月が導く異世界道中

あずみ 圭

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七章 蜃気楼都市小閑編

クレイジーコージイーン

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「お金、お金……!」

「アルバイト、まさか旅先でやる事になるとは……」

「宿代分もくれるみたいだから結構な稼ぎだよね、聖地で働けるとかもうご褒美だな!!」

 何故か割烹着姿で走り回る天下のロッツガルド学園生。
 優雅に寛ぐレンブラント姉妹と同じ学園に通い、同じ行事に参加しているとは思えない天国と地獄だな。
 バラエティ番組の罰ゲーム組とご褒美組そのままな絵面。
 無意識に表情が緩むのがわかる。

「……あのう、本当にあの学生様たちに下働きまでさせてよろしいんですか?」

 孤児院の子どもに負けないよう睡眠時間を削りつつ必死に日々学び、日々働く職員さんがおずおずと尋ねてきた。
 ただでさえ学習能力ってのは子どもの方が高い。その上彼らは柔軟だ。
 学など無縁と孤児院の維持に必死だった大人……といっても職員の多くはまだ若く平均年齢を調べれば二十代になりそうな気もするけど……競争相手としては分が悪いってもんだ。
 良く頑張ってると思う、ホント。

「勿論。何事も経験です。それに……学校についてはあいつらはある意味プロ、みたいなもんです。時間を作って学校、学ぶ場というものの目的や雰囲気なんかを話させても良いでしょうね」

「助かります! 雑用だけでも信頼できる方に手伝ってもらえるだけで本当に、凄く!」

「喜んでもらえて良かった。寝床だけ都合してやればここにいる間は好きに使ってやってください」

 何事も、と言いつつ経験する必要が無い事や知る事で不都合がある事も世の中には存在する。
 ただ、孤児院での雑用が一番悪く作用しそうなレンブラント姉妹は圧倒的な金持ちオーラを放ちつつ優雅にティータイム中だ。
 他の連中なら全く役に立たないって事はないだろ。
 第一今の奴らは具体的な物欲に支配された状態、目標物を見定めた狩人、鼻先に人参が揺れてる馬だ。
 各々が欲しいモノの為に自ら勤労に励む事だろう。
 本来あてる筈だったホテル代を、孤児院での滞在中に雑用や下働きをやる事で給料代わりに渡しても良い。
 そんな感じの事を提案したらジン達は一も二もなく飛びついてきた。
 元々元気が有り余った結果、荒野にでも向かわれたら大変だったからね。
 多少働いて活力を削っとかないと。

「大変ですがお先真っ暗だった昔と違って今は頑張った分報われるかもしれないって希望があります。クズノハ商会さんには本当に、どれほどの感謝をすれば――」

「ははは、おだててもカリキュラムは甘くなりませんよ?」

 巴が頑張って作ったらしいし。
 エリスはウチらの時より甘過ぎてこんなん店員として使い物になる訳ないとか癇癪起こしてたけど。
 いや、店員育成プログラムじゃないし戦闘能力も求めてないから十分なんだよ。

「そんなつもりはっ! でも学生様方を見ていますと、この街の冒険者を見ているようで。毎日、随分と鍛えられているんでしょうねぇ」

「……学生に様なんてつける必要は無いですよ。名前を呼び捨てにしてやってください。すぐ調子に乗りますから」

「……え」

「?」

「でも、その」

「なんでしょう?」

 絶句されるような事は言ってない。
 今は雑用で雇われてるようなもんだ。

「あの、ロッツガルド学園の方々なんですよね?」

「……ああ」

「とても、呼び捨てというのは」

「今は皆さんが大家さんみたいな立場なんですが。そうですね、なら……学生さんとか? まあ、呼び捨てがどうしても無理ならさん付け程度でよろしくお願いします」

「ぜ、善処します」

 最近の勉強の成果か、ウェイツ孤児院で働く皆の言葉遣いが少しずつしっかりしてきている気がする。
 子ども達の方も元気いっぱいながら外からの客にはそれなりの対応をするようになってるらしい。
 僕のイメージの中の保育園児から小学校低学年くらいとなると、正直秩序のちの字も無い感じなんだけど、流石にこの世界の、それも孤児ともなると逞しい。
 勉強が出来るという事実とその幸運の価値を素早く的確に理解して、がっつり知識や技術を吸収してる。
 休みの日より勉強が出来る日を喜ぶ子どもってのは、僕からすると凄い存在に見えて仕方ない。
 土日こそ早起きするものだってのが僕の常識だった。

「旦那」

「ら、ライムさん!!」

「おう、ご苦労さん。仕事戻んな、旦那もお忙しい方なのは、わかるよな?」

「は、はい!」

「こら、脅さない。別に僕はサボってないし、彼女も別にサボってない。少し立ち話をしてただけだよ」

 ジン達の働きぶりを確認しつつ、ね。
 この分なら大丈夫だろう。
 ライムに残ってもらう必要もなさそうだから、後の事は識が作った旅のしおりに任せて商会に戻ってよさそうだ。

「承知してます。事務所に土産あるからよ、あんたも一息入れる時につまみな!」

 僕にぺこって頭を下げてから振り返って小走りに去る職員さんの背に言葉を放つライム。
 職員さんは立ち止まってこちらを見ると真っ赤な顔で深ぁくお辞儀を返してくれた。

「しばらくジン達がこの街に滞在する」

「へい」

「余計な仕事増やして手間かけちゃうけどよろしくね」

「旦那の教え子を見守るなんざ俺にとっちゃ褒美みたいなもんすよ」

「いつかの時みたいにシフとユーノだけ贔屓するなよ?」

「……へへ、気をつけやす」

「……ま、ベースから偶然ツィーゲに出てきてる知人に会わせるくらいなら文句も言わない」

「お見通しですか……恐れ入りました」

 夏休み。
 レンブラント姉妹は帰省して、それぞれステップアップを助けてくれる師匠みたいな存在に出会ったと聞いてる。
 その手引きをライムがしたって事も一緒にね。
 ライムが冒険者のみならず多く人から頼りにされてるのは、こういう面倒見の良さがあっての事だ。
 正直僕には真似が難しい、ライムの凄く尊敬できる部分でもある。
 巴に言わせると、良くも悪くも世話焼き、なんだそうな。
 長所でもあり、短所でもあると。
 厳しいお言葉である。

「ま、どうにも暴走が過ぎる教え子だ。目は離せない。識がついてても人数が人数だからね」

「ですね。レンブラント氏は識さんの旅のしおりが可愛くなるくらいの重厚な冊子を作って歓迎、とか何とか言ってましたし単なる旅行じゃ終わりそうにないっすよね」

「……マジか」

「っス」

 ライムが呆れながらも頷く。
 識が修学旅行用にしたためた旅のしおり、あれ月刊マガ〇ンくらいあったぞ?
 それを超える冊子って、レンブラントさん一体ジン達に何を語るつもりなんだ?
 あ……だから奥様がグロントさんと共謀して初日の遭遇を回避させたのかな。
 何か温泉で一緒になってからリサ夫人、グロントさんと仲良いんだよね。
 というかあのご婦人、温泉郷に誘った奥様方を軒並み自分のシンパにしているような気がする。
 確かに日本人として温泉、入浴の心地よさには絶対の自信がある。
 あそこは最早スパリゾートと化しているから他では味わえない快楽でもあるだろう。
 でも、行ってしまえば風呂とその付属品だ。
 そこまでハマるものかな。
 一応妙なものを売買したりしないよう、ちゃんと目は光らせてるけど少し不安だな。
 また一度視察しとくか。
 ちゃんと、意図を、説明した上で!
 一度全体の視察をするって名目で見学に行った時は何故か男湯も女湯も満員で。
 僕が見に来るからと我も我もと種族の裸体美とやらを披露するんだと、それはもう混沌の温泉郷だった。
 あまり……思い出したくない。
 今は元司祭だか司教だかのシーマさんが常駐してくれているから多分大丈夫、と信じたい。

「ま、そんじゃ戻るか。ここは大丈夫そうだ」

「お供しやす」

「そうだ、ライムさ。ジン達に丁度良い講師役できそうな冒険者に心当たりない?」

「でしたらハザルが適任かと」

 意外な名前出た。
 うっかり王か。
 とうとう一回死んだけど、それでも直らなかった筋金入りのうっかり属性持ちだ。
 そこを補っても余りある確かな実力者でもあり、今やツィーゲでも有数の妬まれ者にしてハーレム持ちでもある。

「適任?」

 うっかりも実力も、色々な意味でジン達にはまだ早い気がする。

「ああ見えてハザルは昔ロッツガルドにいましたし」

「え?」

「え?」

「……ハザルが、ロッツガルドの卒業生!?」

「いや分校の中退っすけど……ご存じなかったんで?」

「ご存じないよ。分校とか中退とか、全くご存じないよ」

 ハザル、あいつどんな人生歩んでるんだ?
 どうしてその経歴で世界の果てのベースで死にかける。
 むしろよく今生きてるなと褒めるべきなのか。

「てっきりお調べになってご存知なのかと思っていやした。で、ハザルなら元学生って黒い過去も含めつつ勉強になる話も出来るんじゃねえかって」

「なるほどな」

「その上、レベルも実力も抜群で今もガキどもじゃ逆立ちしたって勝てねえすから。言葉にも説得力ってもんが備わります」

「実力は、まあ確かに。ただ説得力はさ、うっかりが……」

「そこっすね……一発で説得力も尊敬も消し飛びそうっす」

「一応、推薦ありがと。候補に入れとくよ」

「お役に立てたら嬉しいっす」

 久々にライムと二人、世間話や馬鹿話もしながら商会に戻った。
 彼とこんな時間を作るのは、本当に久しぶりだな。
 なんか、リラックスできた気がする。

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