大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

菊池まりな

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第178話 話す場所を、先に決めよう

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翌日。

仕事終わりが近づくにつれ、朱里の集中力は静かに削られていった。

(……場所、か)

嵩からのメッセージは、まだ頭の奥に残っている。

《ちゃんと話せる場所、作ろう》

“場所”と言われただけで、胸がざわつく。

言葉より先に、覚悟を試されている気がした。

定時。

席を立つタイミングを探していると、スマホが

震えた。

嵩だ。

《今日、少しだけ時間ある?》 

《歩きながらじゃなくてもいい》

朱里は一度、画面を伏せる。

歩きながらは、もう限界だ。

流されて、決めきれなくなる。

(……ちゃんと、向き合うなら)

ゆっくり打つ。

《あります》 
《座って話せるところがいいです》
すぐに既読がつく。
《わかった》 
《じゃあ、駅前の喫茶店》 
《静かなところ》

朱里の肩から、少し力が抜けた。

(選ばせてくれた)

そのことが、何よりありがたい。

会社を出ると、嵩が待っていた。

「お疲れさま」

「……お疲れさまです」

並んで歩くが、今日は歩幅を合わせる意識はしなかった。

急がない。

寄り添いすぎない。

駅前の喫茶店。

夜は客が少なく、落ち着いた照明。

窓際の席に案内される。

コーヒーを注文し、しばし沈黙。

でも、今日は
沈黙が“逃げ”じゃなかった。

「ここ、選んでくれてありがとう」 
嵩が言う。

「……私が、言いましたから」 
朱里は少し照れた。

「それが、嬉しかった」

嵩はそう言って、カップに視線を落とす。

「前は、帰り道で全部済ませようとしてた」 「流れで、雰囲気で」 
「でも、今回は……」

言葉を探している。

朱里は、急かさなかった。

「……ここなら」 
嵩は続ける。 
「ちゃんと、決められる気がする」

朱里は、頷いた。
「私も」 
「逃げ場がない場所、選びたかった」
少しだけ、笑う。
「重いですね」

「うん」
 嵩も笑った。 
「でも、必要な重さだと思う」
店内に、スプーンの音が響く。

「今日は」 
嵩が言う。 
「場所を決めるだけでいい?」

朱里は、少し考えてから答えた。
「……はい」 
「言葉は、もう少し準備させてください」
「待つ」 
即答だった。
その一言に、嘘はなかった。

「じゃあ」
 朱里はカップを持ち上げる。 
「次は、ちゃんと話す日に」

嵩も、カップを持ち上げる。

「うん」 
「逃げない日に」

カップが、静かに触れ合う。

それだけで、
一歩前に進んだ気がした。
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