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8.白地さんはラブレターの内容を暗唱させられた
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それから、本当に。白地さんはラブレターの内容を暗唱させられた。
微妙な言い回しまできっちりと。
長過ぎる時間が終わって内容の正否を頷いた時、僕は耳まで真っ赤だったに違いない。
白地さんの方はといえば、依然ナイフを引き抜いてもらえない左目から流れる血涙で元から襟まで真っ赤だったので、その顔色が変わったかはわからなかった。彼女の足先では言い間違えるたびに打ち付けられた釘が密生していた。
「今のでわかったことが二つあります」
と、やはり一人だけ、表情を変えもしない浮月さん。
「記憶の連続性と、手紙の目的が星田くんをおびき寄せることではなかったという事実です」
「前者はともかく後者はどうして?」
「記憶に残るほど真剣に手紙を書いた旧白地さんは疑いなく星田くんに用があったのかもしれませんが、新白地さんの方は特別、星田くんに用があったわけでもなさそうだからです」
「ん?」
「つまり」彼女はトンカチを置いて振り返った。「この件において私たちが『異常』であることは、やはり関係ないのではないかということです」
僅かにではあるけれど、その声には、ほっとしたような響きが混じっていた。
「じゃあやっぱり、向こうがこの学校にやってきたのは」
「はい、偶然だと思います。もし向こうの狙いがこちらなら、旧白地さんではなく、新白地さんの方がラブレターを書いたはずで、もしそうなら新白地さんはきっと真剣にそれを書かず記憶にも薄かっただろうと考えられるので」
「……」
理屈として言わんとすることはわかった。けれど浮月さん自身、その言葉の残り半分にはまだ懐疑的な響きが混じっていた。
「少なくとも」自身の懸念を振り捨てるかのように。「この子の傷の治りは遅いですし、筋力もそう変化があるようには見えません」
「でも彼女の死体は消えたし生き返った」
「そこなんですよね。つまり、何かしらの因子が別にいると思うんです」
「旧白地さんを突き落とした誰かだよね」
「それです。で、」
浮月さんは白地さんの方を振り返った。
「最後の質問です。その方は誰ですか?」
「……」
「これに答えてくれたら今すぐ解放してあげますし、何ならサービスで救急車も呼んであげましょうか?」
浮月さんの気味が悪いほど優しい声に、しかし無言を貫く白地さんの瞳は先ほどとは一転、奇妙なまでに力強く光っていた。
「そういう情報はロックがかかるみたいだね」
「どちらかというと忠誠心っぽいですけど」
「……」
白地さんはそれ以上、何を問われても答えそうになかった。実際に浮月さんが彼女の足首から膝まで、脛の骨に沿って一列分の釘を追加しても口を固く閉ざしたまま。「これはダメですね」 と、浮月さんの方が先に諦めてしまったほど。控えめに言っても、これは相当に大したものだと思う。
「今日はもう遅いですしこの辺で切り上げましょうか」、と。
しかし一方で、浮月さんのそんな言葉が僕には少し意外だった。
「徹夜覚悟かと思ってた」
「今日殺されたA組の皆さんも明日には生き返っているのかとか、もし新白地さんがここで死んだら、今度は新々白地さんとして生き返るのかとか色々気になりますけど、その辺りは明日になれば嫌でもわかるでしょうし」
今日はこのまま置き去って様子を見ましょう。逃げられたら? 逃げられたとしてもそれはそれで、と監視カメラを設置した。
白地さんの方はといえば、拷問が終わって特に安堵したような様子もなく、ただこちらを一瞥して血の混じった唾液を吐き捨てただけだった。
目に突き刺さったナイフはそのまま抜いてもらえなかった。
ふと思うところがあって。「白地さん」と、僕は呼びかけてみた。
こちらの声は間違いなく聞こえているはずなのに、顔を上げることさえしない。それでも耳を傾けている様子はあって、僕は続けて何かを口にしようと試みた。
何か言うべきだと思っていた。彼女がここにいてこんな目にあっているのは少なからず僕の責任で、少なくとも昨日までの白地さんはこんな僕に想いを寄せてくれていたはずなのだから。
「……こんなことになってしまったけど、」「黙ってよ」
……。
白地さんは相変わらずこちらを見もせずにうつむいたままで。
「哀れみで何言われたって嬉しくない」、と。
「……えっと、」これは。
もしかして僕は今、白地さんにフラれたのだろうか。
振り返ると、浮月さんが同情のこもった目でかぶりを振っていて。
どうやらそういうことになってしまったらしい。
微妙な言い回しまできっちりと。
長過ぎる時間が終わって内容の正否を頷いた時、僕は耳まで真っ赤だったに違いない。
白地さんの方はといえば、依然ナイフを引き抜いてもらえない左目から流れる血涙で元から襟まで真っ赤だったので、その顔色が変わったかはわからなかった。彼女の足先では言い間違えるたびに打ち付けられた釘が密生していた。
「今のでわかったことが二つあります」
と、やはり一人だけ、表情を変えもしない浮月さん。
「記憶の連続性と、手紙の目的が星田くんをおびき寄せることではなかったという事実です」
「前者はともかく後者はどうして?」
「記憶に残るほど真剣に手紙を書いた旧白地さんは疑いなく星田くんに用があったのかもしれませんが、新白地さんの方は特別、星田くんに用があったわけでもなさそうだからです」
「ん?」
「つまり」彼女はトンカチを置いて振り返った。「この件において私たちが『異常』であることは、やはり関係ないのではないかということです」
僅かにではあるけれど、その声には、ほっとしたような響きが混じっていた。
「じゃあやっぱり、向こうがこの学校にやってきたのは」
「はい、偶然だと思います。もし向こうの狙いがこちらなら、旧白地さんではなく、新白地さんの方がラブレターを書いたはずで、もしそうなら新白地さんはきっと真剣にそれを書かず記憶にも薄かっただろうと考えられるので」
「……」
理屈として言わんとすることはわかった。けれど浮月さん自身、その言葉の残り半分にはまだ懐疑的な響きが混じっていた。
「少なくとも」自身の懸念を振り捨てるかのように。「この子の傷の治りは遅いですし、筋力もそう変化があるようには見えません」
「でも彼女の死体は消えたし生き返った」
「そこなんですよね。つまり、何かしらの因子が別にいると思うんです」
「旧白地さんを突き落とした誰かだよね」
「それです。で、」
浮月さんは白地さんの方を振り返った。
「最後の質問です。その方は誰ですか?」
「……」
「これに答えてくれたら今すぐ解放してあげますし、何ならサービスで救急車も呼んであげましょうか?」
浮月さんの気味が悪いほど優しい声に、しかし無言を貫く白地さんの瞳は先ほどとは一転、奇妙なまでに力強く光っていた。
「そういう情報はロックがかかるみたいだね」
「どちらかというと忠誠心っぽいですけど」
「……」
白地さんはそれ以上、何を問われても答えそうになかった。実際に浮月さんが彼女の足首から膝まで、脛の骨に沿って一列分の釘を追加しても口を固く閉ざしたまま。「これはダメですね」 と、浮月さんの方が先に諦めてしまったほど。控えめに言っても、これは相当に大したものだと思う。
「今日はもう遅いですしこの辺で切り上げましょうか」、と。
しかし一方で、浮月さんのそんな言葉が僕には少し意外だった。
「徹夜覚悟かと思ってた」
「今日殺されたA組の皆さんも明日には生き返っているのかとか、もし新白地さんがここで死んだら、今度は新々白地さんとして生き返るのかとか色々気になりますけど、その辺りは明日になれば嫌でもわかるでしょうし」
今日はこのまま置き去って様子を見ましょう。逃げられたら? 逃げられたとしてもそれはそれで、と監視カメラを設置した。
白地さんの方はといえば、拷問が終わって特に安堵したような様子もなく、ただこちらを一瞥して血の混じった唾液を吐き捨てただけだった。
目に突き刺さったナイフはそのまま抜いてもらえなかった。
ふと思うところがあって。「白地さん」と、僕は呼びかけてみた。
こちらの声は間違いなく聞こえているはずなのに、顔を上げることさえしない。それでも耳を傾けている様子はあって、僕は続けて何かを口にしようと試みた。
何か言うべきだと思っていた。彼女がここにいてこんな目にあっているのは少なからず僕の責任で、少なくとも昨日までの白地さんはこんな僕に想いを寄せてくれていたはずなのだから。
「……こんなことになってしまったけど、」「黙ってよ」
……。
白地さんは相変わらずこちらを見もせずにうつむいたままで。
「哀れみで何言われたって嬉しくない」、と。
「……えっと、」これは。
もしかして僕は今、白地さんにフラれたのだろうか。
振り返ると、浮月さんが同情のこもった目でかぶりを振っていて。
どうやらそういうことになってしまったらしい。
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