勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

文字の大きさ
214 / 226
第17章 勇者と嵐の旅立ち編

第214話 お母さんは見た!

しおりを挟む
「兄様し! 兄様LAVE! 兄様サイコー! 兄様のために生き兄様のために死ぬ! 他者をねたみ、愛する者をそねむもの……エンビーちゃん参上!」


――人間大のペンギン……嫉妬エンビーを司る災厄のひとりが、アイドルばりの可愛いポーズを決めつつ、リーシアの前に降り立った!


「エ、エンビー⁈」

「良かった。ようやく接触アクセスできたわ。まったく……封印されてなければ、もっと簡単なのにやんなっちゃう。はあ~」


 長いクチバシから、深いため息吐くペンギンに似たなにか……それを見たリーシアは、顔を赤くしながら口をパクパクさせていた。


「一体いつから……! ま、ま、ま、待ってください。それじゃあ、さ、さっきまでのヒ、ヒロは⁈」

「ん~? 私が入れ替わったのは途中からよ。シンシアって言葉を聞いて、お嬢の嫉妬心に火がついたあたりからね」

「そ……そうですか」
(危なかったです。ヒロとのキスシーンや抱き合っている姿は見られていないようです。他人にあんなシーンを見られたら、恥ずかしくて悶絶ものでした)

「ん? 私の嫉妬に火がついた?」

「そうよ。私は嫉妬を司る災厄だからね。自分より他人の方が優れているとか、自分よりも他人が愛されたとか、羨望や憎悪といった感情がそのまま私の力になるのよ」

「感情ですか?」

「そう、私はお嬢の中に封印されているから、現実世界には直接干渉できないの、話し掛けることもね。唯一できるとするならば、力を使って夢の中で出会うくらい」

「夢の中で? するとここは?」


 辺りをキョロキョロするリーシア……空に浮かぶ月が闇の水辺を薄っすらと照らし出していた。


「ここはお嬢の見る夢の中よ。残り少ない力で無理やり夢の中にいたお嬢と私の意識をつなげたんだけど、それだけで力尽きちゃった。どうしようかと思っていたら、ちょうど良くお嬢の嫉妬パワーが膨れ上がってね。力を借りたの。お嬢をあおって、嫉妬する感情を利用させてもらったわ。悪かったわね」

「いえ、でも、私の嫉妬ですか……」


 リーシアの顔は少し曇り、バツが悪そうにつぶやいていた。夢の中とはいえ、他人に嫉妬する醜い姿を見られたと思うと、恥ずかしさが込み上げてきた。


「あら? 別に嫉妬すること自体は悪いことじゃないのよ。心を持つものなら、切っては切り離せない感情なんだもの。嫉妬を恥ずかしがる必要はないの。むしろそれを否定して心の中に溜め込む方が危ないわ。適度に吐き出さないとね」

「そうなんですか?」

「えぇ、嫉妬も立派な心の機能のひとつだし、その感情を否定することは自分自身を否定することだもの。自分の心をないがしろにする奴なんて、ろくなもんじゃないわ」

「自分自身の否定……なるほどです」

「それにネガティブな感情は、うまく付き合えば強力な味方にもなるから、覚えておくといいわ。さて、お嬢と再会したとこで、大好きなティータイムと行きたいんだけど、時間がないから急がせてもらうわ」


 するとエンビーがリーシアの背後にある茂みに顔を向け――


「姉御! いい加減、隠れてないで出てきて! 実の娘の恋愛模様を見たくらいで、ショックを受けないで!」


――と声を大にして叫んでいた。


「姉御? ……まさか?」


 その言葉に、リーシアは『ガバッ!』と振り返ると、ガサゴソと茂みが揺れ動く。


「か、母様⁈」

「あんなに小さかったリーシアが、男性とあのような情熱的なキスと抱擁をするなんて、お母さん、どうすればいいの⁈」


 茂みの中から、シスター服に身を包んだリーシア似の人物が、気まずい雰囲気を出しながらスッと立ち上がる……それはリーシアの母、聖女カトレアだった。


「なんで母様が⁈ キス? 抱擁? ま……まさか、最初からすべて見られて? でもエンビーがヒロと入れ替わったのは途中からだって⁈」

「あ~、入れ替わったのは途中からだけど、ここにいたのは最初っからよ? 力を使い果たして夢に干渉できなかっただけで、見聞きはしていたわ。お嬢はロマンチックな恋愛がお好みなのね」


 ニヤニヤするエンビー、そして母カトレアはどう接していいのか分からず、気まずい表情を浮かべていた。それを見たリーシアは――


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


――叫んでいた! 恥ずかしさ大爆発で大絶叫していた。


 母親にヒロとの恋仲を見られたリーシアは、真っ赤になった顔を両手で覆い隠し、穴があったら入りたいとスゴい勢いで首を左右に振るまくる。夢の中とはいえ、人に決して見せられない甘々なヒロとのラブシーンを見られていようとは、夢にも思わなかった。しかも実の母に……。


「お母さんとして、どう接すればいいの? 娘の成長を喜ぶべき? いい人が見つかって良かったわねと言ってあげればいいの? でも相手の男性はどんな人かわからないわ。リーシアが好きになった人なら信じてあげたいけど、騙されていないかしら? リーシアを騙す悪い人だったらどうしよう⁈ お母さんとっても心配! ど、どうすれば⁈」


 そして実の母の方というとは……娘の成長を生きて見られなかったカトレアは、いきなり娘のラブラブシーンを見てしまいパニックにおちいり、どう話しかけたらいいかわからず、オロオロしていた。


「母様、違うんです。アレは違うんです。信じて! あんな変態ヒーローなんて好きになる訳ないですから!」

「ひ、変態ヒーロー⁈ リーシアなにを言っているの? まさかあの男の人が前に話していた……変態ヒーローなの? 恋愛は自由だしリーシアが好きになった人なら信じてあげたい。でもやっぱり変態ヒーロー⁈はどうなのかしら……お母さんが生きていれば、説法ヤキイレして、まともな人に変えられたのに、役に立たないお母さんでゴメンね」


 必死に恥ずかしさを誤魔化すため、ヒロとの関係をリーシアは否定する。変態の魔の手から娘を救ってあげられない不甲斐ない母でゴメンと、カトレアはシクシクと泣き出す始末。

「違うんです! 違うんです!」

「ゴメンね、ゴメンね……」

 なんとも言えない空気が流れ、収拾がつかなくなった場の雰囲気は、収まる気配を見せず時間だけが無駄に過ぎ去っていく。その状況にエンビーは苛立ち、大きく息を吸い込むと――


「キー! もう時間がないのよ! 二人とも私の話を聞きなさい! 娘の恋愛話なんて後にしなさいよ、後に!」


――親子の耳にエンビーの声が叩きつけられる。カラオケ屋でマイクをスピーカーに近づけ発生するハウリング音に似た不快な音を聞いて、リーシアは思わず耳を塞いてしまう。

 肺に残る空気をすべて出し切り、深くお辞儀をする形のエンビーは、場が静まったことを感じ、ヨシヨシと頭を上げる。するとその顔は恐怖で染まってしまった。それは……。


「あ゛ぁ? テメェ、いまなんつった? 娘の恋話なんて後にしろだあ゛?」


 そこには娘のために、ガンを飛ばす聖女ヤンキーカトレアの姿があったからだった。胸ぐらを両手で掴まれると、エンビーは持ち上げられつま先立ちになる。

「母親が娘を心配して、なにが悪い! 娘の幸せを願えば、相手の男がまともかどうか気になるもんだろうが! ああ゛ 」

「ひぃぃ、ほ、本当にもう時間がないのよ。お嬢が死んだら私も消滅しちゃう。私は兄様に会いたいの! だからお嬢に警告するために貴重な力をつがっでまでぐるじい、だぢげで~」


 エンビーは涙を流しながら、必死に懇願する。


「私に警告ですか? あ、あの母様、そのへんで許してあげては? 母様の私を思ってくれる気持ちはうれしいかったです。それにエンビーも、私のために何かを伝えようとしているみたいですし……」

「ちっ! 仕方ねえな。リーシアの頼みだから、今回だけは許してやる。だが、次はねーぞ!」


 娘のお願いする目にほだされた母は、手の力を緩めるとエンビーを地面に降ろした。


「ゲホッゲホッ! お嬢、あ、ありがとうございます」

「いえ、大丈夫ですか?」

「うっうっ、姉御の娘とは思えない優しさに……わたし感動!」

「テメェ! どういう意味だ!」

「ひぃぃ!」


 再び胸元を掴もうとするカトレアから逃げたエンビーは、リーシアの背中に隠れ盾にしてガタガタと怯えていた。


「あの母様、時間がないっていっていますので、とりあえず話を聞いてみましょう」

「ん~、そうね。リーシアがそういうなら」


 娘の言葉に、つり上がった険しい目つきが優しくなり、ヤンキーモードを解いたカトレアは柔和な笑みを浮かべる。そしてうまく話をそららすのに成功したリーシアは、あの恥ずかしいラブラブシーンをどうかこのまま忘れてと、心の中で願うのだった。


「ゴホッ、お、お嬢、ありがとうございます」
(カトレア……こいつ歴代の聖女の中でも最低最悪よ! 死んでホッとしていたのに、魂だけの存在になってまで娘に悪さしないか、私を監視していたなんて……)


「エンビー、正直に話しなさい」

「え? あ、姉御、正直にって?」
(なにこの女、突然?)

「ふふ、私の時のようなことをリーシアにしたら……マナの流れの果てまでも追いかけて、魂が擦り切れるまで折檻よ?」


「ひぃぃ!」
(この女、ま、まさか気づいているの? あの時、私が見殺しにしたことを⁈)

「正直にいいなさい」


 ニッコリと微笑むカトレア……リーシアにとっては優しい母の微笑み、だがそれはエンビーにとっては悪魔のような凄惨な笑みだった。


「嘘はいいません! いまお嬢が死ねば、私は兄様との思い出をすべて失った状態で復活してしまう。兄様への想いを失うくらいなら、いっそ消滅した方がマシなくらい! だから封印を解き、この想いを兄様に伝えるまで、あなた達は一族に滅んでもらうわけにはいかないのよ!」

「封印って解けるものなんですか?」

「私をその身に封じた初代聖女がいっていたの……『あなたが真の愛に目覚めた時、封印は解かれる』てね。まったく私の兄様への愛を見て、なにいっているのって話よ!」

「たしかに、私のお母様から教えてもらった話と一致するわね。あなたが兄妹愛をこじらせた話も……」


「私の兄様への愛は本物よ! だからわざわざ貴重な力を消費してまで夢の中に会いにきたのよ。お嬢が危ないかもしれないからね」

「私が危ない?」

「そうよ。気をつけなさい。あなたの近くで気配を感じたわ」

「なんの気配ですか?」

「災厄の嘘つき、『傲慢ごうまん』の気配よ」


〈忍び寄る影……新たなる災厄が聖女に襲い掛かる!〉
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...