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六章 アイオン落日編
朝と馴染みと
「まったくよぉ、お前が旦那に会わせろなんていうからこんな事になっちまったじゃねえか」
「……」
「見ろよ、ここ。誰がこれ見て孤児院だって思うんだよ」
「……」
「そんでお前らもここがウェイツ孤児院でございって言えんのかよ」
「……」
「周りも綺麗に変わっちまった。はぁーーーー……」
長い長いため息。
ライム=ラテのものだ。
ウェイツ孤児院屋上。
空はまだ白んではいないが、じきの事だろう。
辛うじて夜の闇が生き残っている、そんな時間帯だった。
「……なによ、孤児院が綺麗になると嫌なわけ?」
孤児院職員にしてライムの幼馴染であるセーナが口を尖らせる。
「こんだけ旦那方を、クズノハ商会を派手に動かしちまったら、お前らこれから地獄見んぞ?」
「ちょっとした改築、じゃないのはわかってるけど……後からお金請求する系?」
「そんな月並みな事、あの人がするかよ」
「じゃ、地獄ってなによ」
「巴の姐さんから色々言われてんだろ? きっついぞ、あの女性の要求は」
「ヨセバ、だっけ? 何か子どもに手に職つけさせるとか、勉強させるとか」
「そだよ。今まで通り子どもの世話だけしてりゃいいなんてレベルじゃなくなるからな」
「……? 講師は外からクズノハ商会が連れてくるんでしょ? あんたも含めて」
「めでてえなあ……お前。勉強も訓練も、講師だけで面倒みられる訳ねえだろ? お前らもこれから無茶苦茶勉強する事になんだよ。まだ実感ねえかもしれねえけど、セーナ」
「なによ」
勉強が出来るなど、望外の条件じゃないか。
セーナの顔はそう語っていた。
「ウェイツ孤児院は皆まとめてクソ高ぇ崖から落ちたんだよ」
クズノハ商会という断崖。
ライム=ラテはヒューマンとしてはかなり初期にこれを経験した人物である。
一桁ナンバーの猛者だ、しみじみ度合いが違う。
同じ一桁台にはツィーゲでトップを張る冒険者トアらも含まれるが、ライムなどは竜の血を受け入れてヒューマンを辞めてなお落ち続けているのだ。
登攀と落下の違いは実に明白だ。
「バカ言わないでよ。むしろ孤児院全体としてはどん底から上がり調子でしょ、あんたんとこから援助を受け出してからずっと」
「あのな、セーナ」
「?」
「上がる登るってのは、自分で辞められんだよ。下る落ちる、特に落ちるなんてのは基本的に本人にはどうしようもねえんだ」
そう、違いは自分の意思で止まれるかどうか。
落下の終わりは激突しかない。
ウェイツ孤児院にはソフトランディングかハードランディングかは努力次第で選べても、後戻りするという選択肢は存在しないのだ。
「……」
「もう、行くとこまで行くしかねえ。お前、三か月もすれば魔術の一つも覚えてるかもな」
「やめてよ、そういうわけわかんない事言うの。確かに、あの巴って人は厳しいとこあるけどさ。ライドウって人はやっぱ優しい人じゃない?」
セーナは大樹を見る。
孤児院の屋上に突如生えた樹を。
きっと朝になればこのサプライズに子ども達はまた大騒ぎするのだろう。
彼女はライドウの行動に納得していない、優しいというよりは甘い、と言いたげな不満を露わにした表情を隠そうともしない。
「……優しいとこもあんのは確かだ、俺も保証する。だが……お前が想像してるよりはずっと、おっかねえお人だよ」
ライムもまた、セーナが見つめる樹に目をやり、近づく。
幹を軽く蹴るが、大樹はびくともしない。
ちなみにセーナはもう何度も、殴ったり、蹴ったりしている。
「リオウを殺さないなんて、どこが怖いのよ」
「殺してやらねえから、あの人はおっかないんだ」
「?」
「コレな、樹にされても意識はあるんだぜ?」
「!?」
「お前に殴られてる事も、蹴られてる事もリオウは認識してるってこった」
「意識があるまま樹にされるのは、不気味かも」
「ふっ」
「! なんで笑うの、あんたは!」
「ズレてっからだ。リオウは元々エルフだ。長寿で俺らとは時間の感覚が違う」
「……うん」
散々脅された文言。
親になったら、祖母になったら。
エルフとヒューマンの時間についての感覚は確かに全く異なる。
「だから動けねえのは多少不便でも、ただ樹になるだけならリオウは大して苦痛じゃねえ」
「……そうなんだ」
「ああ、聞いたとこじゃあな。エルフの秘儀の中には自らを樹木にして森の一員になる事で生涯を終える、なんてのもあるらしいぜ」
その秘儀のオリジナルにして最も高等な場所に位置するのが樹刑だ。
術者ではなく他者を自在に樹木に変じる。
森鬼の誇る秘奥義で、これを扱える者は一様に尊敬を集める。
「……じゃ、こいつはあんま堪えてないんじゃないの?」
「ところがそうじゃない。場所が問題なんだな」
「場所って、ここ? 正直私、リオウとずっと一緒にいなきゃならないとか最悪の気分だけど?」
これが自分への仕打ちだというならライドウは恐ろしい男だと、セーナは心から思う。
「リオウはヒューマンも亜人も関係なく、売り買いされる人の顔を見んのが大好きなクズ野郎だ。絶望や挫折は基本、時に赦しや希望もスパイスにして奴隷って立場にいる玩具を全力で楽しんでやがった」
「……」
「そのリオウが、これからはずっとここで見続けなくちゃならんのは、ガキどもの顔だ」
「……あ」
「お前ら次第だが、下手をするとリオウは不幸から立ち直って幸せを掴もうって希望全開のガキどもの、あいつからすりゃ吐き気がするような光景を延々と見続ける羽目になる」
「あの、クソエルフが……」
「ああ、しかもリオウの力は根を通じて孤児院の守護に使われ続ける。こいつの了解なんぞ全く取る必要も意見を聞く必要もなく、リオウは自動的にウェイツ孤児院を守り続けるんだ」
「は、はは……なにそれ、最高」
「あいつに酷ぇ目に遭わされたお前みてぇのも大勢いるだろうさ。けどよ、これからお前がガキどもに親身になればなるほど。あいつは至上の苦痛を味わう、枯れるまでな。お前らは幸せ、リオウは不幸。甘いかねぇ……俺はリオウの処置を即座に決めた旦那が……おっかねえがな」
復讐と贖罪を同時に。
刑期は未定。
「私たちが一生懸命頑張るほど、リオウは、苦しみ続ける」
「ああ。もう一人の拷問狂は広い公園に植えられる。広くていざという時の避難にも使えるとこだ。また機会があれば見とくと良い。ありゃただのヒューマンだからコレほどでかくはねえだろうな」
拷問で人の限界と苦悶を楽しんでいた男は、これから憩いの公園で幸せな住民を見守る。
ヒューマンである彼はリオウに加えて時間という罰も存分に味わう事になる。
或いは。
カンタならば途中でこの最悪の拷問の一つを受ける事に喜びも感じ始めるかもしれない。
「ライム」
「あん?」
「ライドウ様、全然怖くないじゃん。凄い人じゃない!」
「……ま、それはそれで合って……いや、いいや。そだな」
様になってんじゃねえか。
他にも色々と思うところあるライムだったが、今、この平和な闇の中で口にする事もないかと思いなおす。
「あー久々に夜明けなんて見た。綺麗よねえ」
「徹夜したってだけだ。見飽きたよ俺は」
「明日、ううん、今日から。私物凄く頑張るよ、夢と復讐が同時に叶う職場なんて滅多にないもん!」
「俺としちゃあ、ここがこれだけ立派になってクズノハ商会の影響が強まっちまうと、夢が遠のくんだが……」
「え、なに!?」
ほんの小さなライムのぼやきはセーナの耳には届かなかった。
ここがあまり有名になってクズノハ商会と結び付けられてしまうと、亜空に移住させようというライムの目的とは微妙に方向性が変わってしまいかねない。
ライムはライドウにも自分の孤児院への想いをもっと早く知っておいてもらうべきだったと、僅かに後悔もしていた。
だが別に全てがダメになったと決まったものでもない。
孤児院の職員や子どもらはこれで確実にクズノハ商会への興味を深めるだろう。
そうなればここの半数でも、まとまった数の子どもらを亜空に引っ越しさせる事は可能だと彼は考えていた。
幸いというか、セーナや院長らは内心では子供を増やしたがっている。
これだけ立派な建物になれば遠からずまた、その思いも湧き起こってくるに違いない。
今は恩を売ったという事だけで良い。
ライムは気を取り直した。
「なんでもねえよ。セーナ、この貸しはでけえからな? 忘れんなよ?」
「……うん。私が力になれる事なら何でも言って。大した事は出来ないけど、全力で協力してあげる」
「言質取ったからな」
「取られました。このセーナ、こんだけの事が叶って何もしないような恩知らずじゃありません!」
「だな、安心した。んじゃ早速一つ有難い忠告をしてやろう」
「?」
「人脈を広げとけ。ご同業が良い。ひたすら仲良くなっとけ」
「どうして?」
「あっという間に人不足になるからだ。言っとくが、姐さんの許可なく勝手に人なんぞ増やせねえからな?」
「あっ!」
「いざって時の為に信用できる奴を作っとけってこった」
ライムなりに上司としての巴を分析している。
彼女は突然誰かの紹介で連れて行ったような人物は信用しないし、そのまま雇う事も滅多にない。
仕事によっては無い事もない、そんな程度だ。
反面、普段からライムが親しく付き合っていて人となりがそれなりにわかっているような相手だとかなり寛容に、また気前良い付き合いをもったりする。
もちろん、この条件でも切られる場合もある。
だが傾向は重要だ。
巴の部下としての先輩であるライムは後輩のセーナに確実にプラスになるアドバイスをしたわけだ。
「た、確かに。巴さんの面接に受かりそうな子の心当たりなんて……殆どない」
「仕事量は俺が適当に見積もっても三倍以上にはなる。気合だけで当面は何とかなるが、気合だけじゃ当面しか持たねえ。周りのにもちゃんと言っときな」
「……ありがと、ライム」
「なに、いずれ恩は返してもらうって。気にすんな」
亜空に来てもらうって形でな。
恩返しの内容は胸中でだけ漏らし。
幼馴染二人は色気のある雰囲気など一度もないまま、朝を迎えたのだった。
「……」
「見ろよ、ここ。誰がこれ見て孤児院だって思うんだよ」
「……」
「そんでお前らもここがウェイツ孤児院でございって言えんのかよ」
「……」
「周りも綺麗に変わっちまった。はぁーーーー……」
長い長いため息。
ライム=ラテのものだ。
ウェイツ孤児院屋上。
空はまだ白んではいないが、じきの事だろう。
辛うじて夜の闇が生き残っている、そんな時間帯だった。
「……なによ、孤児院が綺麗になると嫌なわけ?」
孤児院職員にしてライムの幼馴染であるセーナが口を尖らせる。
「こんだけ旦那方を、クズノハ商会を派手に動かしちまったら、お前らこれから地獄見んぞ?」
「ちょっとした改築、じゃないのはわかってるけど……後からお金請求する系?」
「そんな月並みな事、あの人がするかよ」
「じゃ、地獄ってなによ」
「巴の姐さんから色々言われてんだろ? きっついぞ、あの女性の要求は」
「ヨセバ、だっけ? 何か子どもに手に職つけさせるとか、勉強させるとか」
「そだよ。今まで通り子どもの世話だけしてりゃいいなんてレベルじゃなくなるからな」
「……? 講師は外からクズノハ商会が連れてくるんでしょ? あんたも含めて」
「めでてえなあ……お前。勉強も訓練も、講師だけで面倒みられる訳ねえだろ? お前らもこれから無茶苦茶勉強する事になんだよ。まだ実感ねえかもしれねえけど、セーナ」
「なによ」
勉強が出来るなど、望外の条件じゃないか。
セーナの顔はそう語っていた。
「ウェイツ孤児院は皆まとめてクソ高ぇ崖から落ちたんだよ」
クズノハ商会という断崖。
ライム=ラテはヒューマンとしてはかなり初期にこれを経験した人物である。
一桁ナンバーの猛者だ、しみじみ度合いが違う。
同じ一桁台にはツィーゲでトップを張る冒険者トアらも含まれるが、ライムなどは竜の血を受け入れてヒューマンを辞めてなお落ち続けているのだ。
登攀と落下の違いは実に明白だ。
「バカ言わないでよ。むしろ孤児院全体としてはどん底から上がり調子でしょ、あんたんとこから援助を受け出してからずっと」
「あのな、セーナ」
「?」
「上がる登るってのは、自分で辞められんだよ。下る落ちる、特に落ちるなんてのは基本的に本人にはどうしようもねえんだ」
そう、違いは自分の意思で止まれるかどうか。
落下の終わりは激突しかない。
ウェイツ孤児院にはソフトランディングかハードランディングかは努力次第で選べても、後戻りするという選択肢は存在しないのだ。
「……」
「もう、行くとこまで行くしかねえ。お前、三か月もすれば魔術の一つも覚えてるかもな」
「やめてよ、そういうわけわかんない事言うの。確かに、あの巴って人は厳しいとこあるけどさ。ライドウって人はやっぱ優しい人じゃない?」
セーナは大樹を見る。
孤児院の屋上に突如生えた樹を。
きっと朝になればこのサプライズに子ども達はまた大騒ぎするのだろう。
彼女はライドウの行動に納得していない、優しいというよりは甘い、と言いたげな不満を露わにした表情を隠そうともしない。
「……優しいとこもあんのは確かだ、俺も保証する。だが……お前が想像してるよりはずっと、おっかねえお人だよ」
ライムもまた、セーナが見つめる樹に目をやり、近づく。
幹を軽く蹴るが、大樹はびくともしない。
ちなみにセーナはもう何度も、殴ったり、蹴ったりしている。
「リオウを殺さないなんて、どこが怖いのよ」
「殺してやらねえから、あの人はおっかないんだ」
「?」
「コレな、樹にされても意識はあるんだぜ?」
「!?」
「お前に殴られてる事も、蹴られてる事もリオウは認識してるってこった」
「意識があるまま樹にされるのは、不気味かも」
「ふっ」
「! なんで笑うの、あんたは!」
「ズレてっからだ。リオウは元々エルフだ。長寿で俺らとは時間の感覚が違う」
「……うん」
散々脅された文言。
親になったら、祖母になったら。
エルフとヒューマンの時間についての感覚は確かに全く異なる。
「だから動けねえのは多少不便でも、ただ樹になるだけならリオウは大して苦痛じゃねえ」
「……そうなんだ」
「ああ、聞いたとこじゃあな。エルフの秘儀の中には自らを樹木にして森の一員になる事で生涯を終える、なんてのもあるらしいぜ」
その秘儀のオリジナルにして最も高等な場所に位置するのが樹刑だ。
術者ではなく他者を自在に樹木に変じる。
森鬼の誇る秘奥義で、これを扱える者は一様に尊敬を集める。
「……じゃ、こいつはあんま堪えてないんじゃないの?」
「ところがそうじゃない。場所が問題なんだな」
「場所って、ここ? 正直私、リオウとずっと一緒にいなきゃならないとか最悪の気分だけど?」
これが自分への仕打ちだというならライドウは恐ろしい男だと、セーナは心から思う。
「リオウはヒューマンも亜人も関係なく、売り買いされる人の顔を見んのが大好きなクズ野郎だ。絶望や挫折は基本、時に赦しや希望もスパイスにして奴隷って立場にいる玩具を全力で楽しんでやがった」
「……」
「そのリオウが、これからはずっとここで見続けなくちゃならんのは、ガキどもの顔だ」
「……あ」
「お前ら次第だが、下手をするとリオウは不幸から立ち直って幸せを掴もうって希望全開のガキどもの、あいつからすりゃ吐き気がするような光景を延々と見続ける羽目になる」
「あの、クソエルフが……」
「ああ、しかもリオウの力は根を通じて孤児院の守護に使われ続ける。こいつの了解なんぞ全く取る必要も意見を聞く必要もなく、リオウは自動的にウェイツ孤児院を守り続けるんだ」
「は、はは……なにそれ、最高」
「あいつに酷ぇ目に遭わされたお前みてぇのも大勢いるだろうさ。けどよ、これからお前がガキどもに親身になればなるほど。あいつは至上の苦痛を味わう、枯れるまでな。お前らは幸せ、リオウは不幸。甘いかねぇ……俺はリオウの処置を即座に決めた旦那が……おっかねえがな」
復讐と贖罪を同時に。
刑期は未定。
「私たちが一生懸命頑張るほど、リオウは、苦しみ続ける」
「ああ。もう一人の拷問狂は広い公園に植えられる。広くていざという時の避難にも使えるとこだ。また機会があれば見とくと良い。ありゃただのヒューマンだからコレほどでかくはねえだろうな」
拷問で人の限界と苦悶を楽しんでいた男は、これから憩いの公園で幸せな住民を見守る。
ヒューマンである彼はリオウに加えて時間という罰も存分に味わう事になる。
或いは。
カンタならば途中でこの最悪の拷問の一つを受ける事に喜びも感じ始めるかもしれない。
「ライム」
「あん?」
「ライドウ様、全然怖くないじゃん。凄い人じゃない!」
「……ま、それはそれで合って……いや、いいや。そだな」
様になってんじゃねえか。
他にも色々と思うところあるライムだったが、今、この平和な闇の中で口にする事もないかと思いなおす。
「あー久々に夜明けなんて見た。綺麗よねえ」
「徹夜したってだけだ。見飽きたよ俺は」
「明日、ううん、今日から。私物凄く頑張るよ、夢と復讐が同時に叶う職場なんて滅多にないもん!」
「俺としちゃあ、ここがこれだけ立派になってクズノハ商会の影響が強まっちまうと、夢が遠のくんだが……」
「え、なに!?」
ほんの小さなライムのぼやきはセーナの耳には届かなかった。
ここがあまり有名になってクズノハ商会と結び付けられてしまうと、亜空に移住させようというライムの目的とは微妙に方向性が変わってしまいかねない。
ライムはライドウにも自分の孤児院への想いをもっと早く知っておいてもらうべきだったと、僅かに後悔もしていた。
だが別に全てがダメになったと決まったものでもない。
孤児院の職員や子どもらはこれで確実にクズノハ商会への興味を深めるだろう。
そうなればここの半数でも、まとまった数の子どもらを亜空に引っ越しさせる事は可能だと彼は考えていた。
幸いというか、セーナや院長らは内心では子供を増やしたがっている。
これだけ立派な建物になれば遠からずまた、その思いも湧き起こってくるに違いない。
今は恩を売ったという事だけで良い。
ライムは気を取り直した。
「なんでもねえよ。セーナ、この貸しはでけえからな? 忘れんなよ?」
「……うん。私が力になれる事なら何でも言って。大した事は出来ないけど、全力で協力してあげる」
「言質取ったからな」
「取られました。このセーナ、こんだけの事が叶って何もしないような恩知らずじゃありません!」
「だな、安心した。んじゃ早速一つ有難い忠告をしてやろう」
「?」
「人脈を広げとけ。ご同業が良い。ひたすら仲良くなっとけ」
「どうして?」
「あっという間に人不足になるからだ。言っとくが、姐さんの許可なく勝手に人なんぞ増やせねえからな?」
「あっ!」
「いざって時の為に信用できる奴を作っとけってこった」
ライムなりに上司としての巴を分析している。
彼女は突然誰かの紹介で連れて行ったような人物は信用しないし、そのまま雇う事も滅多にない。
仕事によっては無い事もない、そんな程度だ。
反面、普段からライムが親しく付き合っていて人となりがそれなりにわかっているような相手だとかなり寛容に、また気前良い付き合いをもったりする。
もちろん、この条件でも切られる場合もある。
だが傾向は重要だ。
巴の部下としての先輩であるライムは後輩のセーナに確実にプラスになるアドバイスをしたわけだ。
「た、確かに。巴さんの面接に受かりそうな子の心当たりなんて……殆どない」
「仕事量は俺が適当に見積もっても三倍以上にはなる。気合だけで当面は何とかなるが、気合だけじゃ当面しか持たねえ。周りのにもちゃんと言っときな」
「……ありがと、ライム」
「なに、いずれ恩は返してもらうって。気にすんな」
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幼馴染二人は色気のある雰囲気など一度もないまま、朝を迎えたのだった。
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