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七章 蜃気楼都市小閑編
旅の終わり①
おやあれは、とルトは足を止める。
視線の先にはわいわいと観光する学生たち。
観光と言っても彼らの様子には若干の余裕がある。
ツィーゲでの滞在ももう何日目だったかとルトが思い返す。
「いや、そろそろ帰る頃か。うん来た頃に比べて随分と顔が違ってる。ああいうのを見るのはいつになっても良いものだね」
ロッツガルド学園も創設されて以来随分と長い。
組織というものは得てしてそういうものであるとルトは思い知っているが、ロッツガルド学園も御多分にもれず徐々に腐敗を始めかつての眩い姿は見る影もない。
今ではこの世界に遍く学問の喜びをと尽力した彼女の理念を継ぐ者はおらず。
知と力を求める者に正しい努力を示さんとした彼の思いを伝える者もいない。
「彼」と「彼女」のどちらもを直接知るルトからすれば、学園の現状は許しがたい。
だから彼はここしばらくロッツガルドの冒険者ギルド本部を主な拠点とし、十年計画で学園を浄化しようと考えていたのだ。
しかしふらっと学園都市に現れたライドウとクズノハ商会によって、ルトの長い長い浄化計画は彼自身の素晴らしく清々しい笑顔とともにゴミ箱に投げ込まれる事になった。
不正腐敗は大雑把ながらごっそりと削り取られ、学園に付随して発展した街の方に至っては魔族の暗躍もあって綺麗に掃除が終わった。
(おっと、すっきり片付いた、なんて言ったらまた彼に嫌われてしまう)
彼、ライドウと偽名を名乗る異世界人。
今ルトが最も興味を持っている存在でもある。
そして今ルトが見つめる先で楽しそうに観光しているのはそのライドウの教え子である。
ロッツガルド学園で後用意しなくてはいけないものは教育について確たる信念を持った後継者。
ルトが密かに目を付けているのは教え子、ジン達の中にいた。
そう、何もかもをライドウが用意してくれたようなものだ。
だから気になった。
普段は彼らのまとめ役として溌剌と活躍している男子生徒が今一つ精彩を欠いている事が。
(確か、ジン=ロアン。優秀な子だし彼の生徒だし。よし、ここは特別に僕が直接話を聞いてあげるとしようか。うまく別行動でもしてくれればやりやすいこと……あ、いいね。バラバラになってくれたじゃないか、それじゃあ)
ルトはしばらくジンを尾行して様子を確認する。
そして行動を読んで先回りし、偶然と装って飲食店に入ったジンに声を掛けるのだった。
「やあ、修学旅行だっけ。楽しんでる?」
「?っ!! あ、ギルドの! ファルス様ですよね! はい、楽しんでます!!」
「ジン君だよね。今日はさしづめ最後の自由行動かい?」
「あ、はい。ツィーゲは、凄い街です。世界で一番活気がある辺境都市だって言葉は決して間違っちゃいないんですけど、ここは……来てみないとわからない。本当に来れて良かったです」
「それが一度の訪問でわかるってだけでも、君が優秀なのがわかるってもんだ。でもさ、君はクズノハ商会でアルバイトって期間労働してるんだろう? この街にも来てるんじゃないの?」
ルトはクズノハ商会の瞬間移動という反則物流を察している。
だからこその質問だった。
「店内から出た事はなくて。それにここの接客は専門知識もかなり必要になるからまだ俺やアベリアにはとても。当時言われた時は正直、店番くらいできると思ったんですが……今となったら馬鹿な事考えてました」
はは、と力なく頭を掻くジン。
やはりどこかいつもの彼ではなかった。
ルトの恐ろしい所はほんの数回会った程度の学生相手ですらこうした考察が出来るところだ。
真の従者である巴であれば相手の記憶を通じて似たような事もやるものだが、ルトはこれを記憶力と情報、観察眼だけでやるのだ。
「ツィーゲの商会で客相手の商売をしようと思ったら今は大変だよ。学生さんに出来なくても恥じるような事じゃないさ」
「改めてアクア先輩やエリス先輩の凄さがわかりました」
「あはは、かなり鍛えられてるらしいからね」
あっという間にジンとの会話を弾ませ、彼の口を軽くしていくルト。
そうして、良きところで彼の心のどこかに刺さっているであろう棘に検討を付け、誘導を始めるのだ。
「で後は俺なんすけど、学園でライドウ先生の講義を取ってる後輩がいまして、そいつらにちょっとした土産でもと思いまして。流石にここの武具や魔道具なんてのは手が出ないんで日持ちする消え物とここでしか手に入らない細工や日用品を覗こうかなって。ファルスさん、お勧めってあります?」
仲間の予定や学園の事も含め気持ちよくルトに語っていくジン。
今日の別行動の予定がお土産選びメインである事も明かした。
なんだかんだと面倒見が良いタイプの彼なら本命だよね、とルトは意外性はないが好ましいジンの選択を評価する。
数年来の友人か仲間であるかのように語らう二人。
「優しいね、ジンは」
「……優しくは、ないっすね俺なんかは」
「他人がそう評価するのに否定するのは、昔何かあったのかな」
「……まあ」
「恥じる事も臆する事もないよジン。僕やきっと君の仲間も、君を優しいと思ってる」
「でも」
「それは、ジンが昔の経験をきちんと呑み込んで優しくありたいと願い、行動した結果なのだからね」
「……ファルスさん」
老獪というか狡猾というか。
ファルスはにこにこ笑顔で人の好さをこれでもかとアピールしながらジンを望みの方向に嵌めていく。
ルトにジンを害する意図が無い事だけが幸いだった。
「僕は君らがこの街で一回り以上成長したと思うよ、誇りなさい」
「ありがとうございます……」
「……足りないかい?」
「え」
「もっと、上を目指したいの?」
「……いえ、そこは急ぎません。一度、やらかしてますから」
「おや、そう」
「?」
「てっきりいつかの夜に、うちのソフィアに突っかかられたのが君を悩ませてるのかとばかり思っていたのに。これは僕の余計な勇み足だったかなあ」
「!」
「はは。余計な真似かもとは思ったけれどね。何やら悩んでいるようだから、帰る前にすっきりさせてあげようかって思ってたんだ」
「ファルスさん、あの、ソフィアさんは本当に」
「ん?」
「貴方の娘さんなんですか?」
「こりゃまた……唐突だな。んー、娘だよ。少し特殊な事情はあるけど……娘には違いないな」
己とソフィアの間にある因果を思い、返答するルト。
「悩んでるのはその通りなんです」
「?」
「俺には、生まれ育った村で世話になった年上の女性がいまして」
「うん」
「名前はミランダって言うんです。その、少し若いけれどソフィアさんに瓜二つで。ケリュネオンで会った時も、ツィーゲで会った時も本当に、本人としか思えなくて。でもソフィアさんは俺の事を知らない会った事もない、と。それで……」
(あちゃー……)
ルトは胸中で天を仰いだ。
ミランダ。
それはかつてソフィアの名だった。
「そういう、ことか」
ルトの因子を色濃く継承したがゆえの卓越した身体能力。
幼かったミランダはどこかの村で便利に扱われていたとルトは把握している。
そのどこかの村がよりにもよって、ジン=ロアンの生家がある村だったのだろう。
縁は異なもの味なもの、とはよくいったものだとルトは思う。
ルトとジンとソフィアと真と。
面白いように絡まり合った因果が顔を出しては茶々を入れる。
「ファルスさん?」
「参ったな」
「え?」
「つまり君があの。ミランダと一緒に魔物と戦った少年か」
「!?」
「……なるほど、ならば君には聞く権利があるかもしれないね。ミランダとソフィアの……死について」
ルトは語る。
ミランダという名を捨てソフィアと名乗ったジンの思い出の女性の顛末を。
その死と再生を。
ルトも真もジンも傷つかない、都合の良い脚色を加えた物語として。
修学旅行の終わり。
ジン=ロアンは思い出の結末を知った。
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