月が導く異世界道中

あずみ 圭

文字の大きさ
347 / 551
一章 ツィーゲ立志編

閑話 とある魔族達の勇者報告書

しおりを挟む
※こちらは「月が導く異世界道中」の書籍化に伴いダイジェスト化した部分になります。
********************************************

・グリトニア帝国の勇者についての報告書①

 グリトニア帝国に現れたとされる勇者なる存在は男性。
 十代で長身、銀髪に両目の輝きが異なるオッドアイという特徴を有している。
 名前はトモキ=イワハシ。
 名前はローレル連邦で比較的見られる形式に似ているように思われるも関係は不明。
 ローレル連邦とグリトニア帝国の間で外交上のやり取りも特に増加していない。
 帝国第二皇女リリ=フロント=グリトニアを中心に厚遇を受けており、またその影響からか姿も城内と戦場以外ではあまり見られていない。
 そのため性格などは未だ不明な部分が多い。
 だが、国内のいずれかの勢力と対立した、などの情報は確認されていない。
 戦闘傾向については、確認できた情報から極めて好戦的であると判断する。
 通常ヒューマンであろうと亜人であろうと、強力な魔術付与をうけた道具への適性は多くとも一人三つほどまでだが、勇者トモキについては帝国が保管、開発していた多くの魔道具に完全な適性が認められる。
 その為、戦場においてもその攻撃力が及ぶ範囲は極めて広く、彼と相対した多くの魔族は殺されている。
 戦果は極めて優秀であり、大きな脅威となりうる。
 レベルの上昇も他に例をみない程に早く、魔道具も次々に新しいものを導入しており、早急な対応も必要。
 機動力としてはそれほどのものではないが、魔術なしで空を飛ぶことを可能とする魔道具の存在を確認。
 空からの攻撃と高火力の攻撃は相性が良く、被害は依然増大中。
 今回報告は以上、調査は継続する。
 追記……トモキ=イワハシへの当面の対策を指示願う。



 

・グリトニア帝国の勇者についての報告書②

 トモキ=イワハシのパーティメンバーを確認。
 一人目はグリトニア帝国ロイヤルガード、上位竜“砂々波さざなみ”の加護を受けたギネビア=スレーシャ。
 かつては第二皇女に忠誠を誓う騎士だったが、現在はトモキにも同様の忠誠を誓っている模様。
 二人目はグリトニア帝国領内の村出身の少女モーラ。
 我らの襲撃で滅んだ村の生き残りだが、トモキとリリ皇女に保護されて後ドラゴンサマナーの力に覚醒する。
 モーラは元々村では巫女の家系との事だが、竜を操る兆しはそれまで見られておらず彼女の覚醒は全く予想外の事態。
 ただ、この襲撃指示だが命令の出た系統が一部不明瞭な為、詳細の再調査を検討中。
 彼女の加入により、トモキは飛竜という高い機動力を得た。
 三人目はローレル連邦を追放された錬金術師ユキナツ=カズサ。
 主に強力な魔道具の複製や模倣を研究しており、その研究方針からローレル連邦内部で対立、追放されたところをリリ皇女に保護される。
 ゴーレムの使用にも長じており、その防御力は柔軟で堅牢。
 ギネビアによってただでさえ攻撃がトモキに届きにくい事態が、ユキナツの加入によって更に悪化。
 陣形を展開した我ら魔族の部隊が紙切れの様に蹂躙されていく。
 手が付けられない。
 また、トモキのパーティメンバーに限ったことではないが、帝国内に彼の魔眼の力が蔓延し始めている。
 オッドアイに秘められた能力だと思われるが恐らく強力な魅了。
 魔術防御を展開した状態でも、弱いものだとじわじわと侵食されていく傾向があり、その威力は少しずつだが上昇しているように思われる。
 よって彼のパーティを内部から崩す策などは無効であると推測される。
 かくいう私も、彼への好意を何となく意識できるレベルで感じている。
 危険だ。
 戦場においても彼と近接距離で接触した者が魅了の影響下に陥ったりしている。
 既に数名を処理済。
 今ならまだ理性的な判断が勝るが、それもいつまで持つかわからない。
 緊急で交代を申請する。
 また後任者には高い魔術防御を展開できる者を選び、一定期間での交代を義務付けるべき。
 さらに、トモキ=イワハシにはあまり近付きすぎないよう留意することを徹底されたし。
 グリトニア帝国の勇者トモキ=イワハシは極めて危険な存在に成長を続けている。
 また、彼の保護者でもある第二皇女リリ=フロント=グリトニアについても報告事案あり。
 トモキのサポートを自らの務めとし、政争から身を引いた彼女だが、現在もいくつかの開発や研究を開始、継続している。
 莫大な資金も使用されており、リリ皇女が政治の舞台から身を引いた、とは判断できない。
 さらに関係者が火災などの事故により死亡する事も数度あり、こちらにも彼女の関与があると見たほうが自然な状況だ。
 第二皇女は魔族への極端な敵対方針が元々危険視されている人物である。
 表舞台からは姿を消したように見えても、今後の警戒を怠るべきではないと再確認。
 勇者と継続して彼女の動向にも継続的な調査が必要だと思われる。
 今回報告は以上。





・リミア王国の勇者についての報告書①

 リミア王国に降り立った勇者は十代女性、黒髪。
 名前はヒビキ=オトナシ。
 身体的な特徴は全体に平均的であり、長い黒髪が一番の特徴と言える。
 勇者の出現に際して数度、女神の啓示があったのも事実のようだ。
 複数の証言が得られた。
 勇者を得たリミア王国はお祭り騒ぎの様相であった。
 先に勇者が降臨したと報告があったのが一月前、グリトニア帝国であった事も起因していると思われる。
 グリトニア帝国の勇者同様、出自についてはまったく不明。
 名前の特徴も同様にローレル連邦の出身を思わせるが繋がりは発見されておらず、またかの国からのアプローチが王国にあった事実も未だない。
 王城に住み、王族、貴族との関係も良好。
 ただし、いくつかの情報から王族貴族を至上とするリミア王国の思想に何らかの思いがあるように見受けられる。
 今は親しく見える両者の関係は、いずれ彼女の持つ信条によって破綻する可能性もある。
 外出は多く、魔物の討伐にも我ら魔族との戦争にも、また様々な役職にあるヒューマンと会う事にも非常に積極的。
 高い社交性を有するものとして扱うべき。
 またリミア王国王都、ならびにいくつかの貴族の領土にてこれまでとは違った施策が見られる。
 いずれも勇者との接触があった人物が関わっており、これらにも勇者が関係している可能性が高い。
 施策自体は内政や徴税、農耕に至るまで多岐に渡るが魔族の目にも画期的、独創的なものが多く、別途まとめたものを本国に送るので精査希望。
 戦闘能力は高い。
 が、帝国の勇者トモキ=イワハシに比べるとその戦力はより規模が小さく、戦争への影響力は一段低い。
 ただし戦争については最初は消極的な参加姿勢だったが、最近では徐々に積極的になっている傾向がみられるため油断はできない。
 個人としての戦闘能力は高いものの、多勢を相手とした場合の戦闘能力は比較的低い。
 よって戦場全体での影響力は、突破力などを考慮する必要はあるが現状そこまで驚異的なものではない。
 高い魔力も明らかに使いこなせておらず、帝国の勇者のような魅了能力も持たない為、恐らくは対個人において優れた能力を発揮するタイプと思われる。
 部隊単位程度の指揮は問題なくこなす事ができ、視野は広い。
 先々に大きな脅威となる可能性はあるが、当面帝国に優先してこれに当たる必要はなく、物量による圧倒で押し切れるものと思われる。
 現状において一番の特筆に値するのはパーティメンバー。
 元傭兵ナバール=ポーラー、リミア王国第一王子ベルダ=ノースト=リミア、同王国宮廷魔術師筆頭ウーディ=バイラ、ローレル連邦当代巫女チヤ=ハヅキ。
 別名千人殺しと呼ばれる前線の恐怖の代名詞でもある女傭兵に、騎士を名乗っているがリミア王国の王子、天才と言われる王国最強の魔術師、そしてローレル連邦の至宝でもある巫女。
 ローレルの巫女については、特殊な事情による同行といった背景もあるが、周囲に優秀な人材が集まる傾向にある。
 もしもこれが魅了と双璧をなす勇者の能力の発現ならば脅威と呼ぶべきものだが、未だ不確実である。
 今回報告は以上。
 引き続き調査を続ける。





・リミア王国の勇者についての報告書②

 リミア王国勇者ヒビキ=オトナシがパーティともども負傷して城に戻った。
 現状でのヒビキのレベルは188。
 帝国の勇者に比べるとそのレベルは低い。
 が、成長は目覚しい。
 相変わらず精力的に王国中、時には他国まで渡り歩いており、戦争への参加も積極的。
 特に若い貴族との交流も盛んで王族との関係も良好。
 社交性、そして政治力も軽視できない存在であると断定。
 部隊指揮の上達速度も信じ難いものがあり、戦場全体を見据えたレベルでの指揮が可能。
 念話の技術がヒューマンの間で発達した場合、ヒビキの指揮能力は明らかな脅威になる。
 また観測できた複数の戦闘で、未来予知に近い判断力を発揮しており、単なる直感レベルを超えた能力である可能性も出てきた。
 今回の負傷の原因は、災害の黒蜘蛛との戦闘。
 彼らは負傷こそすれ、五人全員が生還した。
 蜘蛛との戦闘を、たった五人で近接戦闘により乗り越えた事になる。
 対個体戦闘能力は卓越したものがある。
 戦闘の詳細は不明だが帝国の勇者に比べて脅威度が低いとするこれまでの評価は見直すのが妥当。
 戦いようによっては魔将にも匹敵する凄まじい戦闘能力であると推定。
 その他の能力を鑑みても、ヒビキの存在は魔族にとって明確なる脅威である。
 早急な対応策の検討を求む。
 私見ではあるが、近く計画されているヒューマン連合軍によるステラ砦奪還戦においてのヒビキ=オトナシの殺害を優先的に考えるべきである。
 彼女には戦力以上の何かを感じる……。
しおりを挟む
感想 3,648

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。