紅葉-くれは-

菊池まりな

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第40話 境界の印

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参道の奥へ進むにつれて、空気は冷たく重くなり、風すら止んだかのように張り詰めていた。春香は無意識に胸元の数珠を握りしめ、美奈は懐中電灯を持つ手を震わせている。

「……ここ、だ」
古沢住職が立ち止まり、苔むした石段を指差した。

そこには、半ば土に埋もれた古い石碑があった。人の背丈ほどもあるその石は、ひび割れと苔に覆われながらも、中央に奇妙な紋が刻まれていた。まるで円の中に複雑な線が絡み合い、人影のようにも獣のようにも見える。

春香が息を呑む。
「……これが……境界の印……?」

古沢住職は深くうなずく。
「この印は“こちら”と“向こう”を隔てる楔。だが、弱まりつつある。子どもたちが呼ばれ、消えるのは──この印が揺らいだからだ」

美奈が震える声で言った。
「紅葉は……ここで……?」

その時、祐真がふらりと一歩、石碑に近づいた。光を当てると、石の表面に赤黒い染みが浮かび上がった。乾いてはいるが、それは血の跡のように見えた。

「……俺は、ここを知っている」
祐真の声が低く響く。
「二十年前、美桜ちゃんが消えた時……俺たちは遊びながら、この石を囲んでいた。突然、声が聞こえたんだ。『こちらへ』って……」

春香と美奈は同時に息を呑む。

祐真の瞳はどこか遠くを見ていた。
「そして……美桜ちゃんはこの印に手を伸ばした瞬間……消えた」

沈黙が落ちる。夜の森は音を失い、三人の鼓動だけが響く。

美奈が春香の腕を掴んだ。
「紅葉も……同じように……」

春香の胸を絶望が締めつけた。だが同時に、娘の痕跡を掴んだ確かな手応えもあった。

古沢住職が厳しい表情で言う。
「ここから先は、祓うべきものと対峙せねばならぬ。……覚悟はあるか?」

春香と美奈は視線を交わし、強くうなずいた。
祐真もまた、恐怖を押し殺しながら答えた。
「……今度は、俺が守る番だ」

その瞬間、石碑の紋様が淡く赤く光り始めた。まるで彼らの決意に応じるかのように──。


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