【完結】悪の幹部の息子に転生しました 〜首領様がえっちすぎて直視できません〜

コオリ

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100 決戦目前

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 会議が終わってすぐ、おれは母さんの部隊の人たちの治療に向かった。毒に苦しめられている人たちだ。
 母さんは明日でもいいって言ったけど、少しでも早くつらさを取り除いてあげたくて、おれからそうさせてほしいとお願いした。
 治療には両親だけじゃなく、シディア様も付き添ってくれた。ガラディアーク様の格好だったから、体調の悪い人までベッドから飛び起きるくらいびっくりしていたけど。
 軽傷の人含めると数十人を治療することになったものの、それでも全員を治すのに一時間もかからなかった。

「――さて、休息を取るか」

 この数日は皆、本部で寝起きしているらしい。
 マッド・ビィがいつ仕掛けてくるかわからないからだ。休息は交代で取っているとのことだった。

「バンは両親と休むのだろう?」
「え……シディア様と一緒じゃないんですか!?」

 おれがそう返すと、シディア様は驚いたように目を見開いた。
 おれは当然シディア様と一緒にいられると思っていただけに、驚かれたことにびっくりしてしまう。

「あ……もしかして、迷惑ですか?」
「そんなわけがない。ただ、家族と過ごしたいかと思っただけだ」

 おれたち家族に気を遣ってくれたってことかな?
 確かに両親と話したいことは山ほどあるけど、それよりもシディア様と一緒にいたい気持ちのほうが強い。その気持ちを態度でも示そうと、おれはシディア様の指をきゅっと握った。

「では――共に過ごすか」

 シディア様ならそうするかなって思ったけど、やっぱり軽々と抱き上げられる。見送る両親に手を振って、おれとシディア様はその場をあとにした。




「――首領様は私たちにバンを譲ってくださるつもりだったから、会議中にバンを傍に置いていらしたのね」

 息子の姿が見えなくなってから、アラネアはぽつりとこぼした。

「傍ってレベルじゃねえだろ、あれは」

 それを隣で聞いていたオクトスが溜め息まじりに返す。
 夫の困惑を隠せない声色に、アラネアは思わず笑ってしまった。

「最終決戦に向けた大事な会議中に、あんな甘い雰囲気を見せつけられるなんて思いもしなかったわ。バンも、満更でもなかったようだし」
「見ていいものか、まじで迷っちまったぜ。それにしてもバンは首領様の魔力圧を感じてねえのか? あんなふうにくっついてられるなんて、普通じゃねえだろ」
「そうね――愛のなせる業かしら」

 アラネアがうっとりと呟くと、オクトスは再び溜め息をつく。「オレたちも戻って休むか」とアラネアの肩を抱き、踵を返した。



   ◆◆◆



 おれとシディア様は、皆と会議をした執務室の奥にある仮眠用の個室で一緒に眠った。
 寝る前にキスはたくさんしたけど、それ以上のことはしていない。同じベッドでお互いの体温を感じながら、本当にただ眠っただけだった。

「…………戻ってきたの、夢じゃなくてよかった」

 目を覚まして最初に見るのがシディア様の顔って、幸せすぎる気がする。彫刻のように整った寝顔に見惚れていたら、長い睫毛が揺れ、瞼がゆっくりと開いた。

「先に起きていたのか」

 寝起きの掠れた声って、なんでこんなにえっちなんだろう。
 独特の低音が鼓膜を揺らす感じがくすぐったくて、少しぞくぞくして、じんわりと身体が熱くなる。

「あまり可愛い顔をするな」

 わかりやすく顔に出ていたのか、ふっと目元を緩めたシディア様に頬をつつかれた。

「――ビィは何もしてこなかったか」

 身体を起こしたシディア様が、窓の外を見つめながら呟く。
 マッド・ビィに何か動きがあれば、それがどんな些細なことであれ、連絡が来ることになっていた。それがなかったってことは、昨日は何も起こらなかったのだろう。

「こちらが先手を打つことになりそうだな」

 シディア様は普段と変わらない口ぶりだった。
 なんでもないことのように言ったけど、今の言葉はこちらからマッド・ビィに戦闘を仕掛けるってことだ。

「今日……やるんですか?」
「お前の能力がビィの罠に有効ならそうなるだろう。仕掛けるなら早いほうがいいからな」

 シディア様の答えに、おれはごくりと唾を呑み込む。

 ――今日が、最終決戦になるかもしれないんだ。

 まだ実際の戦闘を目の当たりにしたことのないおれは、それがどういうものかうまく想像できなかった。
 だけど、恐ろしさは充分感じる。
 自分が戦いの場に赴くのもそうだけど、大切な人たちが危険な目に遭うかもしれないのだ。怖くないわけがなかった。




 結論からいうと、おれの能力は罠の毒にも有効だった。
 これまで人体に侵食した毒の治療しかしたことがなかったけど、毒単体の状態であっても、取り込んで無効化することができた。
 おれの身体への影響も特にない。
 念のためシディア様にも確認してもらったけど、毒はおれが触れた時点で完全に無効化されているとのことだった。

「バン様が幼い頃、〈蝕雨しょくう〉に当たっても平気だったのは、この体質のおかげだったのですね」

 結果を見たイェスコル様が、納得したように呟いた。
 何のことを言われたのか一瞬わからなかったけど、昔おれが旅行先で行方不明になったときの話だと気づいて、ぽんっと手を叩く。

「だからおれ、あのとき無事だったんだ」
「そのようですね。ずっと謎でしたが、〈蝕雨〉のような正体不明の危険物質まで無効化できる力を当時から持っていたのであれば納得です――……ガラディアーク様の災厄めいた魔力を含む体液を粘膜から摂取して平気なのも、同じ理由なのでしょうか」
「え? 何か言いました?」
「いえ、なんでもありませんよ」

 途中から小声で早口だったせいで、よく聞き取れなかった。
 気になって聞き返したけど、イェスコル様は首を横に振って教えてくれない。

「――では、準備を進めましょうか」

 マッド・ビィ討滅作戦の参加人数は驚くほど少なかった。
 昨日会議に参加していたシディア様、アカゾメさん、イェスコル様、レクセ、父さん、母さん、おれの七人がいわゆる実動部隊としてマッド・ビィのもとへ向かう。
 それぞれの幹部に仕える戦闘員は後方支援という形で控えてはいるものの、実際に〈地下〉最奥へは足を踏み入れないことになっていた。
 理由はマッド・ビィがどんな攻撃を仕掛けてくるか今も不明なことと、もう一つ――シディア様が全力で戦った場合、放たれた魔力圧によって味方側にも被害が出る可能性があるからだ。

 ――シディア様の全力……いったい、どんな感じなんだろ。

 シディア様が全力を出さないで済むならそれが一番だけど、たぶん……そんな簡単にはいかないだろう。
 そうなったとき、おれはシディア様の魔力圧に耐えられるんだろうか。恐怖や不安はあるけど、ちゃんと見届けたかった。
 たとえ危険でも、できるだけシディア様の傍にいたい。そのために戻ってきたんだから。

 ――それに全員無事でいられるよう、おれも皆のために頑張らないと。

 拳をぎゅっと握り締める。
 気合いを入れ直して、おれは皆のもとへ駆け寄った。
 
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