群青色-まだ名前のない色-

第40話 言葉にならない想い

中間テストが終わった翌日、放課後の図書室。窓際の机で千尋が本を読み、陸はノートを広げてサッカー部の練習メニューを書いていた。そこに私と澪が加わり、四人が自然に顔をそろえる形になった。

「やっと解放されたなー！」
　陸が机に突っ伏しながら伸びをする。
「おかげで夜中まで勉強したんだから。眠い」
　千尋はさらりと言いつつも、目の下にはうっすらと隈があった。

　そんな軽い会話の中で、澪はしばらく黙っていた。けれど、ふと顔を上げて、意を決したように口を開く。
「……あのね」

　陸と千尋が同時に顔を向ける。私も隣で静かに耳を傾ける。
　澪は少し唇を噛んだあと、震える声で言った。
「最近、家のことでいろいろあって……。どうしたらいいか分からなくて」

　言葉を重ねるたびに、澪の肩が小さく震える。
「でも、弱音を吐いたら迷惑になるって思って、ずっと黙ってた。だけど……今日、ここにいて……みんなと話してて……なんか、少しだけ勇気が出た」

　千尋が本を閉じて、落ち着いた声で言う。
「澪、一人で抱え込む方がよっぽど危ないんだよ。迷惑なんかじゃない」
　陸もうなずきながら、真剣な表情を見せる。
「そうだ。困ったときくらい、俺たちに頼れよ」

　私は澪の手にそっと自分の手を重ねた。
「澪が言ってくれて、うれしい。隣にいるから」

　その一言に、澪の瞳が大きく揺れた。やがて、堰せきを切ったように涙が溢れる。
「……ありがとう。本当に……ありがとう」

　夕暮れの図書室に差し込む光が、四人の間を優しく照らしていた。澪の心の扉が、ほんの少し開いた瞬間だった。