月が導く異世界道中

あずみ 圭

文字の大きさ
458 / 551
六章 アイオン落日編

SSC

 ドドドド……。
 謎の効果音がどこからともなく頭に響いてくる応接室。
 不穏だ。

「澪様ファンクラブに必殺巴組、ですと?」

 思わず僕も場の雰囲気と耳から聞こえた奇怪な音に、謎の口調になって聞き返してしまう。
 みおさまふぁんくらぶ。
 ひっさつともえぐみ。
 頭がおかしくなりそうとはこの事だ。

「はい!」

 だが立ち上がって拳を握りしめるアイドルの卵アーシェス嬢は素晴らしい滑舌で僕の問いを肯定した。

「ちなみに一部の過激派や熱烈同志系フリークスは別組織の設立をしてよりコアなファン活動にいそしんだり、鉄の掟により複数所属を禁止していたりと勢力図は現状混沌としています」

「……ちなみに、アーシェスさんはどこかにしょぞ、いえ参加なさってるんですか?」

 なんとなく、所属って言いたくなかった。

「私は澪様ファンクラブと必殺巴組に参加してます」

 素なのか、それとも僕を気遣ってくれてかアーシェスは所属とは言わなかった。
 何となく体育会系な匂いも漂う娘さんだけに熱烈に鉄の掟を語る集団にいるのかと思ったりもした。
 熱、凄いし。

「ああ、両方。そういうライトなのもアリですか。はは……」

 そりゃそうか。
 巴と澪と聞いて二択かよ、と一瞬思ってしまったけど考えてみればどっちも応援していいよな。
 複数は駄目ってとこあるってだけなんだから。
 話を聞き始めてから巴と澪が出演する極妻的な何かが脳裏で蠢いている所為でどうも、変なイメージが。
 よし、多少はほのぼのマイルドなイメージに戻せた。

「あのお二人がどれだけギルドに貢献して下さったか! 元ギルド受付としてどちらかを選んで応援するだなんてとても出来ません」

「おお」

 真面目だ。
 そしてようやくまともなアーシェス嬢に戻ってきた。
 この娘さん、あんまりアイドルとかに真剣にさせたら駄目なんじゃなかろうかと思いかけてたよ。

「個人的には好みはそれぞれですから優劣はつきますが!」

「……」

 つくんかい。

「6:4でどちらも全力で応援してます! グッズだってばっちり購入してるんですから!」

 グッズってなにー!?
 少なくともウチはそんな物売ってナイヨ!?

「そ、そうですか。えっと、そうだ。アーシェスさんの6はどっちなんです?」

 辛うじて表面上だけ平静を保ち会話を続ける。

「澪様です」

「あーだからあんなに喜んで。納得しました」

 良かった。
 あれで4の方だったらどうしようと怖かった。
 6でも引く気持ちは変わらないけど、微かに救われた気分にはなる。

「ちなみに澪様のファンクラブは最大手が澪様ファンクラブですが、別団体として澪ちゃんファンクラブが競ってきている状況にあり決して安泰の最大手という訳ではありません。彼らは元はロッツガルドの学園祭で澪様を知った余所者が中心となったファンクラブでありここ聖地ツィーゲ――」

 の、脳が溶ける。
 何だこの予告なしのサプライズSAN値チェックは!
 なぜ僕が店で澪の二大ファンクラブについてぶっ飛んだ講義を受けねばならんのかと。

「ちなみに! 巴様の方は必殺巴組が団結力も規模も段違いに高く、続く勢力は三すくみ状態にあります。こちらは通称三羽烏と――」

「ストップ! ストーップ!!」

「?」

「よくわかりました。ウチの店員が冒険者や周りの皆さんに大事? にしてもらってるのは。ありがとうございます、十分です」

 はい、もう色々。

「ライドウ様」

「まだ……何か?」

「冒険者と周り、と仰いました?」

「……ええ」

「甘ーい!! 巴様と澪様、いいえ! 識様もアクアさんやエリスさんも……寄せ集めの私達みたいな人工アイドルと違って!! 生来のアイドルなんですよ!? 全然わかってませんね!?」

 いつからここは数多のプロデューサーが血反吐を吐きながら戦うアイドル戦記になった!?
 ツィーゲのどうでもいい、なのに覗き込んだら戻ってこれなくなりそうなリスクしかない無駄な闇を垣間見た。
 静かに方向性が明後日の方向に向かっているのを感じる。

「更には……あの幼くも完成された……コモエちゃんまで」

「こ、コモエですか?」

 完全にぶっ飛んでやがる。
 全く知らなかったな、この芸能人みたいな皆の扱い。
 そして認識。
 そうか、レンブラントさんはこの密かな熱気を既に察知していたのか。
 だから純粋なツィーゲ民からもそういう存在を生み出そうとしていた?
 つまり発想が飛び級にもほどがあると思っていたのは僕の無知?
 本当に?
 信じたくない気持ちがかなり大きいんですが。
 ツィーゲは荒野に挑む者たちの港にして母。
 個性的な人々が集まるけどそれなりに硬派な街じゃ……。

「どうなってるんだか……」

「本当にどうなってるんですかクズノハ商会は! アイドルの宝庫ですか! どうやったらあんな方々を量産できるんですか! ツィーゲの民を全員信者にするつもりですか!」

「……」

 アーシェスは完全にファンモードになってるしなあ。
 んでも……亜空の皆がアイドル、ねえ?
 どっちかっていうとあいつらは、僕も含めてだけどアイドルというよりはスタアの方だよな。
 我が強いし。
 今やその境は曖昧になりつつあるとはいっても、元が偶像って意味合いのアイドルというのは皆には如何にも似合わないように思う。

「こんな機会は滅多にありませんし、私、何かコツというか秘訣というか! 是非お聞きしたくて!」

「……アーシェスさんには巴や澪もアイドルに見えます?」

 まあ見えてるんだろうけど。

「いいえ!!」

 もうわかりませーん。

「何というか巴様と澪様は別格ですが、クズノハ商会の皆さんは私達とは根本的にレベルが違う気がします」

「まあ確かにレベルという意味では」

「ふざけないでください! そっちのレベルの話は今してません!」

「……はい」

「立っているステージとでも言いましょうか。私たちは要は人気者になりなさいと求められている職な訳なんですけども!」

 ……へぇ。
 直感的な受け取り方をする娘だとは思ってたけど、ピンポイントにアイドルに求められてるものを理解してる気がする答え。
 ニッチなとこを追求すれば在り様なんて無限に広がるにしても基本的なポイントはがっちり抑えてるような。

「なる、ほど」

「ここの皆さんはそんなつもりは全くなくて、でも振舞いと生き方と言葉と、全部で皆の目を惹きつけて離さない感じがあるんです! 言葉にするのは、何かもどかしくて……」

「受け身か自発的かという?」

「それ! ライドウ様は時々途轍もなく得体がしれない凄さが出てきますよね。流石は商会を束ねる代表さんです」

「……どうも」

「うん、うん! そんな感じですよ! 人気者になれって言われてもそんなの言ってみれば最大公約数の好みを反映するだけで、自分から何かを発する訳でもない筈なのに。巴様も澪様も自分の好きに生きてるように見えるのに物凄く魅力的で」

「……それは、巴も澪もこの街で一番評価される物理的な強さを持ってますし、誰かの理想というよりも誰に何と言われようと我が道を行く身勝手、いえ自由な意思を貫くタイプですからね。いってみれば体も心も強い。少なくとも、そう見える。だからでしょうね」

「じゃあ私があの人たちの様になるにはレベルを上げるしかない? いくらなんでもそれは……無理ですよ」

「そもそも巴と澪はアーシェスさんが言ったように好きに生きて憧れを受けるタイプ。アイドルというよりはスタアと言いますか」

「……」

「誰かの願望とか憧れとか理想の受け皿になるんじゃなく、自分の生き様で他社を惹き付ける光そのものに近い立ち位置といいますか。近い様で目標にするのは少し違うんじゃないかなと」

 そしてレンブラントさんがこの娘さんたちに求めてるものも。

「あのお二人に憧れたり目指すのは違うって仰るんですか?」

「ツィーゲ5(仮)の皆さんに求められてるのはアイドルって言葉通りの偶像としての役割も大きいと思います。人気者になって商品の広告役になるってのが主だとは思いますけどね」

「改名、ちゃんとお願いしてみます」

「これからツィーゲが大きくなっていくにつれて街の象徴というか、わかりやすいシンボルは欲しいと思うんですよね。一つは時のエース級冒険者たちが担うでしょうが、それだけじゃ多分足りない。街の住民の象徴、彼らの色々な願望の象徴。カッコいい言葉にするならツィーゲの守るべき者としてのシンボル。その偶像役としてレンブラントさんは皆さんを結成したような気はするんですよ」

 何となく。
 本当に何となくそう感じた。
 女神に、宗教に全く頼らないで巨大な街、巨大な人口を治めていくのにツィーゲはこれから冒険者やアーシェスみたいなアイドル、スタアを活用する気なんじゃないのかなって。
 我ながら結構良いとこ突いてるんじゃないかと思ってる。
 いやネタバラシをするとマク〇スを不意に思い出しただけなんですけどね。
 僕は個人的にアイドルとか詳しくなかったしそっちのアニメも詳しくなくて、そういうソシャゲも名前を知ってるくらい。
 アイドルと聞いて真っ先に浮かんだのは愛を覚えているかって感じの変形する宇宙戦艦だった。
 偶像とか象徴とかぐちゃぐちゃだし、何と言ってもアイドルとスタアなんて僕の中ではすぐ消えるのが前者でばんばん主役をやるのがスタアくらいの認識だ。
 昔高校の友人にその辺りをなんでそこまでってレベルで説教されてあーでこうでそーと何か言われたけど既に頭から抜けてるしな!
 興味ない事なんていくら熱弁されてもこんなもんさ!
 ごめん!

「……驚きました。ライドウ様ってどっちかと言えば考え方は物凄く目先しか見なくて、でもその目先は何があっても乗り切る脳筋系の閃きタイプなのかなって思ってました」

「アーシェスさん、言葉のオブラートが全部溶けてるんだけど」

「それを商会の皆さんが上手に舵取りをして大波も回避する、そういう役割分担でやってるんだろうなって思ってました……」

「ぐ……意外と間違ってないのがまた傷つく……!」

「そっか。ツィーゲで暮らす皆の、それも守られる側。弱者のシンボル……。だから戦争の時も兵士の皆さんの前でステージやれって言われたんだ……。でも、それだとやっぱり短命な役割よね。なら長く憧れを集め皆の願いを集め……集める? うん? という事は……?」

「おーい、アーシェスさん? 大丈夫? 何か考え事したいなら帰ってゆっくり寝っ転がった方が捗るんじゃない?」

 結構投げやりのざっくらばん。
 僕はぶつぶつ考え始めたアーシェスに声を掛ける。
 アイドルでいくかスタアを目指すか、さもなきゃ第三の選択でさくっと人気者のうちに玉の輿に乗るか。
 そんな事を考えているんだろうか。
 こっちは巴と澪のファンクラブの存在を明かされた時点で大分SAN値を削られて疲労感がパないですよ。

「そうします……。ではライドウ様。弓道のご指導よろしくお願い致します」

「あ、はい。こちらこそ」

 ふらっと席を立ち、だがアーシェスは大商会の令嬢として挨拶は仕込まれてるのか優雅に一礼して忘れてるかと思った弓道についても言及して帰っていった。
 思わず素に返ってまともに返事しちゃったな。
 あれは……僕同様、大分混乱してるな。
 さて僕は。
 とりあえず……巴と澪のファンクラブについて探りを入れてみようか。
 知ってしまった以上見ないふりというのも難しいもんな。
感想 3,662

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です