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終章 月と亜空落着編
銘、思わぬ仕事
二日目。
ロナは大人しく座敷牢で一夜を過ごしてくれた。
初日から大脱走を企てなくて何よりだ。
魅了の方は昨日より確実に薄れてる。
僕は今日は別室にいる。
ロナから話を聞くのは識とサリ。
……なんか刑事ドラマの取調室シーンみたいで、これ良いな。
「よく眠れたようで何よりだ。独房ではなくゆっくりと快適に休める環境を整えて下さった若様に感謝するように。仮にもあの方を殺そうとした貴様には」
「はいはい。とてもとても感謝しております。それで、何でラルヴァなの? 昨日はワカサマだったじゃない。二日目にしてランク落ちなんて酷いわ」
「ラッ……!?」
「せめて一番の腹心っぽい巴、サマとかにしなさいよ。切なくなるわ、ラ・ル・ヴァ」
「そこではなくランク落ちの所に反応したのだ、女狐が。それから、いつまでも昔の名で呼ぶな。下らん挑発行為は時間の無駄と知れ。お前とてさっさとご主人様のところに帰して欲しかろうが」
「……帰して、欲しいですって?」
「昔からいつもいつも尻尾を振っていたではないか。ゼフとかいう成り上がりに」
「そこは反論してないでしょう。私がここから自力で戻れないとでも? とうとう脳まで溶けたの?」
「お前如きに出られる場所であるものか」
……識とロナは互いにジャブを放ちながら様子見から話を始めてる。
サリはまだ二人の間に入っていけてないな。
あの二人、因縁が濃すぎて時折二人の世界を構築する癖がある。
こういうのも陰謀家あるあるなのか、諜報筋あるあるなのか。
「まあ従者の序列については詳しいようじゃの、勉強しとるのうロナ」
「情報が更新されてないだけでしょう、ロナロナは驕っているようですもの」
ろ、ロナロナ?
澪……余裕を見せるところ致命的に間違ってる。
魔族領でもさほど親しく付き合ってなかっただろ。
「そういえば、今日環は?」
「もう来る頃ですぞ」
「すみません、遅くなりました。おはようございます、若様」
「っ。いや、今始まった所だから大丈夫だよ。……環」
噂をすれば影。
話題に出したタイミングで環も来た。
これで海底に全員集合。
そして環が布にくるんで持ってきた物が放つ気配に僕は、説明を求めて彼女を見た。
エルドワの問題作でもここまでのは滅多に、って存在感を放ってる。
あの布でくるんで少しは弱めてるだろうにこれって。
十中八九、ご神た――。
「はい。昨日お話に出ました神社のご神体になります」
封印という程大仰なものでもないけど環は躊躇いなく風呂敷っぽい布をほどいてブツを出す。
刀、脇差か。
いや、少し長い?
でも大脇差というには……。
うん多分脇差だと思う。
「脇差……か」
「特殊な鉱石として具現したのですが、こちらの形に落ち着きました」
?
ご神体自体は鉱石?
……ああ。
日本だと岩屋や大岩そのものをご神体にしてる神社なんてのも確かいくつもあった筈だ。
祭具や武具みたいな具体的な物ばかりイメージしてたけど、風変わりな石や樹だって十分あり得たな。
「ご神体になるような、特殊な鉱石だったんだ。大きかったり?」
「……はい、それなりに。水晶クラスターのような形状の強力な呪鉱でした」
「じゅこう?」
聞き覚え無いな。
そして巴がロナの方への興味を完全に失って脇差を超凝視してる。
だよね、刀、好きだよね。
「ほっほう。ほー! ほう……」
興味津々もいいとこだな。
僕が環から説明を受けてる最中なのにチラ見が酷い。
「思念が強く篭った鉱石を指す言葉です」
「思念? 何やらよろしくない気配を感じるんですが」
じゅって呪いか。
あんま良いイメージは無いな。
宝石や鉱石に憑く思念と聞いて一番に思い付くのは持ち主に不幸をシリーズだ。
日本だと……宝石は詳しくないから思い浮かばないけど鉱石だと殺生石なんてのが有名だったりする。
「使い様ですし、こうして刀として安定している以上は……まあ真様ですと呪いだろうとお構いなしな気もしますが」
「僕は別に良いけど。刀って事は持つなら巴だろう? 神社から呪いの装備出来ましたってのも縁起悪いし」
「若……」
そ、そりゃあ。
巴が持つだろうから心配くらいはする。
しますよ、僕も。
「真様は呪いの鉱石といえばどんなものを思い浮かべます?」
「ひねりも無くて申し訳ないけど殺生石かな」
「っ。お見事です。同じものではありませんけど、ご神体、呪鉱殺生石という名で具現したのですよ。流石です」
そういって刀身を見せるべく、環が脇差を半分ほど抜いて見せる。
トアの短剣に似てるな。
透明で、刀っぽくない色合いだ。
濃紫の不規則なグラデーション、なのに透明性もしっかりある。
確かに……この世の物とは思えない。
綺麗だけど危うい感じがする。
芸術品として飾ってあれば安心だろうに、人の手にあると……ってイメージ。
「巴、いいよ」
もう涎たらしまくりのワンコ待て状態だった巴にひとまず許可を出す。
環から脇差を受け取ると巴は目を爛々とさせて、どこから装着したのか白手袋をして満面の笑みで脇差を堪能し始めた。
「私も名が名でしたので刀への変化を確認した後、詳細に調べてはみたのですが特に問題がある性能は有しておりませんでした。巴さんでしたらきっと使いこなしてくれると確信しております」
「僕も少し見ただけだけど、何か悪いモノが憑いてたり怪しい性能があったりはしないみたいだね」
界を展開して鑑定してみたけど、無銘である事以外はとびきり優秀な脇差だった。
材質も環の言った通り刀身が呪鉱殺生石ってのだったし。
ただ……。
「真様も高度な鑑定スキルをお持ちだったのですね」
「そんなとこ」
「後ほど識さんやエルダードワーフにも調べてもらおうかと話をしているのですが、進めてよろしいですか」
仕事が早い。
ここで後で識にも調べてもらって、後でエルドワって事ね。
「お願い」
「畏まりました。もっとも……私はそこまで危惧しておりませんが」
「その心は?」
「脇差と言えば所謂、護身刀、お守り刀でもあります。あれが大太刀や太刀であればもう少し慎重に調べてからお渡ししていたかもしれません」
「……脇差だからって護身用ばかりとは限らないよ」
「なので後は真様がばっちり良い名前を付けてしまえば頼れる武器の一つで落ち着くかな、などと思います」
名前。
そうか無銘ってあったのは名前を付けろって事なのか。
「名前……この際巴が付ければ良いんじゃ――」
「仮にも三柱の神から授かったご神体です。出来れば、真様ご自身が名付けを行うべきかと」
……正論ですね。
刀の名前かー。
既存のをうっかり付けそうでなあ。
脇差だと、にっかり、とか。
「にっかり青江などでも良いかと思いますよ」
どうた……
「伝同田――」
「環、ストップ」
粟田口……てのも読まれてそうだ。
実際僕の想像力だとそんなもんなんだが……。
「……課題が増えた」
「この亜空の統治者なればこそ、真様にしか出来ないお仕事かと」
……また正論っすね。
刀の名前か。
「若! それでこれは儂が持っていて良いのでしょうか!?」
「一通り調べ終わったら巴ので良いよ」
「おお、して銘は!?」
「……ちょっと待ってください」
うーん。
悩ましい。
「海底!?」
「おうとも。故に逃げるなど絶対不可能だ。長距離転移とて正確に距離を掴めなければ……わかるだろう」
「頭おかしいんじゃないの!? 海の底、海王を知らない訳じゃないでしょうに!!」
ん?
「海王? 知っているとも。ついでにローレライと交流がある。クズノハ商会は海も征く商会だ、思い知ったか」
「まさか、あの上位竜気取りの海王どもを殲滅、したの?」
「野蛮な魔族などと一緒にされては困る」
識とロナが白熱している。
魔族は海王の存在を認識してたのか。
上位竜気取りの……ね。
セル鯨さんの兄弟がまとめてる方の事だろうな。
「海溝の水圧たるや貴様の想像を遥かに超えるぞ? お前は、我々の許可なく魔王らと合流する事は絶対に、出来ん!」
「かいこう? 水圧?」
「ロナ、識様の仰っている事はひとまず真実よ。ここはとても深い海の底。海中の世界は、とても奥深い。知らない貴女がどんな無茶をしても、良い事は無い」
……サリも言うね。
加えてここ亜空だしね。
言う気は無いけど。
そうだな、ロナもか。
どのタイミングでこいつを魔族に突っ返すか……それも考えないと。
ロナは大人しく座敷牢で一夜を過ごしてくれた。
初日から大脱走を企てなくて何よりだ。
魅了の方は昨日より確実に薄れてる。
僕は今日は別室にいる。
ロナから話を聞くのは識とサリ。
……なんか刑事ドラマの取調室シーンみたいで、これ良いな。
「よく眠れたようで何よりだ。独房ではなくゆっくりと快適に休める環境を整えて下さった若様に感謝するように。仮にもあの方を殺そうとした貴様には」
「はいはい。とてもとても感謝しております。それで、何でラルヴァなの? 昨日はワカサマだったじゃない。二日目にしてランク落ちなんて酷いわ」
「ラッ……!?」
「せめて一番の腹心っぽい巴、サマとかにしなさいよ。切なくなるわ、ラ・ル・ヴァ」
「そこではなくランク落ちの所に反応したのだ、女狐が。それから、いつまでも昔の名で呼ぶな。下らん挑発行為は時間の無駄と知れ。お前とてさっさとご主人様のところに帰して欲しかろうが」
「……帰して、欲しいですって?」
「昔からいつもいつも尻尾を振っていたではないか。ゼフとかいう成り上がりに」
「そこは反論してないでしょう。私がここから自力で戻れないとでも? とうとう脳まで溶けたの?」
「お前如きに出られる場所であるものか」
……識とロナは互いにジャブを放ちながら様子見から話を始めてる。
サリはまだ二人の間に入っていけてないな。
あの二人、因縁が濃すぎて時折二人の世界を構築する癖がある。
こういうのも陰謀家あるあるなのか、諜報筋あるあるなのか。
「まあ従者の序列については詳しいようじゃの、勉強しとるのうロナ」
「情報が更新されてないだけでしょう、ロナロナは驕っているようですもの」
ろ、ロナロナ?
澪……余裕を見せるところ致命的に間違ってる。
魔族領でもさほど親しく付き合ってなかっただろ。
「そういえば、今日環は?」
「もう来る頃ですぞ」
「すみません、遅くなりました。おはようございます、若様」
「っ。いや、今始まった所だから大丈夫だよ。……環」
噂をすれば影。
話題に出したタイミングで環も来た。
これで海底に全員集合。
そして環が布にくるんで持ってきた物が放つ気配に僕は、説明を求めて彼女を見た。
エルドワの問題作でもここまでのは滅多に、って存在感を放ってる。
あの布でくるんで少しは弱めてるだろうにこれって。
十中八九、ご神た――。
「はい。昨日お話に出ました神社のご神体になります」
封印という程大仰なものでもないけど環は躊躇いなく風呂敷っぽい布をほどいてブツを出す。
刀、脇差か。
いや、少し長い?
でも大脇差というには……。
うん多分脇差だと思う。
「脇差……か」
「特殊な鉱石として具現したのですが、こちらの形に落ち着きました」
?
ご神体自体は鉱石?
……ああ。
日本だと岩屋や大岩そのものをご神体にしてる神社なんてのも確かいくつもあった筈だ。
祭具や武具みたいな具体的な物ばかりイメージしてたけど、風変わりな石や樹だって十分あり得たな。
「ご神体になるような、特殊な鉱石だったんだ。大きかったり?」
「……はい、それなりに。水晶クラスターのような形状の強力な呪鉱でした」
「じゅこう?」
聞き覚え無いな。
そして巴がロナの方への興味を完全に失って脇差を超凝視してる。
だよね、刀、好きだよね。
「ほっほう。ほー! ほう……」
興味津々もいいとこだな。
僕が環から説明を受けてる最中なのにチラ見が酷い。
「思念が強く篭った鉱石を指す言葉です」
「思念? 何やらよろしくない気配を感じるんですが」
じゅって呪いか。
あんま良いイメージは無いな。
宝石や鉱石に憑く思念と聞いて一番に思い付くのは持ち主に不幸をシリーズだ。
日本だと……宝石は詳しくないから思い浮かばないけど鉱石だと殺生石なんてのが有名だったりする。
「使い様ですし、こうして刀として安定している以上は……まあ真様ですと呪いだろうとお構いなしな気もしますが」
「僕は別に良いけど。刀って事は持つなら巴だろう? 神社から呪いの装備出来ましたってのも縁起悪いし」
「若……」
そ、そりゃあ。
巴が持つだろうから心配くらいはする。
しますよ、僕も。
「真様は呪いの鉱石といえばどんなものを思い浮かべます?」
「ひねりも無くて申し訳ないけど殺生石かな」
「っ。お見事です。同じものではありませんけど、ご神体、呪鉱殺生石という名で具現したのですよ。流石です」
そういって刀身を見せるべく、環が脇差を半分ほど抜いて見せる。
トアの短剣に似てるな。
透明で、刀っぽくない色合いだ。
濃紫の不規則なグラデーション、なのに透明性もしっかりある。
確かに……この世の物とは思えない。
綺麗だけど危うい感じがする。
芸術品として飾ってあれば安心だろうに、人の手にあると……ってイメージ。
「巴、いいよ」
もう涎たらしまくりのワンコ待て状態だった巴にひとまず許可を出す。
環から脇差を受け取ると巴は目を爛々とさせて、どこから装着したのか白手袋をして満面の笑みで脇差を堪能し始めた。
「私も名が名でしたので刀への変化を確認した後、詳細に調べてはみたのですが特に問題がある性能は有しておりませんでした。巴さんでしたらきっと使いこなしてくれると確信しております」
「僕も少し見ただけだけど、何か悪いモノが憑いてたり怪しい性能があったりはしないみたいだね」
界を展開して鑑定してみたけど、無銘である事以外はとびきり優秀な脇差だった。
材質も環の言った通り刀身が呪鉱殺生石ってのだったし。
ただ……。
「真様も高度な鑑定スキルをお持ちだったのですね」
「そんなとこ」
「後ほど識さんやエルダードワーフにも調べてもらおうかと話をしているのですが、進めてよろしいですか」
仕事が早い。
ここで後で識にも調べてもらって、後でエルドワって事ね。
「お願い」
「畏まりました。もっとも……私はそこまで危惧しておりませんが」
「その心は?」
「脇差と言えば所謂、護身刀、お守り刀でもあります。あれが大太刀や太刀であればもう少し慎重に調べてからお渡ししていたかもしれません」
「……脇差だからって護身用ばかりとは限らないよ」
「なので後は真様がばっちり良い名前を付けてしまえば頼れる武器の一つで落ち着くかな、などと思います」
名前。
そうか無銘ってあったのは名前を付けろって事なのか。
「名前……この際巴が付ければ良いんじゃ――」
「仮にも三柱の神から授かったご神体です。出来れば、真様ご自身が名付けを行うべきかと」
……正論ですね。
刀の名前かー。
既存のをうっかり付けそうでなあ。
脇差だと、にっかり、とか。
「にっかり青江などでも良いかと思いますよ」
どうた……
「伝同田――」
「環、ストップ」
粟田口……てのも読まれてそうだ。
実際僕の想像力だとそんなもんなんだが……。
「……課題が増えた」
「この亜空の統治者なればこそ、真様にしか出来ないお仕事かと」
……また正論っすね。
刀の名前か。
「若! それでこれは儂が持っていて良いのでしょうか!?」
「一通り調べ終わったら巴ので良いよ」
「おお、して銘は!?」
「……ちょっと待ってください」
うーん。
悩ましい。
「海底!?」
「おうとも。故に逃げるなど絶対不可能だ。長距離転移とて正確に距離を掴めなければ……わかるだろう」
「頭おかしいんじゃないの!? 海の底、海王を知らない訳じゃないでしょうに!!」
ん?
「海王? 知っているとも。ついでにローレライと交流がある。クズノハ商会は海も征く商会だ、思い知ったか」
「まさか、あの上位竜気取りの海王どもを殲滅、したの?」
「野蛮な魔族などと一緒にされては困る」
識とロナが白熱している。
魔族は海王の存在を認識してたのか。
上位竜気取りの……ね。
セル鯨さんの兄弟がまとめてる方の事だろうな。
「海溝の水圧たるや貴様の想像を遥かに超えるぞ? お前は、我々の許可なく魔王らと合流する事は絶対に、出来ん!」
「かいこう? 水圧?」
「ロナ、識様の仰っている事はひとまず真実よ。ここはとても深い海の底。海中の世界は、とても奥深い。知らない貴女がどんな無茶をしても、良い事は無い」
……サリも言うね。
加えてここ亜空だしね。
言う気は無いけど。
そうだな、ロナもか。
どのタイミングでこいつを魔族に突っ返すか……それも考えないと。
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