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六章 アイオン落日編
密やかなる夜に
ここも久しぶりだ。
まだ外は少し明るさを残す時間。
以前はもっと夜が深まってから来てたもんだ。
「だいぶご無沙汰でしたね、ライドウ先生。今日はお一人で、珍しく早いお時間ですね」
「はい、ようやくひと心地といったところで。こちらにいる内に一度は寄っておこうかと思い立ちました」
「ありがとうございます。ライドウ先生にこのロッツガルドで思い出してもらえる店になれている、嬉しい限りです」
「はは、酒と肴をお願いします。二杯も飲んだら帰りますから適当に」
「おや」
「最近は出来るだけ早く仕事も切り上げるようにしてまして。今日はマスターの顔を拝みに来たのが一番の目的です」
「……光栄です」
実際、夕食やその後の時間を亜空で過ごす事が最近の僕だ。
学園都市に来て、そういえばと思い出したのが識とたまに寄っていたバー、ラヴィドールだった。
鍋の五鉄は既に昼に何度か寄って挨拶済みだ。
マスターの言葉通り、バーに来る時間としては今はまだかなり早い。
ラヴィドールは食事も中々凝ったメニューを出すから食事処としても十分使える店だけど、今はまだ僕以外の客はいない。
というか、今店にいるのは僕とマスターだけ。
用意される小さめのグラス。
お、今日は中々濃いめのお酒を飲ませるつもりみたい。
既に仕込まれていた一品料理とナッツ、完成した水色のお酒が僕の前に出される。
ポツポツとマスターと世間話をし、最近のロッツガルドやちょくちょくここに来るようになって常連化しているジン達の事も聞かされた。
ここ、皆で騒ぐようなタイプの店じゃないと思うんだけど。
マスターは喜んでいるみたいだから別にいいか。
あいつら、五鉄も常連になってる。
あそこもすっかりルリアが抜けた状態でしっかり回るようになってたな。
大将は彼女が死んだと思っているみたいなのが少し心苦しかった。
あれ以来行方不明、ってのは今現在だとあの事件で亡くなった、とほぼ同義だもんな。
「これは、初めて飲ませてもらいますね?」
口当たりは柔らかい、でも喉を通る頃にはカッと熱く感じる。
後味も悪くない。
ここんとこ梅酒みたいな甘い酒が多かったから、新鮮だ。
美味しい。
「はい。夜は別のご予定があるようなので。色々と差し障りが出にくいものをご用意させて頂きました」
……。
早く帰るから、と。
これからお楽しみのご予定ですね、的な事を匂わされるとは思わなかった。
昨夜はお楽しみでしたね、の派生版か!
「気を遣わせたようで」
「ライドウ先生程の方でしたら、選び放題でしょう。羨ましい事です」
二人並べば確実にそっちに女性が集まるマスターに言われても。
喫茶店とかバーとかのマスターって妙な魅力を備えてる気がする。
何でだろうな。
「まさか、私にはそんな甲斐性はありませんよ」
しかし差し障りか。
やっぱりアルコールを取り過ぎるのはそういう意味でも良くないもんなのか。
僕の場合、あんま関係ないような気もするけど一応気にしておくかな。
妄想的なイメージだと酔ってる方が雰囲気出そうな気もするのに……奥が深い。
のか?
「……」
「どうかしました、マスター?」
「ライドウ先生。失礼を承知で一つ、踏み込んだ事をお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「? どうぞ」
なんだ、マスターがいつになく神妙な顔をしてる。
「先生は一時期学園で沢山の女性に特殊な告白されて困ると、こぼしておられました」
「……ああ、はい」
あれな。
最近もちょくちょく古傷を抉っては僕にダメージを与えてくる。
この世界で受けた中で最強クラスのスリップダメージだと確信してる。
「ですが」
「?」
「折角のモテ期、先生の方も告白なさった事があるようで」
「え?」
僕から告白とか。
好きとか嫌いとか以前の時期だぞ、あれは。
恋愛とかモテ期とかでも断じてない。
あのトラウマ全開の時期に自分から攻める蛮勇なんて持ち合わせてないわ!
「セイレン=ガルメナという女性、ご存知じゃありませんか」
「セイレン……? いや、知らない名前です。二番にしてとか三番がいいとか言われて相当追い詰められていたから、多少記憶に曖昧なとこがありますけど……」
「ご苦労、なさってますね。すみません、こんな話を」
心底申し訳なさそうなマスター。
「いや、構いません。そのセイレンさんという人がどうしたんです?」
「本当に覚えてらっしゃらないんですか。それは、驚きました。先生の方から、一番になってくれるなら何でも望みを叶えるとまで仰ったらしい女性なのに」
……。
どこの馬鹿がそんな根も葉もないクソみたいな嘘を流してくれてやがるのか。
デマ、噂。
最近こんなのばっかりか!
そんな成金全開の口説き方なんて誰がするか!
一番になってくれるなら!?
何でも望みを叶えてやる!?
ふざけているにも限度ってもんが……!
……?
一番?
望み?
…………。
……。
あ。
「……思い出されたようで、安心しました。ええ、本当に」
「あの女性、確か学園の研究者で……彼女がセイレンさん?」
いた。
確かにいた。
いや、お金で言う事を聞かせようと女性の顔を札束ではたくなんて真似をした訳じゃない。
絶対に違う。
ただ、一番。
その言葉で思い出した。
どいつもこいつも愛人的なポジションでお金や力を当てにするのばかりで無茶苦茶やさぐれてた僕は、一度。
一番になってくれるなら、望んでいるようにしてあげようって。
確か……脱兎の如く逃げてった、はず。
白衣がばっさばっさ揺れてたのがぼんやりと頭に浮かんでくる。
ああ、あの女性がセイレンさん。
いた、いたたたた。
「はい。どうぞ、フィズアークです」
「お、これ好きなんですよ」
「実は……セイレンさんもここに良く来て下さるお客様でして。そのお酒を必ず頼む数少ないお客様の一人です」
「……そっか。意外とニアミスしてたのかもな」
「奇跡的にお二人が同席された事はありません」
そりゃまた……僕らしいというか。
僕らしくないというか。
「……なるほど」
どう答えていいものか苦慮したあげく適当な相槌を打つ。
そもそも、セイレンという女性がどうしたって話なのかもまだ出てきてないし。
変異体事件を生き抜いたのかどうかもわからない。
「実は、彼女はあれから苦しい立場に置かれていまして。もしライドウ先生の方にしこりなど無いようなら、お力添え願えないかと。老婆心ながらお伝えさせて頂きました」
「私は、特に気にしていませんが。いや、告白しておいてその態度は何だと言われてしまうと苦しいんですが」
苦しい立場。
うーん、なぜ?
しこりなんて本当に無い。
でも告白が原因でセイレンって人が苦しんでいるなら、僕にも多少責任がある、気がしなくもない。
マスターにそう思わされている、誘導されている気もしなくもない。
何かセイレンを哀れむような切ない様子が伝わってくるんだもんな。
「ライドウ先生のお人柄、私が思っていた通りでした。この通り、彼女を少しでも楽にしてやってください」
「マスターが頭を下げるほどの事ですか。それで、セイレン、さん? その人はどうなってるんです?」
「先生から告白されてそれを袖にした馬鹿として、学園内外で非常に肩身の狭い思いをされています。ここのお酒も良くない酒になる事ばかりで……」
僕の。
告白を。
袖にした馬鹿。
何だその意味不明ワード。
「何しろライドウ先生は武力、財力、人格。容姿以外は全て持っておられる超優良物件ですから」
「……おぉ」
二杯しか飲んでないのに吐きたくなってきた。
「率先して学園に協力して変異体を制圧したかと思えば、私財を投じて街の復興にも尽くされている。こうして目の前にいらっしゃらなかったら、私とて実在を疑いますよ。そんな人物が本当にこの世に存在するものかと」
うん、ウチの都合的にね。
聖人扱いされるのは程々で……そういう事か!
だから、セイレンさんはソレを振った、トップクラスの玉の輿に乗り損ねた女として馬鹿にされていると。
何ならクズノハ商会や僕にあたる光が強い程、色々と肩身が狭い思いをすると。
……それは、悲しい。
なんていうか、申し訳ない。
「セイレンさん、本当に拗ねてしまって。元々は聡明で、魔術の、ご専門をもって研究されている女性でした。一生懸命に励んでおられましたねえ」
……マスター、これ以上僕の罪悪感を刺激しないで欲しい。
マジか。
クズノハ商会を良く思ってなかった商会は今では大分追い詰められたり潰れたりしたところも多い。
ロッツガルドでのウチの印象は今は怖いくらいに良い。
良すぎる。
それだけにクズノハ商会や関係者に敵対していると思われてる人は、嫌な思いもするって事か。
あの頃は商人としても大分悩んでた、違うな。
視野が狭すぎて見るべきものが全然見えてなかった時期だ。
心に余裕も無かった。
「彼女に嫌な思いをさせているとは……全く気付いていませんでした。申し訳ない事になっていたようですね」
「直接関わる事もないご関係でしょうから、先生が悪いのではありません。それは私も、きっと彼女もわかっています」
そうだろうか。
女性の方には結構恨まれているような気もする。
名前も知らなかったくらいだしなあ。
「わかりました。何とか彼女の名誉を挽回できるよう考えてみます」
「よろしく、お願い致します。大事な常連様ですので」
見事な一礼とともによろしくされてしまった。
学園内については事務さん、ジンたち、それに学園長辺りにも協力をお願いしてみるか。
学園長にはあの事件で大きな貸しがあるし、ここらで対価をきちんと要求しておかないと勘違いして僕らを好きに使えると思いかねない。
既に思ってるとしても関係をはっきりさせる良い機会だ。
研究職らしいから仕事方面に影響が出てたら学園長の力は有効だろう。
具体的にどんな扱いを受けているかも調べて……学外はどうしよう。
ザラさん、かなあ。
娼館のエステルさんや亜人のまとめ役ボウルなんかは今回はそこまで力になってもらえそうにない。
後は商会に良く来てくれる顔馴染みのお客さんか?
「微力ながら動いてみますよ。御馳走様でした」
「ご謙遜を。またのお越し、心よりお待ちしております」
そうだ。
もう一個大事なのを忘れてた。
全くの勘違いとはいえしでかした事は間違いない。
今夜にでも巴と澪にも白状して説明しておこ。
そっかー。
あれをカウントしたくはない。
したくはないけど、僕の人生最初の異性への告白ってアレになるのかぁ……。
異世界的黒歴史はそこそこあるけど、これ結構上位だな。
丁寧に梱包して記憶の底に封印、だな。
まだ外は少し明るさを残す時間。
以前はもっと夜が深まってから来てたもんだ。
「だいぶご無沙汰でしたね、ライドウ先生。今日はお一人で、珍しく早いお時間ですね」
「はい、ようやくひと心地といったところで。こちらにいる内に一度は寄っておこうかと思い立ちました」
「ありがとうございます。ライドウ先生にこのロッツガルドで思い出してもらえる店になれている、嬉しい限りです」
「はは、酒と肴をお願いします。二杯も飲んだら帰りますから適当に」
「おや」
「最近は出来るだけ早く仕事も切り上げるようにしてまして。今日はマスターの顔を拝みに来たのが一番の目的です」
「……光栄です」
実際、夕食やその後の時間を亜空で過ごす事が最近の僕だ。
学園都市に来て、そういえばと思い出したのが識とたまに寄っていたバー、ラヴィドールだった。
鍋の五鉄は既に昼に何度か寄って挨拶済みだ。
マスターの言葉通り、バーに来る時間としては今はまだかなり早い。
ラヴィドールは食事も中々凝ったメニューを出すから食事処としても十分使える店だけど、今はまだ僕以外の客はいない。
というか、今店にいるのは僕とマスターだけ。
用意される小さめのグラス。
お、今日は中々濃いめのお酒を飲ませるつもりみたい。
既に仕込まれていた一品料理とナッツ、完成した水色のお酒が僕の前に出される。
ポツポツとマスターと世間話をし、最近のロッツガルドやちょくちょくここに来るようになって常連化しているジン達の事も聞かされた。
ここ、皆で騒ぐようなタイプの店じゃないと思うんだけど。
マスターは喜んでいるみたいだから別にいいか。
あいつら、五鉄も常連になってる。
あそこもすっかりルリアが抜けた状態でしっかり回るようになってたな。
大将は彼女が死んだと思っているみたいなのが少し心苦しかった。
あれ以来行方不明、ってのは今現在だとあの事件で亡くなった、とほぼ同義だもんな。
「これは、初めて飲ませてもらいますね?」
口当たりは柔らかい、でも喉を通る頃にはカッと熱く感じる。
後味も悪くない。
ここんとこ梅酒みたいな甘い酒が多かったから、新鮮だ。
美味しい。
「はい。夜は別のご予定があるようなので。色々と差し障りが出にくいものをご用意させて頂きました」
……。
早く帰るから、と。
これからお楽しみのご予定ですね、的な事を匂わされるとは思わなかった。
昨夜はお楽しみでしたね、の派生版か!
「気を遣わせたようで」
「ライドウ先生程の方でしたら、選び放題でしょう。羨ましい事です」
二人並べば確実にそっちに女性が集まるマスターに言われても。
喫茶店とかバーとかのマスターって妙な魅力を備えてる気がする。
何でだろうな。
「まさか、私にはそんな甲斐性はありませんよ」
しかし差し障りか。
やっぱりアルコールを取り過ぎるのはそういう意味でも良くないもんなのか。
僕の場合、あんま関係ないような気もするけど一応気にしておくかな。
妄想的なイメージだと酔ってる方が雰囲気出そうな気もするのに……奥が深い。
のか?
「……」
「どうかしました、マスター?」
「ライドウ先生。失礼を承知で一つ、踏み込んだ事をお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「? どうぞ」
なんだ、マスターがいつになく神妙な顔をしてる。
「先生は一時期学園で沢山の女性に特殊な告白されて困ると、こぼしておられました」
「……ああ、はい」
あれな。
最近もちょくちょく古傷を抉っては僕にダメージを与えてくる。
この世界で受けた中で最強クラスのスリップダメージだと確信してる。
「ですが」
「?」
「折角のモテ期、先生の方も告白なさった事があるようで」
「え?」
僕から告白とか。
好きとか嫌いとか以前の時期だぞ、あれは。
恋愛とかモテ期とかでも断じてない。
あのトラウマ全開の時期に自分から攻める蛮勇なんて持ち合わせてないわ!
「セイレン=ガルメナという女性、ご存知じゃありませんか」
「セイレン……? いや、知らない名前です。二番にしてとか三番がいいとか言われて相当追い詰められていたから、多少記憶に曖昧なとこがありますけど……」
「ご苦労、なさってますね。すみません、こんな話を」
心底申し訳なさそうなマスター。
「いや、構いません。そのセイレンさんという人がどうしたんです?」
「本当に覚えてらっしゃらないんですか。それは、驚きました。先生の方から、一番になってくれるなら何でも望みを叶えるとまで仰ったらしい女性なのに」
……。
どこの馬鹿がそんな根も葉もないクソみたいな嘘を流してくれてやがるのか。
デマ、噂。
最近こんなのばっかりか!
そんな成金全開の口説き方なんて誰がするか!
一番になってくれるなら!?
何でも望みを叶えてやる!?
ふざけているにも限度ってもんが……!
……?
一番?
望み?
…………。
……。
あ。
「……思い出されたようで、安心しました。ええ、本当に」
「あの女性、確か学園の研究者で……彼女がセイレンさん?」
いた。
確かにいた。
いや、お金で言う事を聞かせようと女性の顔を札束ではたくなんて真似をした訳じゃない。
絶対に違う。
ただ、一番。
その言葉で思い出した。
どいつもこいつも愛人的なポジションでお金や力を当てにするのばかりで無茶苦茶やさぐれてた僕は、一度。
一番になってくれるなら、望んでいるようにしてあげようって。
確か……脱兎の如く逃げてった、はず。
白衣がばっさばっさ揺れてたのがぼんやりと頭に浮かんでくる。
ああ、あの女性がセイレンさん。
いた、いたたたた。
「はい。どうぞ、フィズアークです」
「お、これ好きなんですよ」
「実は……セイレンさんもここに良く来て下さるお客様でして。そのお酒を必ず頼む数少ないお客様の一人です」
「……そっか。意外とニアミスしてたのかもな」
「奇跡的にお二人が同席された事はありません」
そりゃまた……僕らしいというか。
僕らしくないというか。
「……なるほど」
どう答えていいものか苦慮したあげく適当な相槌を打つ。
そもそも、セイレンという女性がどうしたって話なのかもまだ出てきてないし。
変異体事件を生き抜いたのかどうかもわからない。
「実は、彼女はあれから苦しい立場に置かれていまして。もしライドウ先生の方にしこりなど無いようなら、お力添え願えないかと。老婆心ながらお伝えさせて頂きました」
「私は、特に気にしていませんが。いや、告白しておいてその態度は何だと言われてしまうと苦しいんですが」
苦しい立場。
うーん、なぜ?
しこりなんて本当に無い。
でも告白が原因でセイレンって人が苦しんでいるなら、僕にも多少責任がある、気がしなくもない。
マスターにそう思わされている、誘導されている気もしなくもない。
何かセイレンを哀れむような切ない様子が伝わってくるんだもんな。
「ライドウ先生のお人柄、私が思っていた通りでした。この通り、彼女を少しでも楽にしてやってください」
「マスターが頭を下げるほどの事ですか。それで、セイレン、さん? その人はどうなってるんです?」
「先生から告白されてそれを袖にした馬鹿として、学園内外で非常に肩身の狭い思いをされています。ここのお酒も良くない酒になる事ばかりで……」
僕の。
告白を。
袖にした馬鹿。
何だその意味不明ワード。
「何しろライドウ先生は武力、財力、人格。容姿以外は全て持っておられる超優良物件ですから」
「……おぉ」
二杯しか飲んでないのに吐きたくなってきた。
「率先して学園に協力して変異体を制圧したかと思えば、私財を投じて街の復興にも尽くされている。こうして目の前にいらっしゃらなかったら、私とて実在を疑いますよ。そんな人物が本当にこの世に存在するものかと」
うん、ウチの都合的にね。
聖人扱いされるのは程々で……そういう事か!
だから、セイレンさんはソレを振った、トップクラスの玉の輿に乗り損ねた女として馬鹿にされていると。
何ならクズノハ商会や僕にあたる光が強い程、色々と肩身が狭い思いをすると。
……それは、悲しい。
なんていうか、申し訳ない。
「セイレンさん、本当に拗ねてしまって。元々は聡明で、魔術の、ご専門をもって研究されている女性でした。一生懸命に励んでおられましたねえ」
……マスター、これ以上僕の罪悪感を刺激しないで欲しい。
マジか。
クズノハ商会を良く思ってなかった商会は今では大分追い詰められたり潰れたりしたところも多い。
ロッツガルドでのウチの印象は今は怖いくらいに良い。
良すぎる。
それだけにクズノハ商会や関係者に敵対していると思われてる人は、嫌な思いもするって事か。
あの頃は商人としても大分悩んでた、違うな。
視野が狭すぎて見るべきものが全然見えてなかった時期だ。
心に余裕も無かった。
「彼女に嫌な思いをさせているとは……全く気付いていませんでした。申し訳ない事になっていたようですね」
「直接関わる事もないご関係でしょうから、先生が悪いのではありません。それは私も、きっと彼女もわかっています」
そうだろうか。
女性の方には結構恨まれているような気もする。
名前も知らなかったくらいだしなあ。
「わかりました。何とか彼女の名誉を挽回できるよう考えてみます」
「よろしく、お願い致します。大事な常連様ですので」
見事な一礼とともによろしくされてしまった。
学園内については事務さん、ジンたち、それに学園長辺りにも協力をお願いしてみるか。
学園長にはあの事件で大きな貸しがあるし、ここらで対価をきちんと要求しておかないと勘違いして僕らを好きに使えると思いかねない。
既に思ってるとしても関係をはっきりさせる良い機会だ。
研究職らしいから仕事方面に影響が出てたら学園長の力は有効だろう。
具体的にどんな扱いを受けているかも調べて……学外はどうしよう。
ザラさん、かなあ。
娼館のエステルさんや亜人のまとめ役ボウルなんかは今回はそこまで力になってもらえそうにない。
後は商会に良く来てくれる顔馴染みのお客さんか?
「微力ながら動いてみますよ。御馳走様でした」
「ご謙遜を。またのお越し、心よりお待ちしております」
そうだ。
もう一個大事なのを忘れてた。
全くの勘違いとはいえしでかした事は間違いない。
今夜にでも巴と澪にも白状して説明しておこ。
そっかー。
あれをカウントしたくはない。
したくはないけど、僕の人生最初の異性への告白ってアレになるのかぁ……。
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丁寧に梱包して記憶の底に封印、だな。
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