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99 マッド・ビィ討滅会議
しおりを挟むそのあともしばらく、〈地下〉とマッド・ビィに関する報告と今後についての話し合いが続いた。おれはシディア様の太腿の上で、黙って皆の話を聞いていただけなんだけど。
おれがいない数日間に行われた戦闘で〈地下〉が壊滅状態だっていうのはさっきも聞いたけど、どうやら洗脳と強化改造によって作られたマッド・ビィの軍勢もほぼ制圧し終えているようだった。
その戦闘を取り仕切っていたのはイェスコル様で、レクセはその補佐。その下で実際に戦闘に赴いていたのが、父さんと母さんの部隊だったらしい。
――レクセ、今はイェスコル様の補佐をしてるんだ……昔から口癖みたいに『親父のようになる!』って言ってたし、はりきってるんだろうなぁ。
報告のときの口調もイェスコル様に似ていたので、意識しているのは間違いない。
「っつうことは、残すはマッド・ビィを討ち取るだけか」
「ああ、そうなる」
マッド・ビィを討つことに燃えるアカゾメさんと、冷静さを崩さないシディア様。
こうやって見ると、二人のバランスはかなりいい。
「しかし、〈地下〉の最奥に籠ったマッド・ビィに辿り着くために、解決せねばならない問題が残っています」
イェスコル様が神妙な面持ちで告げた。
「なんだぁ? マッド・ビィの野郎、自分だけ安全な場所でお籠もりしてんのか?」
「ただ籠っているだけではありません。最奥に隠した何かで、こちらへの反撃を狙っているようです」
「その反撃とやらを律儀に待ってやってんのか?」
「いえ。反撃を仕掛けてくる前に、我々もマッド・ビィを討つ気ではいたのですが――そこに問題が」
荒々しい口調のアカゾメさんに対して、イェスコル様は淡々と状況を説明する。今起きている問題について口にしようとしたとき、隣で母さんが手を挙げた。
「その説明は私にさせてください」
「そうですね。実際にその場にいた貴女に話していただいたほうが確かでしょう。アラネア、お願いできますか」
母さんの説明はこうだった。
マッド・ビィの籠っている〈地下〉の最奥へ繋がる道は一つしかない。
その唯一の通路には罠が仕掛けられていて、それを知らずに突入した母さんの部隊は多くの負傷者を出してしまったらしい。
「……っ、母さんは大丈夫だったの?」
「ええ、問題ないわ。私はもともと毒に強い体質だから――とはいえ、まだ全力で戦うことは難しいのだけれど」
「それって問題なくないじゃん!」
重要な会議の場なのはわかっていたけど、心配が先に立って、思わず叫んでしまった。
だって、毒の後遺症があるってことでしょ?
「バン、その話はあとで――」
母さんは困った顔でそう言ったけど、おれは首を横に振る。
シディア様のほうを振り返った。
「シディア様、おれに少し時間をいただけませんか? 試したいことがあって」
「何をする気か、先に聞かせろ」
「おれ、毒を取り込んで無効化できる能力があるみたいなんです。だから、母さんの毒を消せるかもしれなくて」
毒――そう聞いて真っ先に頭に浮かんだのは、自分の能力についてだった。
マッド・ビィが仕掛けた罠が毒なら、おれの能力が役に立つかもしれない。そう思ったのに、おれの説明を聞いたシディア様の表情は芳しくなかった。
眉間に皺が寄せたまま、黙り込んでしまう。
「……毒を取り込むっつうことは、一度お前が毒を受けるのか?」
シディア様の代わりに、そう言葉を発したのは父さんだった。
「そうなるけど、すぐに無効化できるから! 何も問題はなくて――」
「そんなのはだめよ! 危険だわ!」
珍しく叫んだのは母さんだ。
「母さん……でも」
「私なら平気よ。だから、あなたがそんな無茶をする必要はないの」
母さんはそう言って、首を縦に振らなかった。
せっかく力になれると思ったのに、食い下がるにも言葉が出てこない。困ったおれに助け舟を出してくれたのは、シディア様だった。
「――バンの能力が本人の言うとおりなら、今ある問題の解決にもなるやもしれん。試してみる価値はある」
「首領様、それは……っ!」
「アラネア。バンはダーヴァロードの戦闘員で、我が直属の部下でもある――みなまで言わなくともわかるな?」
「はっ…………私情を挟み、申し訳ございません」
首領であるシディア様にそう言われて、反論するなんて無理だろう。
震えて俯く母さんを、隣に座る父さんが宥めていた。
「バン、やってみろ」
こくんと頷く。
おれはシディア様の太腿から降りると、下腹部へ魔力を集中させて、黒い触腕を生やした。
次に魔力を全身へと行き渡らせ、左耳のピアス型の外殻を、左目と左耳を覆う仮面の形状へと変化させる。
「ほう。俺の力を使うのか」
「え……? シディア様の力?」
「その触腕と外殻。どちらも俺が与えた力なのを忘れたか?」
「…………あっ!!」
そこまで言われて、ようやく気づく。
おれの触腕がこの形になったのは、ガラディアーク様に咬傷を与えられたからだった。それに左耳の外殻も、ガラディアーク様のツノの一部を与えられたものだ。
そのガラディアーク様の正体はシディア様だったんだから、おれの持つこの力はシディア様から与えられたもので間違いない。
「……ってことは咬傷も外殻も刺青も、おれの身体にある証は全部――」
「俺のつけたものだな」
腰に手を回され、シディア様の近くに引き戻された。
「あ、あの……母さんの毒を治さないと」
「アラネア、こちらへ来い」
母さんはシディア様の命令にすぐ立ち上がると、おれたちのすぐ傍までやってきた。
跪こうとしたけど、シディア様に止められる。
「バン、俺の力を貸してやろう」
「え……あっ」
返事をする間もなく、おれの腰に何が巻きついた。
下を見ると、おれの触腕に似た見た目の何かが太腿から腰にかけて、ぐるりと巻きついている。
「これ……シディア様の尻尾?」
それは前にも一度見たことがある、黒い鱗状の外殻に覆われたシディア様の尻尾だった。
「ほら、お前の触腕を俺の尾に絡ませろ」
「絡ませるって、こうですか? ……ん、ぁあッ」
言われたとおりにシディア様の尻尾に触腕を絡ませると、触れ合ったところからシディア様の魔力が流れ込んでくる。
――ちょっと、やばいって……おれ、シディア様の魔力で気持ちよくなっちゃうのに。
油断していたせいで、思わず喘いでしまった。
おれは恥ずかしくてどうにかなりそうだけど、シディア様はそんなおれを上機嫌な眼差しで見つめている。
「――気持ちよくなっていないで、アラネアの毒を取り除いてやれ」
耳元で囁かれた。
それがさらにおれの官能を煽るってわかっているはずなのに、シディア様はやることがずるすぎる。
「……じゃあ、やります」
流れ込んでくる気持ちよさを意識しないようにしつつ、おれは外殻越しに母さんの身体を見た。
毒のどろどろに侵されている箇所は、左下の腕と左腰だ。
「これが毒か」
「っ、シディア様も見えてるんですか?」
「お前の視界越しにな。それで、これをどうするんだ?」
「手で触れるだけなんですけど」
説明しながら、母さんの身体に纏わりつくどろどろに向かって手を伸ばす。指先がちょんと触れただけで、どろどろはあっという間に消え去った。
「ほう……確かにアラネアを侵食していた毒は、お前の身体に取り込まれたようだが……お前が触れてすぐ、毒ではなくなっていたな」
「そうなんですか?」
「ああ。ずいぶんと強い浄化能力のようだ」
そう言って、おれの手をじっと見つめている。
シディア様には、おれには見えないものまで見えているようだった。
「どうだ、アラネア」
「……バンが触れた瞬間、身体の重さが嘘みたいになくなりました」
母さんはそう答えながらも、心配そうな顔でおれを見ていた。
「おれはなんともないって! シディア様も言ってたでしょ。おれが触れた瞬間に毒は無効化されてたって。だから安心してよ」
なるべく明るくそう言って、毒に触れた手がなんともないのを母さんに見せる。母さんはその手をしばらく見つめたあと、おれに向かって頭を下げた。
「ごめんなさい……あなたの能力を信じてあげられなくて」
「いいよ、そんなの。おれのことを心配してくれたんでしょ。全然気にしてないから…………んッ」
謝罪する母さんの肩に手を置こうとした瞬間、まだシディア様の尻尾と絡み合ったままだった触腕から、じわっと魔力が流れ込んできた。
びくっと反応したおれを見て、シディア様がふっと目を細めて笑っている。
その顔もずるいんですけど。
「さて――これで問題とやらも解決するのではないか? なあ、イェスコル」
「ええ。バン様の力を用いれば、最奥に繋がる通路の罠を無効化できるやもしれません。すぐに検証を進めます」
「え……ぇ、え?」
――おれの力で通路の罠を無効化? っていうかイェスコル様、今おれのことを『バン様』って言った?
反応が追いつかない。
おれがわたわたしているあいだに、この場はいったん解散となった。
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