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第181話 待つ側の時間
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その日、嵩は定時より少し早く会社を出た。
早く着きたいわけじゃない。
遅れたくなかった。
(待たせる側には、なりたくない)
駅前の喫茶店。
昨日と同じ場所、同じ窓際。
店員に案内され、席に着く。
コーヒーを頼み、スマホを伏せる。
朱里に連絡はしなかった。
(急かすことになる)
待つ、と決めたのは自分だ。
時計を見る。
まだ、十分以上ある。
(……落ち着け)
背もたれに体を預け、深く息を吸う。
転勤。
答え。
選択。
朱里の顔が浮かぶたび、
その全部が一つに結びついて、胸が詰まる。
(正直に言えばいい)
(でも、正直って何だ)
行く。
行かない。
それだけの話じゃない。
(俺は、どうしたい?)
しばらく考えて、苦笑する。
(……まだ、決めきれてない)
それでも、今日話すことは決まっている。
隠さない。
濁さない。
逃げない。
美鈴の言葉が、ふいに浮かぶ。
“待つなら、ちゃんと待ちなさい”
待つことは、
相手に考える時間を渡すこと。
でも同時に、
自分も逃げずに立っていること。
(……立ててるかな)
カップに手を伸ばす。
温度が、現実を引き戻す。
店のドアが開く音がするたび、
無意識に顔を上げてしまう。
(緊張しすぎだ)
スマホが震えた。
朱里から。
《今、向かってます》
短い一文。
それだけで、胸の奥がほどけた。
《ありがとう》
《焦らなくていい》
送信して、またスマホを伏せる。
窓の外。
夕焼けが、ゆっくり色を変えていく。
(言葉は、準備してきたつもりだ)
でも、
朱里の前に座ったら、
全部が書き換わるかもしれない。
それでいい。
(答えは、二人で出す)
店のドアが、また開く。
今度は──
足音が、近づいてくる。
嵩は、顔を上げた。
待つ時間は、
終わろうとしていた。
早く着きたいわけじゃない。
遅れたくなかった。
(待たせる側には、なりたくない)
駅前の喫茶店。
昨日と同じ場所、同じ窓際。
店員に案内され、席に着く。
コーヒーを頼み、スマホを伏せる。
朱里に連絡はしなかった。
(急かすことになる)
待つ、と決めたのは自分だ。
時計を見る。
まだ、十分以上ある。
(……落ち着け)
背もたれに体を預け、深く息を吸う。
転勤。
答え。
選択。
朱里の顔が浮かぶたび、
その全部が一つに結びついて、胸が詰まる。
(正直に言えばいい)
(でも、正直って何だ)
行く。
行かない。
それだけの話じゃない。
(俺は、どうしたい?)
しばらく考えて、苦笑する。
(……まだ、決めきれてない)
それでも、今日話すことは決まっている。
隠さない。
濁さない。
逃げない。
美鈴の言葉が、ふいに浮かぶ。
“待つなら、ちゃんと待ちなさい”
待つことは、
相手に考える時間を渡すこと。
でも同時に、
自分も逃げずに立っていること。
(……立ててるかな)
カップに手を伸ばす。
温度が、現実を引き戻す。
店のドアが開く音がするたび、
無意識に顔を上げてしまう。
(緊張しすぎだ)
スマホが震えた。
朱里から。
《今、向かってます》
短い一文。
それだけで、胸の奥がほどけた。
《ありがとう》
《焦らなくていい》
送信して、またスマホを伏せる。
窓の外。
夕焼けが、ゆっくり色を変えていく。
(言葉は、準備してきたつもりだ)
でも、
朱里の前に座ったら、
全部が書き換わるかもしれない。
それでいい。
(答えは、二人で出す)
店のドアが、また開く。
今度は──
足音が、近づいてくる。
嵩は、顔を上げた。
待つ時間は、
終わろうとしていた。
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