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第29話 侵入者アラート-ラピスの防衛機構
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ユリと美佳がコアデータに近づいたその瞬間、空間に異変が走った。辺りの光が一気に青白く点滅し始め、警告音のような低音が地鳴りのように響く。
「侵入者を確認。LAPISシステム防衛プロトコル、起動します」
機械的な女性の声が空間全体に響き渡った。声に反応するように、宙に浮かんだ幾何学模様が回転を始め、中央の立方体──コアデータの周囲を囲むように結界が展開される。
「来たわね……防衛機構」
ユリは怯むことなく立ち上がると、美佳の前に腕を広げて立った。
「後ろにいて、美佳。ここはわたしが対処する」
「でも……ユリ、一人でなんて無理だよ!」
「わたしには、LAPISのシステムにアクセスできる裏ルートがある。もともと“管理補助者”として潜入してたの。自分の意思で、ここに来たのよ」
ユリの声には、迷いがなかった。
空間の一角に、黒い靄のようなものが渦巻き始める。それは形を取りながら、人型に変化し、美佳の目の前に立ちふさがった。
「……これが、ラピスの“防衛存在”? 人間の形をしてる……」
「これは“記憶に囚われた人たち”の投影なの。自分を失い、再構築に完全に飲まれた者たち……意志を持たない、プログラムに支配された影」
影たちが一斉に美佳たちへと襲いかかってくる。ユリは懐から小型の端末を取り出すと、それに手をかざした。すると、空間の一部がまばゆい光を放ち、何かのシールドのようなエネルギーが発動する。
「シールド展開。5分しか持たない。今のうちに、あのコアに接触して!」
「わ、わかった!」
美佳は息を詰めながら、コアへ向かって走り出す。周囲を舞う光、警告音、迫りくる影。まるで夢の中を走っているような感覚だった。だが、美佳は知っていた。
これは現実だ。彼女の“記憶”と“存在”がかかった戦いだ。
あと少し──コアまで、あと数メートル。
だが、突如として巨大な黒い腕が彼女の前に現れた。それは影の集合体のような形をしており、美佳を飲み込もうとする。
「……ダメ! ここで終わりたくない!」
その瞬間、美佳の胸の奥から熱い光が弾けた。手のひらが自然に前に出て、まるで光を放つような感覚とともに、黒い腕が一瞬で霧散する。
「なに、これ……!?」
ユリが目を見開いた。
「……覚醒しかけてる。美佳、あなた自身が“鍵”なのかもしれない。あなたの記憶が、LAPISを制御できるんだわ」
その言葉に、美佳は自分の中で何かが開かれるのを感じた。
忘れていた感情。失われた記憶。誰かを大切に思っていた時間。ぬくもり。
「わたし、思い出しかけてる……!」
そして、美佳の手がついに、コアデータに触れた。
「侵入者を確認。LAPISシステム防衛プロトコル、起動します」
機械的な女性の声が空間全体に響き渡った。声に反応するように、宙に浮かんだ幾何学模様が回転を始め、中央の立方体──コアデータの周囲を囲むように結界が展開される。
「来たわね……防衛機構」
ユリは怯むことなく立ち上がると、美佳の前に腕を広げて立った。
「後ろにいて、美佳。ここはわたしが対処する」
「でも……ユリ、一人でなんて無理だよ!」
「わたしには、LAPISのシステムにアクセスできる裏ルートがある。もともと“管理補助者”として潜入してたの。自分の意思で、ここに来たのよ」
ユリの声には、迷いがなかった。
空間の一角に、黒い靄のようなものが渦巻き始める。それは形を取りながら、人型に変化し、美佳の目の前に立ちふさがった。
「……これが、ラピスの“防衛存在”? 人間の形をしてる……」
「これは“記憶に囚われた人たち”の投影なの。自分を失い、再構築に完全に飲まれた者たち……意志を持たない、プログラムに支配された影」
影たちが一斉に美佳たちへと襲いかかってくる。ユリは懐から小型の端末を取り出すと、それに手をかざした。すると、空間の一部がまばゆい光を放ち、何かのシールドのようなエネルギーが発動する。
「シールド展開。5分しか持たない。今のうちに、あのコアに接触して!」
「わ、わかった!」
美佳は息を詰めながら、コアへ向かって走り出す。周囲を舞う光、警告音、迫りくる影。まるで夢の中を走っているような感覚だった。だが、美佳は知っていた。
これは現実だ。彼女の“記憶”と“存在”がかかった戦いだ。
あと少し──コアまで、あと数メートル。
だが、突如として巨大な黒い腕が彼女の前に現れた。それは影の集合体のような形をしており、美佳を飲み込もうとする。
「……ダメ! ここで終わりたくない!」
その瞬間、美佳の胸の奥から熱い光が弾けた。手のひらが自然に前に出て、まるで光を放つような感覚とともに、黒い腕が一瞬で霧散する。
「なに、これ……!?」
ユリが目を見開いた。
「……覚醒しかけてる。美佳、あなた自身が“鍵”なのかもしれない。あなたの記憶が、LAPISを制御できるんだわ」
その言葉に、美佳は自分の中で何かが開かれるのを感じた。
忘れていた感情。失われた記憶。誰かを大切に思っていた時間。ぬくもり。
「わたし、思い出しかけてる……!」
そして、美佳の手がついに、コアデータに触れた。
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