紅葉-くれは-

菊池まりな

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第14話 償いの記憶

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紅葉の舞う赤い世界の中、祐真は少女の幻影を見つめていた。

 彼女は薄い微笑みを浮かべていたが、その目には深い悲しみが宿っている。



「祐真さん……」

 その声は、彼の心臓を直接掴むように震わせる。



 彼女の名を口に出そうとしたが、声が出ない。

 あの事件の日、目の前で命を落とした少女──名を呼ぶことすら、祐真には許されていないように思えた。



「どうして、来てくれなかったの?」

 少女の唇がそう動いた瞬間、祐真の胸に鋭い痛みが走った。



 脳裏に、過去の記憶が鮮烈によみがえる。









 雨の夜だった。

 祐真は当時、まだ二十代前半の刑事見習い。連続失踪事件の調査に奔走していた。

 通報を受け、少女の行方を追って森へ向かったが、上司から「証拠が揃うまで動くな」と制止され、彼は町に留まった。



 ──だが、その数時間後。

 少女の遺体が森の奥で発見された。



 祐真は現場に駆けつけたが、雨に濡れた彼女の体を抱き上げた時には、もう手遅れだった。

 その温もりが失われていく瞬間の感覚は、今も彼の掌に焼き付いて離れない。







 幻影の少女が囁いた。

「あなたは、私を助けられなかった」



 祐真は拳を握り、唇を噛みしめた。

「……あの時、俺は上の命令に従った。だが、本当は自分が動く勇気がなかっただけだ。

 救えなかったのは……俺の弱さのせいだ」



 紅葉の風が強まり、少女の影が揺らめいた。



「それでも、どうして今になって、また森に来たの?」

 問いかけは静かだが、胸を抉るように鋭い。



 祐真はゆっくりと目を閉じ、吐き出すように答えた。

「もう二度と、同じ後悔を繰り返さないためだ。

 あの時の俺は臆病だった。だからこそ、今度は足を止めない。

 もし、この森がまた誰かを飲み込もうとするなら──俺が止める」



 少女はじっと祐真を見つめていたが、やがて表情を和らげた。

 紅葉の中で、その姿が淡く透け始める。



「……償いなんて、できないよ」

「それでも、俺は進む。たとえ報われなくても」



 少女は涙を浮かべながら微笑んだ。

「……なら、せめて見届けるね」



 その声と共に、少女の姿は霧のように消えていった。

 残されたのは、紅葉と祐真の荒い呼吸だけ。



 足首の鎖は完全に消え、彼は自由を取り戻していた。

 しかしその自由は、重い責任と背中合わせのものだった。



 祐真は血に濡れた掌を見つめ、小さく呟いた。

「これが……俺の償いなんだ」

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