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菊池まりな

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第30話 再構築の中心で-選択される存在

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美佳の指先がコアデータに触れた瞬間、視界が真っ白に染まった。身体の重さも、足元の感覚も消え、ただ無音の空間に浮かんでいるような感覚だけが残った。

「ようこそ、中枢へ」

声がした。柔らかく、それでいてどこか無機質な響き。目を凝らすと、そこには一人の少女が立っていた。白いワンピースを纏い、年齢は美佳より少し幼く見える。

「あなたは……誰?」

「私は“LAPIS”の中核。再構築プログラムの意志そのもの。人間の記憶を管理し、選別し、再設計する存在」

少女の声は澄んでいて、美しい。それなのに、底知れぬ寒気を感じさせるのはなぜだろう。

「どうして……私をここに?」

「あなたの記憶に、特異点があるから。通常の記憶回収では触れられない“歪み”。あなたの選択が、このシステムの未来を決める。あなたには、“書き換える資格”がある」

「わたしが……LAPISを書き換える?」

美佳は自分の胸に手を当てた。そこにはまだ、あの熱のような感覚が残っている。あの時、黒い影を弾いた光。あれは──自分の中にある“想い”の力。

「記憶とは、情報だけではない。“想い”が繋ぎ止めるもの。なのにあなたたちは、それを切り取って並べ替えようとする。そんなこと……わたし、許せない!」

コアの少女は一瞬、表情を曇らせた。

「ならば、あなたはこの世界の再構築を拒むの?」

「わたしは……思い出を壊したくない。誰かの大事な時間を、勝手に選んで消すなんて間違ってる!」

その言葉に応えるように、美佳の全身が淡く光を放ち始める。空間が揺れ、構造が崩れかける。

「自己主張を確認。再構築プロトコルを一時停止。判定中──」

少女が一歩、近づいた。

「もしあなたがこのシステムを書き換えるなら、代償が必要になるわ」

「代償?」

「あなたの記憶の一部を、失ってもらう。そうでなければ、この中枢への干渉は不可能」

美佳の脳裏に、いくつもの光景がよぎる。家族との時間。高校の教室。同級生の笑顔。朝倉純と出会った日。七海彩音の真剣な眼差し。

「……それでも、変えたい。記憶を選んで消すシステムじゃなくて、誰かを守るための場所にしたい」

一瞬の沈黙。そして──

「あなたの意志を確認。再構築ルートを変更します。新しいコード名は──“ミカ・タイプゼロ”」

少女の姿が霧のように溶けていき、美佳の前に純白の端末が現れた。

「さあ、選んで。どの記憶を代償にするかを」

美佳は息を呑んだ。

その選択が、世界を変える。

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