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extra56 漫画54話支援SS 沈みゆく都で
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「防衛部隊に近衛も回せ! 奴らは百や二百じゃないんだぞ!?」
「冒険者共も加える! 国難ぞ、根拠など必要ない! 徴用を拒めば今後リミアへの入国を永久に禁止するとでも脅せば頷く!!」
「何故この距離まであの大軍に何一つ報告がなかった!? 国内に魔族の内通者がいるのではないですか!? これは責任問題だ、王家に説明を求めます! 我らに納得ゆく説明を!」
「都が沈むかもしれん大事に責任だの説明だの寝言をほざくな!」
「いかなる時であれ大権を振るうリミア王家は手順を踏まねばならん! 貴族を無視した独裁を認めぬ事は即ち民衆の益にも繋がるのだ!」
「現実を見て頂きたい! 冒険者の徴用など強制すれば、確実に彼らの信用を失う事になる! 長期的に見れば他国にどれほどの隙を見せる結果になるか、火を見るよりも明らかだ!」
「皆さま、どうか落ち着いて頂きたい! 一番大切な事は! あの魔族どもを撃退する事! この都を、リミア王国を我がエリュシオンの様に亡国としない為にも!」
「続報はどうなっている!! 偵察に向かわせた者は何故報告を持ち帰らんのだ!?」
「偵察にはわが軍と有志から特に優秀な者を向かわせております!! おりますが……誰一人として戻ってこんのです!!」
蜂の巣をつついたような大騒ぎ、とはまさにこの事。
王都に設置されたステラ砦攻略作戦リミア本部は混乱の極致にあった。
本部とはいえ、ここは王都だ。
実質の部隊指揮はステラ砦近くにある前線本部が受け持っている。
名称一つを見てもリミア王国内が一枚岩ではなく、既に単なる国家間の戦争ではなく種族間の戦争になっている現状にそぐわぬ温度感を持ち楽観しているのが伝わってくる。
そして今。
突如王都付近に結集し、進軍を開始している魔族の軍勢を前にこの無様である。
勇者としてこの地に降り立った音無響が、戦略と戦術だけを学ぶ事に集中できなかったのも豊かな王国を蝕むこの深刻な病に早期に気づいたからだった。
ヒューマンと亜人の間に横たわるあまりにも深い溝。
極端に偏り、だがヒューマンの多数に信仰されている女神の教え。
国が豊かであるが故に広がってしまう貴族間、平民間の貧富の差。
王国と称しながら、その実態は多数の貴族が王家の利権に群がり醜い政争が終わる事なく続き。
王家にそれを一喝一蹴する権限は既に無い。
大国の落日、その始まりを見ているようだと当時の響は思った。
だからこそ彼女は自らを鍛え経験を積み戦場と戦闘に慣れる傍ら、王子の一人ヨシュアを協力者として国の改革、制度の刷新、王国をより強くより豊かにすべく自らの知識と理想を語って回った。
無論語るだけではない。
実際に動き、言葉に嘘はなくただの青臭い理想などではないと示した。
女神に授けられたカリスマという名の一種の魅了能力も忌む事なく積極的に役立てながら。
響は躊躇う事無く分厚い既得権益の解体にも手をつけ、早々と有力貴族から良くない意味でもマークされる存在に躍り出ていた。
王都にある名ばかりの本部に集まっている貴族らがこうして現状に好き勝手文句を言いながら焦りに焦っている光景を響が知ったら、多少は溜飲も下がったかもしれない。
しかし、実が無い。
今進軍し都に向かってきているのは武装した魔族らの部隊だ。
もしこのまま都に侵入すればどんな惨事が待っているかは明らかなのに。
責任の所在や反射的に頭に浮かんだ案を誰も取りまとめる事なく好き好きに叫んでいるだけだ。
リミア西方に領地を構える貴族の一人、しかし本部の一員ではなく防衛部隊に所属するレジン=ユネスティは鎧に身を包みながら嘆息する。
「なるほど、この様を見れば女神が遣わしたという勇者殿がリミアを改革しようと考えるのも頷ける」
「レジン殿。小声とはいえ、この場でその発言はよろしくない」
「これは……オズワール殿か。こんな時に王都におられるとは貴方も運が悪い」
どこか達観した様子でレジンは軽口をきく。
既に子に家督は譲り、防衛部隊でも主に教官の様な立場で後進と接する機会が増えてきた彼にとって、今の人生は好きな事をやっている余禄のような時間だった。
それなりに幸せで、それなりに楽しく。
まったく恵まれた生を謳歌できたものだと、我が事ながらレジンは女神に感謝を捧げていた。
そんな彼だからこそ、リミア王国内で王家よりも睨まれたくないと良くも悪くも貴族中に知れ渡っている大貴族、ホープレイズ家、その長男を前にしても態度をさほど変えなかった。
「私は此度は近衛に所属しておりますゆえ、運が悪いかどうかはまだわかりません」
「……確かに。オズワール殿が幸運だったと思えるよう我らが死力を尽くしてご覧にいれましょうぞ」
おどけた様子で胸部の鎧に拳を添えるレジン。
「……失礼を。卿らの職務を侮辱するつもりはありませんでした」
オズワールが一瞬真顔になり、そしてレジンに謝罪した。
彼は今近衛に身を置いている。
だが正式な役職かと問われれば違う。
将来の為の箔付けとして、オズワールは父の命で様々な部署を転々と渡り歩いているところだった。
ただ最奥で王と王族の守りを受け持つ近衛であれば危険に接するのも最後だと、本当に単純な意味合いで口にした言葉が軽率だったとレジンの返しでオズワールは察した。
彼自身はさほど野心家ではないし傲慢でもないのだ。
ただ父がそうであるだけ。
領民に慕われ、ホープレイズ家の力を更に増大させた父を彼は尊敬していた。
その父の跡をいずれ継ぎ大貴族の筆頭たるホープレイズ家の当主となる以上オズワールもまた父の振舞いを良く知り、良く真似ねばならない。
いつかは己の意思で判断する必要もあろうが、今は偉大なる父がいてくれる。
だから従順に彼が示す道を懸命に歩く。
今はそういう時期なのだと、オズワールは心から納得している。
「ははは、これは意地悪を言いました。天下のホープレイズ家の次期当主となる方に謝罪をしてもらったとは、はは、私の様な小さな家の出の者にも良き自慢話が出来ました」
「レジン殿……」
かつて、オズワールは兵としての基礎を彼から叩き込まれた。
今も剣の腕、指揮能力ともにレジンはオズワールの上を行く。
反面魔力量と魔術の扱いを苦手とするレジンだが、魔術への防御スキルは優秀なものを習得していてオズワールがレジンを戦いで上回れた事など結局ただの一度もなかった。
家名ゆえに手を緩め一本を譲られた事だけだ。
しかし。
レジンはその立場が終わり、オズワールがこうして一兵卒ではなくなると元上司としてではなく、あくまで上位の家の者として彼を扱った。
それがどうにも、オズワールにはくすぐったく感じてしまうのだった。
どうでも良い相手や内心嫌う相手であれば構わない。
だが尊敬するレジンから目上の者として見られるのはまだ違和感があるのだ。
「では、私は参ります。魔族どもに身の程を教えてやらねばならんので。お互い、守るべき者を守り抜きましょう」
「はい。御武運を、教官」
「……懐かしい呼び方を。見事我々がこの都を守り切った暁には、息子たちとも仲良くしてやってくれ、オズ」
「お約束します」
久々に見るレジン教官の顔にオズワールは少しだけほっとした。
『!?』
その時、金色の光が窓を強烈に照らした。
鮮烈な光に皆が驚愕し、外を見る。
金色の柱が魔族の軍と王都の中間点くらいの場所に突き刺さっていた。
誰もが言葉を失う。
喧々諤々の貴族たちも、ヨシュア王子も。
そしてレジンもオズワールもだ。
何故なら酷似していたからだ。
神殿に響が、勇者が降臨した時の様子に。
この世界に生きる者にとって特別な意味を持つ金色の魔力光。
柱となった光は徐々に細くなり、そして……消えた。
「おお……」
「女神様だ」
「我らをお救い下さるべく御力を揮われた!」
「魔族どもめ! 卑しき者らがどれほど策を弄した所で我らヒューマンには女神がついておる!」
「皆殺しだ! 奴らを皆殺しにして身の程をわからせてやれい!!」
再び口々に意見が飛び出して収拾がつかなくなる。
オズワールがレジンに視線を戻すと、そこにはもう彼の姿は無かった。
防衛部隊に戻り、魔族と戦う。
金色の魔力光となれば魔族の策という事はまず無い。
数少ない機と見たのだろう。
オズワールも同感だ。
そして不毛な本部と貴族を見る。
意見をまとめようとあちらこちらにフットワーク軽く動く華奢な王子がいた。
その目は、恐ろしく醒めているようにオズワールには見えた。
思わず同意を込めた苦笑が漏れる。
「……貴族か」
眼前に広がるのは貴族の悪しき一面そのものだ。
しかし、ではこの広大で豊かなリミア王国を王と王族だけで治める事が出来るのかと言えば、それは不可能だ。
彼らだけでは国土の半分もまともに統治できないだろう。
結局、貴族という存在はリミアに必要不可欠なのだ。
今の状態が健全であるべき姿だとはオズワールも思わない。
だがこれまでに先祖が獲得してきた既得権益を、ただ正しい事であるというだけで手放す気も更々無い。
今この時。
リミア王国は王家と多くの貴族がいて程よく腐敗している。
腐敗はもちろん良い事ではないが、同時に王家と貴族と民の全てが結果として望んだ結果でもある。
だから今そうなっているのではないか。
オズワールはそんな風に考える。
長い歴史の中、変革を果たす当主になろうとも思わない。
ただ平穏に、許容できる範囲の中にあるなら腐敗さえも受け入れて。
ホープレイズの家と共に。
一瞬だけ、最近勇者に感銘を受けて青臭い理想を熱く口にし始めた弟の姿を思い浮かべ、父と弟に挟まれる自分を想像したオズワールは眉をひそめた。
「ただ平穏である事も十分な価値があると私は思うんだが。まずは父と弟に再会しないとな」
追いついてきた近衛と共にヨシュアの下へ。
ステラ砦攻略作戦。
それぞれの戦いは続く。
「冒険者共も加える! 国難ぞ、根拠など必要ない! 徴用を拒めば今後リミアへの入国を永久に禁止するとでも脅せば頷く!!」
「何故この距離まであの大軍に何一つ報告がなかった!? 国内に魔族の内通者がいるのではないですか!? これは責任問題だ、王家に説明を求めます! 我らに納得ゆく説明を!」
「都が沈むかもしれん大事に責任だの説明だの寝言をほざくな!」
「いかなる時であれ大権を振るうリミア王家は手順を踏まねばならん! 貴族を無視した独裁を認めぬ事は即ち民衆の益にも繋がるのだ!」
「現実を見て頂きたい! 冒険者の徴用など強制すれば、確実に彼らの信用を失う事になる! 長期的に見れば他国にどれほどの隙を見せる結果になるか、火を見るよりも明らかだ!」
「皆さま、どうか落ち着いて頂きたい! 一番大切な事は! あの魔族どもを撃退する事! この都を、リミア王国を我がエリュシオンの様に亡国としない為にも!」
「続報はどうなっている!! 偵察に向かわせた者は何故報告を持ち帰らんのだ!?」
「偵察にはわが軍と有志から特に優秀な者を向かわせております!! おりますが……誰一人として戻ってこんのです!!」
蜂の巣をつついたような大騒ぎ、とはまさにこの事。
王都に設置されたステラ砦攻略作戦リミア本部は混乱の極致にあった。
本部とはいえ、ここは王都だ。
実質の部隊指揮はステラ砦近くにある前線本部が受け持っている。
名称一つを見てもリミア王国内が一枚岩ではなく、既に単なる国家間の戦争ではなく種族間の戦争になっている現状にそぐわぬ温度感を持ち楽観しているのが伝わってくる。
そして今。
突如王都付近に結集し、進軍を開始している魔族の軍勢を前にこの無様である。
勇者としてこの地に降り立った音無響が、戦略と戦術だけを学ぶ事に集中できなかったのも豊かな王国を蝕むこの深刻な病に早期に気づいたからだった。
ヒューマンと亜人の間に横たわるあまりにも深い溝。
極端に偏り、だがヒューマンの多数に信仰されている女神の教え。
国が豊かであるが故に広がってしまう貴族間、平民間の貧富の差。
王国と称しながら、その実態は多数の貴族が王家の利権に群がり醜い政争が終わる事なく続き。
王家にそれを一喝一蹴する権限は既に無い。
大国の落日、その始まりを見ているようだと当時の響は思った。
だからこそ彼女は自らを鍛え経験を積み戦場と戦闘に慣れる傍ら、王子の一人ヨシュアを協力者として国の改革、制度の刷新、王国をより強くより豊かにすべく自らの知識と理想を語って回った。
無論語るだけではない。
実際に動き、言葉に嘘はなくただの青臭い理想などではないと示した。
女神に授けられたカリスマという名の一種の魅了能力も忌む事なく積極的に役立てながら。
響は躊躇う事無く分厚い既得権益の解体にも手をつけ、早々と有力貴族から良くない意味でもマークされる存在に躍り出ていた。
王都にある名ばかりの本部に集まっている貴族らがこうして現状に好き勝手文句を言いながら焦りに焦っている光景を響が知ったら、多少は溜飲も下がったかもしれない。
しかし、実が無い。
今進軍し都に向かってきているのは武装した魔族らの部隊だ。
もしこのまま都に侵入すればどんな惨事が待っているかは明らかなのに。
責任の所在や反射的に頭に浮かんだ案を誰も取りまとめる事なく好き好きに叫んでいるだけだ。
リミア西方に領地を構える貴族の一人、しかし本部の一員ではなく防衛部隊に所属するレジン=ユネスティは鎧に身を包みながら嘆息する。
「なるほど、この様を見れば女神が遣わしたという勇者殿がリミアを改革しようと考えるのも頷ける」
「レジン殿。小声とはいえ、この場でその発言はよろしくない」
「これは……オズワール殿か。こんな時に王都におられるとは貴方も運が悪い」
どこか達観した様子でレジンは軽口をきく。
既に子に家督は譲り、防衛部隊でも主に教官の様な立場で後進と接する機会が増えてきた彼にとって、今の人生は好きな事をやっている余禄のような時間だった。
それなりに幸せで、それなりに楽しく。
まったく恵まれた生を謳歌できたものだと、我が事ながらレジンは女神に感謝を捧げていた。
そんな彼だからこそ、リミア王国内で王家よりも睨まれたくないと良くも悪くも貴族中に知れ渡っている大貴族、ホープレイズ家、その長男を前にしても態度をさほど変えなかった。
「私は此度は近衛に所属しておりますゆえ、運が悪いかどうかはまだわかりません」
「……確かに。オズワール殿が幸運だったと思えるよう我らが死力を尽くしてご覧にいれましょうぞ」
おどけた様子で胸部の鎧に拳を添えるレジン。
「……失礼を。卿らの職務を侮辱するつもりはありませんでした」
オズワールが一瞬真顔になり、そしてレジンに謝罪した。
彼は今近衛に身を置いている。
だが正式な役職かと問われれば違う。
将来の為の箔付けとして、オズワールは父の命で様々な部署を転々と渡り歩いているところだった。
ただ最奥で王と王族の守りを受け持つ近衛であれば危険に接するのも最後だと、本当に単純な意味合いで口にした言葉が軽率だったとレジンの返しでオズワールは察した。
彼自身はさほど野心家ではないし傲慢でもないのだ。
ただ父がそうであるだけ。
領民に慕われ、ホープレイズ家の力を更に増大させた父を彼は尊敬していた。
その父の跡をいずれ継ぎ大貴族の筆頭たるホープレイズ家の当主となる以上オズワールもまた父の振舞いを良く知り、良く真似ねばならない。
いつかは己の意思で判断する必要もあろうが、今は偉大なる父がいてくれる。
だから従順に彼が示す道を懸命に歩く。
今はそういう時期なのだと、オズワールは心から納得している。
「ははは、これは意地悪を言いました。天下のホープレイズ家の次期当主となる方に謝罪をしてもらったとは、はは、私の様な小さな家の出の者にも良き自慢話が出来ました」
「レジン殿……」
かつて、オズワールは兵としての基礎を彼から叩き込まれた。
今も剣の腕、指揮能力ともにレジンはオズワールの上を行く。
反面魔力量と魔術の扱いを苦手とするレジンだが、魔術への防御スキルは優秀なものを習得していてオズワールがレジンを戦いで上回れた事など結局ただの一度もなかった。
家名ゆえに手を緩め一本を譲られた事だけだ。
しかし。
レジンはその立場が終わり、オズワールがこうして一兵卒ではなくなると元上司としてではなく、あくまで上位の家の者として彼を扱った。
それがどうにも、オズワールにはくすぐったく感じてしまうのだった。
どうでも良い相手や内心嫌う相手であれば構わない。
だが尊敬するレジンから目上の者として見られるのはまだ違和感があるのだ。
「では、私は参ります。魔族どもに身の程を教えてやらねばならんので。お互い、守るべき者を守り抜きましょう」
「はい。御武運を、教官」
「……懐かしい呼び方を。見事我々がこの都を守り切った暁には、息子たちとも仲良くしてやってくれ、オズ」
「お約束します」
久々に見るレジン教官の顔にオズワールは少しだけほっとした。
『!?』
その時、金色の光が窓を強烈に照らした。
鮮烈な光に皆が驚愕し、外を見る。
金色の柱が魔族の軍と王都の中間点くらいの場所に突き刺さっていた。
誰もが言葉を失う。
喧々諤々の貴族たちも、ヨシュア王子も。
そしてレジンもオズワールもだ。
何故なら酷似していたからだ。
神殿に響が、勇者が降臨した時の様子に。
この世界に生きる者にとって特別な意味を持つ金色の魔力光。
柱となった光は徐々に細くなり、そして……消えた。
「おお……」
「女神様だ」
「我らをお救い下さるべく御力を揮われた!」
「魔族どもめ! 卑しき者らがどれほど策を弄した所で我らヒューマンには女神がついておる!」
「皆殺しだ! 奴らを皆殺しにして身の程をわからせてやれい!!」
再び口々に意見が飛び出して収拾がつかなくなる。
オズワールがレジンに視線を戻すと、そこにはもう彼の姿は無かった。
防衛部隊に戻り、魔族と戦う。
金色の魔力光となれば魔族の策という事はまず無い。
数少ない機と見たのだろう。
オズワールも同感だ。
そして不毛な本部と貴族を見る。
意見をまとめようとあちらこちらにフットワーク軽く動く華奢な王子がいた。
その目は、恐ろしく醒めているようにオズワールには見えた。
思わず同意を込めた苦笑が漏れる。
「……貴族か」
眼前に広がるのは貴族の悪しき一面そのものだ。
しかし、ではこの広大で豊かなリミア王国を王と王族だけで治める事が出来るのかと言えば、それは不可能だ。
彼らだけでは国土の半分もまともに統治できないだろう。
結局、貴族という存在はリミアに必要不可欠なのだ。
今の状態が健全であるべき姿だとはオズワールも思わない。
だがこれまでに先祖が獲得してきた既得権益を、ただ正しい事であるというだけで手放す気も更々無い。
今この時。
リミア王国は王家と多くの貴族がいて程よく腐敗している。
腐敗はもちろん良い事ではないが、同時に王家と貴族と民の全てが結果として望んだ結果でもある。
だから今そうなっているのではないか。
オズワールはそんな風に考える。
長い歴史の中、変革を果たす当主になろうとも思わない。
ただ平穏に、許容できる範囲の中にあるなら腐敗さえも受け入れて。
ホープレイズの家と共に。
一瞬だけ、最近勇者に感銘を受けて青臭い理想を熱く口にし始めた弟の姿を思い浮かべ、父と弟に挟まれる自分を想像したオズワールは眉をひそめた。
「ただ平穏である事も十分な価値があると私は思うんだが。まずは父と弟に再会しないとな」
追いついてきた近衛と共にヨシュアの下へ。
ステラ砦攻略作戦。
それぞれの戦いは続く。
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