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第10章 勇者と親子の絆編
第100話 セレス……女神のドヤ顔!
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彼は走り抜ける……いや、正確には、青い体を丸めて転がり続けた。
行手に待ち構える様々な障害を、彼は何なくかわし、ひたすら前へと突き進む。敵が目の前に現れれば轢き殺し、ステージのあちこちに置かれたホットドッグを食べ続ける……そして全てのステージを踏破した時、ゾニッグの前に、宿敵Drピックマンが立ちはだかった!
ゾニッグザホットドック……ホットドック好きな音速のハリネズミ、ゾニッグが活躍する世界的に有名な超速アクションゲームである。
発売されるやいなや、クールな性格と可愛い見た目、コミカルな動きで大好きなホットドックを頬張る主人公ゾニッグは、世界中で大人気となった。
のちに世界で最も知られたゲームキャラクターとして、ギガドライブを発売したSAGAの看板キャラクターの座に長く収まり、ウラコンのスーパーマリナシスターズのマリナと並ぶ有名キャラクターとして、長年続編を発売し続けた。
世界初の合体型カートリッジ採用による、分割販売……アクションゲームなのに前後編にソフトを分けて発売するなど、大人の事情も話題になった伝説のゲームである。
ゲームとしてはオードックスなアクションゲームで、主人公ゾニッグを操作し、敵を倒しながら障害物を避け、ステージを駆け抜ける。
たが、そんな事で世界的に売れたらゲーム会社は苦労しない。ゾニッグザホットドッグが売れた理由は、そのスピード感であった。音速で転がるハリネズミは、画面内を超高速で縦横無尽に転がり抜ける。
最高スピードに乗った際のゾニッグは、あまりの速さに操作が困難になるのだ。画面のスクロールが速すぎて、瞬きすらミスにつながる。クールにゾニッグを操作して、以下にして華麗にミスなくステージを転がり抜けるか……コアゲーマーにとって永遠の課題だった。
シリーズ累計は7000万本を超え大ヒット! ハリネズミを主人公にした世界的アクションゲーム! それがゾニッグザホットドッグだ!
「フフフ、ついにここまで来ました! さあ! Drピックマン! アナタの野望はここで、私とゾニッグの前に潰えるのです!」
モニターの中にいるラスボス向かって、右手の人差し指を突き出し、高らかに宣言する女神セレス!
すでに徹夜明けでテンションがおかしくなっていた。
ゲームのキャラクターに向かって話し掛ける女神……かなりゲームに毒され始めている。
だが、そんなセレスを無視してDrピックマンはゾニッグに攻撃を加える!
慌てて回避するセレスとゾニッグだったが、避けきれずダメージを受けてしまう。
「クッ 卑怯ですよ! こちらが話し掛けている間に攻撃するなんて! 創世神が許しても、女神は許しません! 覚悟しなさい!」
ゲーム画面のラスボスに向かって憤慨するセレスは、洗練された動きでギガコントローラーを操作して、ゾニッグを的確に動かし、攻撃を繰り出す!
もはやゲームを始めた頃の、辿々しい初心者の動きは卒業し、熟練者の動きに変わりつつセレス……ここ最近、指にゲームタコができ始める始末。
Drピックマンの攻撃を何なく避け、絶妙なタイミングでダメージを与えるセレス。
「フッ、もうアナタの動きはもう見切りました……さあ女神の前に倒れ伏せなさい!」
熟練のコントローラー捌きが、ゾニッグの動きを完全に制御する! 最高速を維持しつつ、Drピックマンの攻撃を紙一重で避けるセレス。目まぐるしく動き回るゾニッグを、凄まじい眼球運動を用いてセレスが操作する!
もはやそこに女神と言える存在はいなかった……ただ一人のゲーマーがゲームの世界に平和をもたらすべく、死力を尽くしていた!
「これでトドメです! さあ! マナの流れに帰りなさい!」
最後の攻撃に崩れ落ちるDrピックマン……ついにエンディングに辿り着いたセレスの顔は……ドヤ顔だった!
「フッフッフッ! 大分ゲームの何たるかが分かってきました。この調子で行けば、ヒロ様が満足するゲームを必ずお渡し出来ることでしょう。さて次はどれをやりましょうか……スーパー忍びさんもやってみたいですが、このシルバーアックスと言うゲームも気になります。新作のアウターバーナーも……」
ゾニッグザホットドックのカートリッジをギガドライブから抜き、ゲームをソフト棚に大事に戻すセレスは、次にプレイするゲームを物色しだした。
「しかし、やりたいゲームが沢山ありますが……やはりハードが一台ではテストプレイの効率が悪いですね……早くヒロ様に完璧ゲームを完成させてお届けしなければならないのに……やはりココはソフト開発を中断して、もう一台のハードを作成するべきでしょうか……」
セレスは思案する。2台のハードが有ればテストプレイの効率が飛躍的に上がる。だがハードの作成にはソフトを作るよりも遥かに大量な神気を必要とする。
ハード開発に神気を費やせばソフト開発が頓挫してしまう……作りたい、やりたいゲームソフトは次々とヒロの記憶からサルベージュされ、ドンドン溜まり続けていた。
できれば全てのゲームをヒロに届けたいセレスは、ハードとソフト……どちらを優先するべきか悩んでいた。
「ソフトかハードか……私がもう一人居れば解決なのですが……」
そう呟いた時、『ポン』とセレスが手を叩く。
「そうです! 私が居ないなら、手伝わせれば良いではないですか! 神気を使って、ソフト開発を任せられる者を見つけだせば……もう一台、ギガドライブを作れます!」
セレスは早速、神界の中で神気を多く保有し、ゲーム開発に協力してくれる者を探し始めると……。
「セレス様、よろしいでしょうか?」
セレスのプライベートルームをノックする音が、部屋の中に聞こえてくる。
「その声はニーナですね。少し待ってください。着替え中です」
「はい。申し訳ありません」
当然、セレスは着替えなどしていなかった。散らかった部屋の中を見られてはいけないと、急ぎ手をかざし亜空間の穴を出現させる。空中にポッカリと空い空間へ、モニターとギガドライブをポイッと放り込むと、飲みかけのドクタープッパーと封を開けたポテチの袋も一緒に投げ入れる。
ドクタープッパーとポテチ……ヒロの記憶を頼りに、ガイヤで手に入る物で試行錯誤した結果、ついにセレスはゲーマーのソウルフードの再現に成功したのだ。
ジャーガの実を薄く切り油で揚げ、塩を振ったポテチ……いくつもの薬草を組み合わせ、独特の香りと味を炭酸で割ったドクタープッパーとの最強コンビネーションが、ガイヤの世界に誕生していた。
究極の味に、至高のゲーム! 至福の時を楽しんでいたセレスだったが、突然部屋に訪れた訪問者のせいで、ゲームの中断を余儀なくされた。セレスは何もなかったかのように立ち上がり身嗜みを整え終えると、ドアの前に立つ人物へ声をかける。
「ニーナ、待たせました。中へどうぞ」
「セレス様、失礼します!」
部屋の中に小柄な女性が入室してきた。
銀に輝く腰まである髪、未成熟な体のラインは、良く言えばスレンダー、悪く言えば幼児体型と呼ばれるくらい発展途上なボディーの持ち主……見習い女神のニーナがセレスの前に立っていた。
「どうしましたかニーナ?」
「はい。マナの流れを監視する者から、報告書が届きましたのでお持ちしました」
「ありがとうニーナ。なにか分かりましたか?」
「いえ、以前としてマナの流れから、魂が消える理由はわかっていません」
残念そうな顔で落ち込むニーナの顔を見たセレスが微笑み掛ける。
「そうですか……やはり難航してますね。ニーナ……気に病む必要はありません。そんな簡単に解決できるなら、もうマナの魂が減る理由も分かっているはずです。ゆっくりで良いです。着実に一歩ずつ前進しましょう」
「はい! セレス様!」
ガイヤの神界において、創世神に次ぐNo2に座する三女神の一人、大地の女神セレス。世界を去った創世神がいない今、事実上のトップに君臨するセレスに優しい言葉を掛けられ、ニーナは舞い上がってしまう。
「引き続き監視をお願いします」
「はい。それでは失礼します」
踵を返し、部屋を出て行こうとするニーナをセレスが呼び止める
「あっ! ニーナ待ってください」
「セレス様、なにかご用ですか?」
「ええ、用と言うほどの事ではないのですが……たしかニーナはまだ神器を持っていませんでしたね?」
「はい……見習い女神なのに、いまだに神器を持ってません」
ニーナはしょぼくれながら、俯いてしまう。
神器とは、超常の力を宿した神秘のアイテムで、神界に住う者が余す事なく所持する物だった。
所持する者の特性にあった能力を有しており、神気の保有量により、生まれるタイミングが違う。
普通なら生まれて二~三年で、早熟な者なら生まれて数ヵ月、大器晩成の者だと数十年掛かる。
「ニーナは生まれてたしか……」
「はい、十六歳になります……」
神界に住う者は何千歳を超える者もいれば、生まれて数年の者もいる。
十六歳と言えば、神界においてはまだまだ生まれたてに等しい年齢だった。
「十六歳ですが、気を落とす必要はありませんよ。私なんか神器を手に入れたのが、生まれてから六十年経った頃だったので……それに比べればまだまだですからね」
「セレス様も?」
「はい。私は大器晩成型でしたので、神器が生まれるまで、随分と掛かりました。神器を手にするまで、ディオーネ姉様や妹のノルンには心配を掛けたものです」
「セレス様でも、神器が生まれるのにそんなに掛かったのに……私なんかまだまだですね!」
神器が生まれるには、神気を必要としており、自分の神器が生まれるまで、その体に神気を貯め続けなくてはならない。ニーナの場合、生まれて十六年となれば、かなりの神気をその身に宿しているのが分かる。
かなりの神気を……その時、セレスの瞳が怪しく光った!
「ニーナ、ちょっと込み入ったお話があります。少し時間を頂けますか?」
セレスはニーナに語り掛けながら、ドアの前までツカツカと歩き扉に鍵を掛けてしまう。
「か、構いませんが……セレス様? なんで部屋に鍵を掛けるのですか?」
「ええ……無論、お話しするためですよ」
「お、お話のために、部屋の扉に鍵は掛けない気がしますが……セ、セレス様⁈」
「大丈夫ですよ。アナタには同志になってほしいの……」
「セレス様、ど、同志ってなんのですか? なんでジリジリ近寄ってくるのですか?」
「ほんの少しだけですからね……痛くはありませんよ」
「い、痛くないって、なにを……セレス様!」
「ニーナ……楽しいことを一緒にしましょう。そのためにはアナタの……」
「セレス様……目が怖いです! ち、近づかないでください!」
「さあ、私と楽しみましょう!」
「イヤアアアァァァァァ」
哀れな子羊が狼に食べられた時、神界で起こる異変が、その影を表し始めるのだった。
〈ゲーム廃神によって、見習い女神がゲーマーの階段を無理やり駆け登らされた!〉
行手に待ち構える様々な障害を、彼は何なくかわし、ひたすら前へと突き進む。敵が目の前に現れれば轢き殺し、ステージのあちこちに置かれたホットドッグを食べ続ける……そして全てのステージを踏破した時、ゾニッグの前に、宿敵Drピックマンが立ちはだかった!
ゾニッグザホットドック……ホットドック好きな音速のハリネズミ、ゾニッグが活躍する世界的に有名な超速アクションゲームである。
発売されるやいなや、クールな性格と可愛い見た目、コミカルな動きで大好きなホットドックを頬張る主人公ゾニッグは、世界中で大人気となった。
のちに世界で最も知られたゲームキャラクターとして、ギガドライブを発売したSAGAの看板キャラクターの座に長く収まり、ウラコンのスーパーマリナシスターズのマリナと並ぶ有名キャラクターとして、長年続編を発売し続けた。
世界初の合体型カートリッジ採用による、分割販売……アクションゲームなのに前後編にソフトを分けて発売するなど、大人の事情も話題になった伝説のゲームである。
ゲームとしてはオードックスなアクションゲームで、主人公ゾニッグを操作し、敵を倒しながら障害物を避け、ステージを駆け抜ける。
たが、そんな事で世界的に売れたらゲーム会社は苦労しない。ゾニッグザホットドッグが売れた理由は、そのスピード感であった。音速で転がるハリネズミは、画面内を超高速で縦横無尽に転がり抜ける。
最高スピードに乗った際のゾニッグは、あまりの速さに操作が困難になるのだ。画面のスクロールが速すぎて、瞬きすらミスにつながる。クールにゾニッグを操作して、以下にして華麗にミスなくステージを転がり抜けるか……コアゲーマーにとって永遠の課題だった。
シリーズ累計は7000万本を超え大ヒット! ハリネズミを主人公にした世界的アクションゲーム! それがゾニッグザホットドッグだ!
「フフフ、ついにここまで来ました! さあ! Drピックマン! アナタの野望はここで、私とゾニッグの前に潰えるのです!」
モニターの中にいるラスボス向かって、右手の人差し指を突き出し、高らかに宣言する女神セレス!
すでに徹夜明けでテンションがおかしくなっていた。
ゲームのキャラクターに向かって話し掛ける女神……かなりゲームに毒され始めている。
だが、そんなセレスを無視してDrピックマンはゾニッグに攻撃を加える!
慌てて回避するセレスとゾニッグだったが、避けきれずダメージを受けてしまう。
「クッ 卑怯ですよ! こちらが話し掛けている間に攻撃するなんて! 創世神が許しても、女神は許しません! 覚悟しなさい!」
ゲーム画面のラスボスに向かって憤慨するセレスは、洗練された動きでギガコントローラーを操作して、ゾニッグを的確に動かし、攻撃を繰り出す!
もはやゲームを始めた頃の、辿々しい初心者の動きは卒業し、熟練者の動きに変わりつつセレス……ここ最近、指にゲームタコができ始める始末。
Drピックマンの攻撃を何なく避け、絶妙なタイミングでダメージを与えるセレス。
「フッ、もうアナタの動きはもう見切りました……さあ女神の前に倒れ伏せなさい!」
熟練のコントローラー捌きが、ゾニッグの動きを完全に制御する! 最高速を維持しつつ、Drピックマンの攻撃を紙一重で避けるセレス。目まぐるしく動き回るゾニッグを、凄まじい眼球運動を用いてセレスが操作する!
もはやそこに女神と言える存在はいなかった……ただ一人のゲーマーがゲームの世界に平和をもたらすべく、死力を尽くしていた!
「これでトドメです! さあ! マナの流れに帰りなさい!」
最後の攻撃に崩れ落ちるDrピックマン……ついにエンディングに辿り着いたセレスの顔は……ドヤ顔だった!
「フッフッフッ! 大分ゲームの何たるかが分かってきました。この調子で行けば、ヒロ様が満足するゲームを必ずお渡し出来ることでしょう。さて次はどれをやりましょうか……スーパー忍びさんもやってみたいですが、このシルバーアックスと言うゲームも気になります。新作のアウターバーナーも……」
ゾニッグザホットドックのカートリッジをギガドライブから抜き、ゲームをソフト棚に大事に戻すセレスは、次にプレイするゲームを物色しだした。
「しかし、やりたいゲームが沢山ありますが……やはりハードが一台ではテストプレイの効率が悪いですね……早くヒロ様に完璧ゲームを完成させてお届けしなければならないのに……やはりココはソフト開発を中断して、もう一台のハードを作成するべきでしょうか……」
セレスは思案する。2台のハードが有ればテストプレイの効率が飛躍的に上がる。だがハードの作成にはソフトを作るよりも遥かに大量な神気を必要とする。
ハード開発に神気を費やせばソフト開発が頓挫してしまう……作りたい、やりたいゲームソフトは次々とヒロの記憶からサルベージュされ、ドンドン溜まり続けていた。
できれば全てのゲームをヒロに届けたいセレスは、ハードとソフト……どちらを優先するべきか悩んでいた。
「ソフトかハードか……私がもう一人居れば解決なのですが……」
そう呟いた時、『ポン』とセレスが手を叩く。
「そうです! 私が居ないなら、手伝わせれば良いではないですか! 神気を使って、ソフト開発を任せられる者を見つけだせば……もう一台、ギガドライブを作れます!」
セレスは早速、神界の中で神気を多く保有し、ゲーム開発に協力してくれる者を探し始めると……。
「セレス様、よろしいでしょうか?」
セレスのプライベートルームをノックする音が、部屋の中に聞こえてくる。
「その声はニーナですね。少し待ってください。着替え中です」
「はい。申し訳ありません」
当然、セレスは着替えなどしていなかった。散らかった部屋の中を見られてはいけないと、急ぎ手をかざし亜空間の穴を出現させる。空中にポッカリと空い空間へ、モニターとギガドライブをポイッと放り込むと、飲みかけのドクタープッパーと封を開けたポテチの袋も一緒に投げ入れる。
ドクタープッパーとポテチ……ヒロの記憶を頼りに、ガイヤで手に入る物で試行錯誤した結果、ついにセレスはゲーマーのソウルフードの再現に成功したのだ。
ジャーガの実を薄く切り油で揚げ、塩を振ったポテチ……いくつもの薬草を組み合わせ、独特の香りと味を炭酸で割ったドクタープッパーとの最強コンビネーションが、ガイヤの世界に誕生していた。
究極の味に、至高のゲーム! 至福の時を楽しんでいたセレスだったが、突然部屋に訪れた訪問者のせいで、ゲームの中断を余儀なくされた。セレスは何もなかったかのように立ち上がり身嗜みを整え終えると、ドアの前に立つ人物へ声をかける。
「ニーナ、待たせました。中へどうぞ」
「セレス様、失礼します!」
部屋の中に小柄な女性が入室してきた。
銀に輝く腰まである髪、未成熟な体のラインは、良く言えばスレンダー、悪く言えば幼児体型と呼ばれるくらい発展途上なボディーの持ち主……見習い女神のニーナがセレスの前に立っていた。
「どうしましたかニーナ?」
「はい。マナの流れを監視する者から、報告書が届きましたのでお持ちしました」
「ありがとうニーナ。なにか分かりましたか?」
「いえ、以前としてマナの流れから、魂が消える理由はわかっていません」
残念そうな顔で落ち込むニーナの顔を見たセレスが微笑み掛ける。
「そうですか……やはり難航してますね。ニーナ……気に病む必要はありません。そんな簡単に解決できるなら、もうマナの魂が減る理由も分かっているはずです。ゆっくりで良いです。着実に一歩ずつ前進しましょう」
「はい! セレス様!」
ガイヤの神界において、創世神に次ぐNo2に座する三女神の一人、大地の女神セレス。世界を去った創世神がいない今、事実上のトップに君臨するセレスに優しい言葉を掛けられ、ニーナは舞い上がってしまう。
「引き続き監視をお願いします」
「はい。それでは失礼します」
踵を返し、部屋を出て行こうとするニーナをセレスが呼び止める
「あっ! ニーナ待ってください」
「セレス様、なにかご用ですか?」
「ええ、用と言うほどの事ではないのですが……たしかニーナはまだ神器を持っていませんでしたね?」
「はい……見習い女神なのに、いまだに神器を持ってません」
ニーナはしょぼくれながら、俯いてしまう。
神器とは、超常の力を宿した神秘のアイテムで、神界に住う者が余す事なく所持する物だった。
所持する者の特性にあった能力を有しており、神気の保有量により、生まれるタイミングが違う。
普通なら生まれて二~三年で、早熟な者なら生まれて数ヵ月、大器晩成の者だと数十年掛かる。
「ニーナは生まれてたしか……」
「はい、十六歳になります……」
神界に住う者は何千歳を超える者もいれば、生まれて数年の者もいる。
十六歳と言えば、神界においてはまだまだ生まれたてに等しい年齢だった。
「十六歳ですが、気を落とす必要はありませんよ。私なんか神器を手に入れたのが、生まれてから六十年経った頃だったので……それに比べればまだまだですからね」
「セレス様も?」
「はい。私は大器晩成型でしたので、神器が生まれるまで、随分と掛かりました。神器を手にするまで、ディオーネ姉様や妹のノルンには心配を掛けたものです」
「セレス様でも、神器が生まれるのにそんなに掛かったのに……私なんかまだまだですね!」
神器が生まれるには、神気を必要としており、自分の神器が生まれるまで、その体に神気を貯め続けなくてはならない。ニーナの場合、生まれて十六年となれば、かなりの神気をその身に宿しているのが分かる。
かなりの神気を……その時、セレスの瞳が怪しく光った!
「ニーナ、ちょっと込み入ったお話があります。少し時間を頂けますか?」
セレスはニーナに語り掛けながら、ドアの前までツカツカと歩き扉に鍵を掛けてしまう。
「か、構いませんが……セレス様? なんで部屋に鍵を掛けるのですか?」
「ええ……無論、お話しするためですよ」
「お、お話のために、部屋の扉に鍵は掛けない気がしますが……セ、セレス様⁈」
「大丈夫ですよ。アナタには同志になってほしいの……」
「セレス様、ど、同志ってなんのですか? なんでジリジリ近寄ってくるのですか?」
「ほんの少しだけですからね……痛くはありませんよ」
「い、痛くないって、なにを……セレス様!」
「ニーナ……楽しいことを一緒にしましょう。そのためにはアナタの……」
「セレス様……目が怖いです! ち、近づかないでください!」
「さあ、私と楽しみましょう!」
「イヤアアアァァァァァ」
哀れな子羊が狼に食べられた時、神界で起こる異変が、その影を表し始めるのだった。
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