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101 VS 改造怪人
しおりを挟む「バン、大丈夫か?」
毒の罠を解除しながら〈地下〉最奥を目指す。
先頭は罠無効化役のおれ。そのすぐ後ろにいるのが、今おれに声をかけてくれたレクセだ。
「平気だよ。おれの毒耐性、シディア様とイェスコル様のお墨付きだし」
「そっちじゃない。いや、そっちもだが……お前、この場所に嫌な記憶しかないだろ。それは大丈夫なのか?」
「うん。そっちも平気っぽい。おれも大丈夫かなって思ってたけど、今日は皆も一緒だからかな。心配してくれてありがと」
レクセは、おれがあの日のことを思い出して気分を悪くしていないか心配してくれたらしい。
気にしてもらえたのが嬉しくてお礼を言ったのに、レクセは「ならいい」と素っ気なく言って、ぷいっと顔を横に向けてしまった。もしかしてツンデレ?
振り返ったついでに、さらに後ろを見る。
シディア様の姿が見える。首から下は外殻を纏っているけど、仮面はつけておらず素顔だ。
シディア様はおれの視線に気づくと、イェスコル様との会話を切り上げて、おれのほうへやってきた。
「あ、すみません。何かあったわけじゃなくて――」
「わかっている」
用事がないってわかってたのに、おれのところに来たの?
首を傾げながら顔を見上げていると、髪をくしゃりと掻き回すように撫でられる。鋭い爪のある外殻越しだからか、いつもより手つきは慎重だった。
シディア様は通路の先に視線を向けていた。
瞳の中にあるオーロラが、ゆらりと揺めきながら輝く。
「じきに通路を抜ける――やつの気配はないようだが、念のため戦闘準備をしておけ」
「はっ」
「わかりました」
それを伝えに来てくれたらしい。
次の角を曲がるとシディア様の言っていたとおり、通路の終わりが見える。
先はどうやら開けた場所になっているみたいだった。
「――何かいるな」
レクセの呟きが聞こえて、おれはぴたりと足を止める。
「え……でも、マッド・ビィの気配はないって」
「やつの配下だろ」
「まだ残ってたんだ……」
マッド・ビィの軍勢はほぼ制圧が済んでいると聞いていたから、残る敵はマッド・ビィ一人だけかと思っていた。
でもそうじゃなかったのだ。
「オクトス、アラネア――やれ」
「はっ」
「お任せください、首領様」
シディア様の命令が聞こえた。
立ち止まっていたおれとレクセの横を、父さんと母さんが颯爽と駆け抜けていく。おれはそんな二人を目で追うことしかできなかった。
「あいつらの戦いっぷり、オレたちも見にいこうぜ」
呆然と通路の先を見つめていたおれに、そう言ったのはアカゾメさんだ。
背中を押されるまま通路を抜けると、開けたホールのような場所で、父さんと母さんが巨大な人型の敵と戦っているのが見えた。
「怪人を繋ぎ合わせたバケモンだな」
敵は改造怪人だった。
その見た目はアカゾメさんが呟いたとおりだ。
おそらく、これまで倒された怪人たちの部位を無理やり縫い合わせて作られたのだろう。皮膚と鱗と甲殻が不規則に混じり合った身体の継ぎ目は、縫合痕がぼこぼこと醜く盛り上がっている。
頭は二つ、腕は七本、足は三本。
鱗のある肌、獣の爪、蝙蝠のような翼に蹄のある脚――いったいどれほどの怪人を繋ぎ合わせのか、見ただけでは数えきれないくらいだ。それでもなお、ぎりぎり人型を保てているのがとても異様に映った。
動きは不気味に歪んでいて気味が悪い。
その表情に生き物としての意思は全く感じられず、ただ命令どおりに暴れ回るだけの殺戮兵器にしか思えなかった。
「最悪だな。オレの手脚も使われてやがる」
「えっ」
「やはり、あれはお前のものか」
アカゾメさんの言葉に驚いていると、後ろからシディア様が合流する。シディア様は、父さんたちが戦う改造怪人を鋭い眼差しで見つめていた。
「それじゃあ、今のアカゾメさんの手脚って……?」
「あのクソ野郎の人体実験で新しく生えてきたやつだよ。元々生えてたやつは、ディアに斬り飛ばされちまったからよ」
「あの状態でよく生きていたものだ」
他にも衝撃の事実が飛び出してきたけど――そのシディア様が斬り飛ばしたっていう手脚をマッド・ビィが手に入れ、この改造怪人の材料にしたってことだろうか。
「ゾメの手脚は傷つけねえほうがいいのか?」
「でも、あの手脚が一番強敵よ。手加減なんてできるかしら」
戦っている父さんと母さんにもこの会話が聞こえていたらしい。
二人の問いに対して、アカゾメさんは首を横に振る。
「お前らの好きにやっちまってくれ! なんなら灰にしちまってもいい!」
よく通る声でそう叫んだ。
「じゃあ、二度と変な使い方されねえようにしといてやるよ」
「そうね。こんなのは屈辱だもの」
二人はアカゾメさんのことだけを言っているのではなさそうだった。この改造怪人のなかに、かつての仲間の一部を見つけたのかもしれない。
「この場は二人に任せて、俺たちは先へ進むぞ――バン、お前はどうする」
両親のことが気になるなら、ここに残ってもいいということだろう。
「――おれも行きます。連れていってください」
「ああ。共に来い」
父さんと母さんなら、きっと大丈夫だ。
それに、おれの能力が必要な場面がこの先にもまだあるかもしれないし。
――絶対に勝ってね、二人とも。
おれはシディア様たちと一緒に、さらに奥へと続く通路に足を踏み入れた。
◆◆◆
――〈地下〉ってこんなに深かったんだ。
おれが前に捕まっていた研究施設が第一層とすれば、父さんと母さんが戦っているところは第二層。そして今おれたち向かっている先はそこよりもさらに深い、第三層ということになる。
「奥から、ビィの気配がする――これ以上、逃げ隠れする気はないようだな」
「ですがその前に、多数の気配があります。マッド・ビィの軍勢は粗方削ったと思いましたが……これは新たに作り出したものでしょうか」
「かもしれんな」
通路の先を目視で確認することはできないけど、気配を読むのに長けたシディア様とイェスコル様には最奥に待ち構えるものがわかるようだ。
この先にもまだマッド・ビィ以外の敵がいる――次こそはおれも戦闘に加わることになるかもしれない。
初めての実戦に緊張が走る。
「雑魚どもと一緒にマッド・ビィも出てきた場合、やつのことはディアに任せりゃいいのか?」
「お前なら『オレに仕留めさせろ』と言うかと思ったが……いいのか? 俺に譲って」
「一発殴らせてくれりゃそれでいいぜ。雑魚は引き受けてやるよ」
「わかった。お前の分は残しておこう」
シディア様とアカゾメさん、二人のあいだでも話が決まったようだった。
「バン様、レクセ。我々はゾメの援護に回ります。マッド・ビィが新たに用意した軍勢は多数――そしておそらくは、厄介な相手になります」
おれとレクセに指示をくれたイェスコル様の発言は不穏だった。
――厄介な相手……? 数が多いのはわかったけど、それ以外にも何かあるってこと?
全く予想がつかない。
マッド・ビィのいる最奥は、もうすぐそこだった。
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