リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

文字の大きさ
86 / 155
第二章 誇り高きルディラント

第十話 わずかな施し④

しおりを挟む
 隠し事はなしだと口酸っぱく言っていたリシア本人が、どうしても総司に言い出せないこと。確証がないというのも理由だが、それも含めて本来ならば二人で話し合うべきだし、リシアは「そうすべきだ」と総司をたしなめる側の立場でもあった。
 それでも言い出せない。言葉にするのを躊躇わせる、総司は未だ至っていないひらめき。
 二人きりとなった、総司にあてがわれた部屋の一室で、リシアは窓際に立って、硬い表情のままで押し黙っていた。
 総司はその姿を気に留めず、ウェルステリオスに連れ去られた後何が起きていたのかを話して聞かせた。ウェルステリオスが見せたのは、何でもないルディラントにおけるサリアとスヴェンの日常の一コマだったこと。しかし重要に思える会話が繰り広げられていたこと。そして最後に、スヴェンが総司のすぐそばに姿を現し、しかしその姿を見せることはせず、淡々と「最後の探索」には何があっても来いと釘を刺したこと。
 全てを話し終えたとき、リシアは――――
「……リシア……?」
 ぎゅっと目を閉じ、眉根を寄せ、唇を真一文字に結んでいた。
 その表情を見て、総司は悟った。総司が今話して聞かせた物語は、リシアの疑問を確信へと変えるに足る内容だったのだと。
「……聞かせてくれ、お前の考えを」
「……エルマ様が」
 リシアはようやく重い口を開いて、言った。
「あの祭りの夜、私に仰った……私たちは、『終わらせることでしか先へ進めない』のだと」
「どういう意味だ?」
「私もその時は確たる答えを得ていたわけではなかった。だが――――いや、違うな」
 リシアは首を振り、目を開き、総司を見る。
「私は逃げ続けていただけだ。この答えから。そうではないと信じたかった。しかしそれも最早限界だ」
「リシア……?」
「私の考えを話す。……心して聞いてくれ」
 そこから先――――
 リシアが紡ぐ「答え」は、総司には到底受け入れがたく。
 しかし、リシアの話を聞けば聞くほどに、そうでしかありえない、恐らく間違いのないもので。
 総司は叫び声を上げそうになるのを、必死でこらえて、リシアの話を最後まで聞いていた。
 リシアが話し終えた後、十分ほど、二人とも無言だった。総司はベッドに腰掛けたまま、顔の前で指を組み、目を閉じて項垂れるだけ。リシアは窓際に立ったまま腕を組み、同じく目を閉じて総司の言葉を待つだけ。不気味なほどの静寂が部屋を包み、沈黙だけがその場を支配していた。
「……いつから、そう考えていたんだ」
「私もそんな現実があるなんて夢にも思っていなかったし、聞いたこともなかったが……信じられないことだが」
 総司の静かな指摘に、リシアは重々しく口を開いた。
「最初から疑ってはいたのだ……だが、そうではないと考えを振り払い続けて……」
「お前の方がとんでもない隠し事だ。酷いもんだぜ」
「……済まない……」
「いや、良いんだ」
 総司はリシアの謝罪に対して首を振る。
「逆の立場だったら……俺も絶対に言えなかった。多分、時間が経てば経つほどな……」
聡明なリシアがその可能性に気づいてから、どれだけの時間が経っていることだろう。総司と同じように街へ繰り出し、王の遣いをこなしながら人々と交流を深め、祭りを楽しもうとした彼女の心境は、総司には推し量ることも出来ない。
「……お前こそ、今度からは何か気づいたら言えよ。ちゃんと」
 リシアが頷く。リシアは総司を思えばこそ、その可能性を口にすることが出来なかった。総司がなんだかんだでランセムのことを気に入っていて、伝説の街での生活を目いっぱい楽しんでいる姿を目の当たりにして、どんどん言い出しにくくなっていったのだ。
 それがより残酷な形で、彼に結末を叩きつけることになろうとも。
「……最後の探索でアイツに会える。アイツは全て織り込み済みで、俺達が答えに至ったことも承知の上で迎えてくれるはずだ。だから、わからないことは明日聞こう」
「……そうだな」
 リシアは頷いて、
「それにまだ疑問も残っている。あの島――――真実の聖域そのものの存在意義や価値、あの男なら全て理解しているはずだ」
「……でも、それがわかったところで――――」
「そうだ。結末はきっと変わらない」
 リシアの疑問を解消できたところで、待ち受ける運命は変わらない。総司は両手に顔をうずめて、弱々しく言った。
「はーっ……救世主の旅は過酷って……出会う皆が言ってきてたけど……」
「……ソウシ……」
「まさかこういう意味だったとはなぁ……」
「……そうだな。剣を振るっていれば全てうまくいくような旅路だったらよかったのにな」
 リシアがようやく動いた。総司のそばに立ち、その肩に優しく手を置いた。
「ここまで来て降りることは出来ない。そうだろう」
「もちろんだ」
 総司は弱々しい声のままだが、決然と答えた。
「今更引けるかよ。しかも別に、勝てない敵とぶつかったんでもなく、情に絆されてこれ以上進めませんでした、なんて。今度こそアレインに殺されちまう」
「恐らく、あのお方が最も嫌う敗北の仕方だろうな」
 総司はぱっと顔を上げて、言った。
「寝よう。今日は疲れた」
「……そうしよう。お休み、ソウシ。良い夢を」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...