リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

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第一章  眩きレブレーベント

第四話 王女の力はその怒りから④

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 アレインのド派手に過ぎる戦いぶりの話は、翌日には王都シルヴェンス中を駆け巡っていた。
 稲妻の魔女、二度目の本気。そんな見出しが付きそうな話が、王都のそこかしこで人々の口の端に上がっていた。賊の悪事を防いだ最強の王女は、またしても民から畏怖の念を集めることとなったのだ。
「凄かったぞ、アレインの魔法は! こう、雷がバチバチーって」
「しっかり見えていたよ、城からも。支度をしている間に見えて、ああもう終わったなと思った」
 リシアが苦笑しながら言った。
 翌日の朝食は、総司も騎士団の面々と共に摂っていた。アレインの戦闘を間近で見ていた総司は、騎士団の皆から質問攻めにあっていたのだ。それも程々に落ち着いた後、ようやくリシアとゆっくり話す機会が出来たのだが、総司は相変わらずアレインの凄さを語るばかりだ。子どものように魔法の凄さを話す総司を、微笑ましげに見守るリシアという構図は、平和そのものという光景だった。
「“伝承魔法”と呼ばれるものだ。と言っても、あそこまで使いこなせる魔法使いは、アレイン様の他には聞いたことがないが……」
「伝承……?」
「あぁ、お前も学んだ通り、魔法というものは魔力を消費し、この世界に働きかけるものだが」
「うん」
「我々が扱える通常の魔法とは別に、その行使に『血筋』が関係する魔法がある。“クロノクス”の魔法系統は、レブレーベント王家の血筋に生まれた者しか扱えない、希少なものだ」
 リシアは何故か、小さな声で言った。
「血筋の条件を満たしているからと言って、誰でも扱えるわけではない。恐らく、今ご存命の王家の方々の中で、“クロノクス”を操れるのはアレイン様だけだろう」
「……そんなに凄いのか」
「伝承魔法は、別名を“意志ある魔法”とも言う。最新の研究では、『精霊の力を行使する』というよりも、『精霊そのものを使役する』に等しい業だと……無論、まだ仮説の段階だが、いずれにせよ通常の魔法とは一線を画す。まあ……それ故に、陛下がアレイン様を警戒されている、ともいえるが」
「なるほど?」
 総司は何となく、合点が言ったように思えた。城で最初に聞いた話を思い出す。
「その“伝承魔法”の中にあるわけだ……使っちゃならない魔法ってやつが」
「まあ、そういうことだ。私にはそれがどのようなものか、詳細にはわからんが……昨日のあの龍を見るに、とてつもなく強大な力であることは間違いなさそうだ」
 リシアの眉間にはしわが寄っている。険しい表情だ。アレインという強力な魔女の存在は、決して王都にとって「安心の材料」とはなっていないことの証明だろう。
「しかし気になるな……二人の賊の話……カトレアとディオウ、だったか。見覚えはないんだな?」
「っていうか、リスティリアで見覚えのあるやつの方が少ないんだけどな」
「それもそうか。しかしカトレアは、襲撃を仕掛ける前にお前と接触してきたんだろう? しかも警告めいたことを言ったと。我々の知らないところで、何かが動き始めている」
「そうだな。それで思ったんだが」
 総司はふと、真面目な顔をして言った。
「レヴァンクロスも手に入れたし、昨日の襲撃のことも考えるとだ。俺はレブレーベントに長居をするべきじゃないと思う」
 リシアがすっと居住まいを正した。
「昨日の二人もそうだし、リシアの言った動き始めている何かも、基本的には俺に関わるものだ。結果、レブレーベントの人々を巻き込んでる。魔獣の活性化の謎を全て解き明かしたわけじゃないから、陛下との約束はあんまり果たせていないけど……俺が長居することは、余計な事件を引き寄せてしまう気がするんだ」
「……どのみち、いつまでもここにいるわけにはいかんだろうしな……だがせめて、次の方針を定めてからにするべきだ。レブレーベントで得た謎の足掛かりは魔獣の活性化だけではあるまい」
「ああ、宰相閣下にまた授業してもらえるとありがたいんだが……」
「話はしてみるが、閣下は忙しい御方だ。そう何度もお時間をいただけるかどうか……」
 有事の際に体を張って王族と民を護るのが、レブレーベント魔法騎士団の仕事だ。
 最近は特に、活性化した魔獣の存在が危惧されているため、騎士団の出番は平時に比べても多くなっている。レブレーベントの各地に派遣されている騎士たちは、シエルダの一件もあって、人数を多く割き、常に集団で行動し、魔獣が残虐な行動に出ないか周辺の警戒を行っている。
 地方へ人員を派遣すれば、王都そのものが手薄になる。だが、レブレーベントにその心配は不要だ。騎士団長が常駐することに加えて、何よりも王女アレインの存在が、シルヴェンスの絶対的な安全性を物語っているのである。シルヴェリア神殿の周りにも多数出現した魔獣たちが王都を襲撃しないのも、そこに絶対強者がいることを知っているため、とはリシアの弁だ。アレインの存在は、レブレーベントの国防という意味でも非常に大きなものだった。
 それ故にこそ、常に彼女の危険性が警戒されるのだ。禁呪に手を出そうとした過去に始まり、あまりにも強大に過ぎる力を持つ彼女がもし、賊や魔獣の側に立ってしまったり、その気まぐれな気質から動くべき時に動かないような事態になってしまったりしたら、王都の安全性は著しく損なわれることになるだろう。
 総司の目には、アレインは確かに気まぐれで、奔放で、秘密主義なところがあるとはいえ、根は善人で責任感のある女性に映っていた。リシアやカルザス、そして女王陛下は、彼女のことを過剰に警戒しすぎているのではないかと思わずにはいられない。昨日のこともそうだ。アレインは王都での異変に気づき、誰よりも早く女王の元にはぜ参じ、賊を圧倒して護り抜いた。王都を護る、国を護るという想いは、騎士団の者たちと同じように熱いものがあるはずだ。
「んー、取り逃がしましたか」
「既に相当遠くへ行っているようだ。いくつか痕跡はあったが、賊はどこにも」
 バルド団長が派遣した騎士たちは、二人の賊を追いかけたが、カトレアもディオウも逃げの一手は相当念入りに準備していたようだ。
「王都へ侵入するのに、何の備えもしていないわけもなし。仕方なかろう」
 ビスティークはフン、と鼻を鳴らし、
「連中がこれを欲したという事実は、我々には重要だ。イチノセが現れてから、わからないことだらけだからな」
 黒い結晶を見据える。レヴァンクロスとは別の研究室に安置されたそれに、城の研究者たちは様々な魔法を施して調査しているが、目立った成果はまだない。
「レヴァンクロスではなく“これ”を狙ったというところも不思議だなぁ」
 カルザスが考えながら言った。
「僕は浅慮ながら、レヴァンクロスは相当大事な代物と思っていましてね。どういう勢力かは知りませんが、アレをソウシくんに確保されて焦ったというならまだしも、こんなもののために王都まで殴り込むっていうのは……とても、理由に興味がある」
「俺らからすれば“こんなもの”としか思えないが、連中にとってはそうではないのかもな」
「ということなんでしょうけど……魔力も感じないし、何となく『使用済み』な気がしませんか?」
「あー……確かに?」
「“何となく”で話を進めるのは感心せんな」
 カルザスとバルドの、つかみどころのない会話を聞いて、ビスティークが厳しい声で警告した。カルザスはぽりぽりと頭をかいた。
「すみません」
「直感も大事だが、これほど材料が少ない状態ではただのあてずっぽうというものだ。調査を続ける。バルド、お前は賊の情報を集めてくれ。他の土地での目撃情報がないか……こちらは経験に基づく直感というやつだが」
 ビスティークが目を鋭く細めてバルドを見た。
「恐らく、レブレーベント以外でも出没している」
「ローグタリアあたりに聞いてみますかね。今となっちゃ形ばかりですが一応、同盟国でもありますからね。あそこの連中とは多少親交もあるもんで」
「それと」
 ビスティークがぴっと指を立てて、
「カイオディウムだ」
「……えぇ~」
 バルドが露骨に嫌な顔をした。
「いやまあ、別にほら……ねえ?」
「“カイオディウム事変”は恐らく、イチノセの旅路でも鍵を握ることになるだろう。あの国は外せん。既に親書は作ってある」
「早ぇな……」
「陛下直筆の手紙も添えて、向こうの幹部宛にな。バルド、お前自ら出向いてくれ」
「いや、はい、わかりました」
「……私も――――」
「お前は引き続き、イチノセの監視だ」
 カルザスが手を挙げかけたところで、ビスティークが厳しく言った。
「……ソウシくんは日に日に鋭くなってますし、僕が彼のことを『女神の騎士』と見ていることも気付いていると思いますけど」
「構わんよ。どうやらアレイン様も、イチノセには相当な関心を寄せておられるようだ。まとめて見張れ」
「アレイン様もですか……荷が重いなぁ」
「先日のアレか」
「間近で見ていましたけど、度肝を抜かれるはあのことでしたね」
 カルザスは「お手上げ」とばかりに両手を挙げて肩を竦めた。
「陛下も宰相殿も、僕も、アレイン様のことは警戒せざるを得ませんでした。これまでもね。認識は正しかった。何の儀式も下準備もなしにアレですよ。アレイン様を見張って、万が一本当に何かまずいことを起こされたとしても、止めるなんてとても」
「一人で止めろとは言っておらんよ。それにそうと決まったわけでもない。保険だ」
「命がけですがね」
 カルザスは深くため息をついた。
「せいぜい祈るとしましょう。ソウシくんもアレイン様も、下手なことをしないように」
「そうならぬよう手は尽くす。さしあたってはレヴァンクロスの移動だ。悟られんようにな」
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