リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

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第二章 誇り高きルディラント

第五話 探索開始③

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「少し、酷だったのではありませんか?」
「なんだ、やはり聞いていたのか、エルマ。言いつけを破るとは珍しい」
 総司たちが出て行ったあと、時計塔の最上階で、窓がないはずの内部から街を見下ろすランセムへ、エルマが声を掛けた。ランセムは笑いながらその問いかけに答える。
「振るう刃に迷いが生じるかもしれんと?」
「あの子はまだ、サリアと同じ年の頃……与えられた使命に押し潰されないだけでも見事なものです」
「だから、ゆっくりと成長するだけでよいと?」
「……いえ」
「間に合わんかもしれん。自然の成り行きに任せるだけでは、わけもわからないままただ死んでいくだけになってしまうかもしれんのだ」
「それは、理解していますが……あなたの仰る通り、振るう刃に迷いが生じれば、それこそ……」
「そこまで脆弱ではない」
 ランセムは相変わらず笑顔のままだ。
「面白くはないが、弱くはない。このままでは負けるだろうがな」
「……あなたは、もしかして――――」
「さて、エルマ、昼食の時間だな。わしもあいつらの話を聞いて、久々にニーナのナギーシェが食べたくなってきた。行くか?」
「……はい。お供します」


「……聞いていたより、ヤバい雰囲気だな……?」
「ええ、まあ、ソウシが想像しているよりは凄いというのはわかっていましたが、言葉では限界がありまして」
「なんじゃい、さっきの威勢はどうした。引き返すか?」
 砂嵐のような、不思議な黒い風に包まれた島の威容は、総司を圧倒するには十分だった。
 島の全容も全く見えず、巨大な竜巻のような風の流れが、海の上で視界を覆う。シュライヴが話した村の若者たちはよくもまあ、この島に度胸試しで言ってみようなどと考えたものだ。
 この迫力を前に、その手前の海にすら入りたくはない。少なくとも、女神の加護がなければ命の危険を感じ足がすくんでいたことだろう。静けさがさらに不気味さを際立たせ、近寄りたくないと思わせるには十分な危険さを醸し出している。
「”真実の聖域”と呼ばれておるらしいがなぁ、これのどこに真実があるのか、皆目見当もつかんな」
「……島を覆い隠す魔法に違いないが、これだけ近づいても魔力を感じない」
 リシアが不思議そうに言った。大規模な魔法には違いないのだから、強烈な魔力の波動を感じていなければおかしいのだが、海岸まで歩み寄っても、肌に刺すような魔力の感覚がないのだ。
「……ん?」
 総司の目が何かを捉えた。ほとんど何も見えない、島の輪郭すら定かではない黒い風の向こう側。
 ぼんやりと何故かわずかに見える、あれはーーーー
「塔……?」
 黒い風のはるか彼方に、天にそびえる建造物が見える。ぼんやりとはっきりとはしないが、何かがそこにあるのは確かだ。
「……確かに、何か建造物があるな……だが朧気だ。はっきりとはわからない」
「フン。何があるにせよ、ろくでもないわい、こんなもの」
 シュライヴは忌々しそうに吐き捨てて、かがんだ。総司と視線の高さを合わせるためだ。
「もう止めはせん。ここまで来たら事のついでだ。お主の望むものが手に入ったら、ついでにアレもぶっ壊してこい」
「良いのか? 本当に金銀財宝があるかもしれねえのに」
「そんなもの、海の底で人知れず光っとるぐらいが丁度いい。……気を付けろ。お主が今思っとる数十倍、気を付けて進め。そして決して無理はするな。生きて帰ることを優先するんじゃ」
「……わかってる。ありがとう、村長」
「サリアァ、やってやれ」
「はい」
 サリアが腕をすらりと伸ばした。
 風が渦巻き、何が、何もない空間から現れる。
 その姿を見て、総司はピリッと、ようやく魔力を感じ取った。
「槍……?」
 青と金色の装飾が施された、サリアが扱うには大振りの槍。武器というよりは、祭事で使うような神器にも見えるそれを振りかざし、サリアが唱えた。
「”レヴァジーア・アウラティス”」
 海が割れた。
 津波が海岸にぶつかったかのように水しぶきが上がり、轟音と共に海が割れ、浅瀬に道が出来上がる。サリアが唱えた詠唱の内容に聞き覚えがあった。
「伝承魔法……!」
 アレインが操る稲妻の魔法と似ている。伝承魔法”アウラティス”。海と海風を支配する、水と風を使役するサリアの魔法である。
 割れた海はサリアの魔法でまだ戻ることなく、島へ続く道となって、来訪者が渡るのを静かに待っている。流れ落ちては左右へ戻りゆく水の流れが、神秘的な装飾のように見えた。
「いつ見ても美しいもんだ、お主の魔法は」
「光栄です。さあ、お二方」
「ああ、ありがとうサリア。行ってくる」
 サリアは、恐れを見せず行こうとする総司に、真剣な表情で声を掛けた。
「私はあなた方が帰ってくるまで、この道を維持します。今日だけで目的を達成する必要はありませんし、一筋縄でいくとも限りません。危険を感じたら、必ずすぐに戻ってきてください。いつでも戻ってこられるよう、私も頑張ります」
「それは相当な負担ではないか? どれだけの時間がかかるか……」
「これでも私は相応の魔法の使い手。御心配には及びません」
「この子は大丈夫だ。それより自分の身を案じることだなぁ、小娘。ここから先は、わしらは何の手助けも出来ん」
「……どうか、無理はしないように。それでは行ってきます」
「ええ、お気をつけて」
「ありがとうな、サリア、それに村長! いいもんがあったら土産に持って帰ってくるよ」
「まーだそんな馬鹿言っとるのかお主は! 良いからさっさと行ってこい!」
「おう!」
 走り出すその背中を見送り、シュライヴがため息をつく。
「やはり行けるのか。なんの妨害もありゃせんな」
「残念そうですね、シュライヴ」
「フン。今更うるさいことは言わん」
 持ってきた荷物を開け、水筒を取り出し、サリアの分も水を注いで、シュライヴは笑った。
「いつの時代も、若い力を老いぼれが止めることは出来ん。わかってはおったさ」
「……あなたの優しさを感じ取れない方々ではありませんよ」
「それもわかっとる。うまくやることを祈るだけじゃ」
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