月が導く異世界道中

あずみ 圭

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終章 月と亜空落着編

戦争の風

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 魔族領に出ている富山の薬売りもといクズノハ商会外商隊には、緊急扱いで詳細な情報を集めるように命令を出した。
 これまでもキナ臭いとこ中心に無理しない範囲で頼んではあったのだけど、ロナから語られた帝国の進軍は正に破竹の勢いというやつで、勢力圏はあっという間に塗り替えられているらしい。
 冬と寒さ、本当に物凄いバリアになってたんだなと思い知らされる。
 こうなると情報収集を安全に行ってもらっている以上、報告が現実に追いつかなくなる。
 ケリュネオンは結界と実力行使で帝国とも魔族とも接触してないんだけど、今やグリトニアの勢力圏にある。
 これは参った。
 新生ケリュネオンが世界デビューするのはもう数年は後だと思っていたし、ケリュネオンに関わった亜空の皆もアーンスランド姉妹もそう思ってる。
 ここはあまり前倒ししたくないんだ。
 今でもあの国がアップアップなのは僕でもわかる。
 
「サリを同席させたのは正解だったみたいだ」

 話を終えたロナを座敷牢に収容してサリと二人、巴達がいる別室に向かう。

「お役に立てたなら光栄です、真様」

「魔族、大分追い詰められてるね」

「……色々、ままならぬ事はあるかと思います。もっとも、魔族の歴史を思えばいつもの事とも言えてしまいますが」

 サリは苦悩を一瞬表情に出し、すぐに自虐的な言葉でそれを塗り潰した。
 上手くいかないのは魔族にとっては通常運転か。
 僕も大抵そうだから親近感が湧く。
 帝国の空軍機動力と、相当強力になってる魅了を駆使しての調略と情報集め、それに……爆薬。
 火薬の活用型の一つである爆弾。
 帝国は銃の量産に見切りをつけ、代わりを爆弾という武器を戦場に投入していた。
 単なる爆弾なら一般人相手ならともかく、部隊で運用されている軍人相手にまともな効果は期待できない。
 ただ、魔術付与を組み合わせて戦場でもきちんと通用する威力に仕上げられている上、数も潤沢なんだとか。
 空から投下される爆弾と、街を突如内部から崩壊させう爆弾を組み合わせてそれは恐ろしい程の戦果を挙げているらしい。

「智樹の飛竜に乗って遠距離から仕掛ける戦術が帝国全体にも波及したようなものか……」

「勇者の魅了に堕ちた者は住んでいた町で普段と全く変わらぬ生活をし、ある日いきなり周囲を巻き込んで爆発するそうです。ロナの話が正確なものであれば、最悪な兵器、兵法の一つでしょう」

「あそこでロナがわざわざ真実を伏せる意味も無いし、大体合っているんじゃないかな」

「はい。彼女が伏せる益がありませんね」

 サリは僕の質問に淡々と答えてくれている。
 両の拳は固く震える程に握りしめられているけど、ね。

「……彼自身がいなくとも伝染していく魅了。その日から兵器として街に潜伏する住民の裏切り。帝国の勇者の能力がこれほどまでとは、予想だにしませんでした」

「そうか。魔族では早くから勇者の能力についても把握していたんだよね、だったらこの状況も予測する事はできなかったのかな?」

「私が参加していた頃の魔族としては、音無響、岩橋智樹両名の魅了について早々に対策し見せつける方法で済むと思っていたのです」

「そんな状態異常など効かないぞ、ってはねつけたのか」

 確かに魅了出来ない、出来ても治療されてしまうなら普通は他の路に活路を見出すか。
 先輩も智樹も僕みたいな一芸タイプでもないんだから。
 響先輩の魅了は、智樹とは毛色が違ってカリスマというか、魔族が何かを使って対策するのは難しい気がするな。
 あれ、そう考えると智樹の魅了のが汎用性があるのか?
 響先輩のは、今はわからないけど前は味方限定みたいな感じだった。
 ただ士気を上げる、軍をまとめるってのも相当厄介じゃなかろうか。

「真様がお察しの通り、魔族としては勇者としての脅威度は音無響の方が上でした。彼女の魅了は味方を鼓舞する類の能力でしたから、より性質が悪いものと考えられています」

 ……心を読まれた!?
 これについては僕も智樹と似たとこがあるから、先輩よりも智樹寄りなんだよな。
 己の最も頼れる武器は手放さないって意味で。
 相手にどれだけ対策されても相手の一番を執拗に狙うって意味も僕の場合はある。
 相手が武器に自信があるならそこを潰す。
 盾や鎧ならそれを砕く。
 そしてどれだけ対策されても自分の一番の武器で薙ぎ倒す。
 一つの戦術として十分なものだとも思ってる。
 だから智樹がなりふり構わず魅了を極める道を選んだ結果が今だとすれば、あいつの作戦勝ちってやつだと思う。

「智樹のも今じゃ結構問答無用みたいだから、情報収集も裏切りも、自爆も、やらせたい放題ってことだ。先輩同様、敵に回すと面倒そうだ」

 ただでさえ制空権を抑えてる上に勇者の高火力攻撃があって、しかも守るべき拠点が内から爆発でぶっ壊されるとなれば数で劣る魔族軍としてはもうこの時点で戦意をかなり削がれるのでは。
 下手すれば友人や家族と食事をしてる最中に誰かが……なんて考えたくもない。
 戦争だからってそれがやれるのは、ヒューマンの方が圧倒的に数の利があるからだろう。
 或いは魅了した魔族だけを使ってるのか?
 いくら智樹でも魅了したヒューマンや魔族以外の亜人を使ったりはしないか?
 いずれにしろ、あまり気持ちの良い戦法じゃないのは確かだ。
 ロナでもかかるくらはい強力な魅了なら、かなり正確で上質な情報だって吸い上げられる。
 ……うん、智樹の魅了やばいくらい成長してる。

「まさか火薬なんて骨董品を今更改良して戦争でも通用する威力にしてくるなんて……皇女リリの辣腕は、魔族でさえ戦慄します」

「皇帝は既に傀儡なんだっけ。グリトニア帝国は実質リリさんと智樹のツートップで動いてるんだな」

 以前会った時の記憶じゃ正直あまり気持ちの良いもんじゃない。
 智樹の阿呆については巴を寄越せとか言い出すし。
 リリ皇女は勇者を支えると言いながら銃を研究したり、今や智樹の軍師みたいな役どころにいるらしい。
 偶然じゃあないだろう。
 あの女性を見た僕はそう思った。
 権力から遠ざかるふりをして、勇者を中心に特権を手に入れる為の布石を打っていたと見るべきだ。
 何を考えているかはわからないけど、魔族を滅ぼすという一念は変わっていないんだな、と思った。
 既に皇帝を魅了の力で従えているなら、あいつの事だからさっさと皇帝になりそうなものだけど……先に魔族を滅ぼす目的は……駄目だ、よくわからん。

「ところで、真様。魔族をこの地に迎え入れる予定だと勝手に申し上げた事、ご不快ではありませんでしたか?」

「いや……」

「ありがとうございます。既に魔族は戦争のさなかにあります。私はこの地から離れた事がありませんので今の事情はわかりかねますが……もし住む場を奪われた魔族の民が難民として困窮していたなら」

 サリが僕を見つめる。
 うん、やっぱり移住とかの話し合いは進めてなかったよな。
 良かった、記憶が飛んでたかと思った。

「彼らをこの地に迎え入れる事、真様はいかがお考えなのか。実は気になっていました」

「ここの皆と上手くやっていけるなら、魔族でも受け入れる気はあるよ」

「!! 本当でございますか!?」

「うん。ライムからも孤児の受け入れを頼まれてるしね。信念で弾く事はあっても種族で拒むつもりは無いね」

 ……と僕自身思ってる。
 実際ヒューマンを移住させる時が来たらどんな感情が自分の中に生まれるのか、ちょっと想像できない。
 案外何も感じないかも。

「っ! そう、ですか。私の働きをお認め下さった訳ではないのですね……そして、そうヒューマンも……」

「ん?」

「いえ! 寛大なお考えに感動しました」

 サリが俯いて何やらぼそぼそ言ってたけど……。
 しかし、難民ね。
 帝国の攻め具合を見るに既に結構いそうだ。
 ツィーゲに流れても来そうだ。
 リスイが昔ツィーゲや世界の果てを魔族の新天地として適切か調査する為にこっちに来たって話もさっき聞かされたから何かリアルである。

「魔族の難民、か」

「真様?」

「確かに困りものだね。一旦ケリュネオンで匿うのもアリ……いや、うーん」

「……」

「ついこないだまでツィーゲの今後を考えてたのにロナの所為でいきなり魔族だの帝国だの……。嫌な予感がするなあ」

「! それは」

 サリが僕の口にした嫌な予感という言葉に過剰に反応した。
 いや、澪じゃないからね。
 ただの凡感ですよ、言うなれば。

「色々重なってくるんじゃなかろうか。知ってるんだよなあ、こういうの。連鎖っていうんだよ。絶対これだけじゃ済まなくなるぞ……」

「……」

 ゴクリ、と息を呑むサリ。
 出来る事なら巴や識にばっさりと否定してもらえる事を信じて。

「お待たせ」

 僕は四人の従者が待つ部屋のドアを開けた。

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