彼女はこのあと、僕がおいしく頂きました

なしひと

文字の大きさ
8 / 54

8.白地さんはラブレターの内容を暗唱させられた

しおりを挟む
 それから、本当に。白地さんはラブレターの内容を暗唱させられた。

 微妙な言い回しまできっちりと。

 長過ぎる時間が終わって内容の正否を頷いた時、僕は耳まで真っ赤だったに違いない。

 白地さんの方はといえば、依然ナイフを引き抜いてもらえない左目から流れる血涙で元から襟まで真っ赤だったので、その顔色が変わったかはわからなかった。彼女の足先では言い間違えるたびに打ち付けられた釘が密生していた。

「今のでわかったことが二つあります」

 と、やはり一人だけ、表情を変えもしない浮月さん。

「記憶の連続性と、手紙の目的が星田くんをおびき寄せることではなかったという事実です」
「前者はともかく後者はどうして?」
「記憶に残るほど真剣に手紙を書いた旧白地さんは疑いなく星田くんに用があったのかもしれませんが、新白地さんの方は特別、星田くんに用があったわけでもなさそうだからです」
「ん?」

「つまり」彼女はトンカチを置いて振り返った。「この件において私たちが『異常』であることは、やはり関係ないのではないかということです」

 僅かにではあるけれど、その声には、ほっとしたような響きが混じっていた。

「じゃあやっぱり、向こうがこの学校にやってきたのは」
「はい、偶然だと思います。もし向こうの狙いがこちらなら、旧白地さんではなく、新白地さんの方がラブレターを書いたはずで、もしそうなら新白地さんはきっと真剣にそれを書かず記憶にも薄かっただろうと考えられるので」
「……」

 理屈として言わんとすることはわかった。けれど浮月さん自身、その言葉の残り半分にはまだ懐疑的な響きが混じっていた。

「少なくとも」自身の懸念を振り捨てるかのように。「この子の傷の治りは遅いですし、筋力もそう変化があるようには見えません」
「でも彼女の死体は消えたし生き返った」
「そこなんですよね。つまり、何かしらの因子が別にいると思うんです」
「旧白地さんを突き落とした誰かだよね」
「それです。で、」

 浮月さんは白地さんの方を振り返った。

「最後の質問です。その方は誰ですか?」
「……」
「これに答えてくれたら今すぐ解放してあげますし、何ならサービスで救急車も呼んであげましょうか?」

 浮月さんの気味が悪いほど優しい声に、しかし無言を貫く白地さんの瞳は先ほどとは一転、奇妙なまでに力強く光っていた。

「そういう情報はロックがかかるみたいだね」
「どちらかというと忠誠心っぽいですけど」
「……」

 白地さんはそれ以上、何を問われても答えそうになかった。実際に浮月さんが彼女の足首から膝まで、脛の骨に沿って一列分の釘を追加しても口を固く閉ざしたまま。「これはダメですね」 と、浮月さんの方が先に諦めてしまったほど。控えめに言っても、これは相当に大したものだと思う。

「今日はもう遅いですしこの辺で切り上げましょうか」、と。

 しかし一方で、浮月さんのそんな言葉が僕には少し意外だった。

「徹夜覚悟かと思ってた」
「今日殺されたA組の皆さんも明日には生き返っているのかとか、もし新白地さんがここで死んだら、今度は新々白地さんとして生き返るのかとか色々気になりますけど、その辺りは明日になれば嫌でもわかるでしょうし」

 今日はこのまま置き去って様子を見ましょう。逃げられたら? 逃げられたとしてもそれはそれで、と監視カメラを設置した。

 白地さんの方はといえば、拷問が終わって特に安堵したような様子もなく、ただこちらを一瞥して血の混じった唾液を吐き捨てただけだった。

 目に突き刺さったナイフはそのまま抜いてもらえなかった。

 ふと思うところがあって。「白地さん」と、僕は呼びかけてみた。

 こちらの声は間違いなく聞こえているはずなのに、顔を上げることさえしない。それでも耳を傾けている様子はあって、僕は続けて何かを口にしようと試みた。

 何か言うべきだと思っていた。彼女がここにいてこんな目にあっているのは少なからず僕の責任で、少なくとも昨日までの白地さんはこんな僕に想いを寄せてくれていたはずなのだから。

「……こんなことになってしまったけど、」「黙ってよ」

 ……。

 白地さんは相変わらずこちらを見もせずにうつむいたままで。

「哀れみで何言われたって嬉しくない」、と。
「……えっと、」これは。

 もしかして僕は今、白地さんにフラれたのだろうか。

 振り返ると、浮月さんが同情のこもった目でかぶりを振っていて。

 どうやらそういうことになってしまったらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

処理中です...