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98 お約束だけど燃え(萌え)るシチュ
しおりを挟む「バンの親がお前ら二人だとは先に聞いてたが、まじでいい親してるんだなぁ。オレまで泣けてくるぜ」
「おい、ゾメ。空気を読んで黙っていろ」
しばらく両親に抱きついて泣いたおれは、父さんたちの後ろから聞こえてきた声に、ぎょっとして顔を上げる。
それがどっちもイェスコル様の声じゃなかったからだ。
「えっ! アカゾメさん!? レクセまで!」
イェスコル様の隣に立ってこちらを見ていたのは、アカゾメさんとレクセだった。
アカゾメさんは、にかっと歯を見せて笑いながら、おれに向かって手を振っている。レクセは、そんなアカゾメさんの隣で腕を組んで眉間に皺を寄せていた。
どうして二人がここにいるんだろう。
おれは混乱しつつも、さっきシディア様が言っていた言葉を思い出す。
――全員入れ、って言ってた『全員』って……この二人も含まれてたってこと!?
てっきり、両親のことだけを指しているのだと思ったのに。
落ち着いて考えれば、二人に対して『全員』って言葉を使うのがおかしいことに気づけるけど、さっきはそんな余裕なんてなかった。
「う……うう」
涙は完全に引っ込んでいた。
両親に抱きついて大泣きしていたのを、アカゾメさんとレクセに終始見られていたなんて恥ずかしすぎる。おれは父さんと母さんに「また、あとで……」と小声で告げて、抱きついていた腕を解いた。
くるっと後ろを向いて、円卓の椅子に腰掛けるシディア様のもとへ、ぱたぱたと駆け寄る。
「もういいのか?」
「う……だって、恥ずかしいじゃないですか」
「両親に会えて嬉しかったのだろう? 周りの目など、気にしなくていいものを」
シディア様は穏やかな声でそう言って、おれの頭を撫でてくれた。
さっきの大号泣で涙腺がばかになってしまったのか、シディア様の優しすぎる手つきにまた涙がぽろっとこぼれてしまう。
その涙はシディア様が唇で掬ってくれた。
「それを見られるのはいいのかよ。バンの基準はわからんな」
「……ゾメ。いちいち茶化すな」
アカゾメさんとレクセの声に、またしてもハッとさせられる。
慌ててシディア様から離れようとしたのに、逆に腰を抱くように引き寄せられて、そのまま太腿の上に横向きに座らされてしまった。
「あ、あの……シディア様、皆の前でこれは――」
「大人しくここにいろ。命令だ」
強い口調じゃなかったけど、シディア様に命令だって言われたら動けない。
でも、これって邪魔にならないのかな。
「お前たちも席につけ」
シディア様の指示で、執務室の中にいる全員が円卓の席につく。
シディア様の右隣から、イェスコル様、レクセ、母さん、父さん、アカゾメさんの順だった。
「――イェスコル、進行は任せる」
「御意に」
イェスコル様の進行で会議が始まる。
まずはレクセが、ツィーガについて報告を始めた。
三人がかりでぼこぼこに殴った点は割愛して、人間の世界に逃げようとしたツィーガを災厄防衛中央局の人間に預けたと説明した。
「人間の組織に預けたのですね。それはゾメの提案ですか?」
イェスコル様の質問に、アカゾメさんが首を横に振る。
「いーや。預けようって言い出したのは、現特殊戦闘チームのブルーとバンだな。まあ、オレも悪くない案だと思ったから止めなかったけどよ」
「人間に、マッド・ビィの洗脳は解けるとお考えですか?」
「可能性は高いと思うぜ。それに、ここの〈地下〉が壊滅状態だっつうなら、あっちに任せるのが正解だろ」
「〈地下〉が、壊滅状態って……?」
会議の邪魔はしないつもりだったのに、さすがにそれは聞き流せなかった。
「らしいぜ。オレもさっき聞いたとこだけど、ずいぶん派手にやらかしたんだと」
「洗脳と強化改造を施された怪人との戦闘でしたからね。壊さずに戦うというのは難しかったのですよ」
アカゾメさんの説明に、イェスコル様が補足する。
父さんと母さんも頷いていた。もしかして、二人もその戦闘に参加したのかな。
「あーあ、オレもそれ混ざりたかったわ。〈地下〉では散々な目に遭わされたからよ。この手でぶっ壊せたら、どんだけ気分がよかったか」
アカゾメさんはまるで戦闘中のように瞳をぎらつかせていた。
拳を握り、指をぽきぽきと鳴らしている。
「あの……ところで、アカゾメさんはどうしてまたこっちに来たの? せっかく向こうの世界に戻れたのに」
気になっていたので聞いてみた。
当たり前のように会議に混ざっているけど、アカゾメさんは人間――しかもこれまで怪人と戦ってきた、人間側のヒーローだ。
せっかく〈地下〉から脱出して、元の世界に帰れたのに、どうして戻ってきてしまったんだろう。
「そりゃあ、マッド・ビィをこの手で仕留めるために決まってんだろうが!」
アカゾメさんは獰猛に笑いながら答えた。
その表情はヒーローじゃなくて、完全にヴィランだ。
「俺からアカゾメに声をかけた。ビィはそれだけ強敵だからな」
「えっ!? シディア様が?」
アカゾメさんをこの場に呼びつけたのは、まさかのシディア様だった。
――待って!? それって共通の敵に立ち向かうために、ヒーローとヴィランが共闘しちゃう胸熱展開のやつ? それが目の前で見られるってこと!?
これが大変な事態なのはわかっているけど、興奮せずにはいられなかった。うっかり鼻息が荒くなってしまいそうだったけど、それはなんとか耐えた……と思う。
「ディアに背中を預けて戦うことになるとはな」
「何が起こるか、わからんものだ」
アカゾメさんとシディア様が、不敵な笑みで視線を交わす。お二人とも、これ以上はオーバーキルなのでやめてください。
シディア様の腕の中でこっそり悶えていると、ふっと頬にシディア様の吐息が掠めた。ちらりと視線を向けると、口角をわずかに上げて笑っているシディア様と目が合う。
――あ……これ、おれの考えてることがバレてるやつでは。
きゅっと唇を結んで真面目な顔をしてみたけど、シディア様がそんなことで誤魔化されてくれる相手じゃないのは、おれが一番よくわかっていた。
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