そのうさぎ、支配者につき

コオリ

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《幸季視点》

うさぎのクッキー 01

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Good boyいい子だね、コウキ」

 リウから褒められるたびに、幸季こうきの頭は気持ちよさで真っ白になる。プレイ中、ずっとそんなことが起こっていた。
 そこにたまに淡い色が混ざり、ほんのり幸せな気持ちに包まれる。

 ――これがSpaceスペースの兆しだったりするのかな。

 幸季にとって、生まれて初めての感覚だった。
 SpaceというのはSubがDomに完全に支配された状態で起こる現象のことだ。Domにコントロールされる多幸感で頭がお花畑状態になり、ふわふわとした感覚に包まれる。
 Spaceのことは幸季も知識としては知っていたが、その説明がピンと来たことはなかった。そんな感覚があるのかと他人事ひとごとのように思っただけだ。

 ――こんな、感覚なんだ。

 まだ完全にSpaceに入ったわけではなさそうだが、確かに気持ちがいい。
 このままリウにすべてを預けることができれば、自分がもっと幸せな気持ちになれるような気がする。

 ――本当に、あったなんて。

 Subと確定してから十年以上が経つが、Spaceを体験したことは一度もなかった。
 Spaceが起こる条件として、一番重要なのがDomとの信頼関係だ。
 リウとは今日初めて会ったばかりなのに――、前のパートナーとは十年かけても得られなかったものが、今自分のすぐ目の前にあるような感覚がする。
 視線をリウのほうへと向ける。
 リウのGlareを浴び続けた身体は、その顔を見るだけですぐに高まってしまうようだった。泣きそうになるほどの幸せな気持ちに、思わずリウの身体に縋りつきたくなる。
 無意識に身体が動く。
 腕を伸ばそうとした瞬間、無情にも終了時間を知らせるアラームが鳴り響いた。

「時間だね」
「……ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。コウキみたいな可愛いSubの相手をさせてもらえてよかったよ」

 破顔したリウに、くしゃくしゃと頭を撫でられる。
 雑な手つきだがそれがなんだか嬉しい。リウはこうするのが好きらしく、プレイ中にも何度かそうやって褒めてもらった。

 ――そうだ。勘違いしちゃいけないんだ。

 リウは金で買ったDomなのだ。幸季が想いを寄せていい相手ではない。
 自分から触れてしまう前でよかったと、伸ばしかけた手の平を見つめながら思う。

 ――あっという間だったな。

 お金で買った時間はすぐに終わってしまった。
 二時間もあったはずなのに、こんなにすぐに終わってしまうなんて。
 彼とのプレイはいつも決まって一時間だった。それでも毎回緊張を強いられていたせいか、実際の時間よりもずいぶん長く感じることが多かった。

 ――全然違った。

 リウのプレイと彼のプレイは全く違うものだった。
 ひどいことは一切されず、ただ幸季の欲求を満たすためだけに考えられた行為、――まさにそんな感じだった。
 こんなにも優しいプレイが存在したなんて。
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