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第80話 知られたくない鼓動
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土曜の午後。
カーテンの隙間から射し込む光が、テーブルの上のマグカップを照らしている。
朱里はソファに腰を沈め、膝の上にノートパソコンを開いたまま、ページをスクロールしていた。
──中小企業診断士 二次試験 勉強法。
嵩が合格した資格。その名を見ただけで、昨日の雨の夜のことを思い出す。
「また映画行きたいです」
自分の口から出た言葉が、まだ耳の奥で反響していた。
そして嵩が少し驚いたように笑って、「いいね。また行こう」と答えた、あの声も。
朱里はスマホを手に取った。
LINEを開くと、最後のメッセージ履歴には嵩の名前が並んでいる。
『無事に帰れました?』
『はい。傘ありがとうございました』
そこまで送って、その先に何も続けられなかった。
“また映画、いつ行きますか?”
そう打って、消す。
打って、消す。
何度も繰り返すうちに、心臓が痛くなった。
あんなに自然に笑ってくれたのに、
いざ自分から誘うとなると、どうしてこんなに勇気が出ないんだろう。
テーブルの上のマグカップから、ミルクティーの香りがふわりと立ちのぼる。
朱里は小さく息を吐き、つぶやいた。
「……ほんと、私ってこじらせてる」
その瞬間、スマホが震えた。
画面を見ると、“平田嵩”の名前。
──まさか、今のタイミングで。
『この前の映画、面白かったよな。チケット、もう一組もらってさ。来週どう?』
目が止まった。
息を呑む。心臓の鼓動が、さっきよりもはっきりと聞こえる。
指先が震えて、すぐに返事が打てない。
「……うそ、タイミング良すぎ」
けれど、その“偶然”が嬉しくて仕方なかった。
朱里は小さく笑い、指先で画面をなぞる。
──『行きたいです』
そう送信したあと、スマホを胸に抱いた。
ほんの少し前まで「嫌い」って言葉で隠していた気持ちが、
いま、静かに形になり始めているのを感じていた。
カーテンの隙間から射し込む光が、テーブルの上のマグカップを照らしている。
朱里はソファに腰を沈め、膝の上にノートパソコンを開いたまま、ページをスクロールしていた。
──中小企業診断士 二次試験 勉強法。
嵩が合格した資格。その名を見ただけで、昨日の雨の夜のことを思い出す。
「また映画行きたいです」
自分の口から出た言葉が、まだ耳の奥で反響していた。
そして嵩が少し驚いたように笑って、「いいね。また行こう」と答えた、あの声も。
朱里はスマホを手に取った。
LINEを開くと、最後のメッセージ履歴には嵩の名前が並んでいる。
『無事に帰れました?』
『はい。傘ありがとうございました』
そこまで送って、その先に何も続けられなかった。
“また映画、いつ行きますか?”
そう打って、消す。
打って、消す。
何度も繰り返すうちに、心臓が痛くなった。
あんなに自然に笑ってくれたのに、
いざ自分から誘うとなると、どうしてこんなに勇気が出ないんだろう。
テーブルの上のマグカップから、ミルクティーの香りがふわりと立ちのぼる。
朱里は小さく息を吐き、つぶやいた。
「……ほんと、私ってこじらせてる」
その瞬間、スマホが震えた。
画面を見ると、“平田嵩”の名前。
──まさか、今のタイミングで。
『この前の映画、面白かったよな。チケット、もう一組もらってさ。来週どう?』
目が止まった。
息を呑む。心臓の鼓動が、さっきよりもはっきりと聞こえる。
指先が震えて、すぐに返事が打てない。
「……うそ、タイミング良すぎ」
けれど、その“偶然”が嬉しくて仕方なかった。
朱里は小さく笑い、指先で画面をなぞる。
──『行きたいです』
そう送信したあと、スマホを胸に抱いた。
ほんの少し前まで「嫌い」って言葉で隠していた気持ちが、
いま、静かに形になり始めているのを感じていた。
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