ろす。鈍い音がして血が飛び散った。

「ちょっと、レクセ! さすがにやりすぎだって!!」

 あまりの光景に、思わず叫んでいた。
 ツィーガを殴っているのが、幼馴染みのレクセだって気づいたからだ。

「あ? ……バン、どうしてこんなところに」

 レクセはおれの声に気づくと、ツィーガを殴っていた手を止めた。
 外殻で覆ったレクセの拳には、今ついたものではない黒ずんだ血の汚れもこびりついている。ツィーガの顔を判別できなくなるレベルまでぼこぼこにしたのは、レクセに間違いなさそうだった。

「それはこっちのセリフだって……ここ、どこだかわかってる?」
「どこって…………どこだ? ここ」

 そうじゃないかと思ったけど、レクセは自分のいる場所がわかっていないようだった。

「おれがお世話になってた人間の施設だよ。今からそっちに戻るつもりだったんだけど」
「ああ、そういうことか……こいつは、そのゲートを利用して逃げるつもりだったんだな。道理でちょこまかと逃げ回るわけだ」

 レクセは納得したように頷くと、再びツィーガの顔に拳を振り下ろす。

「ちょっと、まだやる気? さすがに殴りすぎだって」
「正気に戻すためだ」
「え……物理でどうにかするつもり?」
「他に方法がないからな」

 まさか、そういうつもりで殴っていたなんて。
 でもレクセがそう言うってことは、マッド・ビィの洗脳を解く方法は物理攻撃しかないってことなのかな。

「おいおい、納得すんじゃねーよ。バン」
「えっ」
「殴ったところで、あいつの洗脳がどうにかなるわけねーだろ」

 危うく納得しそうだったおれに、横からツッコミを入れたのはラーギ先輩だった。

「洗脳どうこう関係なく、バンを酷い目に遭わせた相手だからキレてんだよ。こいつは」
「ラーギ、余計なことを言うな」
「本当のことだろーが」

 おれの知らないあいだに、レクセとラーギ先輩はこんな親しげに話す仲になっていたみたいだ。
 っていうか、今の本当?

 ――レクセ、おれのために怒ってくれてんの?

 おれだって、レクセが酷い目に遭わされたって聞いたら絶対にキレる自信あるけど……でも、レクセがここまで怒ってくれるなんて、ちょっと意外だった。

「ところで、オレもツィーガのこと殴りてーんだけど」
「オレもいいか?」

 止めるのかと思いきや、ラーギ先輩とアカゾメさんもツィーガを殴りたいと言い始める。
 二人とも本気のようだ。

「……ねえ、バンくん。これはどういう状況なのかな?」

 困惑した様子のアオナさんに尋ねられた。

「……えっとですね」

 それを聞きたいのはおれのほうだったけど、とりあえず、今がどうなっているのかを説明する。
 ついでに、この状況をどうすればいいか尋ねた。
 すぐに状況を理解してくれたアオナさんはしばらく考え込んだあと、何か思いついたようにポンッと手を叩く。

「このままでは戻るに戻れないし、洗脳されてる彼のことをしろがね先生に任せてみるのはどう?」
「あっ! それいいですね!」

 ツィーガが三人に殴り殺されてしまう前におれにできるのは、それくらいしかなかった。



   ◆◆◆



 シロガネ先生は、ツィーガのことを快く引き受けてくれた。『これで実験が捗りそうです』と笑顔で言っていたのは、ちょっと気になるけど……あのまま三人に殴られ続けるよりはよかったよね?

「んじゃ、戻るとするか」

 そう言ってラーギ先輩が黒いもやもやに手を近づけると、もやもやがこちらに向かって伸びてきた。
 そうやってもやもやに触れれば、向こうに帰ることができるらしい。

「お世話になりました!」

 アオナさんたちに向かって頭を下げてから、おれも同じように手を伸ばした。
 纏わりついた黒いもやもやに、身体を引っ張られるような感覚がする。ふっ、と急に身体が軽くなったかと思えば、次の瞬間、おれは黒い部屋の真ん中に立っていた。

「…………戻ってきた?」

 この部屋は初めて来る場所だけど、見慣れた黒色にほっとする。
 そんな長い期間離れていたわけじゃないのに、すごく懐かしい気持ちになるのは不思議だった。

「ほら、ぼーっとしてんなよ。行くぞ」
「行くって、どこに?」
「首領様のとこに決まってんだろ」
「……えッ?」

 ラーギ先輩にいきなりそんなことを言われ、おれは目を瞬かせる。
 動揺して動けずにいたら、遅れて戻ってきたレクセに「早く行ってこい」と背中を思いっきり叩かれた。
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