5 / 34
《幸季視点》
うさぎのクッキー 01
しおりを挟む「Good boy、コウキ」
リウから褒められるたびに、幸季の頭は気持ちよさで真っ白になる。プレイ中、ずっとそんなことが起こっていた。
そこにたまに淡い色が混ざり、ほんのり幸せな気持ちに包まれる。
――これがSpaceの兆しだったりするのかな。
幸季にとって、生まれて初めての感覚だった。
SpaceというのはSubがDomに完全に支配された状態で起こる現象のことだ。Domにコントロールされる多幸感で頭がお花畑状態になり、ふわふわとした感覚に包まれる。
Spaceのことは幸季も知識としては知っていたが、その説明がピンと来たことはなかった。そんな感覚があるのかと他人事のように思っただけだ。
――こんな、感覚なんだ。
まだ完全にSpaceに入ったわけではなさそうだが、確かに気持ちがいい。
このままリウにすべてを預けることができれば、自分がもっと幸せな気持ちになれるような気がする。
――本当に、あったなんて。
Subと確定してから十年以上が経つが、Spaceを体験したことは一度もなかった。
Spaceが起こる条件として、一番重要なのがDomとの信頼関係だ。
リウとは今日初めて会ったばかりなのに――、前のパートナーとは十年かけても得られなかったものが、今自分のすぐ目の前にあるような感覚がする。
視線をリウのほうへと向ける。
リウのGlareを浴び続けた身体は、その顔を見るだけですぐに高まってしまうようだった。泣きそうになるほどの幸せな気持ちに、思わずリウの身体に縋りつきたくなる。
無意識に身体が動く。
腕を伸ばそうとした瞬間、無情にも終了時間を知らせるアラームが鳴り響いた。
「時間だね」
「……ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。コウキみたいな可愛いSubの相手をさせてもらえてよかったよ」
破顔したリウに、くしゃくしゃと頭を撫でられる。
雑な手つきだがそれがなんだか嬉しい。リウはこうするのが好きらしく、プレイ中にも何度かそうやって褒めてもらった。
――そうだ。勘違いしちゃいけないんだ。
リウは金で買ったDomなのだ。幸季が想いを寄せていい相手ではない。
自分から触れてしまう前でよかったと、伸ばしかけた手の平を見つめながら思う。
――あっという間だったな。
お金で買った時間はすぐに終わってしまった。
二時間もあったはずなのに、こんなにすぐに終わってしまうなんて。
彼とのプレイはいつも決まって一時間だった。それでも毎回緊張を強いられていたせいか、実際の時間よりもずいぶん長く感じることが多かった。
――全然違った。
リウのプレイと彼のプレイは全く違うものだった。
ひどいことは一切されず、ただ幸季の欲求を満たすためだけに考えられた行為、――まさにそんな感じだった。
こんなにも優しいプレイが存在したなんて。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
1,539
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる