月が導く異世界道中

あずみ 圭

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六章 アイオン落日編

ぷちっとな

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「まさかライムも関わってるなんて」

「昔馴染みに次から次へと土下座されまして、とうとう断り切れず……すんません。行き過ぎがあれば止められもしやすし当のお二方にご迷惑がかからねえのが一番と、つい」

「実害どころか存在さえも今日の今日まで僕は知らなかったんだし、潰そうと思ってる訳じゃないから安心してくれていいよ。ちょっと雰囲気が気になっただけだからさ」

「俺がご案内できやすのは顔が利く大手二つだけですが……何なら明日からでも少し探りを入れてみましょうか?」

「いや、何にしてもまずは見てからだね」

「わかりやした。では姐さんの最大手ファンクラブ必殺巴組からご案内しやす」

 いきなり街に出ても巴や澪のファンクラブの情報なんてどこで集めたものかさっぱりわからない。
 考えてみれば僕は自分で地道な情報収集する経験が少ない。
 ふと目に留まったライムに声を掛けてファンクラブの話題を出すと明らかに気配が変わった。
 表面上は特に表情の変化も無かったんだけど、長い付き合いのおかげでライムの波長というか感情というか、何かが大きく揺らいだのがわかったんだ。
 で、少し追求してみたら一応存在も知っていて内容についても多少は把握しているとの事。
 まさか会員なのかと確認してみたところ、それはしっかりと否定した。
 二つの大手ファンクラブの相談役である事もゲロった。
 ある意味会員よりも性質が悪いと頭を抱えそうになっていると、ライムからあくまで頼まれて仕方なくだったと弁明され……まあ一旦納得する事にしたところ。

「ここ? 冒険者ギルドじゃないか」

「まあ、段取りってのがありやして……ちょいとこいつで顔隠してもらって」

「……わかった、任せるよ」

 ライムが先行して向かった先は冒険者ギルド。
 しかも荒野向けじゃない方である。
 元冒険者とはいえ荒野の常連だったライムには場違いな場所だ。
 にしても、ここはあまり繁盛してないな。
 冒険者と言ってもかなり低年齢層が目立つ。
 取り立ての子ども性質が多いのが丸わかりだ。
 これから街そのものが巨大化していくなら、彼らの活躍機会はかなり限られていくだろうからギルドの場所ももっと街の端っこに移設って事になるかもなあ。

「現代でいう自然体験施設みたいな扱いになりそうな……」

 なんて思いつきを呟きつつライムを追う。
 大きめの布で頭と顔を包んで目だけ出す。
 さて、ライムの奴は……。
 依頼を見て……受付に向かった?
 不思議な光景だけど任せた以上は後に続くしかない。

「ようこそ、ご用向きは?」

「今日のフジは何が入ってる?」

「……赤、逆さ、白があります」

「白をもらおうか」

 合言葉らしき謎の会話を交わすと、カウンターを挟んでライムと受付が何やら拳を合わせて決まった動作を行った。
 また無駄に秘密めいた……。

「お久しぶりです、ラテ相談役!」

「よ、今日の会合はどこだい? 久々に顔出しとこうと思ってな」

「今日は物販の新作が披露されるみたいで、広い箱を抑えています。ええと、第四倉庫街の」

「オークス商会所有、か?」

「はい! 流石相談役です!」

「ありがとな。帰りになんぞ土産持ってくらあ」

「! ありがとうございます!! ところで、そちらの方は?」

「体験希望者だ。ちょいと断れねえ筋から頼まれちまってる」

「……また一つ、巴組の力が! 期待してます!!」

「おう!」

 第四倉庫街。
 特に決まった拠点を持ってる訳じゃないのか。
 何とか公式FC本部、みたいな。
 あ。
 そういえば最大手とか大手とか言ってるけど、どれも非公式だな。
 堂々とやるのも何か違うって事か。
 有名人の非公式ファンクラブの位置づけって実際どんなもんなんだろ。
 漫画とかの二次創作サークルみたいな?
 うーん、謎だ。
 第四倉庫街っていえば、結構大きめのとこだよな。
 物資でいえば荒野からの素材を一時保管する倉庫の一つだから出し入れは激しい方。
 第十を超えた辺りから黄金街道からツィーゲに入ってくる物資の保管庫や一時置き場になるって聞いた覚えがある。
 クズノハ商会は倉庫街を基本的には使わないからあんまり付き合いもなく、僕は倉庫街に行くの自体初めてだったりする。

「第四倉庫街……昼間から集まりがあるもんなの?」

「物販の新作がどうのと言ってやしたから。多分朝早くから盛り上がっているんじゃねえかと」

 ……。
 それなんてコミケ?
 物販とかライブとか即売会でしか聞かない単語ダヨ?

「第四といえば荒野向けだろう。オークス商会というのはあまり詳しくないけど、この時期に空いてるもん?」

「出し入れが激しいすから。一日二日の隙間ってのはアクシデント何かもあって日常茶飯事でありやす。そこを上手く狙ったんでしょう。ファンクラブとはいえ、それなりに規模がねえと倉庫一つ使うってなあ無茶ですが」

 必殺巴組はそれが可能だと。
 入ってみたら暗闇の中で光る棒が乱舞してないだろうな……。

「……うお!?」

 倉庫街に入った辺りで僕は思わず声を上げてしまった。
 かなり衝撃的な光景がそこにあったからだ。

「! 旦那!?」

「あ、ごめん。あのさ、ライム」

「へい」

「あの倉庫、何か他と全く雰囲気が違うよね。歴戦の倉庫ってか昨日も襲撃されましたが何か、的な煙とか魔力の残滓とか刺さった剣とか……凄い事になってんだけど」

 あれは……ここがああでこうだから……八番倉庫か。
 第四倉庫街の八番倉庫。
 一体あそこは……。
 まさか、あそこじゃないよな?

「ああ」

「知ってるの?」

「あれはウチの倉庫でさ」

「ウチ。……え? ……ウチ!? クズノハ商会なの!?」

「うす。姐さんは四なんて数字は不吉で嫌だとごねたんすが空いてるのが八番だと聞いたら、それなら良しと」

「……巴、意味がわからん」

「なんでもフォーティーエイトだとか四十八手だとか。四だけなら御免だが八もセットなら良しとお決めになったと聞いてやす」

 ……。
 ウチが倉庫を借りてた事もびっくりだけど、巴がそこで妙な数字遊びをしてるのにもびっくりだよ。

「あれがウチの借りてる倉庫だとして……一体何であんな事に?」

「襲撃が日常茶飯事ですから。まあ規模に対して扱ってるモノが上物ですし、賊も安心して仕掛けてくるってもんなんすかね。姐さんとか澪の姐さんとか識の旦那、大分落ちやすが俺やモンド、アクアエリス姉妹やドワーフも一騎当千くらいは自負してるんですが面目めんもくありやせん。まあ数が少ねえとああいう輩は幾らでも湧くもんです。エルドワセキュリティでがっつり守ってるんで被害もねえすから」

「そっか。一応倉庫を借りとかないと説明が面倒になる量の取引はしてるか」

「すね」

「ちなみに中はどんなの入れてるの?」

 襲撃がハイペースならあんま貴重なのを入れとく訳にもなあ。

「空っす」

「空、か」

「はい。情報は色々流してやすし入れてる風、出してる風な事をする時もたまーにで。実際にはここも、向こうの一般物資用倉庫、第十三倉庫街十三番倉庫もなーんも入っちゃいません」

「そりゃあ、襲撃が奇跡的に成功したとしても中々哀れな……」

「賊の末路は大抵哀れっす」

「……だねえ。ところで、一般物資の方の倉庫、それも巴が選んだの?」

 サーティーンオブサーティーンって。

「いえ。そちらは澪の姐さんがたまたま空いた所を即決でお決めに」

「ああ、今度は澪。そっか」

 これだけの倉庫を二つ借りたらどのくらいの維持費が……って僕が見てる帳簿に当然ある筈なんだよ。
 見落とすような金額?
 いや、素直に僕が相当な項目をすっ飛ばしてみてるサボリをやらかしてたと認めよう。
 反省。

「お、あそこっすね」

「……普通過ぎる程普通な倉庫風景。秘密組織か」

「ある意味そっすね。ファンクラブ活動はご本人にご迷惑を掛けないのが鉄則すから。それでも、姐さんや澪の姐さんならもしかしたら気付いた上で可愛いモンと放置しててくれてるだけかもしれやせんね」

「……なるほど、なあ」

 紳士協定的な?
 思ったよりもまともな感じかもしれない。
 多分に裏切られそうな予感がするから淡い期待に留めておいて。

「じゃ、入りやしょう」

「失礼、本日この倉庫は荷受けも荷出しもございませんが……ラテ相談役!」

「オス。物販、順調かい?」

「失礼しました。あ、そちらは……」

「体験希望者だ。断れねえ筋からの頼みなんだ」

「相談役の紹介なら文句なしです! どうぞ! ちょいと面倒が起きてますがすぐ、お」

「ん?」

 人の気配を感じて身を引くと僕らと門番らしき人の間を何人かが吹っ飛んでいく。
 荒事?

「巴様のファンクラブにヤク持ち込むたぁ良い度胸じゃねえか!」

 ヤク……ドラッグ!?
 黄昏街カムバックかよ!

「てめえはてめえで妙な商談そこら中に持ち掛けてんじゃねえよ!」

 ああ……ファンクラブに集まるような人種は多少なりとも財布の紐も緩そうな感じはわかります。
 
「てめえ、アイオン臭えな? なんだ? 今度はウチらの中に入り込んできな臭え事を考えてんのか……消しちまうか」

 アイオン……。
 そりゃね、あそこまでボコボコにされても招待に応じたんだから何かしらの理由があるわな。
 お得意のスパイを紛れ込ませる目的も当然あるか。
 ……懲りないねえ。
 巴に目をつけるのは成功した場合の成果を考えればかなりの慧眼なのに、成功する可能性をあまり考慮できてないような。
 にしても一瞬で排除されてるの、笑えるな。

「片付いたようですので、相談役、体験希望の方お通り下さい」

「おお、追い出すくらいで済ませとけよ」

 ライムが吹っ飛んだ勢を囲む連中にも手を振りつつ声を掛けて中に入ってく。
 さて、いよいよだな。

「トコロバライっすね! 相談役、お声がけあざっす!!」

 ……上下関係、体育会系。
 トコロバライって、江戸のアレか。
 一種の追放刑。
 何気にライムも結構肩入れしてんな、これ。
 一抹の不安を感じつつ、僕も倉庫内の闇に呑まれていった。
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