41 / 155
第40話 境界の印
しおりを挟む
参道の奥へ進むにつれて、空気は冷たく重くなり、風すら止んだかのように張り詰めていた。春香は無意識に胸元の数珠を握りしめ、美奈は懐中電灯を持つ手を震わせている。
「……ここ、だ」
古沢住職が立ち止まり、苔むした石段を指差した。
そこには、半ば土に埋もれた古い石碑があった。人の背丈ほどもあるその石は、ひび割れと苔に覆われながらも、中央に奇妙な紋が刻まれていた。まるで円の中に複雑な線が絡み合い、人影のようにも獣のようにも見える。
春香が息を呑む。
「……これが……境界の印……?」
古沢住職は深くうなずく。
「この印は“こちら”と“向こう”を隔てる楔。だが、弱まりつつある。子どもたちが呼ばれ、消えるのは──この印が揺らいだからだ」
美奈が震える声で言った。
「紅葉は……ここで……?」
その時、祐真がふらりと一歩、石碑に近づいた。光を当てると、石の表面に赤黒い染みが浮かび上がった。乾いてはいるが、それは血の跡のように見えた。
「……俺は、ここを知っている」
祐真の声が低く響く。
「二十年前、美桜ちゃんが消えた時……俺たちは遊びながら、この石を囲んでいた。突然、声が聞こえたんだ。『こちらへ』って……」
春香と美奈は同時に息を呑む。
祐真の瞳はどこか遠くを見ていた。
「そして……美桜ちゃんはこの印に手を伸ばした瞬間……消えた」
沈黙が落ちる。夜の森は音を失い、三人の鼓動だけが響く。
美奈が春香の腕を掴んだ。
「紅葉も……同じように……」
春香の胸を絶望が締めつけた。だが同時に、娘の痕跡を掴んだ確かな手応えもあった。
古沢住職が厳しい表情で言う。
「ここから先は、祓うべきものと対峙せねばならぬ。……覚悟はあるか?」
春香と美奈は視線を交わし、強くうなずいた。
祐真もまた、恐怖を押し殺しながら答えた。
「……今度は、俺が守る番だ」
その瞬間、石碑の紋様が淡く赤く光り始めた。まるで彼らの決意に応じるかのように──。
「……ここ、だ」
古沢住職が立ち止まり、苔むした石段を指差した。
そこには、半ば土に埋もれた古い石碑があった。人の背丈ほどもあるその石は、ひび割れと苔に覆われながらも、中央に奇妙な紋が刻まれていた。まるで円の中に複雑な線が絡み合い、人影のようにも獣のようにも見える。
春香が息を呑む。
「……これが……境界の印……?」
古沢住職は深くうなずく。
「この印は“こちら”と“向こう”を隔てる楔。だが、弱まりつつある。子どもたちが呼ばれ、消えるのは──この印が揺らいだからだ」
美奈が震える声で言った。
「紅葉は……ここで……?」
その時、祐真がふらりと一歩、石碑に近づいた。光を当てると、石の表面に赤黒い染みが浮かび上がった。乾いてはいるが、それは血の跡のように見えた。
「……俺は、ここを知っている」
祐真の声が低く響く。
「二十年前、美桜ちゃんが消えた時……俺たちは遊びながら、この石を囲んでいた。突然、声が聞こえたんだ。『こちらへ』って……」
春香と美奈は同時に息を呑む。
祐真の瞳はどこか遠くを見ていた。
「そして……美桜ちゃんはこの印に手を伸ばした瞬間……消えた」
沈黙が落ちる。夜の森は音を失い、三人の鼓動だけが響く。
美奈が春香の腕を掴んだ。
「紅葉も……同じように……」
春香の胸を絶望が締めつけた。だが同時に、娘の痕跡を掴んだ確かな手応えもあった。
古沢住職が厳しい表情で言う。
「ここから先は、祓うべきものと対峙せねばならぬ。……覚悟はあるか?」
春香と美奈は視線を交わし、強くうなずいた。
祐真もまた、恐怖を押し殺しながら答えた。
「……今度は、俺が守る番だ」
その瞬間、石碑の紋様が淡く赤く光り始めた。まるで彼らの決意に応じるかのように──。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる