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第87話 開かれた端末
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ペンダントを端末のスロットにかざすと、金属が触れ合うような乾いた音が響き、赤い光が一瞬だけ白へと変わった。
スクリーンが明滅し、やがて低い駆動音とともに古びた機械が息を吹き返す。
──《ACCESS GRANTED》
文字が浮かぶと同時に、制御室全体が微かに震えた。
警告灯の赤が消え、代わりに青白い光が天井から落ちてくる。
廃墟に見えていた空間が、一瞬にして無機質な研究施設へと姿を変えたようだった。
「……変わったな」
純が周囲を警戒しながら呟く。
「ここは、ただの工場なんかじゃない。──研究拠点だ」
ユリが端末に視線を固定した。
「見て。データが展開されていくわ」
スクリーンに次々と文字列が流れていく。
映像ファイル、実験記録、そして人名のリスト。
その中に、美佳は自分の名前を見つけて息をのんだ。
「……わたし……?」
七海彩音、朝倉純、有栖川玲、宮下ユリ──彼女たちの名もある。
すべての名前が「被験者リスト」として記載されていた。
「冗談……でしょ」
ユリの顔が青ざめる。
「私たちが……“実験対象”?」
「まさか……」
純が拳を握り締める。
「じゃあ、俺たちの出会いも、これまでの出来事も……すべて仕組まれていたってことか?」
玲が唇を歪めた。
「だとしたら、笑えない皮肉ね。私たちは駒か」
美佳はスクリーンを凝視した。
映し出された次の項目に、彼女は凍りついた。
──《PROJECT: ANKETO》
──《OBJECTIVE: 心理的選択傾向の収集》
──《METHOD: 無意識下でのアンケート誘導》
「アンケート……?」
美佳は思わず口にした。
「これが……この物語の名前……?」
スクリーンにノイズが走り、突然、女性の声が流れ出した。
《……聞こえる? ──あなたたちに、選んでほしいの》
それは紛れもなく、あの電話の声だった。
若く澄んだ声が、機械のざらつきを通して響く。
「やっぱり……」
美佳の瞳が揺れる。
「最初から……わたしたちは、この“声”に導かれていたんだ」
純が美佳の肩に手を置いた。
「まだ正体はわからない。でも一つだけ確かだ。この声は俺たちを“試している”」
玲が端末のスクリーンに目をやり、低く笑った。
「だったら、乗ってやる。この“アンケート”とやらに」
ユリは小さく首を振った。
「……でも、選択を誤れば、取り返しがつかないかもしれない」
そのとき、スクリーンに二つの選択肢が浮かび上がった。
──《A: すべての記録を公開する》
──《B: 記録を封印し、現状維持とする》
制御室の空気が凍りついた。
誰もすぐには言葉を発せなかった。
美佳は、握りしめたペンダントの熱を感じながら、深く息を吸った。
「選ばなきゃいけないんだね……わたしたちが」
スクリーンが明滅し、やがて低い駆動音とともに古びた機械が息を吹き返す。
──《ACCESS GRANTED》
文字が浮かぶと同時に、制御室全体が微かに震えた。
警告灯の赤が消え、代わりに青白い光が天井から落ちてくる。
廃墟に見えていた空間が、一瞬にして無機質な研究施設へと姿を変えたようだった。
「……変わったな」
純が周囲を警戒しながら呟く。
「ここは、ただの工場なんかじゃない。──研究拠点だ」
ユリが端末に視線を固定した。
「見て。データが展開されていくわ」
スクリーンに次々と文字列が流れていく。
映像ファイル、実験記録、そして人名のリスト。
その中に、美佳は自分の名前を見つけて息をのんだ。
「……わたし……?」
七海彩音、朝倉純、有栖川玲、宮下ユリ──彼女たちの名もある。
すべての名前が「被験者リスト」として記載されていた。
「冗談……でしょ」
ユリの顔が青ざめる。
「私たちが……“実験対象”?」
「まさか……」
純が拳を握り締める。
「じゃあ、俺たちの出会いも、これまでの出来事も……すべて仕組まれていたってことか?」
玲が唇を歪めた。
「だとしたら、笑えない皮肉ね。私たちは駒か」
美佳はスクリーンを凝視した。
映し出された次の項目に、彼女は凍りついた。
──《PROJECT: ANKETO》
──《OBJECTIVE: 心理的選択傾向の収集》
──《METHOD: 無意識下でのアンケート誘導》
「アンケート……?」
美佳は思わず口にした。
「これが……この物語の名前……?」
スクリーンにノイズが走り、突然、女性の声が流れ出した。
《……聞こえる? ──あなたたちに、選んでほしいの》
それは紛れもなく、あの電話の声だった。
若く澄んだ声が、機械のざらつきを通して響く。
「やっぱり……」
美佳の瞳が揺れる。
「最初から……わたしたちは、この“声”に導かれていたんだ」
純が美佳の肩に手を置いた。
「まだ正体はわからない。でも一つだけ確かだ。この声は俺たちを“試している”」
玲が端末のスクリーンに目をやり、低く笑った。
「だったら、乗ってやる。この“アンケート”とやらに」
ユリは小さく首を振った。
「……でも、選択を誤れば、取り返しがつかないかもしれない」
そのとき、スクリーンに二つの選択肢が浮かび上がった。
──《A: すべての記録を公開する》
──《B: 記録を封印し、現状維持とする》
制御室の空気が凍りついた。
誰もすぐには言葉を発せなかった。
美佳は、握りしめたペンダントの熱を感じながら、深く息を吸った。
「選ばなきゃいけないんだね……わたしたちが」
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